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AWSジャパン、2025年度の中堅・中小企業向け事業戦略を発表
生成AI活用を中心とした重点施策と最新活用事例について紹介
2025年7月16日 11:00
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWSジャパン)は15日、2025年度の中堅・中小企業向け事業戦略について記者説明会を開催した。説明会では、中堅・中小企業で広がる生成AI活用を中心に2025年度の重点施策を説明するとともに、株式会社マキタ、株式会社Qualiagram、株式会社やさしい手の3社によるAWSおよび生成AIの活用事例を紹介した。
AWSジャパンでは、「日本全国の顧客の成長とイノベーションを、生成AIなど先進的なAWSのテクノロジーで、AWSパートナーと一緒に実現する」をミッションに掲げている。同社 常務執行役員 広域事業統括本部 統括本部長の原田洋次氏は、中堅・中小企業が現在直面しているクラウドの民主化に向けた課題として、1)最新技術の導入と業務プロセスのデジタル化、2)レガシーシステムからの脱却、3)人材不足への対応、4)地域のデジタル格差の解消――の4つを挙げ、「2025年度は、これらの課題に対して、それぞれ『生成AIの活用』、『マイグレーション&モダナイゼーション』、『デジタル人材の育成』、『地域創生に向けた取り組み』を重点施策として展開していく」との戦略を発表した。
具体的には、「生成AIの活用」では、AWSジャパン生成AI実用化推進プログラムの内容を拡充していく。原田氏は、「当社が実施したAIに関する意識調査によると、78%以上の組織が『2028年までにAIを利用する』と回答していた。昨年は、生成AIの実用化元年といえる年となったが、今年はビジネス価値創出のフェーズにシフトしつつある。生成AIによるビジネス価値としては、『生産性向上』『洞察の抽出』『顧客や従業員との新たなコミュニケーション』『新しいコンテンツやアイデアの創出』が挙げられる。当社では、これらの価値創出を支援するため、AWSジャパン生成AI実用化推進プログラムを展開しており、昨年7月の発表以降、すでに200社以上が参加している。今年は、このプログラムを拡充し、新たに『GENIAC-PRIZE応募者支援』と『Agentic AI実用化推進』の2つのプランを追加した。これにより、顧客の課題解決とビジネス価値創出を加速していく」と述べた。
ここで、マキタ、Qualiagram、やさしい手の3社から、AWSおよび生成AIの最新活用事例が紹介された。船舶用ディーゼルエンジンの製造・販売・アフターサービスを手がけるマキタでは、生成AIによってチャットボットの活用や労働災害報告書の作成支援を行っている。同社 執行役員 情報企画部長の高山百合子氏は、「AWS上に、外部に学習されない閉鎖型AI環境を構築し、全社用AIと部門特化型AIでのチャットボット活用によって業務効率化を図っている。また、労働災害防止に向けて、生成AIを活用した労働災害報告書の作成支援と多角的分析による安全対策の高度化を進めている。トライアル結果では、報告書の提出が確実に早くなり、内容の精度も上がり、良い手ごたえを感じている。AI活用の今後の展開としては、予測・分析の機能実装やAIツールの市民開発、各種システムとの連携を計画している」と説明した。
AI・5G・XRなど最先端の技術を活用した製品・サービスを提供するQualiagramでは、生成AIを活用した接客スキルの可視化や人材育成に取り組んでいる。同社 代表取締役の吉井雅巳氏は、「当社では、生成AIの開発環境にAmazon Bedrockを採用し、接客AIトレーニングサービス『mimik』を開発・提供している。『mimik』では、型化から実践、効果検証までの一連の流れをAIに任せることで、属人的だった接客トレーニングを効率化するだけでなく、可視化・平準化することができる。また、直近の導入事例としては、オンライン接客サービス『ONLINX+』によって、接客現場の人材不足やスキルばらつき問題の解消を支援した。このほか、AIスタッフを大阪・関西万博の『大阪ヘルスケアパビリオン』の受付スタッフとして派遣した。今後の展開としては、AI×人材育成×データ活用による“次世代の接客”構築に力を注いでいく。そして、AWSとの共創による地方・教育・行政領域への拡張にも期待している」と述べた。
訪問介護などの介護事業を行う、やさしい手では、生成AIを活用した業務自動化、サービス品質および業務効率の向上などに取り組んでいる。同社 代表取締役社長の香取幹氏は、「介護業界では現在、2025年問題にともなう人材不足、記録業務の負担増大、情報共有の複雑さによるケア品質のばらつき、経験依存の意思決定といった課題に直面している。こうした課題に対して、当社は自社開発の生成AI『むすぼなAI』を戦略的に活用することで、少人数で高品質なケアを維持する仕組みを提供している。『むすぼなAI』は、昨年3月にAmazon Bedrockを基盤として検討開始し、昨年6月に非エンジニアのみで業務実装を実現。昨年10月には全社3000人に利用が拡大するとともに、外販を開始した。そして今年5月、AI専任部署『AILab』を発足し、本格的に生成AIの内製化に取り組んでいる。11月には、新サービスとして、AIカンファレンス『むすぼなAI-Colabo』とクラウドAIサービス『ぷらまどAI』をリリースする予定。とくに『ぷらまどAI』は、24時間いつでもどこでも、AIが顧客に最適なケアプランを作成・提案するサービスで、ケアマネジャーの業務負荷を大幅に軽減することができる」と、AWSジャパンとの協力により短期間で生成AIの民主化を実現したと強調した。
AWSジャパンの2025年度における2つ目の重点施策「マイグレーション&モダナイゼーション」では、生成AIの効果を最大化させるためクラウドへのシフトを促進していく。これに向けて、レガシーシステムからAWSへの移行とモダナイゼーションを支援する初のエージェント型AIサービス「AWS Transform」の一般提供を開始した。また、複雑な移行プロジェクトにおいて、評価/計画/移行/運用といった段階を通じて、定められた水準以上のレベルで提供する能力と実績を持つことがAWSに認定されたモダナイゼーションコンピテンシーパートナーを拡充。昨年から新たに3社が同コンピテンシーを取得している。
3つ目の重点施策「デジタル人材の育成」では、AI・クラウドの学習基盤「AWS Skill Builder」において、新サービス「AWS SIMULEARN」を提供する。「AWS Skill Builder」は、デジタルトレーニングによるインプットとハンズオン環境によるアウトプットで実践的なスキルを習得できるもので、さまざまなレベルに合ったトレーニングを用意している。500以上のコースを無料で受講できる。新サービスの「AWS SIMULEARN」は、楽しみながら学べる没入型のトレーニング。生成AIによる仮想顧客とのチャットを通じて、実践的なソリューション構築を学ぶことができるという。
4つ目の重点施策「地域創生に向けた取り組み」としては、AWSジャパン広域事業統括本部とAWSパートナーが協力し、全国の顧客のDXを推進していく。AWSジャパンの原田氏は、「AWSパートナーとの連携体制をさらに強化し、今年から、パートナー企業の営業スタッフを当社のコーチがトレーニングするサービスを新たに開始した。また、中堅・中小企業の顧客ニーズに対するソリューションとサービスを定められた水準以上のレベルで提供する能力と実績を持つことを認定した『中堅・中小企業向け(SMB)コンピテンシーパートナー』の拡充も図っていく。さらに今年も、地域活性化のための取り組みとして、8月から全国7か所で『デジタル社会実現ツアー2025』を展開する」との考えを示した。