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VMwareゲルシンガーCEOが来日、「日本企業にとってIoTはプラス要素」
2017年5月2日 06:00
米VMwareのパット・ゲルシンガーCEOは4月26日、都内で会見し、「デジタルトランスフォーメーション時代の新たなインフラ構築に向けて、VMwareは貢献ができると考えている。ソフトウェアによって、デジタルトランスフォーメーションを加速していくことになる」と、今後の事業成長に自信をみせた。
また、パブリックラウドサービスであるVMware vCloud Airを、フランスのOVHに売却することについては、「経済的な判断ではなく、戦略的な判断。途中で投げ出すというものではなく、業界全体にメリットがあること」などと述べた。さらに、「大胆な考え方に聞こえるかもしれないが、将来は、すべてがハイパーコンバージドインフラストラクチャ(HCI)になる。顧客は、ハードウェアではなく、ソリューションを求めている」とも語った。
2020年に向けて大きな転換期を迎えている
ゲルシンガーCEOは、2020年に向けて、世界が大きな転換期を迎えていることを指摘。「新たなネットワークとクラウドが広がり、それをもとに新たなビジネスモデルが創出される。そして、インターネットに接続された新たなエコシステムが構築され、社会に大きな変化をもたらすことになる」などとした。
ゲルシンガーCEOは、「過去数年の間にも、Uberのように自動車を1台も持たないタクシー会社が誕生し、輸送業界のビジネスモデルを変え、新たな価値をデリバリーしている。これはあらゆる業界で起こっていることであり、これまで聞いたことがないような新しい企業が、モバイル、インターネット、クラウドを活用して、次世代のデジタル製品サービスを生み出し、いままで業界を支えてきた企業を押しのけていくことになる」と話す。
そして、「それを支えるのがテクノロジーのエコシステムである。世界人口73億人のうち、半分近くの人々が持つデバイスが、インターネットに接続されており、今後5年で、人が持つ100億台のデバイスが接続され、機器同士が接続した環境では500億台のデバイスやセンサーが存在することになる。そして、つながれたものを使う方法も大きく変化していく。コネクテッドカー、産業機械などにもデバイスが搭載され、モダンで、スマートな世界を形成し、新たなビジネスモデルが生まれることになる」などと語った。
さらに、「こうした新たな世界が訪れることで、VMwareにも新たなビジネスチャンスが生まれ、そこで、重要な役割を果たすと考えている。これまではITを仮想化し、データセンターを仮想化し、クラウドの広がりに貢献してきたが、今後は、これをネットワークにも展開し、NFV(Network Functions Virtualization)のような新たな技術を活用できる環境を提案していく。これは、15年前に物理サーバーから仮想サーバーへの転換が始まったのと同じ状況が、ネットワークでも起こることを意味する」と、仮想化の広がりに触れる。
その上で、「数多くのスマートデバイスが接続させる世界において、テレコムキャリアやサービスプロバイダーが、今後、ネットワークの仮想化に踏み出すことによって、効率をあげ、CAPEXを引き下げ、新たなサービスを生み出すことができるようになる。そして、それらにおいては、すべての環境がセキュアでなくてはならない。そこからデータを収集し、サービスを自動化し、アップデートされ、ベネフィットを提供する必要がある。さらに、5Gの実用化に向けても、新たな周波数を利用するための新たなインフラ、新たな装置が必要になり、それに向けた多くの投資が開始されることになる。こうした次世代のインフラ構築に向けても、VMwareは貢献ができると考えている」とした。
「こうしたインフラを活用してもたらされるデジタルトランスフォーメーションは、まさに大きな変化であり、IT産業がますます拡大していくことにつながる。VMwareは、ソフトウェアでデジタルトランスフォーメーションを加速していくことになる」(ゲルシンガーCEO)。
新たな時代に向けた取り組み
