ニュース

三菱電機、事業横断の共通デジタル基盤「Serendie」を展開

2030年度に売上高1兆1000億円を目指す

 三菱電機株式会社は11日、デジタル基盤「Serendie(セレンディ)」の事業戦略について発表した。

デジタル基盤「Serendie」

 三菱電機 常務執行役 CDOの武田聡氏は、「これまでの三菱電機は、さまざまなお客さまに対して、それぞれのビジネスユニットがハードウェアを提供し、そこから得られるデータをもとによりよいサービスや価値を提供してきたが、ビジネスユニットを超えて、データを組み合わせることができていなかった。Serendieは、これらのデータを共通のデジタル基盤に統合、分析し、新たなソリューションを創出することになる。また、データは社内にフィードバックして、ハードウェアの進化につなげることができる。これも三菱電機にとっては重要な要素になる」とする。

三菱電機 常務執行役 CDOの武田聡氏

 その一方、「三菱電機はITの企業ではない。またソフトウェアを中心に事業を進める会社ではなく、ハードウェアの進化でビジネスをする会社である。ソフトウェアだけですべてを解決するのは難しい。ハードウェアがしっかりしなくてはならない。三菱電機は、それぞれのドメインにおけるスマート化に貢献し、それをソリューションとして提供するところで勝負をしていく。ここが他社とは異なる。世の中のベストプラクティスを使いながら、三菱電機にしかできない組み合わせによって、価値を提供していく」などと述べた。

 これまで三菱電機では、電力機器からデータを収集するBLEnDer、昇降機やビル管理システムからデータを得るVille-feuille、空調機器や家電、住設機器などからのデータを活用するLinova、鉄道電機品領域のインフラとなるINFOPRISM、工場の各種FA機器のデータを活用するe-F@ctoryなど、各事業領域において個別のプラットフォームを用意してきた。

 Serendieの構築によって、これらの事業領域をまたがったデータの集約、分析が可能になり、多様な人材が、この分析結果をもとにアイデアを生み出し、Web API基盤を通じて事業領域を横断したサービスを提供することになるとしている。

デジタル基盤「Serendie」の構成

 例えば、ビル領域においては、これまではエレベーターやエスカレーターなどのハードウェアを中心に、ビル経営におけるTCOの効率化という観点から価値を提供してきたが、Serendieを通じて、社内および社外の連携を図ることで、カーボンニュートラルソリューションとしての提案を行うほか、ビルオーナーに対する価値提供にとどまらず、ビル利用者やテナント各社の快適性向上、利便性向上、生産性向上、集客力向上につなげることができるようになる。

ビル領域におけるSerendieソリューション

 また、工場領域においては、各種生産設備機器を提供することで効率性の高い生産ラインの構築を実現してきたが、Serendieにより、データをもとにして、新たな生産方式の提案、マルチリージョンEMSによる再生可能エネルギーの活用提案、SCMの最適化など、生産全体の最適化が提案できるようになるという。

 「機器から生まれたデータを分析することで、新たな価値を提供することができる。エレベーターやエスカレーター、生産設備、電力などの縦割りでの提案から、データによる横串提案により新たな価値を提供するのがSerendieになる」と位置づけた。

工場領域におけるSerendieソリューション

 同社では、データ活用ソリューション事業、データ収集コンポーネント事業を、「Serendie関連事業」と定義し、三菱電機がありたい姿として描いている「循環型デジタル・エンジニアリング企業」を実現するための新たなデジタル基盤にSerendieを位置づけている。

 Serendie関連事業は、2023年度実績として、売上高6400億円、営業利益率16%となっているが、2030年度には売上高1兆1000億円、営業利益率を23%に拡大する計画だ。現在、Serendie関連事業のうち、データ収集コンポーネントが売り上げの約7割を占め、データ活用ソリューションは3割の構成比だが、2030年度にはこれを6対4にするという。

Serendie関連事業

 「データ収集コンポーネントは、基本的には従来型ビジネスを継続することになるが、今後はデバイスのスマート化が重要なポイントになるだろう。また、データ活用ソリューションビジネスは、ドメインを掛け合わせて、ソフトウェアを中心にした収益性の高いビジネスモデルを確立することになる」としている。

