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Oracleはすべての技術やスタックにおいて存在感がある――、サフラ・キャッツCEOが基調講演

~Oracle CloudWorld Tour Tokyo

 日本オラクル株式会社は18日、東京・芝公園のザ・プリンス パークタワー東京において、「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」を開催した。世界8都市で開催しているグローバルイベントで、7カ所目となる今回の東京での開催では、基調講演をはじめ、OCIやアプリケーション、データベース、生成AIなどをテーマにした38のセッションを用意。併設したCloudWorld Tour Hubでは最新のソリューションが展示された。

 初来日となった米Oracle CEOのサフラ・キャッツ氏が、基調講演に登壇したのも目玉のひとつだ。「お客様と共に成長する未来へ」をテーマに講演。Oracleのビジョンや戦略などを紹介。さらに、国内における顧客事例についても紹介した。

 なおOracleでは、日本のデータセンターに対して10年間で80億ドル(約1兆2000億円)以上の投資を行うことを発表している。

米Oracle CEOのサフラ・キャッツ氏

AIと100を超えるクラウドサービスを完全なスイートとして提供

 米OracleのキャッツCEOは、Oracle JAPAC EVP and General Managerのギャレット・イルグ氏との対談形式で講演を進めた。

基調講演の様子

 キャッツCEOは、「Oracleの独自性は、すべての技術やスタックにおいて、存在感があること」と切り出し、「OCIは規模に関係なく、パブリッククラウドでも、Oracle Dedicated Region CloudやRDCCでも、Oracle Alloyでもさまざまな形で利用することができる。AWSやAzureを通じても手に入れることも可能だ。顧客が必要なところに必要な形で提供できるのが特徴である。またOCIは第2世代のクラウドであり、さまざまな教訓をもとに提供しているものであり、セキュリティを強化し、自律型データベースを実行でき、RDMA技術も提供している。多くのことが可能になり、コストも下げることができる」と位置づけた。

 さらに、「Oracle Fusion CloudやNetSuite、Financial Services Solutionsのほか、HCMやSCMも、必要なものを選んで使えるようになっている。また、電力、銀行、小売など、さまざまな業種に向けてサービスを提供し、顧客と一緒になって構築できる。そしてデータベースでは、Oracleは市場のリーダーであり、加えて、新たなAIの能力も用意し、安全な基盤の上で利用できるようにしている」などと語った。

 Oracleが世界各国にソブリンリージョンが持っていることについても言及。「多くの政府が、国内にデータがなくてはいけないと考えている。規制された業界においても、データを国内に置く必要がある。Oracleは、これらのニーズに対応できる。最も機密性が高いデータについては、隔離したリージョンを用意しており、ひとつも妥協をすることなく、導入できる」と述べた。

 一方Oracleでは、「カスタマーサクセス(顧客の成功)」を基本姿勢にしていることを強調。本社にカスタマーサクセス部門を設置したことに触れながら、「世界中のお客さまのもとで課題が発生したらそこに駆けつける組織である。この部分では、日本においても投資をしている」と述べた。

 さらに生成AIについては、「生成AIを利用する際に、最初にOracleが選ばれる理由は、実行速度が速いためである。OCIにおいても、データベースにおいても同様である。これは、少ないコストで、大きな成果をあげることにつながる」としたほか、「Oracleは難しいことを怖がらない。21世紀のヘルスケアを実現するために、この分野でも生成AIを利用したいと考えている」などとも語った。

 Oracleは、AIと100を超えるクラウドサービスを完全なスイートとして提供。ローカルで、どこにでも、AIを提供できる唯一のハイパースケーラーであると位置づけている。

基幹システムのクラウド移行において圧倒的な実績を積んでいる

 続いて日本オラクルの三澤智光社長は、「日本オラクルは、日本のためのクラウドの提供と、お客さまのためのAIの提供を重点施策に掲げている。この1年で、日本の多くのお客さまを、OCIとOracle Cloud Applicationで支援してきた」としながら、日本において、ここ数週間で、数多くの導入事例を発表したことを紹介。

 OCIについては、大阪ガスの全社データ利活用基盤、SMBC日興証券では全社情報システム基盤、パナソニックグループの基幹データベース基盤、TISの決済ソリューション基盤、KDDIの大規模基幹システム群の次世代プラットフォームにそれぞれ採用されたことや、ベネッセコーポレーションでは学校向け事業を支援するシステム群のクラウド移行においてOCIを採用していることに触れた。「日本オラクルは、基幹システムのクラウド移行において圧倒的な実績を積んでいる。基幹システムのレジリエンスの向上に貢献できている」と述べた。

 SaaSでは、キヤノンのグローバル連結経営管理基盤に、Oracle Fusion Cloud Enterprise Performance Management(EPM)が採用されたほか、伊藤園の次世代経営基盤システムとしてOracle Cloud ERPが稼働。トヨタマリンのサプライチェーン基盤としてOracle Cloud SCMを導入。「ERP、EPM、CRMにおいて、日本でも圧倒的な実績を作ることができ、お客さまの経営基盤の強化につながっている」と述べた。

日本オラクル 取締役 執行役社長の三澤智光氏

 さらに、パートナーとの協業の成果については、野村総合研究所が、同社データセンター内でOracle Alloyを稼働させ、データ主権を担保するソブリンAIの提供に向けた活動を開始したほか、富士通との新たな戦略的パートナーシップの締結を発表したことを紹介した。