VMwareでは、新たな時代に向けた昨今の取り組みとして、ネットワーク領域においては、最新のVMware vCloud NFV 1.0を提供したこと、新たな収益源として、VMware AirWatchマネージドモビリティサービスを提供していること、IoTへの取り組みとしては、先ごろ、富士通と自動車業界向けIoTソリューションの提供において協業したことなどについて説明。「VMwareは、IoTのソリューションを提供することができ、ここで強みを発揮できる」とした。
特に、富士通の提携においては、VMwareのIoTソリューションを組み合わせることで、車両内のすべてのデバイスに対して、自動車メーカーが必要なときに無線通信を用いたソフトウェアアップデート機能を迅速に提供できるようにするもので、「クルマに統合したソリューションとして提供することができ、自然に機能を拡張することができるものになる。クルマは、より堅牢性が求められ、さらに、数多くのクルマに対応した拡張性や、15年以上に渡るライフサイクルにも対応しなくてはならない。ほかのコネクテッドデバイスとは求められる要件が異なる」とする。
一方、「われわれはアプリケーション層には触れない。そこでユニークなサービスを提供することもない。インフラを提供し、そこから富士通を通じて、パートナーシップ企業各社が、アプリケーションを提供するという役割分担になる。退屈なところを担当するのがわれわれの役割である」と、ジョークを交えて説明。
「IoTを配備する上で、セキュリティが弱ければ簡単にハッキングされてしまう。コネクテッドカーを成功させるためには、極めて重要な部分をわれわれが担うことになる」などとした。
また、「日本は、IoTの広がりとともに、製造分野における強みを生かして、テクノロジー分野におけるリーダーシップを、再度握ることができる可能性がある。日本の企業は高品質の製造に長け、エンジニアリングに強く、ロボット工学にも実績がある。もともと日本の企業は技術でリードしていたが、それが米国のネット企業の成長によって低迷した。日本のテクノロジー企業にとって、IoTはプラス要素であり、以前からの強みを生かすことができる。ただ、そこにはワールドクラスのソフトウェアのテクノロジーが必要である。日本の企業は、パートナーシップを含めて、ソフトウェアスキルを高めていく必要がある」とも指摘した。
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自身のクラウドサービスは?
また、VMwareのワークロードをAWSクラウド上で稼働させることができる「VMware Cloud on AWS」については、「VMware Cloud on AWSによって、AWSのデータセンターのなかで、サービスを提供できるようになる。VMwareによって構築されているプライベートクラウドやデータセンターで活用している既存のアプリケーションを、セキュリティやネットワーク環境、IPドメインなども一切変更することなくAWS上で利用でき、さらに、すでに利用しているAWSで構築されている新たなアプリケーションを、同じ環境のもとで、サブスクリプションベースで利用でき、真のハイブリッドクラウドを提供できる。シームレスで接続し、利用できるという点で、顧客に対して大きなメリットを提供できる」とし、「すでに、早期導入プログラムがスタートしており、今年中盤にはローンチする予定だ。大きな反響を得ている」と述べた。
一方、パブリッククラウドサービスである「VMware vCloud Air」を、フランスのOVHに売却することについては、「われわれの技術を活用して、3年半前に、VMware vCloud Airのサービスを開始したが、その当時は、多くの人が、ここまでパブリッククラウド市場が成長するとは思っていなかった。われわれもそれにあわせて、積極的に拡張をしてきた。また、4000社以上のvCloud Airパートナーがサービスを提供している。IBMや富士通、ニフティ、IIJ、ソフトバンク、ボードフォンなどがvCloud Airを活用したビジネスを行っている」と前置き。
