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キヤノンITS、2025年に売上高1.5倍を目指す 「ビジネス共創モデル」など3つの事業モデルを展開
2021年10月14日 06:00
キヤノンITソリューションズ株式会社(以下、キヤノンITS)は13日、2025年の経営目標として、2021年比で売上高1.5倍、サービス提供モデル売上高2倍、ビジネス共創人材5倍を掲げた。
あわせて、3つの事業モデルとして「ビジネス共創モデル」「システムインテグレーションモデル」「サービス提供モデル」を展開。2025年に向けた注力事業として、「企業のデジタライゼーション」「開発革新」「デジタルデータの利活用」に取り組む考えを示した。
同社では2020年に、長期ビジョン「VISION2025」を策定。そのなかで、「先進ICTと元気な社員で未来を拓く“共想共創カンパニー”」を目指す方針を打ち出している。
キヤノンITSの金澤明社長は、「3つの事業モデルの強化を通じて、利益ある成長拡大を果たし、将来への投資を潤沢に行う盤石な収益基盤体質の確立を目指す」と述べた。また、「共想共創カンパニーは、エンゲージメント経営によって、経営基盤を強化しながら、より技術を磨き、より社員を元気にして、お客さまや社会の未来を開くとともに、お客さまと一緒に考え、共にビジネスをつくり出せるような会社であり続けたいという想いを込めたメッセージである。社員が自慢できる会社、さまざまなお客さまが真っ先に相談したい会社になることを目指す」と述べた。
金澤社長は、3つの事業モデルの方針について、次のように述べた。
「ビジネス共創モデル」は、顧客のビジョンや経営戦略などの想いを起点に、ビジネス戦略をIT戦略に継承させ、実現手段を含めたビジネスデザインやITグランドデザインを共に作り上げる事業モデルだという。
「従来のビジネスで育ってきたコンサルタントや技術者だけでは実現できない事業モデルであり、独自の人材モデルであるビジネス共創スペシャリストを活用し、開発経験や技術力だけでなく、知恵や創造力まで提供し、お客さまのビジネス創出に伴走。なくてはならない存在、真っ先に相談したくなる存在を目指す。これからのビジネス活動のなかで、ビジネスの姿をしっかりと具体化していく」と述べた。
「システムインテグレーションモデル」については、お客さまの強みを際立たせるゴールを共に想い、固有の課題を理解して、構想、企画から開発、構築、運用まで、ニーズに合わせた最適な仕組み、システムを提供するモデルと説明。
「これまでのように、システム要件から最適なシステム構築や運用につなげるSIビジネスではなく、お客さまを想い、お客さまの課題に先着し、最適なシステムを利用してもらうことを目指す。しっかりとしたシステムを作り上げる技術力や、プロジェクトマネジメント力の強みを生かし、ITパートナーとして、お客さまの価値を高めるためのソリューションを、お客さまと共に作り上げる事業モデルの確立に取り組む」などとした。
「サービス提供モデル」に関しては、「日本や世界の社会課題に想いをはせることを目指す」とし、業界や業種、業務に共通した課題に対するソリューションをICTサービスとして提供し、継続的な利用提案を進める事業モデルと説明した。
「法規制への対応や顧客分析力の向上、製造原価の見える化など、業界、業種に共通した課題は多岐にわたる。多様な開発経験の中ではぐくんだ業務、業種のノウハウや、SI事業の課題解決で培ったソリューション創出力を最大限に生かし、ビジネス成長と社会貢献につなげたい」と述べている。
また、「3つの事業モデルは、それぞれ独立しているのではなく、相互に関係することで、お客さまへの提供価値を拡大させる」とも位置づけた。
3つの事業モデルの成長に向けた人財投資についても説明。ビジネス共創モデル確立のための人財育成を行う「共想共創塾」を設置。2025年までにビジネス共創人財を、2021年比で5倍に増やすほか、システムインテグレーションモデルでは、SEの高度IT人財育成を進め、陣容を1.1倍に拡大。また、サービス提供モデルへの転換のために、サービス創造人財を1.5倍に増加するとともに、サービス事業創出とそのための風土醸成を行う。
「パートナーとのエンゲージメント活動を通して、人財の質と量の拡充も進めている。開発パートナー戦略の活性化や技術者認定制度を活用し、重点領域での人財育成に力を入れる」とした。
