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マイクロソフトや佐賀市などが開設している「MAIC SAGA」がリニューアル、「未来技術を体験できる場」などを提供

パナソニック コネクトの樋口泰行社長が来場

 日本マイクロソフトや佐賀市などは、佐賀県佐賀市の「マイクロソフトAI&イノベーションセンター(MAIC) SAGA」をリニューアルし、4月26日、それを記念したセレモニーを現地で開催した。

 今回のリニューアルでは、新たにパナソニックコネクトの顔認証クラウドサービス「KPASクラウド」を導入。それにあわせて、パナソニック コネクトの樋口泰行社長・CEOが来場してあいさつした。MAICが2016年10月に開設された当時は、日本マイクロソフトの会長として開設に携わった経緯などに触れながら、「今回はパナソニック コネクトの立場で、顔認証システムで技術協力をさせてもらった」などと述べたほか、「マイクロソフトAI&イノベーションセンターSAGAを通じて、新たなテクノロジーに触れて、刺激を受けて、新たなことが生み出されることを期待している。そこに、微力ではあるが、少しでも貢献できることを光栄に思う。佐賀の皆さんが発展することを期待している」と語った。

パナソニック コネクトの樋口泰行社長・CEO

 MAICは、日本マイクロソフトと佐賀市、佐賀県、佐賀大学、佐賀電算センター、EWMグループ、キャリアバンクの7者の連携によって運営されているもので、ICTスキルやリテラシーを高めるためのセミナー、トレーニングなどを提供。スクール形式で63席の規模で各種講座が実施できるセミナールームや、仕事や勉強などのために個人で利用できるコワーキングスペース、佐賀県への進出の際のビジネス拠点として活用できるシェアオフィスも併設している。また、Microsoft Azureを活用したDXを促進するための拠点として、日本マイクロソフトが全国展開しているMicrosoft Baseの「Microsoft Base Saga」としての役割も担っている。

 今回のリニューアルでは、「未来技術を体験できる場」、「ニューノーマル型次世代オフィス空間」をコンセプトに整備を行った。具体的には、コワーキングスペース内の人気スペースである個室などを、顔認証システムを用いて事前予約したり、本人確認を行ったりできるようにしたほか、デジタルサイネージと連動したハプティクス(非接触)体験や、HoloLens 2を用いたXR体験ができる空間へと進化させた。

ハプティクス体験
XR体験

 佐賀市の坂井英隆市長は、「MAICは、テクノロジーで課題を解決するIT人材の育成の場である。開設以来、佐賀市内へのIT企業誘致数は18社に達しており、これも、MAICへの期待が大きかったことの表れだといえる」と発言。「今回のリニューアルでは、(新型)コロナ(ウイルス)感染症を踏まえたニューノーマル型次オフィス空間、そして、未来技術活用の場としてバージョンアップした」と述べた。

佐賀市の坂井英隆市長

 コワーキングスペースでは、レイアウトを見直すとともに、やぐらを設置し、その部分にIoTデバイスなどのさまざまな機器を取り付けられるようにしたほか、閉め切っていたテラスを開放。テーブルと椅子を置いて、仕事などに利用できるようにした。「スペースをより有効に活用でき、人が集いやすい環境を整えた。新たな佐賀市を語ってもらう場にもしてほしい」(坂井市長)とする。

 また、今回のリニューアルを前に、壁には抗菌加工を施した木材を使用し、コロナ対策とともに、落ち着いた雰囲気に変更したという。

レイアウト見直し&やぐら設置
テラス開放
壁面木質化

 コワーキングスペースの個室の利用においては、パナソニック コネクトの顔認証クラウドサービス「KPASクラウド」を用いて、本人認証を行った事前予約や入退室管理も可能にしている。システムは、KPASクラウドのAPI Proをベースに開発しており、利用者は事前に顔を登録しておき、それによって予約などが行える。マスクをしていても認証することが可能だ。個室スペースに入室し、設置されているディスプレイで顔認証を行うと利用時間が表示され、退室時間になったらディスプレイ上のボタンを押して利用を終了できる。

 坂井市長は、「顔だけで簡単に誰でも利用でき、安心、安全な新しいユーザー体験ができる。佐賀市内の事業者のほか、市外や県外からの出張者にも利用してほしい」とした。

 また、コワーキングスペースの混雑状況を、机に設置した人感センサーを用いて判断し、そのデータをWebページで公開。利用前に、スマートフォンやPCで混雑状況を確認できるようにしている。

施設の混雑状況を表示している

 さらに、非接触で動かせるサイネージを新設したほか、マイクロソフトのHoloLens 2を常設して、佐賀市の代名詞となっているバルーンに関するコンテンツなどを体験できる。また、これらの最新技術を活用して、新たな事業や未来の佐賀市について語り合う場を、不定期で開催する予定だという。

