ニュース
日本オラクル、2025年度も「日本のためのクラウド」「お客様のためのAI推進」に引き続き注力
2024年7月10日 06:00
日本オラクル株式会社は9日、同社新年度(2024年6月~2025年5月)の事業戦略について説明。重点施策として、前年度に引き続き、「日本のためのクラウドを提供」、「お客様のためのAIを推進」の2点に取り組む考えを示した。
日本オラクルの三澤智光社長は、「2024年度は、この2点の取り組みにおいて成果があがったが、これを根づかせるにはそれなりの時間がかかる。そこで、今年度も同じテーマに取り組む。これらのテーマを本格的に実行する1年になる」と位置づけた。
「日本のためのクラウドを提供」では、「レガシーモダナイゼーションによる基幹システムのレジリエンス向上」、「お客様、パートナー向けの専用クラウドを提供」、「ガバメントクラウド移行のさらなる推進」、「クラウドネイティブSaaSの普及による経営基盤の強化」の4点に取り組む。
「OracleのIaaS、PaaSは10年遅れで市場参入したが、最新のテクノロジーを活用したクラウドを提供でき、他社とは違った進化を遂げることができている。また、SaaSでは10年早く、圧倒的な実績を持っている」と、クラウド市場における現在のポジションを示した。
ひとつめの「レガシーモダナイゼーションによる基幹システムのレジリエンス向上」では、レガシーシステム脱却・システムモダン化協議会(仮称)の新設が閣議決定され、省庁横断で「2025年の崖」への取り組みが進められることを指摘しながら、「サイバーセキュリティや地政学リスク、自然災害への対応など、レジリエンス向上は重要なテーマだが、日本の企業の経営を支える基幹システムは、パッチをあてず、アップグレードは行わないという塩漬けの考え方が定着しており、これを解消しなければ、日本のモダナイゼーションは進まず、セキュリティインシデントなに対応できない」と指摘した。
日立建機では、約500のアプリケーションサーバーと、約100のデータベースによる大規模基幹システム基盤をOCIに移行。短期間で、オンスケジュールで完了させ、運用コストを20%削減し、各種処理性能を最大50%向上。さらに、クラウドにより、低コストで完全切り替え可能なDR環境を実現したという。
ビデオメッセージを寄せた日立建機 執行役 CDIO 新事業創生ユニット長の遠西清明氏は、「多様なデータ利活用やAI活用を見据えた基幹システムの柔軟性や拡張性を高めるためにパブリッククラウドへの移行が喫緊の課題であると考えた。そこで、既存のアプリを大幅に改修することになく、限られた期間内に確実に移行できるという点でOCIを導入した。想定以上の効果が出ている。今後はAIを融合した新たなソリューションの提供を加速する予定であり、OCIに期待している」と述べた。
三澤社長は、「日立建機の事例は、複雑なインフラ、アプリ、ネットワーク環境にあった基幹システムを、OCI上にシンプルな構成に移行した。また、本番と同じ検証環境をオンデマンドで実施することで、短期間に移行することができた。Oracle Cloud VMware Solution、Oracle Exadata Cloud Serviceを利用したクラウドリフトによって、基幹システムの塩漬け問題から脱却できる。さらに、式年遷宮のような5年や7年に一度のシステム更改がなくなり、Oracleが定期的なパッチ適用やアップグレードを実施することが可能になる。システム更改は、SIにとっての大きな収益だが、今後はシステム更改という概念が極小化される。また、インフラ統合というビジネスも最小化される。これは、顧客にとっては大幅なコスト削減が可能になるが、IT業界には大きな変革を迫られることになる。これを見越して次の手を打つことが重要になる」と提言した。
また、VMware on OCIについても説明。複数年にわたって価格を固定化すること、オンプレミスのVMwareの仮想環境をそのままクラウドに移行し、オンプレミスと同じ運用が可能になること、無償の移行支援サービスや移行ツールを提供していること、クラウド移行を推進するためのパートナーとの協業を強化していることに言及した。
「ブロードコムによる買収で発生した価格問題が、VMwareを利用している企業にとって大きな問題になっている。価格を固定することでこうした課題を解決できる。また、OCIを活用することで、顧客やパートナーがVMwareの管理者権限を持つことができるというメリットもあり、勝手にパッチ適用されるという課題などに対して、唯一解決することができる提案になる。VMwareを活用しているユーザーの『脱VMware』ではなく、『続VMware』を支援する」と語った。