さらに、R&D本部によるソフトウェア技術や数理技術、言語処理技術に加えて、各事業部門がノウハウを生かした映像解析技術やクラウド関連技術を展開し、さまざまな製品に組み込んだ課題解決提案が推進していることも示した。言語処理技術および映像処理技術を活用して、Brainシリーズを製品化。AI OCRペーパーレス「Capture Brain」、類似文書検索サービス「Discovery Brain」、遠隔業務支援サービス「Visual Brain」を市場投入したという。
一方、2025年に向けて注力する事業として挙げた「企業のデジタライゼーション」、「開発革新」、「デジタルデータの利活用」についても、説明に時間を割いた。
「企業のデジタライゼーション」では、従来からのビジネスを進化させるスマートSCMのほか、エンジニアリングDXとして、エンジニアリングチェーンにおける3次元データを中核にしたデジタル化を推進。プロセス変革の支援を強力に推進するという。
特に、スマートSCMでは、ロジスティック領域における業務のデジタル化支援を強化。基幹業務、庫内オペレーション、輸配送計画、配送オペレーション、物流リソースシェアリングなどに展開。基幹業務ソリューションのAvantStageなどを用いて生産性の向上につなげるほか、EDIやブロックチェーン技術を活用したデータ連携、物流ルートや物量の最適化に向けた数理最適化技術を活用などを行う。
開発革新の領域では、金融機関のビジネスを、UI/UX技術を活用して強力にサポート。ローコード開発分野においては、ローコード開発プラットフォーム「WebPerformer」を進化させる。「WebPerformer Cloud NEXTとして、導入障壁の撤廃やライトアプリケーションの開発、ファンの拡大に向けた取り組みなどを計画している」という。また、組み込み開発技術を車載開発領域に活用。CASEの進展に伴い、応用範囲を広げる考えを示した。
デジタルデータの利活用では、データセンターでのサービス提供に限らず、価値をビジネスに生かすための取り組みを促進する。文教分野では、教育機関向けソリューション「in Campusシリーズ」に、主体的な学びを促進するために、全学的な教学マネジメント構築を支援する「in Campus IR」を追加。大学内で保有する各種データを活用した学びの未来の共創に取り組むとした。
また、新たなソリューションやサービスの展開においては、パートナーとの協業を強化。データマネジメントサービスでは、強力なツールやメソッドを持つ会社との協業を進めたほか、「開発パートナーとの関係をさらに強化し、今年は資本関係を含めた協業関係も強化していく。産官学連携についても、継続して事例を積み上げ、社会に貢献していきたい」と述べた。
キヤノンITS 上席執行役員 デジタルイノベーション事業部門担当の村松昇氏は、日本におけるDXが停滞している理由として、IT分野やビジネス部門の「多忙と迷走」、技術先行による「ビジョンが不明瞭」、もたれあい構造がベースとなった「ユーザー企業、IT企業がDX低位安定」の3点を挙げる。
その上で、「キヤノンITSは、BPRとIT活用により改革の余力を確保し、明確なビジョンを一緒に作り、掛け算効果を狙う支援ができる。良きパートナーとして知的バトルができる体制によって、DX停滞の課題を解決する」と述べた。
また「キヤノンITSは、SoRがしっかりできるSoE集団である。DXは基幹システムとの連携が必要であり、たがらこそキヤノンITSの強みが発揮できる。現在は、成熟した技術や手法を活用し、お客さまにソリューションを提供することが事業の中心だが、今後は、『デジタル技術を活用し、お客さまのソリューションを共創する事業』、『ビジネスデザインを共想し、お客さまの新たな事業価値を共創する事業』、『デジタル技術を活用し、お客さまとキヤノンITSがともにリスクを取り、新たな事業価値を共想、共創する事業』を目指す。新たな事業領域に向けては、500人のデジタル技術者のほか、ビジネス共創人財、数理コンサルタントによって挑戦していくことになる」と話した。
さらに、「DXの推進においては、MoonにあたるDXビジョンの想定と、月に向かってロケットを一直線に打ち上げるパワーが肝要。キヤノンITSは、お客さまと共に想って、Moonを明瞭(めいりょう)に描き、強力な人財や技術力を使って、一緒にロケットを操縦しながら、Moonへの到達に貢献したい」などと述べた。
キヤノンITSの変遷について説明
今回の会見では、キヤノンMJグループとして事業を開始した2003年以降の経緯についても触れた。
