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シスコが2025年の事業戦略を発表、「セキュリティ」「サステナビリティ」「AI」の3点を重点分野に掲げる

 シスコシステムズ合同会社(以下、シスコ)は22日、2025年度の事業戦略を発表。重点分野として、前年度に続き、「セキュリティ」「サステナビリティ」「AI」の3点を掲げるとともに、「AI時代のビジネス変革」「テクノロジーで安心・安全につなぐ」、「持続可能な未来の創造」に注力する方針を示した。また、2024年3月に買収したSplunkに関する国内事業戦略についても説明し、両社の製品の連携や統合が加速していることを強調した。

テクノロジーイノベーションで日本の未来価値を創造

 シスコの濱田義之社長は、「AI時代において、あらゆる組織をつなぎ、保護することがシスコの使命である。インターネットによる変革、クラウドによる変革を支えてきたシスコだからこそ、AIによる変革も支えなくてはならない。卓越したネットワークカンパニーになるためには卓越したセキュリティカンパニーになり、AIカンパニーにならなくてはならない。そのためには優れたデータカンパニーでなくてはならない。こうした取り組みにより、テクノロジーイノベーションで日本の未来価値を創造したい」とした。

シスコ 代表執行役員社長の濱田義之氏

 また、「Splunkとの統合により、デジタルレジリエンスで強固な基盤が加わり、シスコは、ネットワーク、セキュリティ、オブザーバビリティ、コラボレーションをひとつのプラットフォームとして提供できるようになる。日本の企業が、強固な基盤をいち早く構築し、ビジネスの損害を防ぎ、ビジネスの成長につなげることができるようになる。新たなイノベーションがこれから誕生する。期待してほしい」とも述べている。

 ひとつめの「AI時代のビジネス変革」では、2025年1月15日に米国で開催したCisco AI Summitにおいて、新たなソリューションとして「AI Defense」を発表したことに触れた。企業のセキュアなAIトランスフォーメーションを支援することを目的にしたソリューションで、シスコが2024年9月に買収したRobust Intelligenceの技術を活用している。

 「AIの活用においては、これまでのサイバーセキュリティでは保護できない部分がある。セキュアなアクセス制御、アルゴリズムレッドチーミング、高度なリアルタイム検出により、AIセーフティおよびAIセキュリティを実現し、企業のAI利活用を包括的に保護することができる。日本の企業や社会が、DXへの取り組みやAIの利活用をより推進するためには、AIの民主化が必要である。シスコはそれを支援していく」と述べた。

 AI Defenseは、3月1日から、米国および日本において先行して発売する。「日本市場に対して注力していることの表れである」と述べた。

新ソリューション「AI Defense」を発表

 2つめの「テクノロジーで安心・安全につなぐ」としては、サイバーセキュリティCoEを本格始動させ、ナショナルサイバーセキュリティアドバイザーが着任。政府や企業との連携を開始していることを紹介。また、脅威インテリジェンスリサーチチームのCisco Talosのジャパンチームが間もなく始動することも明らかにした。Splunk Enterprise SecurityとTalosの統合も図る。さらに、日本における製品サポートチームであるJapan TACの体制を強化し、テクニカルサポートに関する地理的な課題や地政学的問題を解決することを目指す。

 「エンドトゥエンドでセキュアネットワーキングを提供するとともに、Splunkの統合効果を最大化することを目指す」と述べた。

“テクノロジーで安心・安全につなぐ”

 3つめの「持続可能な未来の創造」に関しては、サステナビリティへの継続的な取り組みを支援。Cisco Green Payでは、消費電力が低い製品にマイグレーションをする場合、シスコおよびシスコ以外の製品を無料で回収し、可能な限りリサイクルすることで環境に貢献するという。すでに99%以上のリサイクル実績があるという。また、サステナビリティ領域においても、AIの活用促進を図るという。

 さらに、未来を担う人材の育成にも力を注いでおり、シスコ ネットワーキングアカデミーを活用したIT人材育成を推進。約30年前に創設して以来、191カ国、2400万人の学生が参加。日本では、今後5年間で10万人に対するトレーニングを実施する計画を発表した。

 また、ネットワークやサイバーセキュリティ入門コースなどを日本語で受講できるようにしており、学生だけでなく、社会人にも門戸を広げたという。「日本におけるシスコ ネットワーキングアカデミーの受講者数は、前年比で1.5倍に増えている。特にセキュリティのカリキュラムでは2倍、基礎編では3倍の受講者数になっている」という。

シスコネットワーキングアカデミー

 濱田社長は、「この3つの戦略を推進する上で、パートナーとの価値共創が重要になる」とし、「2024年に発表したCisco 360 Partner Programを通じて、パートナーとの新たな協業の姿を模索しながら、価値共創を加速していく」と述べた。

 なお、同社が掲げている総売上高に占めるサブスクリプション比率を50%にするという目標については、すでに達成。さらに、セキュリティビジネスを3年で2倍とする計画を掲げたほか、AIの民主化の実現に向けたソリューションを、2025年度に3件発表する計画も明らかにした。

