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マルチクラウド、モバイル、セキュリティ、そしてオープン――。VMwareの2016年度戦略をゲルシンガーCEOが説明

 ヴイエムウェア株式会社は20日、米VMwareのCEOであるパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)氏による事業戦略説明会を開催した。説明会の冒頭、ゲルシンガーCEOは「ITがすべてのビジネスに変化をもたらす現在、日本の顧客のデジタルトランスフォーメーションを全力で支援したい。マルチクラウド、モバイルを含むエンドユーザーコンピューティング、セキュリティ、オープンソースなどのビジネスを日本市場でも積極的に推進していく」と語り、2016年度の後半も日本市場への変わらないコミットを続けると強調している。

米VMwareのパット・ゲルシンガーCEO

 「UberやAirbnb、Teslaのように既存のビジネスに劇的な変化をもたらす企業になるには、デジタルトランスフォーメーションへのシフトが避けられない。だが企業の変化、とくにIT部門の変化を妨げるのがサイロ化された環境だ。VMwareはこれをマルチクラウドでもって解決することを支援する」とゲルシンガーCEOは"マルチクラウド"という言葉を意図的に使っている。

 VMwareはここ数年、SDDC(Software-Defined Datacenter)やEUC(End User Computing)とともにハイブリッドクラウドを事業戦略の柱として掲げてきたが、ここにきて、Amazon Web Services(AWS)など外部クラウドとの接続も含む、マルチクラウド戦略へと方針を転換したことを明らかにしたかたちだ。

 「VMwareはこれまでサーバー仮想化で培ってきたリソースをもとに、プライベートクラウド市場でのリーダーシップを取ってきた一方で、SDDCによるデータセンターの改革を進めてきた。その後、パブリッククラウドとしてvCloud Airを提供し、プライベートクラウドとパブリッククラウドを接続するハイブリッドクラウドへと成長させ、SDDCのサービス化を図ってきた。次の段階は、エクスターナル(外部)のパブリッククラウドやパートナー企業のクラウドとのシームレスな接続だ。このマルチクラウド環境を実現するにはネットワーク仮想化やマルチデバイスへの対応、セキュリティなどを含めた新しい制御プレーンが必要になる。この制御プレーンの詳細に関しては2016年度中に発表できると思う」(ゲルシンガーCEO)。

VMwareのクラウド戦略はハイブリッドクラウドからマルチクラウドへとシフト
2016年度中に発表されるというマルチクラウド対応制御プレーンは、AWSやAzureといったメガクラウドとの接続を目指す

 マルチクラウドに続き、ゲルシンガーCEOがデジタルトランスフォーメーションにおける重要な要素として挙げているのがモバイルを中心とする「Any Device」戦略だ。「私自身、自分が現在身に着けているiPhoneやiPad、MacBookなどを見ていると、10年前にもっていた、30分話しただけで電池が切れる携帯電話や、重たいラップトップなどは何だったのかと思う(笑)」と前置き。急スピードで進むモバイルへのシフトはコンシューマのみならずエンタープライズにも浸透していると語る。

 VMwareは「コンシューマ製品のようなシンプルさとエンタープライズレベルのセキュリティ」(ゲルシンガーCEO)をトレードオフすることなく、あらゆるデバイス、あらゆるアプリケーションからのアクセスを提供するクラウドベースのソリューションとして「VMware Workspace ONE」を提供しており、"モバイル-クラウド時代"に対応したエンドユーザーコンピューティングを、日本市場でもさらに推進していくとしている。

 マルチクラウド、モバイルともに、エンタープライズ市場での展開でキーファクターとなるのがセキュリティだ。ゲルシンガーCEOは「驚くべきことに、セキュリティ侵害によるコストはセキュリティ関連の支出を上回っているのが現状だ。ここ数年、企業のIT投資は横ばいであるにもかかわらず、セキュリティ関連の支出の割合は大きく伸びている。それなのにセキュリティ侵害の損失は増え続ける一方だ。セキュリティは我々にとっても最後の招待客といえる」と語り、インフラ、アプリケーション、デバイスのすべてのレイヤでのセキュリティを確保すると約束する。