 Serendieの名称は、「偶然の巡り合いがもたらすひらめき」を意味するSerendipityと、三菱電機がありたい姿としている「循環型 デジタル・エンジニアリング」のDigital Engineeringを掛け合わせた造語だ。同社では、「異なる領域の機器やシステム、データ同士の新たな巡り合い、脈々と培ってきた技術と限りない創造力により、顧客と社会に新しい価値を生み出し、活力とゆとりある社会の実現に貢献するものになる」と説明している。

 三菱電機の武田CDOは、「これまでは、個別事業ごとにブランドをつけてきたが、そのままではドメイン別のビジネスからは抜け出せないと考えた。ドメインを超えた価値を生み出したい。そこで、全社統一のブランドをつけた。従来は電力分野のエキスパートが、電力会社に対して、特化したソリューションを提供してきたが、ドメインを掛け合わせることで新たな価値が生まれることを期待している」とした。

 また、「三菱電機が、突然、Serendieというブランドをつけたと感じるかもしれないが、ここ数年に渡り、組織風土改革を進め、サイロ型の組織を壊してきた。その成果をもとにしたデジタルバージョンがSerendieになる」と語った。

 また、三菱電機では、Serendieの事業拡大に向けて、現在、グループ全体で約6500人のDX人材を、2030年度には約2万人に拡大する計画も明らかにしている。組み込みソフトウェア開発や大規模システム開発に携わってきたIT技術者のデジタル人材へのリスキリングのほか、キャリア採用やM&Aによる拡充、7つのDXスキルセットをベースにした教育カリキュラムを展開。全社員を対象としたDX教育も実施することになる。

DX人財の強化

 Serendieのソリューション事例についても紹介した。

 FAデジタルソリューションでは、これまでの製造現場では、利用側の目線に立って、データを収集、蓄積、共有する仕組みになっていなかったため、データ活用に至っていないことに着目。Serendieを活用した製造現場の実態に即したソリューションを通じて、データ収集や活用する仕組みを効率的に構築しており、製造ロスや品質ロスの削減に向けて、社内で効果を実証しているところだという。三菱電機モビリティ姫路事業所における実証実験では、生産および品質コストの削減効果が年間7億円に達し、データ収集や活用、構築のためのリードタイムが90%以上削減できたという効果が出ている。

FAデジタルソリューション

 OTセキュリティソリューションは、金融システムなどで培ったITセキュリティ事業とFA事業のシナジーにより、OTセキュリティ事業を創出。Nozomi製のセキュリティコンポーネントを導入し、OTネットワークを監視し、異常な通信をアラートとして記録。セキュリティデータと生産データを組み合わせることで、正確なアセスメントを実施することができているという。

OTセキュリティソリューション

 熱供給事業者向けソリューションは、2024年5月からサービスを開始したもので、製造業やビルオーナー、熱供給事業者の電力および熱のエネルギーコストを削減。脱炭素化の推進に貢献し、エリア全体の電気、熱、エネルギーの需要予測と、運転計画を最適化する熱エネルギーマネジメントシステムを提供するとともに、データ活用による運転改善も支援することになる。

熱供給事業者向けソリューション

 7月11日から新たに提供を開始したのが、鉄道向けデータ分析サービスである。

 Serendieを活用して、車両や変電所、駅の電力使用量や列車運行状況などのデータを、組み合わせて分析。脱炭素化を目指す鉄道事業者の潜在課題をとらえ、最適な解決策や活用方法を提案することができるという。

 具体的には、鉄道車両のブレーキ時に発生する回生エネルギーの余剰電力を見える化した情報を地図上にマッピングし、駅舎補助電源装置であるS-EIVの適切な配置場所や、駅の混雑度、運行ダイヤ、運行状況に応じた鉄道アセットの最適な運用方法を提案する。これをもとに、鉄道事業者の設備導入や列車の省エネ運用を継続的にサポートする。また、鉄道アセット連携と省エネ運転の融合により、エネルギーの運用最適化にも貢献する。

 さらに、鉄道分野で収集したデータを分析、活用して、沿線地域の電力システムとの連携をサポートすることで、沿線地域全体でのエネルギー供給の最適化実現による脱炭素化推進にも貢献できるとしている。

鉄道向けデータ分析サービス

 三菱電機 モビリティインフラシステム事業部長の成松延佳氏は、「これまで培ってきた鉄道事業分野の知見と、Serendieを活用したデータ分析サービスを提供。エネルギーフローの見える化や、エネルギー課題解決に向けたコンサルティングを提供することができる」と述べた。

