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パナソニック、JVCケンウッド、WiLの3社、“エッジAI”企業「Vieureka株式会社」を設立

パナソニックのエッジAIカメラ事業を独立

 エッジAIを活用した事業を行うVieureka(ビューレカ)株式会社が設立され、2022年7月1日から営業を開始する。同社では、エッジAIを活用したソリューションの開発支援・管理・アップデートを行うプラットフォームの提供、およびソリューションの提供を行う。

 2年間で事業の足場固めを行い、その後、グローバルに展開し、2030年度には100億円の事業規模を目指すとした。

 新会社には、パナソニックホールディングスが33%、JVCケンウッドが33%、WiLが32%、新会社の代表取締役に就任する宮﨑秋弘氏が2%を出資する。社員数は19人でスタート。宮崎氏はパナソニックグループを退社して、新会社の経営にあたる。

パナソニックホールディングスなど3社が共同出資

 Vieurekaの宮崎代表取締役は、「これまではパナソニックホールディングスの傘下で、エッジAIプラットフォームの開発・提供を行ってきたが、今後の社会実装の加速や、グローバルでの社会インフラ構築の取り組みを加速するために、共同出資による新会社を設立する。エッジAI市場をリードしてきたパナソニックグループ、ドライブレコーダー市場のリーディングカンパニーであるJVCケンウッド、大企業のオープンイノベーション支援で実績を持つWiL、3社の強みを兼ね備えた大企業発のスタートアップ企業として、軽くて速い経営手法を導入し、人に代わって働くエッジAIの社会実装を目指す」と述べた。

Vieurekaの代表取締役に就任する宮﨑秋弘氏

 Vieurekaは、パナソニックホールディングスの事業開発室が母体となり、2017年6月から事業化。エッジAIカメラの運用数ではナンバーワンのシェアを持つという。

 Vieurekaプラットフォームは、本体でAIによるデータ処理が可能な「Vieurekaカメラ」と、カメラ上で実行されるアプリケーションを遠隔地から管理できるクラウドベースの「マネジメントソフトウェア」、アプリケーションを開発するための「ソフトウェア環境」で構成。共創パートナーとして、ソリューション分野では51社、ハードウェアでは9社、セールスインテグレーションでは5社が参加しており、小売店舗のほか、工場・建設、介護施設などへの導入実績がある。

さまざまな共創パートナーが参加

 例えば、菓子メーカーでは、小売店舗の菓子売り場にVieurekaを導入して、売り場の人数カウントや性別推定、年齢推定、滞留時間の測定を行い、販売機会を定量化して売り場を改善。菓子売り場の売り上げを約10%増加させたという。

 また、トーア紡マテリアルでは、不織布製造工程における表面汚れや異色繊維の自動検知にVieurekaを採用。現場作業員の不良品検知作業を省力化した。

 介護施設を展開するHITOWAケアサービスでは、入居者のプライバシーに配慮した遠隔見守りサービスにVieurekaを活用。約1500床に導入し、夜間巡視業務を77%削減できたとした。

菓子メーカーの事例
トーア紡マテリアルの事例
HITOWAケアサービスの事例

 宮崎代表取締役は「エッジAIの取り組みの多くはPoCの段階にとどまっている。だがVieurekaは、社会実装を前提としたインフラ管理の仕組みに大きな特徴を持つ。ハードウェアやOSなどの提供によって開発のハードルを下げる仕組み、工事やインストールなど導入のハードルを下げる仕組み、監視や不具合対応、システムアップデートによる運用のハードルを下げる仕組みを持っている。スマホのアプリのように、遠隔からアップデートでき、エッジAIを管理できることが、Vieurekaの社会実装を進めることになっている。今後も、エッジAIの社会実装により労働生産性を高め、人の暮らしが豊かになる未来の創造に貢献したい」と述べた。

