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Google Cloudがスタートアップ向け支援策をリニューアル、“卒業生”2社による事例紹介も

 グーグル・クラウド・ジャパン合同会社は13日、Google Cloudのスタートアップ企業向け支援に関する記者説明会を開催。日本におけるスタートアップ支援の内容を紹介した。

 また支援プログラムの卒業生として、人工衛星データを扱う株式会社Synspectiveと、ヘルステックのUbie株式会社が、スタートアップ支援を受けた経験について語った。

2年目のGoogle Cloud利用クレジットを拡大

 まず、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 SMB事業本部長の長谷川一平氏が、日本におけるスタートアップ支援について紹介した。

グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 SMB事業本部長 長谷川一平氏

 長谷川氏は、Googleがスタートアップを支援する理由として、Googleがもとともとスタートアップとして始まったことを挙げ、次の世代のスタートアップが成長するための手伝いをすると説明した。

 Google Cloudでは2014年からスタートアップを支援してきて、累計610社、支給したGoogle Cloud利用クレジットは総額1740万ドルにのぼる。「今年は半年間で昨年の実績を超える数のスタートアップ企業が支援を受けている」と長谷川氏は言う。

 特に今年のGoogle for Startupsクラウドプログラムでは、昨年までよりさらに初期段階(アーリーフェーズ)のスタートアップへのサポートを拡大したと、長谷川氏は語った。ここでいう初期段階とは、株式投資を受けている企業を指す。

 そして、まだ株式投資を受けていないスタートアップ企業に対しても、今年から新しいプログラムを用意したと長谷川氏は説明した。ここでは、2000ドルのGoogle Cloud利用クレジットや、スタートアップ担当によるオンライン相談、エンジニアによるテクニカルセッションなどの支援を提供するという。

Google Cloudのスタートアップ支援
初期段階のスタートアップに対する支援

 ここから長谷川氏は、Google for Startupsクラウドプログラムの支援内容を紹介した。支援は、資金面、技術面、ビジネス面の3つの軸からなる。

 資金面で今年大きく変わったのが、2年目におけるGoogle Cloud利用クレジットの提供だ。1年目は以前から、Google CloudまたはFirebaseの利用料の100%をカバーし、上限が10万ドルだった。今年からは2年目のクレジットが変わり、Google CloudまたはFirebaseの利用料の20%をカバーし、上限が10万ドルとなった。

 技術面では、これからGoogle Cloudを使う企業や、これから規模を拡大するところのために、技術的サポートを用意する。主なものとしては、オンライン相談やエンジニアによる1対1のガイダンス、技術トレーニングサイトなどがある。

 ビジネス面ではGoogleのユーザーグループ「Japan Google Cloud Usergroup for Enterprise(Jagu'e'r)」の中で、スタートアップ分科会を開始したことを長谷川氏は紹介した。スタートアップ企業のコミュニティといえるおので、Google for Startupなどとの共同プログラムや、Googleの複数部門との共催イベントなど、さまざまな取り組みをしていくという。

Google for Startupsクラウドプログラム
資金面の支援
技術面の支援
ビジネス面の支援

 最後に長谷川氏は、スタートアップ支援プログラムの卒業生として、株式会社SynspectiveとUbie株式会社を紹介して、話をバトンタッチした。

スタートアップ支援プログラムの卒業生:株式会社SynspectiveとUbie株式会社

人工衛星データの株式会社Synspectiveの事例

 株式会社Synspectiveは、人工衛星を打ち上げてデータやそこからのソリューションを提供する会社だ。同社によるGoogle Cloudのスタートアッププログラム体験について、今泉友之氏(執行役員 データプロダクション部 ゼネラルマネージャー)が語った。

株式会社Synspective 執行役員 データプロダクション部 ゼネラルマネージャー 今泉友之氏

SAR衛星による地表データやソリューションを提供

 Synspectiveは、SAR(Synthetic Aperture Radar、合成開口レーダー)衛星を打ち上げてデータを取り、提供する会社だ。SyntheticのSAR衛星は従来の大型SAR衛星の1/10の100kg級で、コスト面では約1/20を実現しているという。

 2020年12月に最初の衛星を、2022年2月に2号機を打ち上げた。ロードマップとしては、2023年には6機、2030年には30機までに増やし、世界中を2時間ごとに観測できるようにする計画だ。

 SAR衛星は、自らマイクロ波を照射して地表を観測するもの。それにより、光学衛星とは異なり雲の下や夜でも観測でき、雨季が長く雲に覆われることが多いアジアで需要が高まっているという。

SyntheticのSAR衛星
Syntheticのロードマップ
SARの特徴

 Syntheticのサービスは2種類ある。まずはSAR衛星のデータを、そのデータのわかる会社に提供するデータサービスだ。今泉氏はデータの例として、シリア沖の原油流出や、東京近郊、羽田空港、富士山の画像を見せた。

 これらは光学衛星の画像と違ってそのままでは理解が難しい。そこで、ほかのデータとあわせてデータを解析するソリューションサービスがもう1つのサービスとなっている。

 今泉氏は、ソリューションサービスの2つの代表的な例として、「地盤変動モニタリング(Land Displacement Monitoring)」と「浸水被害モニタリング(Flood Damage Assessment)」を紹介した。