三菱電機 モビリティインフラシステム事業部長の成松延佳氏

 説明会では、3社のパートナー企業が登壇した。

 三菱電機 DXイノベーションセンター長の朝日宣雄氏は、「DXイノベーションセンターでは、データ分析基盤、Web API連携基盤、お客さま情報基盤、サブスクリプション管理基盤を整備と、社内外の技術やノウハウを結集したデジタルサービスの実現を加速している。この10年ほどの実績で、Web APIを活用することで、迅速に、品質が高いシステムを開発できることが理解できた。やりたいことに集中するためには、世界でもまれた製品を使うことが最適である」と述べ、三菱電機自らも社内で活用しているSnowflake、Dataiku、MuleSoftについて各社が説明した。

三菱電機 DXイノベーションセンター長の朝日宣雄氏

 Snowflake 執行役員 セールスエンジニアリング統括本部長の井口和弘氏は、「グローバルでの採用企業数は約9800社であり、データ活用基盤として利用されている。データの垣根を越えて、データをビジネスに活用していくことを支援する企業である。AI Data Cloudをコンセプトに、フルマネージドでソリューションを提供。データ管理のインフラを簡素化し、すぐにデータ活用できる環境を実現している。生成AIモデルをサーバーレスですぐに利用できる環境も実現している」と述べた。

Snowflake 執行役員 セールスエンジニアリング統括本部長の井口和弘氏

 Dataiku Japan 取締役社長 カントリーマネージャーの佐藤豊氏は、「Dataikuはフランス発の企業であり、AIを活用したデータ分析基盤パートナーとして、世界600社が利用している。ひとつのプラットフォームで、組織のだれもがデータから価値を見いだすことを目指している。三菱電機が持つユビキタスのデータと専門性を持ったデータを使いながら、新たなイノベーションを創出したい」と語った。

Dataiku Japan 取締役社長 カントリーマネージャーの佐藤豊氏

 また、セールスフォース・ジャパン 常務執行役員 MuleSoft事業統括本部長の小山径氏は、「MuleSoftは、APIを通じてあらゆるデータ、システムを開放し、ビジネスに活用することができる統合プラットフォームを提供している。三菱電機との連携では、マイクロサービスアーキテクチャを活用しながら、再利用可能な環境を構築し、APIを新たなビジネスに生かすAPI経済圏の構築に貢献できる」とした。

セールスフォース・ジャパン 常務執行役員 MuleSoft事業統括本部長の小山径氏

 一方、神奈川県横浜市に開設したDXイノベーションセンターの共創空間についても公開した。ここでは、DXイノベーションのハブと位置づける「Serendie Street」の第1弾として、2023年4月に、Serendie Street Yokohamaを開設した。

 武田CDOは、「さまざまな人に集まってもらい、さまざまな技術を持ち寄り、さまざまなアイデアをぶつけ合うことで、新たなソリューションを作る場になる。社内外の人材が共創し、オープンイノベーションを加速することができる。また、三菱電機のDX人材の育成の場としても活用できる」としたほか、「Serendieソリューションを創り出す『スクラムプロジェクト』により、短期間でデータ分析し、お客さまの課題を見つけだして提案。短期間にPoCを行い、さらに修正を繰り返すといったことに取り組んでいる。仕事の仕方を変えていくことにも取り組む場になる」などと述べた。

 2025年1月には、新たに隣接する場所にSerendie Street YISPをオープン2024年度は、三菱電機グループの約350人のDX人材が集結することになるという。

Serendie Street Yokohamaの様子

今回の説明会はSerendie Street YokohamaのARENAを使用して行われた
STADIUMは、共創を行える場。地元の横浜スタジアムを想定しており、L、C、Rは外野のレフト、センター、ライトという意味だという
STADIUMの各部屋は人気で、いつも予約が埋まり気味だという
約50人が入れるセミナールームもある
横浜を意識して本物のレンガを使用。奥は集中エリアになっている
PARKエリアではそれぞれが自由な場所で仕事ができる
カウンターにはディスプレイも用意している
ファミレス風のシートも用意している
PARKにはリラックスできる土足厳禁のエリアも用意
利用者が自由に使える冷蔵庫や電子レンジなどを設置
ラウンジも用意されている