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独Celonisの幹部が語る、プロセスマイニングの“過去・現在・未来”

 9月29日、独Celonisのカスタマートランスフォーメーション担当副社長であるラース・ラインケマイヤー氏が来日し、プロセスマイニングの過去・現在・未来という観点から解説を行った。

 同氏は、長年に渡り独Siemens(以下、シーメンス)に勤務し、上級幹部として活躍。同社において、Celonisのプロセスマイニングの導入をリードした経験を持つ。また、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の客員研究員であるほか、「プロセスマイニングの衝撃」の著者として知られ、プロセスマイニング分野をリードする人物の一人だ。今回の来日では、国内企業の約50人のCFOと対話を行うなど、精力的な活動を行った。

独Celonis カスタマートランスフォーメーション担当副社長のラース・ラインケマイヤー氏
ラインケマイヤー氏の著書、「プロセスマイニングの衝撃」

 ラース副社長は、冒頭、「19世紀後半にレントゲンが発明され、人間の身体の構造が理解でき、治療方法が見つけやすくなった。今後の医療は、AIによって、これまでは困難とされていた病気の治療が可能になる世界がやってくるだろう」と、医療の歴史を振り返りながら、「プロセスマイニングも同様の歴史をたどっている。これまでは、企業のなかで非効率なものがあっても、中身がわからないため、対策が打てなかった。プロセスマイニングによって、プロセスにどんな課題があるのか、どんなアクションが必要なのかがわかるようになった。今後は、生成AIの活用によって、よりスマートになり、より自動化が進み、とるべきアクションがより明確になる」と、プロセスマイニングの役割と進化を重ね合わせた。

 シーメンスではBIを担当し、調達・購買部門において、2014年からCelonisのプロセスマイニングを導入した。さらに、サプライチェーンにおいてもプロセスマイニングを展開。現在、シーメンス社内では、500以上のプロセスを対象に、200以上のアクションエンジンが稼働。6000人が使用しているという。

 かつてのシーメンスでは、受注処理から現金回収までのO2C(オーダートゥキャッシュ)において、年間3000万件の受注処理が発生していたが、40以上のシステムが使用されており、処理が複雑化。これをプロセスマイニングによって可視化してみると、92万3000通りの異なる処理が行われていることがわかったという。

 「これはシーメンスだけでなく、多くの企業に存在している課題である。なかには、1400万通りの異なるプロセスが存在していた例もあった。Celonisのプロセスマイニングによって、数秒単位でプロセスを可視化できる」とする。

事例紹介 独シーメンス:バリューチェーンにおける進化

 だが、重要なのは可視化したあとのアクションだ。

 レントゲン画像を見て、専門的知見を持った医師が病気を発見し治療を施すように、可視化されたプロセスを見て、CFOなどが課題を発見し、DX戦略という処方によって解決を図る必要がある。

 「CFOは、デジタルFITレート、自動化率、リワーク率といったKPIを作り、現場と目標を共有。同じ方向に向けてDXを推進する必要がある。シーメンスでは、自動化率が24%向上し、リワーク率が11%削減でき、1000万件の人が介入する作業をデジタル化できた」という。

自動化率が24%向上し、リワーク率が11%削減でき、1000万件の人が介入する作業をデジタル化できた

 現在、Celonisは、Celonis Execution Management System(Celonis EMS)を提供している。製品面にExecutionとあるように、これが実行力を高めることにつながっている。

 「Celonis EMSは、SAPやSalesforce、Oracle、ServiceNowなどとつながり、ビジネスにおけるさまざまな実行を、360°に渡って可視化する。100以上のコネクタを通じて、さまざまなシステムからイベントログを収集し、プロセスのなかで改善すべき部分を明確にし、アクションを取り、素早く修正することで、ビジネスに効果をもたらすことになる」。

 Celonis EMSでは、購買・調達、営業、在庫管理といった業務ごとに標準化したアプリケーションを通じて、改善のターゲットを明確化でき、アクションをつなげることで効果を得る仕組みを提供しているという。洞察力をワンモーションで行動に変えることができる点が特徴だ。

Celonis EMSの仕組み

 米国のヘルスケア企業であるカーディナルヘルス(Cardinal Health)では、連携するシステム同士の仕組みやマスターが異なっていたことが原因で、数10億円の請求漏れや非効率化があったことを発見。また、ペプシコ(PepsiCo)では、DXの推進においてCelonisを活用したり、米Marsでは、Celonisが持つバリューファーストの方法論を用いて改善を図ったりしているという。

 「Celonisは、全世界の企業に対して、合計で35億ドルもの価値を創出している」と、ラース副社長は成果を示す。

 また、ラース副社長は、「プロセスマイニングの成功には3つのPが重要になる」とし、Prepose(目的)、People(人)、Processtraces(証跡)をあげる。