データサービス
シリア沖の原油流出の画像
東京近郊の画像
羽田空港の画像
富士山の画像
ソリューションサービス
ソリューションサービスの代表的な例

Google Cloudとともに衛星リモートセンシング法に対応

 SynspectiveがGoogle Cloudを採用し、スタートアップ支援を受けた背景としては、データサイズが大きく処理にも計算機リソースが必要となること、データが日々蓄積されるのでストレージの拡張性が必要なこと、アンテナが世界中にあるので世界中に分散したシステムが必要なこと、の3つを今泉氏は挙げた。

 そのため、当初からクラウドを想定し、さらに拡張性のためにKubernetesを想定していたという。そのうえで、機械学習サービスや、スタートアップサポート、Google Earth EngineやGoogle Maps Platformといった地理空間情報、BigQueryなどの特徴から、Google Cloudを選んだ。

 現在は、いろいろGoogle Cloudのサービスを組み合わせて構成。「さまざまなサービスがあり、開発で助かった」と今泉氏はコメントした。

Google Cloudの選定理由
構成

 Google Cloudとのエピソードとしては、衛星リモートセンシング法への対応について今泉氏は語った。人工衛星によって得られる高解像度の画像データがテロ行為や犯罪などに悪用されないように制限する法律だ。

 Synspectiveが許可のための調整を始めた2018年にはパブリッククラウドを使った先行事例がなかった。そのため、Google Cloudの担当者をまじえ、データの取り扱いが安全であることを、ハードとソフト両面でエビデンスをひもづけて説明したという。その結果、Google Cloudを利用した始めての「衛星リモートセンシング装置の仕様に係る許可」を取得した。

 最後に、今後のGoogle Cloudとのリレーションシップとして、Google Cloud Partner AdvantageのBuildモデルにて世界に向けて展開したいと今泉氏は語った。

衛星リモートセンシング法への対応のエピソード
今後のGoogle Cloudとのリレーションシップ

ヘルステックのUbie株式会社の事例

 Ubie(ユビー)株式会社は、医師とエンジニアが共同創業した、医療AIスタートアップ企業だ。同社のGoogle Cloud採用とスタートアップ支援への参加について、坂田純氏(Head of Platform Engineering)が語った。

Ubie株式会社 Head of Platform Engineering 坂田純氏

AIによる症状検索エンジンなどを開発

 Ubieは、「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」という目標を掲げている。プロダクトは2つ。B2C型では、一般生活者が自身で症状や病気を調べられる症状検索エンジン「ユビー」を提供する。またB2B型では、医療機関の診療場面で紙のかわりにタブレットを使って業務効率を改善する「ユビーAI問診」を提供する。

 同社では、最初のプロタクトとして「ユビーAI問診」をローンチし、いくつかのクライアントを獲得した後にGoogle Cloudに移行した。

 Google Cloudを選定した理由として、データ中心のプロダクト開発で先行してBigQueryを使っていたこと、GoogleのAI/MLプロダクトを活用して早くプロダクト開発ができると考えたこと、日本だけでなくグローバルへの事業展開を見据えていたことを、坂田氏は挙げた。

 なお、クラウド選定時にはスタートアッププログラムを知らなかったが、後から知って申し込んだという。

Ubieのプロダクト
Google Cloudの選定理由

Google Cloudの支援のもと行政ガイドラインに対応

 スタートアッププログラムによって受けた支援として、「クラウドクレジットによるコストのカバー」「行政ガイドライン対応の支援」「テクニカルサポート」の3つを坂田氏は挙げた。

 クラウドクレジットによるコストのカバーとしては、プロダクトのインフラコストに大きく予算をかけられない一方で、プロダクト改善のために中長期的な技術投資をしていく必要があると説明。Google Cloudを利用するクラウドクレジットの提供により、最初の1~2年を、クラウドコストを気にせずできたと坂田氏は語った。

 行政ガイドライン対応の支援としては、医療機関にサービスを提供するための3省2ガイドラインと呼ばれる行政ガイドラインに準拠する必要があった。当時は公式にGoogle Cloudがサポートしているというアナウンスはなかったが、協議して問題ないことを確認。その後、正式にサポートが発表されたという。

 テクニカルサポートとしては、アーキテクチャ選定の相談やレビュー、トラブルシューティング、製品へのフィードバックなどの支援を受けているという。

 こうしたGoogle Cloudへの移行は、当時まだシステムの規模が小さかったため、うまくいった。最初は、ほぼそのままの構成で引っ越し、その後にクラウドに最適化していく動きを継続的にしているという。

受けた支援:クラウドクレジットによるコストのカバー
受けた支援:行政ガイドライン対応の支援
受けた支援:テクニカルサポート

ユビーは月間500万人利用に、医師会との連携やグローバル展開も

 支援の結果として、坂田氏はUbieのビジネスの拡大を紹介した。

 まず、東京都医師会や地方医師会と連携しており、新型コロナでも発熱外来検索機能などをリリースした。また、広島県三原市と連携して住民とかりつけ医とのつながり強化を支援している。

 「ユビー」はどんどんユーザーが増えて、月間500万人が利用するまでに成長した。

 さらに、シンガポール法人設立や、「ユビー」のアメリカ版のローンチなど、グローバルに進出している。

 最後に坂田氏はまとめとして、Google Colodのスタートアッププログラムにより、クラウドクレジットやテクニカルサポートを得られ、プログラム終了後も引き続き一貫したサポートが受けられ、小さいスタートアップから大きなエンタープライズまで柔軟なシステム構築が可能であると語った。

東京都医師会や地方医師会との連携
ユピーの利用ユーザー数が月間500万人に
グローバル進出