シスコのビジネス変革

 一方、Splunk Services Japanの野村健社長は、「スピード感を持って、シスコとの統合が進んでおり、その効果をいち早くお客さまに届け、イノベーションを加速していくことになる」と切り出した。

Splunk Services Japan 社長執行役員の野村健氏

 製品面では、SplunkオブザーバビリティへのAppDynamicsの統合、Splunk Enterprise SecurityとTalosの統合、Splunk SIEMとCisco XDRとの相互補完、ThousandEyesとの連携などを推進。人事面ではSplunkのCEOが、シスコのPresident Go-to-Marketに就任するなどの動きがある。

 「Splunkの製品開発計画は当初予定通りであり、2024年は、過去10年のなかで、最も新製品が多く、最も機能拡張が促進され、イノベーションが加速した1年であると感じているほどだ」とした。

 また日本においては、2024年11月に、Splunk Cloud Platform on Microsoft Azure を発表。12月にはSplunk Cloud Platform がISMAPに登録されたことも報告した。

 「AWSやGoogle Cloudに加えて、Microsoft Azureという選択肢が増え、Azureのユーザーは、日本国内のデータセンターだけで利用でき、コスト削減も可能になる。大きなメリットを享受できる。また、ISMAPにより、日本の政府が求める要件を実装していることが証明できる」とした。

 2025年3月には、Splunk SOARもAzure上で利用できるようになる。

Splunkの取り組み

 さらに、シスコとの統合により、ワークロードに応じた課金体系が選択できるようになったり、外部ストレージに蓄積したデータの活用を促進したり、新たなパートナープログラムの導入も計画している。

 また、「Splunkは、デジタルレジリエンスを向上させる企業である。調査では、世界上位2000社によるシステムのダウンタイムで、60兆円の損失が生まれている。そのうちの56%がサイバーセキュリティ、44%がアプリケーションまたはインフラが要因となっているが、システムが複雑化し、問題を切り分けることが難しいという課題もある。Splunkは、SIEMとオブザーバビリティの両方を統合的にみることができる統合プラットフォームを提供している唯一の企業であり、こうした問題を解決することが役割になる」とした。

ダウンタイムの隠れたコスト

 今後は、攻撃の多様化や環境の複雑化、生成AIの活用シーンなどにも対応したSOCを提供。未来志向のAIセキュリティを実現できるほか、SAPなどの基幹システムおよびさまざまな業務システム、さらにネットワーク領域までを包括的に監視し、組織全体のデジタルレジリエンスを実現することができるとした。

未来志向のSOC+AIセキュリティ

2024年の振り返り

 また、2024年の取り組みについても振り返った。

 シスコの濱田社長は、「ネットワーキング、コラボレーション、クラウドといったシスコがリーダーシップを築いてきたポートフォリオに加えて、セキュリティとサステナビリティ、AIの3分野に注力した。また、サブスクリプションによるビジネスモデルへと変革し、柔軟性と多様な使い方を提供するために、自律分散型組織を構築した」と発言。

 「セキュリティ、サステナビリティ、AIに関しては、国内において各種イベントを開催した。また、280億ドル(約4兆円)という過去最大の投資となったSplunkの買収を完了し、オブザーバビリティ分野に対する本気ぶりを示すことかできた。セキュリティに関しては、2022年にシスコ セキュリティクラウド構想を発表、それにのっとって、2024年には数多くのソリューションを発表した。また、6月にはサイバーセキュリティセンター オブ エクセレンス(CoE)を開設し、日本政府や日本企業とさまざまな取り組みを開始した。シスコに対して、セキュリティカンパニーとしての認知度が高まっている。ネットワークビジネスでは、2024年11月には、Cisco Wi-Fi 7を発表し、多くの受注を得ている。ソフトウェアだけでなく、ハードウェアにも継続的に投資し、リーダーのポジションを維持し続ける」と総括した。

Wi-Fi 7アクセスポイントを手に持つシスコの濱田義之社長

 さらに、2024年8月には、4つに分かれていたビジネスユニットを統合し、チーフプロダクトオフィサーのもとで、One Cisco Platformを推進。One Cisco Platformでは、「AI対応データセンター」、「未来を見据えたワークプレイス」、「デジタルレジリエンス」の3つに注力しており、「AI時代における新たな価値創造とビジネスの成長のために、シスコにしか提供できないOne Cisco Platformを通じて支援していく」と語った。

AI時代において、組織をつなぎ、保護する

 また、すべてのプロダクトにAIを実装し、AIが裏方として稼働。2024年12月には、AIに関連している人材をひとつのユニットにまとめ、セキュリティやアプリケーションにも活用していることも示した。また、シリコンの領域でも継続的に投資していることに触れ、2019年に発表したSilicon Oneは第4世代に進化。消費電力の削減に寄与し、差別化策になっているほか、サステナビリティに貢献していることを強調した。

 なお、同社は2024年12月に創立40周年を迎えており、新たなOne Cisco Platformの幕開けと位置づけている。