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「Excelの集計屋」から「経営の参謀」へ――データとAIで変える管理会計の未来【前編】

“攻めの管理会計”をアウトプットから始めるべき理由

 「この商品の在庫効率、SKU(品目単位)別で出して」――。

 社長のひと言を受けた経営企画の担当者は、まずAシステムからCSVを引っ張り、次にBシステムからPDFを開き、Excelの上で手作業のつなぎ合わせを始める。レポートが仕上がる頃には1週間が過ぎていて、その数字はもう「先週の話」になっている――。

 管理会計の現場で日々くり返されるこの光景を、我々はバックミラーだけで車を走らせている状態だと感じている。過去の数字を正確に足し上げることで手一杯になり、肝心の「これからどうするか」に手が回らない。

 “Excelの集計屋”から、データとAIで事業部と渡り合える参謀へ。管理会計はどこから変えていけばいいのか。企業の経営管理を支援してきた現場の経験をもとに、前後編でお伝えしたい。

バックミラーだけで運転していないか――管理会計が変わるべき理由

 ある化粧品会社での話だ。新商品を出したばかりの時期、経営陣が知りたいのは「新商品と既存商品、それぞれ売上はどう動いているか」。既存商品はある程度読みが立つが、新商品は振れ幅が大きい。ところが財務会計上の売上高は、勘定科目の区分はあっても、経営が知りたい粒度では分かれていない。新旧を分けて追いかけるには、社内で独自の数字を組み立てるしかない。

 これが「管理会計」だ。会社法で最低限の項目やフォーマットが定められた財務会計に対して、管理会計は経営の意思決定のために各社がカスタマイズする数字を指す。経営のコックピットに並ぶ計器であり、業界や事業モデルによって見るべき項目はまったく異なる。

 ところが現場では、多くの企業が「過去の振り返り」で手一杯になっている。月次の実績を集計し、予算との差異を分析し、報告書にまとめる。そこまでは回るのだが、その先に進めない。1カ月前のデータをもとに下される判断は、すでに賞味期限が切れていることが少なくない。管理会計は本来、経営者が自社の状況を的確に把握し、未来の意思決定に役立てるための指標なのに、実態は「とにかく頑張れ」で終わってしまう。

 なぜ「振り返り」の先に進めないのか。その最大の原因が、Excelへの依存だ。

なぜExcelから抜け出せないのか

 みんなExcelが好きだ。コーディングはいらないし、セルに数字を入れれば計算してくれるし、見た目もなんとなくレポートっぽく仕上がる。ダッシュボードや分析基盤に投資しようにも投資対効果が見えにくいから、「Excelでいいよね」がずっと続く。

 ただ、回っているように見えているだけで、実際にはかなり無理をしている。典型的なのが、人間が「システムの継ぎ目」になっている問題だ。AシステムのCSVとBシステムのPDFを人がExcel上でつなぎ合わせて、ようやくレポートが完成する。SSOT(Single Source of Truth=信頼できる唯一の情報源)が存在しないから、同じ数字のはずなのに作った人によって結果が違う。Aさんの集計とBさんのレポートで数字が食い違い、経営会議がその原因究明だけで終わる――よくある話だ。

 現場の苦労は尽きない。「最終版」の後に「本当の最終版」が生まれるバージョン迷子、VLOOKUPが表記揺れでヒットしない名寄せ地獄、数万行の数式と10年前のVBAマクロが組み合わさった「モンスター・エクセル」。しかもマクロを組んだ担当者はすでに退職していて、中身がわかる人が社内に誰もいない。

 技術的な問題に加えて、意識の問題も根深い。経営が求めているのは「8割の精度で今すぐ出る予測」なのに、担当者は「1円のズレも許されない実績」を追いかけてしまう。チェック作業にエネルギーを注ぎ込むあまり、「この数字は何を意味するのか」を考える余力が残らない。集計すること自体が仕事になり、分析や提案のスキルが育たない構造ができあがっている。

 こうした構造のしわ寄せは、経営層の側にも届いている。

経営層が本当に求めているもの

 経営層はレポートの中身に不満があるかというと、実はそうでもない。数字はちゃんと出てくる。問題は、持ち帰ってExcelにまとめている時点で時間のロスが発生していることだ。聞いたその場で数字が出てくるのがベストで、1週間遅れたらビジネスの状況はかなり変わる。

 経営層が感じている物足りなさを整理すると、4つに集約される。80%の精度で今日出る情報より100%の精度で来週届く情報を優先してしまう「正確さという名の遅さ」。売上が予算比10%減です、で終わり、なぜ減ったのか、どうすれば戻せるのかに踏み込まない「結果の報告どまり」。着地見込みを1パターン作るだけで力尽きる「プランBの不在」。そしてPL(損益計算書)の数字とWebの流入経路やチャネル別広告効率といった事業KPIがつながっていない「経営数値と現場の断絶」だ。

 例えば、事業部が「来期5億円の売上を目指す、広告費2億円でSNSに1億円、Google広告に1億円」と持ってきたとする。経営企画が過去データをもとに「この売上規模ならGoogle広告1.5億円だけで達成できた実績がある」と返せたら、事業部との間にまともな議論が生まれる。集計屋ではなく、データで事業部と渡り合える参謀。管理会計に携わる人間が目指すべき姿はそこだろう。