 「なにを成し遂げたいのかという目的意識を明確にすることに加えて、すべての人たちが変化を望んでいるわけではないという観点を持つことが必要である。また、イベントログやデータを活用することが大切である。私自身、シーメンス時代に失敗を繰り返し、手痛い経験がある。3つのPは、それを教訓にしたものだ」とコメント。

 「今回の来日で、日本の企業のCFOとの対話を通じて感じたのは、彼らには喫緊の課題があるという点だ。日本は高齢化という課題に直面しており、今後数年間で3分の1が退職してしまうという企業が少なくない。残された3分の2の人員だけで同じ成果をあげるには、デジタル変革を行い、生産性を高める必要がある。人手をかけて品質を高めるという日本企業の文化を変えるポイントに来ている。そのためには、自動化が不可欠であり、そこにプロセスマイニングが活用できる」と述べた。

 また、日本法人の代表取締役社長、村瀬将思氏も「日本で事業を進めていると、3つのPのなかでも、特にPeopleが大切だと感じる。プロセスマイニングを成功につなげられるかどうかは人次第である。日本では、経営層が参加するコミュニティ活動を積極的に展開しているが、これは、プロセスマイニングの成功には、経営陣のコミットが必要であるという背景がある。また、プロセスマイニングのテクノロジーを理解する現場の人たちの存在も不可欠である。このテクノロジーを使って業務を改善したいと考える『チャンピオン』が、不屈の闘志を持って、変革に挑む環境を作ることが必要である。日本においては、成功事例をみせることがプロセスマイニングの理解の第一歩につながる」と述べた。

Celonis株式会社 代表取締役社長の村瀬将思氏

 最後に触れたのが、プロセスマイニングの将来だ。

 Celonisでは、プロセスマイニングの技術を、オブジェクトセントリックプロセスマイニング(OCPM)へと進化させている。

 これは、従来のようにプロセスを個別で見るのではなく、オブジェクトの概念でとらえ、プロセスと部門間の交差領域に関して、生きた洞察を提供できるのが特徴だ。

 販売注文や購入注文など、処理される個々のプロセスだけでなく、プロセスを構成するイベントを分析することで、複雑なプロセスがどう実行され、どのような依存関係にあるのかを、全体像としてとらえることができる。これは、Celonisだけが実現しているものだという。

 すでに日本においても、保険や製造業、医療機器メーカー、スポーツブランドメーカーなどで、OCPMが導入され、請求管理プロセスやSCM改善、O2Cプロセスの改善において、実績をあげてはじめているという。

 そして、プロセスマイニングを大きく進化させるのが、生成AIである。

 「生成AIの登場によって、プロセスマイニングはひとつの技術であったものから、テクノロジーの触媒へと進化する。また、これまでは一部の専門家にしかできなかったプロセスマイニングの機能を、組織のあらゆる人たちが利用できるようになる。プロセスインテリジェンス(PI)の世界が訪れる」とする。

GenerativeAI(生成AI)が変える仕事の未来

 例えば、Celonis EMSと生成AIの組み合わせによって、「致命的な支払い遅延の原因となるすべての発注書を表示」と指示すれば、それに関する情報を表示。さらに、「上位10位までのオーダーの最善な次のアクションを提案してほしい」といえば、最善の解決策を提示し、それに基づいたアクションが起こせるようになる。部門横断的なSCMの最適化を実現し、システムに対して、人と対話をするような形で質問を行い、アクションができる世界が訪れるというわけだ。

プロセス・インテリジェンス(PI)のパワーを想像

 これを実現するには、OCPMで実現した共通のオブジェクトセントリックナレッジ層を活用する必要があるという。

 ラース副社長は、「調達や購買、生産、販売といったプロセスに関するあらゆるデータをひも付けるためのデータレイクがないと、生成AIによる質問に正しい答えが返ってこない。企業で利用するPIの実現には、正確性が欠かせない。そのために、単一の共通オブジェクトセントリックナレッジ層が果たす役割は大きい。ここにCelonisの強みが生きることになる」とする。

 Celonisがプロセスデータモデルとプロセスナレッジモデルを提供することで、信頼できるインテリジェントを生み出すことになる。そして、これらは、シーメンスやボッシュ、ペブシコといった大手企業ユーザーで実証された大量のイベントログの収集、蓄積、活用の実績があるもので、ほかのプロセスマイニングメーカーとは異なる部分であることも強調した。

AIの力を解き放つ

 なおCelonisは先ごろ、NECと戦略的提携を発表したが、ここでは、NECが開発した日本語大規模言語モデルの業種展開などにおいて、Celonisのオブジェクトセントリックナレッジ層が活用されるという。

 OCPMの実績が広がることが、企業における生成AIの活用を広げ、同時に信頼できる生成AIとして進化させる役割を果たすことになりそうだ。