キヤノンITSは、住友金属工業グループの情報システム子会社であった住金システム開発が、2003年にキヤノン販売(現キヤノンマーケティングジャパン)の傘下に入り、事業を開始。2008年にはアルゴ21と合併したほか、2009年にはキヤノンネットワークコミュニケーションズ、2017年にはキヤノンソフトウェアとそれぞれ合併した。
「キヤノンITSは、親会社からの事業移管やM&Aによる業容拡大を進めながら、SI受託案件を中心に規模を追求してきたが、大手SI企業との協業比率が高く、2008年のリーマンショックで業績が低迷。その反省をもとに、筋肉質な事業構造への転換を進めてきた」とする。
2010年から2017年までは、継続的な構造改革を実施。2012年以降は、営業利益が右肩上がりで回復している。2018年からは「第二の創業期」と位置つけ、CITS 4.0を打ち出し、顧客のデジタルビジネスの支援にも力を注いできた。
だが、「ここ数年は、成長面では物足りなさを否定できない状況にあり、組織の再編や新規事業創出活動などを開始している。また、柔軟に、スピーディーに対応するためのITシステム投資が大きく増加し、ビジネスとITが一体となって検討する時代が訪れ、ITベンダーへの要求は、仕様通りに正確に作り上げることから、ビジネスを意識して、柔軟性やスピード感を持つITシステムの提案や実現へと変わっている。環境変化にあわせて、自らがスキルシフトを図る必要があり、従来の人月ビジネスに依存してきたビジネスモデルを転換し、お客さまとの新しい関係を構築する必要性が出てきた」(金澤社長)とする。
長期ビジョン「VISION2025」は、こうした危機感をベースに2020年に策定したもので、2025年に目指す方向性を示した「羅針盤」に位置づけている。ここでは、3つのDNAとして、「お客さまに寄り添う心」、「先進技術への挑戦魂」、「最後までやりきる胆力」をあげ、さらに、大切にしている7つのこととして、以下をあげた。
1.「企業課題」と「社会の困りごと」を、私たちのお客さまと、考えます
2.お客さまを深く理解し、お客さまも気づいていない課題に、着目します
3.お客さまの「こんなこと、できたらいいのに」を、共に考え、カタチにします
4.さまざまなパートナーと共に、グローバルに通用する知見と技術を、磨きます
5.最適なICTソリューションで、お客さまの期待を、超えます
6.お客さまの発展のために、共に歩みます
7.社員の挑戦と成長、そして幸せを、大切にします
金澤社長は、「キヤノンMJグループにおいて、ITソリューションビジネスを中心とした成長戦略が示され、キヤノンITSは、グループITソリューション戦略の中核的役割を担うことになる」と前置き。
「キヤノンITSは、バックグラウンドの違う会社の人間が集まり、いくつもの源流をもち、会社を統合してきた過程においても、それぞれが持つ個性がはぐくまれてきた。3つのDNAは、製造業のシステムユーザーとして持ち合わせていた『お客さまに寄り添う心』、精密機器メーカーと一緒に新製品を開発する過程ではぐくまれた『先進技術への挑戦魂』、独立系SIerとして生きるために必要だった『最後までやりきる胆力』によるものであり、将来の会社の姿を考える上でもコアバリューとして意識した。これに、長年築き上げてきた『感動品質を支える品質マネジメント』と、お客さまのビジネスや現場の課題に向き合ってきた『付加価値を創るプロフェッショナル人材』が絡むことで、強みが形成された。そして、大切にしている7つのことは、われわれの想いであり、価値観であり、信条である」などと述べた。
また共想共創カンパニーについては、「共に想うという共想の起点は、社会の未来や、お客さまのビジョンへの共感であり、強い共感は、共想共創のエンジンの燃料である。共想の対象は、お客さまの課題や社会の困りごとであり、それを解決することが共想共創カンパニーの役割になる。既存の事業で得た原資を、拡大したい事業モデルに投資するというサイクルをうまく回して、共想共創カンパニーの実現につなげたい」とした。
このほか、「戦略志向で事業モデルの転換に挑戦するというアクションを中心に、お客さまとの信頼関係を深める、社員と会社のきずなを強めるという、3つの変革を進める。そのためには、革新性ある新しいモデルへの大胆なリソースシフトが必要であり、同時に、人財戦略のためのタスクフォースを数年前に設置し、継続的な改革を進めているところである」などと述べている。