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日本マイクロソフトが製造業向け施策を説明、ソニーやリコーなどと共同で行った個別の取り組みも紹介
2022年3月17日 06:15
日本マイクロソフト株式会社は、同社の製造業向け取り組みについて説明する記者説明会を15日に開催した。
その中では、同社による国内製造業向け取り組みのアップデートについて説明したほか、ソニー株式会社、株式会社リコー、コマツ産機株式会社、旭化成株式会社が日本マイクロソフトと共同で行ったDXへの取り組みが紹介された。
ハイタッチ営業の組織を分割してエンタープライズ製造事業本部が発足
マイクロソフトの取り組みについては、日本マイクロソフト株式会社の渡辺宣彦氏(エンタープライズ製造事業本部 執行役員常務 事業本部長)と横井伸好氏(製造営業統括本部 業務執行役員 本部長)が説明した。
渡辺氏はまず、日本マイクロソフトでは、従来は民間のトップ企業へのハイタッチ営業(直接の営業)を産業横断で一体の組織にしていたと説明。これを2021年10月からは2つに分割したと語った。2つのうち1つが、渡辺氏の担当する、製造に分類される顧客をすべて対象にするエンタープライズ製造事業本部だ。
日本マイクロソフトによる支援体制としては、素材・化学から設備、部品、製品までの製造業のバリューチェーン全体とともに、電力・エネルギーの産業もカバーし、一貫した営業・サポート組織体制を整えると渡辺氏は語った。
製造業のDX支援のアプローチとしては、「デジタルフィードバックループ構築支援」「新しい製品・サービスのアジャイル開発支援」「従業員のデジタル武装 DXスキル獲得支援」の3つの柱を掲げ、ビジネス構築やスキルアップから支援するという。
横井氏は、日本マイクロソフトが製造業に届けられる価値として「DXの知見がたまってきている」「テクノロジーを持っている」「マイクロソフト自身がDXに取り組んでいて、Xboxなど製造業でもある」の3つを挙げた
また横井氏は、日本マイクロソフト顧客と話しているシナリオとして、業務シナリオとしては「従業員の働き方改革」「新しい方法でお客様とつながる」「アジャイル工場の構築」「レジリエント・サプライチェーンの構築」「イノベーションの加速新しいサービス」の5つを挙げた。さらに全体にかかるものとして、「サステナビリティの実現」「セキュリティの合理化・強化」「データとインテリジェンスの開放」を掲げた。
ソニー:LinkBudsによる現場のコミュニケーションを共同開発
ソニーからは、穴のあいた完全ワイヤレスイヤホン「LinkBuds」を使った“目と手をふさがないコミュニケーション”でのマイクロソフトとの協業を紹介した。
伊藤博史氏(ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 モバイルプロダクト事業部 モバイル商品企画部 部長)、尾原昌輝氏(ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 モバイルプロダクト事業部 モバイル商品企画部)、川上高氏(ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 HESソフトウェアセンター ソフトウェア技術第2部門 開発3部 統括部長)が説明した。
マイクロソフトとの協業としては、LinkBudsと、マイクロソフトの3Dオーディオ技術Microsoft Soundscapeを組み合わせた、「頭の向きを認識した立体音響ナビゲーション」がある。
その次のプロジェクトが、医療現場など現場作業に向けた「LinkBuds×ACS:目と手をふさがないコミュニケーション」だ。LinkBudsにより、外音を遮らずに、耳の周辺をタップすることでスタッフ間の連絡などのコミュニケーションを開始したり、スマートフォンアプリを利用したりできるようにする。Azure Communication ServiceとChatbotを用いる。
4月から実際に病院などにおいて実証実験を開始する予定。さらに病院での実証実験のあと、建築現場や製造現場、対面サービスなどの現場にも幅広く展開していく予定だという。
共同開発においては、マイクロソフトの協力のもとスクラム開発手法を実践した。両社から4カ国(日本、インド、台湾、中国)のエンジニアが参画し、その実行管理にはAzure DevOpsを活用したという。
両社で開発する価値として伊藤氏は、「ソニーのハードウェアの強みとマイクロソフトのクラウドの強みを生かしたコミュニケーションサービスを実現」「双方のエンジニアリングの知見を共有してスピーディーな開発ができた」「共同のスクラム開発の経験を今後社内で展開していける」の3点を挙げた。
リコー:社内でも製造でもデータを利活用
リコーからは、社内の働き方改革と、データ活用のためのデータ基盤構築について、株式会社リコーの浅香孝司氏(ワークフロー革新センター 所長)と佐藤雅彦氏(ワークフロー革新センター EDW開発室 データマネジメントグループ)が説明した。
リコーでは、OAの会社からデジタルの会社への変革を進めており、そのためにリコーの社員自身がデジタルの活用を進めていると浅香氏は語った。
