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富士通、複数データの統合により少量データでも高精度に因果関係を導出するAI技術を開発

 富士通株式会社は6日、国立大学法人京都大学、国立大学法人弘前大学が開発した、青森県弘前市岩木地区の住民の20年にわたる、約3000項目もの健診結果のビッグデータを統合管理する弘前健診因果ネットワークを、富士通がAIサービス「Fujitsu Kozuchi」のコア技術として開発した因果意思決定支援技術と組み合わせることで、限られたデータでも健康医療領域の因果関係を導出することを可能にしたと発表した。

 弘前健診因果ネットワークは、弘前大学COI-NEXTが、岩木健康増進プロジェクト健診で取得した超多項目健康ビッグデータに対して、弘前大学を含む京都大学の研究グループが独自のベイジアンネットワーク技術を適用して、項目間の因果関係をネットワークとして推定したものであり、信頼性の高い因果グラフ。また、富士通が開発した因果意思決定支援技術の新たな機能である因果知識転用技術は、既存の因果関係の知識を転用できる。

 これらを組み合わせることで、例えば健康医療の分野において、信頼性の高いデータを十分集められない場合でも、弘前健診因果ネットワークの知識を転用して因果関係を導出することが可能になった。

 富士通では、データに基づく意思決定が経営、医療、スポーツ、製造業などの分野で浸透する一方で、データが十分集められないケースも多くあると説明。例えば、近年、健康経営への関心が高まる中、従業員の健康状態を把握し、効果的な施策を講じるためのデータ分析が重要となっているが、従業員数の少ない企業では、十分なデータ量を確保することが難しく、健康課題の特定や対策の立案に課題を抱えているという。

 富士通は、国内外の大学の中に研究拠点を設け、同社の研究員が大学内に常駐または長期的に滞在しながら産学連携の活動を行う「富士通スモールリサーチラボ」の取り組みを推進しており、京都大学と富士通の共同研究講座「大規模医学AI講座(富士通リサーチラボ)」では、健康医療の分野の課題を解決する新たなAI技術の研究開発を行ってきた。

 因果意思決定支援技術は、複数のデータセットを用いて推定された因果関係に基づき、最適な施策を提案し意思決定を支援する技術。今回、新たな機能として開発した因果知識転用技術は、まず、既存のデータによって得られた因果関係の知識を因果ナレッジグラフに変換する。そして、因果ナレッジグラフから転用可能な因果構造をデータ分布に従い、細粒度で同定することにより、項目や抽象度が異なる場合でも知識を転用可能になった。これにより、データが不足している場合でも、既存のデータから導いた因果関係の知識を転用することで、信頼性の高い因果関係の導出が可能になった。

 同技術と、既存のさまざまな地域や年齢層の健診データから得られた、信頼性の高い因果グラフである弘前健診因果ネットワークを組み合わせることで、十分なデータがない場合でも、健康医療分野の因果関係を推測することが可能になる。

 例えば、睡眠とライフスタイルに関するオープンデータである「Sleep Health and Lifestyle Dataset」における因果関係を推定する際に、弘前健診因果ネットワークを用いた因果知識転用を活用したところ、弘前健診因果ネットワークを活用しなかった場合と比較して、より妥当性の高い因果関係を導き出せた。例えば、弘前健診因果ネットワークを活用しない場合には、年齢や性別が不眠症の原因であるという不自然な因果グラフが導かれてしまうが、弘前健診因果ネットワークを活用することで、このような不自然な関係は取り除かれ、睡眠時間や睡眠の質が不眠症に直接影響しているという妥当な結果が導けた。

 富士通では、因果意思決定支援技術を弘前健診因果ネットワークと組み合わせて試せるトライアル環境を、健康関連の法人向けに提供開始した。今後は、トライアル環境の提供を通じて得られた知見を生かして、継続的に技術の精度向上と機能拡充を進め、健康医療分野におけるAI技術のさらなる発展と、より多くの企業の健康経営に貢献していくと説明。また、因果意思決定支援技術は、さまざまな領域で活用できる汎用的な技術で、例えば、財務および非財務情報にも適用し、幅広い企業の意思決定支援に貢献していくとしている。