「エッジAI」を多種多様な現場で社会実装するための、3つの仕組みを持つ

 当面は、B2Bによるビジネスモデルによって事業を拡大していくことになるが、B2B2CやB2Cに向けた事業展開も検討していくことになる。また将来的には、カメラ以外のセンサーを活用したエッジAIの取り組みも想定しているという。

 「保険会社を通じて、ドライブレコーダーをドライバーに提供。シートベルトを着用していることを認識して保険料に反映するといった使い方や、カメラを使わずに通信インフラの基地局にエッジAI機能を実装といった検討も行っている」とした。

 パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCTO コーポレートイノベーション・ベンチャー戦略担当の小川立夫氏は、「2012年からエッジAIの可能性に着目し、10年間に渡ってトライアルをしてきた。技術力の高さにこだわりながら、事業に結びつけるにはどうしたらいいかを検討してきた。プラットフォーム事業は、外に開いてたくさんお客さまに使ってもらう必要がある。パナソニックグループのなかに抱えて、リニアな成長を目指すよりは、外からも評価を得る機会を得て、出資する会社を募って勝負し、T2D3という高い成長につなげる挑戦をしてみたいと考えた。今後もパナソニックグループで培ってきた技術が、いち早く世の中の社会課題の解決につながるような取り組みをしていきたい」と述べた。

 JVCケンウッド 代表取締役 専務執行役員 モビリティ&テレマティクスサービス分野責任者 事業改革担当の野村昌雄氏は、「通信型ドライブレコーダーの新たなサービスに、Vieurekaが持つエッジAIの遠隔マネジメント機能が活用できると考えて、出資をした。3社によるパートナーシップにより、新型ドライブレコーダーを中心にした付加価値サービスを提供したい。信頼性や安定性の実現のほか、プラットフォームを通じた新機能や新サービスの追加も行える。仕組みを広げてWin-Winの関係を構築できることを期待している。また、通信型ドライブレコーダー以外にも、カメラをベースにしたエッジAI機能を活用した製品を事業化してきたい。安心、安全をさらに強いものにできることを確信している」などと述べた。

 WiL, LLC ジェネラルパートナー兼共同創業者の松本真尚氏は、「10年間に渡ってエッジAIの可能性を追求してきた宮崎氏というアントレプレナーと出会えたこと、パナソニックとJVCケンウッドのリソースを活用した大企業発のベンチャー企業を生む仕組みを構築でき、大企業のクローズイノベーションをオープンイノベーションとして展開できることが特徴である。世界に通用するサービスを提供したい」と述べた。

パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCTO コーポレートイノベーション・ベンチャー戦略担当の小川立夫氏
JVCケンウッド 代表取締役 専務執行役員 モビリティ&テレマティクスサービス分野責任者 事業改革担当の野村昌雄氏
WiL, LLC ジェネラルパートナー兼共同創業者の松本真尚氏

 エッジAIの市場規模は、2027年には80億ドル超に成長すると予測されている。

 宮﨑代表取締役は、「日本においては、少子高齢化による人手不足、中小企業における熟練工の技術伝承の課題、新型コロナウイルス感染症をきっかけにした企業の働き方改革などによって、人による対応が必須と考えられている現場の生産性向上が課題となっている。現場の労働生産性向上を目的としたAIの活用が始まっているが、特に期待を集めているのが、エッジAIである」と前置き。

 「すべてのデータをクラウドに送信し、クラウドでAI処理を行う『クラウドAI』に対して、『エッジAI』は、IoT機器やセンサーなどの端末に高性能なエンジンを搭載して、端末がAI処理を行い、必要なデータだけを抽出し、クラウドに送信する。リアルタイムで判断し、その場で指示やアラート発信ができること、個人情報をエッジ端末の外に出さない処理が可能になり、プライバシーの担保ができること、必要なデータを送信するため通信コストを1万分の1にするなど、大幅なコスト削減ができることが特徴である。得時AIによって、交通、店舗、工場、病院などの現場で行っていた人による作業の置き換えが可能になる」と述べた。