社内でのデジタルの活用においては、マイクロソフトの製品やサービスを利用。Teamsをコラボレーションの中心に据えて、SharePointやDelveによるオープンなデータ共有とクイックなコラボレーション、Power Apps/Automateによるワークフロー自動化、Power BIによるデータにもとづいたクイックな意思決定、Planner等によるオープンなタスク管理と会議や報告によらないリアルタイムマネジメント、Workplace Anayiticsなどの仕事のデータにもとづいて新しい仕事の仕方を自らふりかえるセルフマネジメントが挙げられた。
同時に、工場から上がってくるデータや、企業でのリコー製品の利活用結果から上がってくるデータの活用にも取り組んでおり、そのデータ基盤にAzure Synapce Alayticsを導入した。工場では問題が起こる前の事前予測などに用いるほか、顧客企業でのリコー製品の稼働データ収集して次の開発に生かす。
データ基盤の開発は、データ活用のサイクルをはやく回せるよう社内で開発しつつ、はじめマイクロソフトなどに多くサポートを受けたと佐藤氏は説明した。
これまで稼働データは膨大すぎて限られたものしか利用できなかったが、データ基盤により使いたいときに使えるようになったのが、これまでとの大きな違いだという。これにより、データ基盤を使うメンバーとデータが増えて、データ活用のサイクルをすばやく回せるようになった。
今後の展開としては、ものづくり以外にも広げることで、社内でのデータにもとづいた業務改革を効果的に進められるようになると考えていると佐藤氏は語った。
コマツ産機:クラウドAIで予知保全する産機KOMTRAX
コマツ産機からは、Azure Machine Learningを活用した生産設備の予知保全について、コマツ産機株式会社の道場栄自氏(ICTビジネス推進室 室長)が説明した。
生産現場では部品故障によるライン停止が大きな損失なため、壊れたら交換する事後保全から、こまめに点検して部品を交換する定期保全、さらに保全コストを最適化するための予知保全へと進んでいるという。
この予知保全のためのシステムが、同社の「産機KOMTRAX」だ。産機KOMTRAXでは、機械に取りつけた通信端末から稼働情報をクラウドサーバーに送るため、顧客はどこからでもWeb画面から機械の状態を自分の管理点にあわせて確認できるという。
採用例としては、トヨタ自動車での大型プレス機の予知保全がある。個々の機械からデータをクラウドに集め、そこで機械学習をかけて異常を予知する。
AIによる劣化部位の特定の手法としては、センサーで取得した波形をAIにかけることで、劣化部位を特定しているとのこと。
プラットフォームとしてはAzure Machine Learningを利用。認識率はほかのツールと変わらず、コスト面で有利、さらにGUIのローコード/ノーコードでAIのモデルを作成したりパラメータを変更したりできることで採用したという。
産機KOMTRAXのWeb画面では、稼働掲示板に、劣化ぐあいを色で識別できる劣化バロメーターを追加した。ここから各駆動部を選ぶと、PowerBIのレポート機能による残存寿命グラフが表示される。
また、残存寿命低下のお知らせメール機能は、Azure上のロジックアプリで実現し、Microsoft 365のOutlookで配信している。
道場氏は、日本マイクロソフトの支援について、学習モデルの構築やチューニングにおいて日本マイクロソフトの技術サポートの体制が手厚かったため、短期間で構築できたと述べた。
旭化成:DXのためのデータ基盤と人材育成
旭化成からは、DXのためのデータ基盤と人材育成について、旭化成株式会社の久世和資氏(デジタルトランスフォーメーション(DX)統括、エグゼクティブフェロー(デジタルイノベーション領域)、デジタル共創本部長 常務執行役員)が説明した。
DXを支えるデータ基盤としては、現場のデータや基幹システムのデータを引き出してつなぎあわせ、価値のある結果を出すことが重要と久世氏は語り、そのためにデータマネジメント基盤の構築を進めていると説明した。
データ基盤の中核には、Azure Data FactoryやAzure Data Lakeを中核としたAzureの技術を採用し、構造化データも非構造化データも系統的に扱い、効率よく処理すると久世氏は説明した。これをもとに、AI/MLや、シミュレーション、IoTのデータ分析などにデータを活用する。
人材育成としては、データを活用できる人材を育成している。まず、4年前から現場のデジタルプロフェッショナル人材を育てていると久世氏は語った。
さらに2021年4月からは、全社員に向けて、デジタル人材4万人プログラムを開始した。グローバルスタンダードのスキル認証であるOpen Badgeを採用し、Level 1~3の全員取得を目指す。
Level 1~2については、いろいろな職種や部門の人がとれるように、自社で用意したコンテンツをEラーニングで提供している。Level 1については現在、全世界で社員の半分以上にあたる2万3415名が取得した。
Level 3については、自社コンテンツに加え、各社の協力のもと、例えばPowerBIをいかに現場に使うかといったコンテンツも用意したと久世氏は説明した。