「だが、われわれがビジネスを行うという点では臨界点に達している。われわれが大切にしているのは顧客との関係である。OVHは、欧州では第2位のサービスプロバイダーであり、30万ものサーバーを持っており、米国でも実績を持つ。しかも、データセンター分野に対して、迅速な投資を行っている。これによって、vCloud Airを継続的に維持することができる。また、数百人の社員がOVHに移籍し、キャリアを伸ばすことができる環境も維持できる。これは、経済的な判断ではなく、戦略的な判断。顧客のためによりよい仕事をするという観点から、必要なステップであり、途中で投げ出すというものではない。この判断は業界全体にとってもメリットがあることだと考えている」と述べた。
Dellによる買収の影響はない
なおEMCがDellに買収されたことにより、VMwareがDell傘下に入り、半年以上を経過したが、ゲルシンガーCEOは、「変わったところはない」とコメント。「以前は、EMCが過半数の株式を持っていたが、いまは、それがDellに代わっただけである。レポート先が、ジョー・トゥッチ(前EMC会長兼CEO)から、マイケル・デル(現デルテクノロジーズ会長兼CEO)に代わっただけである。独立した企業であり、独立したエコシステムであることには変わりはない。HPや富士通、Lenovoとも仕事をし、それと同じ立場でDellがある。確かに、デルとの関係性は向上し、VxRailやVxRackといったハイパーコンバージドシステムも協業効果によって、製品化している。また、独立した立場を維持しながら、Dellのチャネルを活用していくこともできる。VMwareのビジネスを成長させることができる」と語った。
さらに、「VxRailは、ハイパーコンバージドシステムにおいて、リーダーシップを担っていると考えているが、他社との協業でもアプライアンスソリューションを提供していく。VMwareでは、すべてのハードウェアがハイパーコンバージドシステムになると考えている。これは大胆な発言に聞こえるかもしれないが、サーバーやストレージを単体で購入する人がいなくなり、ラックスケールの製品やアプライアンス製品を購入することになる。ネットワークスイッチやルーターを購入する人もいなくなる。インフラの買い方、管理の仕方が変わり、市場に抜本的な変革が起こる」との考えを示す。
その上で、「ハードウェア業界全体が2~3%ずつ縮小しているが、ハイパーコンバージドインフラは、100%以上の急成長を遂げている。コンソリデーションやモダナイゼーションの波が、ハードウェア業界を襲っていることの証しでもある。ハードウェアではなく、常にアップデートされ、適切に管理され、互換性も維持しているソリューションとして購入したいという顧客が多いということである。これは今後に向けた重要なトレンドである」とした。
またマイケル・デル氏については、「最初に会ったのは1986年。PCを製造するのにインテルのマイクロプロセッサが必要であり、アンディ・グローブ(元Intel会長兼CEO)のところにやってきた。私は、当時、386の仕事をしていたが、『なんだ、この高校生みたいな子供は!』と思ったのが、最初の印象だった。その後、デルは、Intelにとって最大の顧客となった。テキサス大学を出たばかりのスタートアップの経営者であるマイケル・デルと会い、Intelの最大顧客の会社の経営者として一緒に仕事をし、失敗したときも見てきた。株式の買い戻しといったことも見てきた。そうした苦労を通じて、成長してきた。より賢くなり、より慎重になり、より思慮深くなった。1986年のマイケル・デルとは、まったく違っている。私も彼から学ぶことがあり、私からも彼が学ぶことはあるだろう。一種のライバルでもあり、長期的なパートナーでもある」とした。
さらに、「1年ほど前にアンディ・グローブが亡くなったときにはつらかった。インテルに在籍していた当時、私に投資を行い、挑戦のチャンスを与えてくれた。もっと強くなれるはずだと思わせてくれた。25歳のときに、486のデザインアーキテクトに任命してくれ、デザインチームのなかで私より若い人は一人もいなかった。ほかの人と比較にならないぐらいに、特別な人である」と語っている。
「Intelは製造に直接かかわっている会社であり、データドリブンの会社。そして、テクノロジーの会社であった。だが、EMCはセールスがトップの会社であり、人間関係を重視する会社であり、その環境変化には驚いた。学ばなくてはいけないことも多く、ジョー・トゥッチはそれを助けてくれた偉大な上司であった。それによって、私は、VMwareのなかに、データドリブンの文化を取り入れていった」などと振り返った。