3社の顧客がゲスト登壇

 基調講演では、3社がゲストとして登壇した。

 日本経済新聞社では、約95万人の有料購読者を持つ日経電子版の取り組みについて説明。日本経済新聞社 取締役副社長 CDIO サブスクリプション事業統括の渡辺洋之氏は、「日経電子版が2010年にスタートしたときには、失敗するのではないかと言われた。重要なポイントのひとつが、iPhoneをはじめとしたスマホの登場を、あらがえないトレンドと判断し、それがやってくることを待ち伏せしたことであった。これまでの新聞は記事が良ければ売れたが、電子版ではアプリストアでの評価が低いとダウンロードされずに普及しないという課題が生まれた。新聞紙史上、初めてコンテンツが課題ではなく、デジタルサービスが課題となるビジネスになった」とし、「それ以来、サービスの内製化を行うとともに、サービスをクラウド化した。エンジニアがサービスの開発に集中できるように体制を構築した。現在、日本経済新聞社には、サービスの開発者およびデータサイエンティストが100人以上在籍している」などと述べた。

 また日本経済新聞社では、Oracle Cloud ERPを採用し、経理財務のDXに取り組んでおり、ハードウェアのメンテナンスや更改といったエンジニアにとっての「つまらない作業」を排除し、前向きな仕事に集中できる環境を構築しているという。

 一方、今後の生成AIの取り組みについては、「日経版LLMを開発中であり、過去の記事とデータを活用した形で、みなさんにも使ってもらえるようになる。また、業務にAIを活用して、改善も進めていきたいと考えており、この部分については日本オラクルからヒントをもらいたい。生成AIの活用による生産性の向上は、日本の企業が共通に抱える問題であり、競争する領域ではない。日本オラクルには、全体の生産性底上げのために、日本の企業同士が話し合いをする場を設けてほしい」と要望した。

日本経済新聞社 取締役副社長 CDIO サブスクリプション事業統括の渡辺洋之氏

 KDDIでは、基幹システムの大規模なテクノロジーモダナイゼーションの推進にOCIを採用している。KDDI 取締役執行役員専務 CTO コア技術統括本部長の吉村和幸氏は、「KDDIは、通信を核に、DXや金融、エネルギー、LX、地域共創において事業拡大を図るサテライトグロース戦略を掲げている。この推進においてクラウドは欠かせない」とし、「これまではオンプレミスでのシステム稼働が多く、保守の限界や、変化への対応の遅れが課題だった。一方で、au PayなどDRサイトなどにOCIを利用してきた経緯がある。2024年度末までに9システムをOCIにリフトし、2025年以降は数千万人の顧客に対応した基幹システムをOCIにリフトする。大規模基幹システム群の次世代プラットフォームにOCIを採用した理由は、大規模なデータをOracle Databaseで保有していること、更改にかかる費用の抑制、運用コストの低減を行いながら、高品質のサービスを提供できる性能や堅牢性を評価したためである。現行システムからの移行容易性も高いと判断した。OCIとAIの連携におけるメリットも大きいと考えている」と期待を寄せた。

KDDI 取締役執行役員専務 CTO コア技術統括本部長の吉村和幸氏

 富士通は、Fujitsu Uvanceで提供するHybrid ITサービスに、Oracle Alloyを導入することを、基調講演のなかで発表した。

 富士通 執行役員 SEVP システムプラットフォームビジネスグループ長の古賀一司氏は、「Oracle Alloyを富士通が運用するデータセンターに設置し、クラウド移行の課題となっているパッチ適用などによる不具合の発生などを解決できるほか、ハイパースケーラーと同等の機能を、タイムリーに提供できるというメリットがある。さらに、データ主権への対応が可能になり、経済安全保障の観点から、データの機密性やソブリン性の要件を実現できる。富士通が必須とした100以上の要件にも真摯(しんし)に向き合ってもらい、お客さまの期待に応えられるクラウドサービスを提供できる」と述べた。
 さらに、「富士通がサポートする数千社のお客さまが、Oracle Databaseをオンプレミスで利用しており、この環境からの移行支援を、既存資産を最大限活用した形でしっかりと進めたい。また、経済安全保障関連法案を見据えたサービス拡充を図り、特定14業種へもシステムを提供したい。AI活用においても、データ主権要件に対応できる強みを生かす。まずは、日本国内でのサービス提供を軌道に乗せ、今後は、Oracleと新たな形でのグローバル展開も考えていきたい」と語った。

 さらに、「Oracle Alloyにとどまらず、富士通が開発している次世代armプロセッサのMonakaや、AIプラットフォームのKozuchiに関しても、新たなサービスの共同開発など、一歩進んだ形でOracleとの協業を進めたい」と語った。

富士通 執行役員 SEVP システムプラットフォームビジネスグループ長の古賀一司氏

 なお、日本オラクルでは、国内におけるクラウドコンピューティングとAIインフラストラクチャーの需要拡大に対応するため、今後10年間で80億ドル以上の投資を行うと発表した。

 米OracleのキャッツCEOは、「日本への投資をもっと強化する。勢いがあり、強い熱意がある日本において、誰もがモダナイズし、最高のツールを使い、顧客サービスを強化し、サプライヤーとの関係を強化でき、社員が意欲を持って働けるようにする支援する」と述べた。

 この投資を通じて、OCIの事業拡大を図るとともに、国内のソブリンクラウドに対する要件をサポートするために、エンジニアリングチームを大幅に拡大するという。具体的には、東京と大阪にあるパブリッククラウドのリージョンにおいて、国内カスタマーサポートチームと、Oracle AlloyおよびOCI Dedicated Regionの国内運用チームを強化。これにより、日本政府や日本企業がミッションクリティカルなワークロードをOracle Cloudに移行し、ソブリンAIソリューションを採用できるようになるという。