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サイボウズ、kintoneをベースに製品を再編する新プロジェクト「サイボウズNEXT」を始動へ
2023年5月17日 06:15
サイボウズの青野慶久社長は、新たなプロジェクトとして「サイボウズNEXT」を始動させることを明らかにした。業務システム構築プラットフォーム「kintone」をベースに、中小企業向けグループウェア「サイボウズ Office」、中堅・大規模組織向けグループウェア「Garoon」、メール共有システム「Mailwise」を、今後数年をかけてシームレスに結合および統合していくほか、パートナーが周辺サービスを提供するインフラづくりも進める。
2023年11月に開催する予定の年次イベント「Cybozu Days 2023」において、「サイボウズNEXT」の概要を明らかにすることになりそうだ。また2023年中には、サイボウズNEXTによる具体的な製品を投入することになる。
青野社長は、「サイボウズNEXTは、まだ決まっていないことが多い」としながらも、「自社製品のなかでもサイロ化が生まれており、データが同期できていなかったり、それぞれにデータ検索を行わなくてはならなかったり、ユーザーインターフェイスが異なったりといった課題がある。まずは自社の製品を結合し、パートナーの新たなサービスに関しても、サイロ化しないように、統合的に提供できる環境づくりを目指す」とした。
kintoneを中核にそれぞれの製品同士を連携させ、シームレスな利用環境を提案するほか、サイボウズ OfficeやGaroonの機能の一部をプラグインとして、kintone上で提供。それぞれの製品が持つ機能同士の相互連携も行う。
「サイボウズ OfficeやGaroon、Mailwiseは、スケジュールやアドレス帳、ファイル管理などの複数のアプリの集合体であり、それらのアプリをシームレスに連携させることになる。kintoneで構築するには工数がかかる機能などを連携させる考えである。また、Garoonに搭載されている機能のうち、2つの機能だけが欲しいというニーズがあった場合には、それをモジュール化し、kintoneのプラグインとして提供するといったことも検討したい」とした。
ここ数年にわたり、GaroonのAPIが強化されるのに伴い、Garoonとkintoneを組み合わせた導入が増加しており、社内ではこれを「ガルキンセット売り」と表現している。こうした動きもサイボウズNEXTの実現に取り組む理由のひとつになっている。また、リコー版kintoneであるRICOH kintone plusでは、リコーが独自のプラグインを提供しており、通常版にはない機能が追加されている例もある。
さらに、サイボウズNEXTによって構築される仕組みを利用して、サードパーティのアプリケーションや一部機能などとも連携させる考えも示す。「将来的には、サイボウズのマーケットプレイスを構築し、そこでサードパーティーの製品や機能などが流通するといったことも考えたい。パートナー自らが、多様なお客さまに対して、多様な販売を行えるようになり、エコシステムを活性化できる」と述べた。
また、「サイボウズNEXTの取り組みは、社内では草の根的な取り組みを開始している段階で、少しずつ成果が出てきている。この成果をもとに、数年後のビックピクチャーを描き、ロードマップづくりも進めたい」と述べた。
その一方で、kintoneをベースに開発された他社アプリとの連携も強化する考えも示す。
kintoneが持つ機能をSaaSベンダーに提供したり、kintoneで開発されたアプリケーションを、構築する予定のマーケットプレイスで提供したりすることも検討する。
「現在数多くのSaaSが存在するが、損益分岐点に到達せず、今後の開発継続が難しいといったものもある。その際にも、kintone上で開発・運用を継続してもらうことが可能になる。kintoneで開発したということを前面に打ち出さなくても提案できる環境をつくりたい」と語った。
ここでは、マイクロソフトやセールスフォースなどの大手SaaS企業とは一線を画し、競合する立場になることも強調した。
また、青野社長は、「SaaSのサイロ化問題の解決に挑戦したい。さまざまなSaaSを導入した結果、データや情報、コミュニケーションがチームごとに分断されており、組織横断の情報共有ができていない。そのため、現場の力を生かせないという状況が生まれている」と指摘。「kintoneを一枚の風呂敷のようなプラットフォームとし、ほかのプラットフォームからデータを集めてきて、この上で完結できるような流れを作りたい。サイロ化の逆のソリューションを提案したい」とも語った。