 「これまでは仮想化環境のセキュリティをどう担保するかが課題だった。だがいまは意識の変革が求められている。マイクロサービスやNSXといった仮想化技術をセキュリティに活用していくことが必要」(ゲルシンガーCEO)。

セキュリティは最も投資効果が出にくい部分だからこそVMwareが今後最も注力していくエリアとなる

 最後、ゲルシンガーCEOが事業戦略のポイントとして挙げたのはオープン化だ。これは他社製品との親和性や接続性を高めるという意味で"オープン"と、"オープン"ソースへのコミットという2つの意味が含まれている。昨年、VMwareは米国サンフランシスコで同社の年次カンファレンス「VMworld 2015」において、競合関係にあった米Microsoftの提携を発表、VMwareによるWindows 10のサポートを表明して業界を大きく驚かせた。また、2015年はOpenStackとのインテグレーションやVMwareが開発するオープンソースの「Photon Platform」などオープンソース関連の発表が目立った年でもあった。ゲルシンガーCEOは今後もこのオープン戦略を"The Journey to Open"として推進していくと表明、特に「Photon PlatoformによるPaaS開発者の支援に注力する」と強調する。

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 ゲルシンガーCEOは最後、「日本市場ではパートナー企業とのエコシステムをさらに強くしていく」と発言しているが、このコメントにはいくつかの伏線が含まれている。

 VMwareは4月22日、日本国内でvCloud Airを利用している顧客に対し、2017年3月をもって日本ローケーションからのサービスを終了するという通知(http://vcloud.vmware.com/jp/using-vcloud-air/vca-customer-letter-japan2016)を行っている。今後はソフトバンクなどパートナー企業が適用するvCloud Air Networkのサービスがその受け皿となるが、ゲルシンガーCEOはメッセージ中、日本市場からの事実上のvCloud Air撤退の理由を「日本市場の特殊性を鑑み」と表現していた。

 この「日本市場の特殊性」とは何を意味するのか。残念ながらゲルシンガーCEOから直接コメントを聞くことはできなかったが、ヴイエムウェア 代表取締役社長 ジョン・ロバートソン氏は筆者の質問に「パートナーとの関係性が強い日本市場の特性を考慮したという側面は確かにある。だがしかし、それは日本市場に(クラウドの)ビジネスチャンスがないということではない」と答えている。

国内のvCloud Air Networkパートナー一覧。今後、国内でのvCloud Air提供はこれらのパートナー企業からのみとなる

 vCloud Airはユーザーの数や地理的条件を踏まえ、今後は北米および欧州の一部地域での提供が中心となり、他のリージョンも日本のように提供形態が変更される可能性が強いという。「日本はパブリッククラウドが非常に浸透している市場でもあり、ゲルシンガーCEOが説明したマルチクラウドの制御プレーンはきっと多くの顧客に受け入れられると思っている」(ロバートソン社長)。

 「日本の顧客のデマンド(要求)はVMwareという企業のビジョンにあっている」とロバートソン社長は言う。ゲルシンガーCEOも前職のIntel時代から日本の顧客と深いつながりがあり、「私にとっては日本のみなさんは本当に大切な友人だ」と公言する。過密スケジュールの合間を縫って会見の場を設けたのも「日本のプレスに直接、VMwareにとって日本市場がいかに重要かを伝えたい」というゲルシンガーCEOの強い意向があったからだという。

 ロバートソン社長は「日本ではAirWatchやHorizon AirといったEUC部門の伸びが世界でもずば抜けて高い。vSphereよりもEUCの売上が大きいのは世界でも日本だけだ。そうしたニーズは大切に受け止めなければならない。日本法人もグローバルの成長を大きく上回る伸びを示しており、2015年度はついにドイツを抜いて売上で世界第3位になった。次の(日本の顧客の)大きな関心はNSXとセキュリティと見ている」と語り、今後もパートナーとの関係性重視と、日本の顧客ニーズの正確な把握にもとづく製品提供を続けていくとしている。今後もグローバル戦略と日本市場の独自性をうまく噛みあわせるためのドライブが日本市場では求められそうだ。

ヴイエムウェア 代表取締役社長のジョン・ロバートソン氏

五味 明子