 では、この「参謀」になるためにまず何をすべきか。それはツールの導入ではない。データ活用基盤の設計だ。

「アウトプットから逆算する」――データ活用の鉄則

 データ活用基盤を作ると聞くと、まずデータを集めたくなる。手当たり次第にかき集めて、何か見えてこないかと期待する。だが我々の経験上、このやり方はほぼ確実につまずく。

 では、どうするべきか。

 データ活用の仕組みはInput(データの収集)→Process(加工・変換)→Output(活用・可視化)のフレームで考えるのが基本だが、最初に手をつけるべきはOutputだ。「どんな意思決定をしたいのか」を先に決め、そこから逆算してInputとProcessを設計する。

 実際にやると3箇所でつまずく。まずOutput設計そのものが難しい。会議で使っている指標を棚卸しすると「なんとなく見ている」だけの数字が意外と多く、何が本当に経営判断に使われているかを見極める必要がある。

 次にInputの探索。我々は社内で「ドラクエ」と呼んでいるが、必要なデータを誰がどこに持っているのを探し回る作業が地味に大変だ。データ提供元のExcelは毎年フォーマットが変わっていたりする。そしてProcessの「闇」。途中で担当者が独自の補正をかけていて、しかもその担当者がすでに退職している、というケースにもよく遭遇する。

 もう一つの急所がマスタの整備だ。マスタとは、顧客名や商品コードなど、各システムが共通して参照すべき基本情報のことで、これがシステムごとにバラバラだと集計のたびにズレが生じる。

 このマスタ整備の過程において、押さえるべき軸は4つある。まず「一意性」だ。1つの顧客に1つのコードが原則で、同じ顧客が「001:A社」と「999:(株)A」で重複しているような状態をつぶしていく。

 次に「階層構造」。商品→カテゴリー→事業部のように、大きな単位から小さな単位へドリルダウンできる構造を持たせないと、分析の切り口が限られてしまう。

 3つめが「粒度の統一」だ。ある部署は製品別、別の部署はプロジェクト単位で管理しているというズレを解消し、全社共通の最小単位を決める。

 最後に「有効期間の管理」。組織変更や商品の廃止があったとき、「いつからいつまで有効なデータか」を持たせておかないと、過去の推移を現在の組織図でしか追えなくなる。

 これらをデータスチュワード――マスタの定義や入力ルールに責任を持つ管理者――を立てて維持する。カテゴリーの定義がブレた時点で、そこから先はすべて汚染されるため、非常に重要な役割を担うことになる。

 しかし、こうやってデータ活用基盤とマスタが整ったとして、次に待っているのが「作ったはいいが使われない」という壁だ。

ダッシュボードを誰も見ない理由

 せっかくダッシュボードを作ったのに誰も見ていない――これは本当によく聞く。経営層は相変わらず「今期の着地、どれぐらい?」と口頭で聞いてくる。

 見ない理由は3つだ。「これを見て何を決めるか」という問いがないこと。ダッシュボードの数字と手元のExcelがズレていて信頼がないこと。そして更新頻度が低く鮮度がないことである。

 定着のカギは、設計の思想を「報告」から「行動」に変えることだ。意思決定に必要なデータだけを置く「逆算設計」。ある支援先では、PowerPointの報告資料をやめてダッシュボードをプロジェクターに映し、会議の中核にするという判断をしてくれた。全員が同じソースを見ながらフィルターを切り替えて議論する運用に変わると、認識のズレが起きにくくなる。さらに、しきい値を超えたらSlackやTeamsにアラートを飛ばす「プッシュ型配信」で、見に行くものから教えてくれるものへ変える導線も有効だ。

 管理会計の高度化というと、AIや生成AIの話から入りたくなる。だが足元の基盤――アウトプットから逆算した設計、マスタの整備、ダッシュボードの定着――がなければ、どんなツールを載せても使いこなせない。

 逆に言えば、この基盤さえ整えば集計に追われていた時間が浮き、数字の意味を考え、事業部に問いを投げ返す余裕が生まれる。「集計屋」を脱する第一歩は、ここにある。

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 後編では、この基盤の上にAI予測や生成AIをどう載せるかを扱う。統計モデルと生成AIの使い分け、RAG(社内データを検索してからAIに回答させる仕組み)を活用したナラティブ生成、そしてリソース配分の最適化まで。管理会計が「参謀」として機能するための実装と、陥りやすい落とし穴を見ていきたい。

竹野 雄尋/株式会社ブレインパッド
アナリティクスコンサルティングユニット
シニアマネジャー

外資系コンサルティング企業、AIベンチャー企業にてデータ活用による新規事業開発に従事後、ブレインパッドに入社。現在は、小売、消費財、エンタメ業界クライアント向けに消費者データを活用するプロジェクトを推進。

当該業界における、将来を見据えたデータ活用組織立ち上げ、ビジネスアナリティクス高度化、マーケティング分析などのコンサルティングにより、企業のデータ活用の高度化を支援している。
三谷 貴志/株式会社ブレインパッド
アナリティクスコンサルティングユニット
マネジャー

欧州原子核研究機構(CERN)にて素粒子物理学の研究・データ解析に従事後、ブレインパッドに入社。現在は、広告領域やグローバル事業など、多様なクライアント向けにビッグデータを活用するプロジェクトを推進。

ビジネスアナリティクス支援、データ基盤・ダッシュボード構築、自然言語処理・LLMの技術開発まで幅広く手掛け、企業のデータ活用の高度化を支援している。