なお青野社長は、「kintoneにおいて、サイボウズらしいチャット機能を搭載したいと考えている。TeamsやSlackのようなものを提供するつもりはない」とも述べた。
また生成AIに動向については、「将来的には、kintoneにとっては脅威になりうることもある。だが、短期的にはメリットもある。パートナーのなかには、kintoneのカスタマイズにおいて、Java Scriptを書かなくてはならない場合に、生成AIを活用するといった例があったり、kintoneのなかに蓄積された1年分の議事録を要約する際にも活用する例があったりする。kintoneには、数多くのAPIがあり、これを活用し、エコシステムと連携しながら、生成AIのユースケースを模索していく」と語った。
グローバル展開の強化を図る
このほか、グローバル展開の強化についても言及した。
青野社長は、「私は、もともとはソフトウェアエンジニアであり、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズにあこがれがある。自分たちで作ったものを世界中で使ってもらうことを目指している。自分のなかでは、売上や利益、規模以上にこだわりがある部分で、これをやらずには死ねない」と、海外事業に向けた思いを明かしながら、「サイボウズ OfficeやGaroonでは無理だったが、kintoneは違う。エコシステムを構築しながらあらためて世界を目指したいと考えている」と語った。
サイボウズは、2001年に米国市場に進出したものの、2005年に撤退。その後2014年に再度参入し、現在に至っている。だが、「匍匐前進(ほふくぜんしん)が続いている状態」と青野社長が言うように、成長戦略を描けない状況が続き、海外売上規模は5~10億円にとどまっている。
「匍匐前進であっても海外事業を継続した効果はあった。ガートナーのマジッククアドラントのEnterprise Low-Code Application Platformsには、6年連続で位置づけられており、メディアなどにも取り上げられるようになってきた」と、海外市場においても徐々に認知度が高まっていることを示す。
先ごろ発表した2022年度業績では、中華圏では前年比9%増の1300社が導入。東南アジアでは16%増となる1090社が導入。米国では25%増となる850サブドメインに導入した成果を公表。2022年3月にはマレーシアに法人を設立し、アジア本社としての機能を持たせたことも紹介した。
さらに、サイボウズは、2022年4月にリコーとの協業を発表。その一環として、kintoneの米国での販売展開を強化した。2023年4月からは、英語化した米国市場向けの「RICOH kintone plus」を投入している。今後、欧州市場向けにローカライズした製品の開発も進めていくことになるという。これにより、リコーが持つ北米および欧州の顧客基盤を生かした提案活動が加速することになる。
「リコーグループは欧米に顧客を持ち、ブランドがあり、営業体制もある。これまでのサイボウズの海外事業の取り組みとは状況が大きく異なる。いまは、米国市場での販売拡大に向けて、リコーUSAに対して教育支援を開始したところである。kintoneは、戦える製品だと思っている。今後、2~3年で成果につなげたい」と自信をみせた。
また、青野社長は、「海外事業の具体的な売上目標を設定していない」としながらも、「日本発、日本初のグローバルソフトウェア企業になることを目指し、kintoneのグローバル展開を加速させる。何年かかってもやりきる」と意気込みをみせた。
サイボウズ流中小企業経営支援プログラム「サイチャレ」を展開
さらには、組織の変革を支援するメソッド事業を開始していることにも触れた。
サイボウズ流中小企業経営支援プログラム「サイチャレ(Cybozu for Challengers)」では、従業員数50人以下のスタートアップ企業や中小企業を対象に、サイボウズのツールとメソッドを提供。業務システムの内製化と、グループウェアを活用した社内のチームワーク醸成を支援するという。参加費用は年間5万円(税別)。
プログラムでは、kintoneライセンスの無償提供や、サイボウズのチームワーク総研によるチームワーク研修、サイボウズのパートナーによる伴走支援、サイボウズのメンバーも加わった非公開コミュニティへの参加が可能になる。
「これまではスタートアップ支援の具体的なプログラムがなかったが、サイボウズらしい支援策を提供したいと考えた。他社が提供しているスタートアップ企業支援の多くはライセンスの無償提供などにとどまっているが、サイチャレでは、使いこなせるところまでを支援することに力を注ぐ。プログラム参加企業が、1年間で成果を上げられることを目指す」と述べた。
現在、14社から応募があり、今後、審査を行うことになる。毎年、参加企業を募集していく予定だ。