 「2021年5月に、『佐賀市街なか未来技術活用モデルプラン』を策定。そのなかで定めた『SAGAスマート街なかプロジェクト』の考え方を踏まえて、未来技術を体験できる場、実証できる場、情報発信の場として整備をした。今後の普及が期待される顔認証技術を体験してもらえるほか、コロナ禍で注目が集まる非接触センサーも体験でき、まるでハンドパワーのような形で操作ができる。HoloLens 2では、現実社会と融合した近未来を誰もが体験できるようにしている。企業や学生には、体験するだけでなく、さまざまなシーンで活用し、新たなコンテンツや製品を生み出し、日本全国や世界に向けて発信し、羽ばたいてほしい」と述べた。

KPASクラウドの肝となる、パナソニックのバイオメトリクス技術

 MAICに新たに導入したパナソニックのKPASクラウドの肝となるのが、同社の顔認証技術である。パナソニックグループの顔認証技術は、ディープラーニング(深層学習)を応用した世界最高水準の精度を持つもので、顔の向きや経年変化、メガネおよびマスクなどにも影響されにくいのが特徴だ。

 パナソニック コネクト 現場ソリューションカンパニー現場センシング事業本部の新妻孝文本部長は、「生体認証技術は約30年前から研究してきたが、社会実装されてきたのはこの5年ほどである」と前置き。

 「空港では顔認証を利用した自動化ゲートが導入され、人の滞留がなくなったり、職員の作業効率も高まったりしているし、富士急ハイランドでは、すべての来場者の入場管理を顔認証で実施している。入場料は無料だが、利用したアトラクションについて課金するという仕組みに移行し、ビジネスモデルまで変更。入場者数を大幅に増やすことに成功した。企業やシェアオフィスでの顔認証技術の導入事例も増えている」と述べた。

 パナソニックグループの顔認証技術は、国内外7空港で209システムを導入しているほか、店舗でのキャッシュレス決済、オフィスでのICカードレス入退室などにも活用されており、1日10万回以上の顔認証が行われているという。

パナソニックのバイオメトリクス技術

 また、長野県では無料循環EVバスの運用に顔認証技術を採用。高齢者が自家用車に頼らない交通手段として利用したり、行動記録も取ることで住民サービスにも生かしたりする、といった実証実験を開始している。

 富士山エリアの広域観光MaaSでは、富士急行およびナビタイムとの連携で、顔認証技術やお勧め情報を活用して、観光施設や駅、バス、売店などを連動。従来は平均1.3カ所だった訪問場所を、平均3.4カ所にまで増やすことができたという。

 さらに、千葉県の山万ユーカリが丘では、住民を対象にした鉄道やバスの顔認証による乗車を実現するといった例もある。「顔認証技術を活用することでの地域貢献が可能になる」とした。

長野県での無料循環EVバスの事例
富士山エリアの広域観光MaaSの事例
山万ユーカリが丘の事例

 現在、顔認証パートナープログラムには80社以上が加盟。約20社が顔認証技術を利用した商用サービスをリリースしているという。

 新妻本部長は、「今後、顔認証技術は、さまざまな場所での実装が進んでいくことになるだろうが、すべての場面や、すべての人に受け入れられるものではない。スマホを使ったモバイルIDと顔認証がそれぞれに最適な場所で使われたり、より重要な場面では両方の認証が同時に使われたり、といったことが起こるだろう。ハイブリッドIDの世界が到来すると考えている」とした。

ハイブリッドID

 一方、パナソニック コネクトの樋口社長は、「2022年4月1日から、パナソニックグループが事業会社制へと移行したのに伴い、パソナニック コネクトが発足した。法人や公共分野のお客さまにソリューションを提供している会社であり、特に現場のプロセスをイノベートすることにフォーカスを当てている。これは、パナソニックグループのモノづくりの100年の歴史、ノウハウ、DNAをもとに、現場のお役立ちに貢献するものであり、同時に、デジタルも、AIも、クラウドも活用していく。研究室や工場にこもって、新たなモノを作っていくことが多かったが、いまは世界の景色を見ながら、さまざまな人と交じりあって、情報を得ながら、ソリューションを作っていくことが重要になっている。さまざまな現場手で技術をチューンアップしている。顔認証も世界で最も認証件数の数が多い技術である」などと述べた。

 今回のMAICへの顔認証技術を導入により、事業者や学生などが実際に活用するシーンが増えることで、さまざまな分野への応用やアイデアの創出につながることを期待している。

左から、パナソニック コネクト 現場ソリューションカンパニー現場センシング事業本部の新妻孝文本部長、佐賀市の坂井英隆市長、パナソニック コネクトの樋口泰行社長・CEO