Oracle Cloud VMware Solutionのパートナー企業が増加していることにも触れた。
「お客様、パートナー向けの専用クラウドを提供」については、顧客向け専用クラウドであるOracle Dedicated Region Cloud@Customerを、野村総合研究所が世界で初めて採用し、日本の証券会社の約8割を支えるサービスを提供していることに触れたほか、2024年4月には、同社がOracle Alloyを稼働させたこと、富士通とはソブリンクラウド提供に向けた戦略的協業を発表し、2025年4月にOracle Alloyを稼働させる予定にも触れた。
三澤社長は、「日本でもソブリンクラウドの話題に注目が集まる一方で、直近のクラウドのトレンドは、大は小を兼ねないということが明確になってきた。パブリッククラウドだけでは要件を満たせない。専用クラウドの要望が世界中で高まっている。ここでも、日本のためのクラウドを実現していく」と述べた。
野村総合研究所(以下、NRI) 常務執行役員 IT基盤サービス担当の大元成和氏は、「クラウド活用は経営戦略にとって不可欠なものになっているが、統制や安全保障上の観点からデータ主権の確保が重要であり、生成AIの活用においても注目されている点である。NRIでは、Oracle Dedicated Region Cloud@Customerを利用し、金融SaaSのマイグレーションを行い、厳格なセキュリティ、データ主権、金融統制の要件を満たす高度な運用を実現している。この成果を踏まえて、同様のクラウドサービスを使いたいという顧客に対して、Oracle Alloyを日本で初めて稼働させた。GPUを投入し、データの安全が担保されているソブリンAIとしての活用も可能になっている。今後、顧客にも使ってもらえるAIサービスの提供を予定している」などとした。
「ガバメントクラウド移行のさらなる推進」では、「2024年年度末から、ガバメントクラウドの本格的な実装が始まる。地方自治体向けパッケージベンダーを支援し、ガバメントクラウドの推進を支援していく」と述べた。
和歌山市では、OCIを利用して、基幹業務システムをガバメントクラウドへの移行を開始。モダン化に対する積極的な支援と、圧倒的なコストパフォーマンスを評価しているという。
すでに数百を超える自治体がOCIを採用する予定であり、今後は稼働事例を公開。生成AIを活用したソリューションを展開していくことになる。
「クラウドネイティブSaaSの普及による経営基盤の強化」では、「最大の競合がようやくパブリッククラウドに舵を切った段階だが、Oracleは数多くの実績がある。ビジネスアプリケーション戦略においても、大は小を兼ねない戦略を推進する。中小企業向けクラウドネイティブSaaSのNetSuiteも、日本で本格展開を開始する。日本でのNetSuiteのパートナーの拡大に取り組む」と述べた。
ANAホールディングス 執行役員 グループ調達部長の吉田秀和氏は、「2019年にOracle Cloud ERPを採用し、調達システムを社内展開している。購買の見える化や、プロセスの徹底を図り、一般消耗品の購買額を半減することができた。現在、グループ全体の一般消耗品の7割をカバーできており、データを活用した取り組みが進展している。AIを活用した購買分析が可能になると聞いている。調達コスト構造改革を進めていく」と述べた。
もうひとつの「お客様のためのAIを推進」では、「圧倒的なGPU環境を日本のAIに提供」、「エンタープライズ向け生成AIソリューションの展開」、「SaaSに組み込まれたAI活用を推進」の3点に取り組む。
「圧倒的なGPU環境を日本のAIに提供」では、GPUの能力を最大化するクラウド基盤であるOCI Super Clusterを構築。三澤社長は、「数万のGPUを稼働させた巨大なクラスターを構築できるクラウドベンダーはMicrosoftとOracleしかない。だが、MicrosoftのネットワークはInfiniBandを使用しているのに対して、OracleはイーサネットでRDMAネットワークを採用しており、複数ノード環境をリアルにスケールし、圧倒的なコストパフォーマンスを実現できる。日本の生成AI企業にもメリットを提供できる」とした。
2025年度の投資項目のひとつとして、OCIの東京および大阪リージョンに相当数のGPUを設置するとも述べた。
「エンタープライズ向け生成AIソリューションの展開」においては、Oracle Database 23ai AI Vector Searchである。あらゆるデータをひとつのデータベースで管理するマルチモーダルが特徴で、SQLによるシンプルな検索、高速ベクトル検索、高可用性の実現などの特徴を持ち、「RAGのパフォーマンスの担保に応えることができる唯一の製品であり、堅牢なセキュリティも実現している。エンタープライズにおける生成AIが持つさまざまな課題を解決できる製品として期待が高まっている」などと語った。
なお、Oracle Database 23aiでは、300を超える新機能と、数千の機能拡張を発表。特にAIアプリケーション開発、ミッションクリティカルの領域での強化を果たしている。
最後に、「SaaSに組み込まれたAI活用を推進」では、「今後は、AIが業務アプリケーションを進化させることになる。Oracleは、自社クラウド、自社GPU、自社AIサービスを持っているSaaSベンダーであり、高いコスト競争力を持つ点が大きな特徴である」と述べた。
デロイトトーマツコンサルティング Chief Growth Officer 執行役員の首藤佑樹氏は、「Oracle Database 23ai AI Vector Searchによって、構造化データと非構造化データを統合的に運用でき、自社でしか生み出せない特徴的な事業シナリオを描くことができる。製品の有効性やセキュリティに対する信頼性の高さを確認している。AIによって実現する企業変革を支援しており、Oracle Database 23aiは企業変革を加速させる上で最適なツールになる。Oracleは不可欠なパートナーである」と述べた。
また、日本オラクルでは、AI人材やクラウド人材の育成に貢献していることも強調。AI/MLに関する資格を無償で提供し、AI資格合格者が過去最速で増加していることを示したほか、Oracle Cloud認定資格者が対前年比240%と過去最大の増加になっていること、ユーザーやパートナーでの技術者が拡大していることを紹介した。
一方、2024年度(2023年6月~2024年5月)の米Oracleの業績は、売上高が前年比6%増の530億ドルとなったほか、受注残高を示す総残存履行義務が前年比44%増の980億ドルに達したことを示しながら、「決算発表後の時間外取引で株価が10%近く上昇した。年間売上高が8兆円の会社が、15兆円の受注残高になっている点が評価された。受注残の多くがクラウドからもたらされており、今後、利用されることで売り上げが計上されることになる。Oracleのクラウド事業の勢いの強さが裏づけられる」とした。時価総額では、B2B専業コンピュータ企業では世界最大規模であるとも述べた。
OpenAIがMicrosoft Azure AIプラットフォームの拡張にOCIを選定。MicrosoftがBingの対話型検索にOCIを活用しているほか、NVIDIAやCohere、Meta、xAIなどとの協業を発表。「多くのAI企業がOCIを採用しており、これがOracleの巨大な受注残を作る要因にもなっている。生成AI企業向けクラウドでは、OCIが最大規模の実績を誇る」と胸を張った。
また、「日本オラクルは、米本社よりも高い成長を遂げており、2024年度は過去最高の業績を達成した」と報告。ライセンスやシステム、サポート、コンサルティングといった安定したビジネスを生み出す事業領域と、Tech CloudやSaaSといったハイパースケールに成長する事業領域での成長が好調な業績を支えたという。
さらにマルチクラウド戦略を強調。MicrosoftおよびGoogleとの連携により、InterconnectでOCIのデータセンターと相互接続。Azureのデータセンター内に、OCIをセットし、低遅延で、データ転送料金なしのデータベースサービスを実現した。日本においても、年内には、Azureの東京リージョンでOCIが構築された環境でサービス提供が開始されるという。また、Google Cloudの東京リージョンと、OCIの東京リージョンが専用ネットワークで接続されているほか、今後は、Google Cloudの東京リージョンのなかに、OCIを構築する可能性も指摘した。
Oracleでは、日本市場に対して今後10年間で80億ドル(1兆2000億円)以上の投資を行う計画を発表しているが、「米本社では、日本に対する関心が高まっている証しである。すでにこの投資は始まっており、東京および大阪のデータセンターの大幅な拡張を進めている。今年の夏過ぎには、日本で最も多くのGPUを提供するクラウドプロバイダーになる。日本でのクラウドのサポートとオペレーションの強化のために、人員採用を行っている。また、ソブリンクラウドの運用において、24時間365日のサポートに対応できる仕組みを構築していくことになる」と述べた。