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真に頼れるITパートナーへの脱皮を目指す――、キヤノンITS・金澤明社長が経営戦略を説明

 キヤノンマーケティングジャパン株式会社(以下、キヤノンMJ)の100%子会社であるキヤノンITソリューションズ株式会社(以下、キヤノンITS)は30日、2019年下半期(2019年7月~12月)の経営戦略について発表した。

 キヤノンITSの金澤明社長は、「キヤノンMJグループでは、2021年までの中期経営計画で、ITソリューション事業で売り上げ3000億円を目指す『ITS3000』を掲げている。その達成に向けて中核的な役割を果たすとともに、継続的な成長を重視する経営を進めたい。一時の大きな商談よりも継続性を大切にしたいと考えている。また、これらを達成にするには、人材のモチベーションと成長が根幹になる。社員が実力を発揮できる場を作りたい」などと語っている。

キヤノンITS 代表取締役社長の金澤明氏
ITS3000への挑戦

 金澤社長は、1959年、宮城県気仙沼市出身。電機メーカーで監視用カメラの開発などに従事し、1992年に住友金属システム開発に入社。同社が2003年にキヤノンMJグループに入り、この間、SEとして証券・金融系の業務に携わった。2016年からは、キヤノンITSのSIサービス事業の統括責任者を務め、2019年3月に代表取締役社長に就任している。。

 就任後はKPIを重視して愚直にPDCAを回し、やりきる経営を実践する「プロセスやKPIを重視する経営」、グループ目標の実現をけん引するべく、継続的な成長を支える変革を推進する「継続的な成長を重視する経営」、社員がいきいきと活躍し、実力を発揮できる「社員が実力を発揮できる環境づくり」の3点を経営姿勢に掲げている。

キヤノンITSの経営姿勢

 キヤノンITSの2019年上期(2019年1月~6月)の実績は、売上高が前年同期比10%増の463億4000万円、営業利益は同43%増の49億9000万円、営業利益率は2.5ポイント上昇し、10.8%と2けたを達成している。

 金澤社長はこれまでの同社の経緯を振り返り、2003年~2009年を「創業・規模追求期」とし、M&Aによる業容拡大に取り組んだこと、2010年~2017年を「構造改革期」と位置づけ、継続的な構造改革による筋肉質な事業構造への転換を進めるとともに、2013年に開設した西東京データセンターを核にしたトータルサービスの提供に力を注いだことなどに触れながら、「2018年からは、『第2創業期および成長期』として、規模と利益の両方を追求するとともに、キヤノンMJグループのITS戦略の中核的役割を担い、顧客のデジタルビジネスを支援する共創パートナーを目指している」などと述べた。

2019年上期の実績
キヤノンITSは次のステージへ

 また、「われわれの思いは、さまざまな社会課題をITの力で解決するという点にある。そのためにはお客さまやパートナーと共創する必要がある。そこに、当社が持つ独自の技術開発と徹底した品質管理、トータルサポートというキヤノンITSの強みを加えて、デジタルトランスフォーメーション(DX)を成功させるための『真に頼れるITパートナー』に脱皮することを目指す」との姿勢をみせた。

 同社の基本戦略としては、「顧客満足を超えてお客さまが感動する価値を提供する」、「着実に成長するための事業構造に転換する」、「競争力の源泉となる組織能力を強化する」という3点を挙げる。

キヤノンITSのありたい姿
ありたい姿を実現するための基本戦略

 「キヤノンITSは、製造ユーザー系システムインテグレータである住友金属システムソリューションズ、独立系システムインテグレータであるアルゴ21、さらに、キヤノン販売やキヤノンソフトウェアがひとつになった企業であり、さまざまなDNAを持ち合わせている。キヤノンが持つユーザーに寄り添う心に、住友金属システムソリューションズが持つ、先進技術への挑戦魂が加わり、アルゴ21によって、最後までやりきる胆力がついた。私は、キヤノンITSの特徴はなにかといわれたら、あきらめず最後までやりきることであると答えている」と述べた。

キヤノンITSのDNA

 同社の事業は、主力となっているSIサービス事業のほか、データセンターサービスや各種パッケージソフトを提供するITインフラサービス事業、モノづくりを支援するためのソリューションを提供するエンジニアリング事業で構成している。

キヤノンITSの事業領域
グループ会社の関係

 SIサービス事業では、「業種別の得意領域での成功事例を横展開し、顧客の深耕と拡大を進める。同時にサービスビジネスへのシフトを具体化し、加速させる」とし、「金融ビジネスユニットでは、銀行に加えて、証券、カード会社に対する中核業務領域への参画を進め、製造・公共・流通では、AvantStageによるソリューション型販売に注力する。さらにアジアの拠点を生かしたグローバル事業の拡大を進めていく考えだ。これにより、お客さまのビジネスに貢献し、市場から期待されるSIerになることを目指す」とした。

 ITインフラサービス事業では、「付加価値型ビジネスを強化し、ストック型ビジネスへの移行を加速する」と語り、西東京データセンターの第Ⅰ期棟のビジネスに加えて、来春稼働を予定している第Ⅱ期棟との一体運営による収益性の向上を図るとする。一方で、基盤運用のみならず業務システムを含めた運用の獲得など、付加価値サービスを通じた運用領域におけるプレゼンスの向上に取り組むという。

 また、ITインフラ関連事業では、セキュリティ品質の高いシステム基盤の構築や運用サービスを提供。「データセンター事業は安定軌道に乗っているが、さらなる価値向上に向けて、運用サービスの提案力や対応力を高め、事業部間での連携により、アウトソーシングビジネスを拡大する」と述べた。

SIサービス事業の戦略
ITインフラサービス事業の戦略

 エンジニアリング事業では、キヤノンで培った技術をもとに、独自のサービスモデルを確立するとし、「車載向けのAUTOSARによる組み込みビジネスの外販拡大と、高単価領域へのシフトを進めるほか、3Dソリューションに関して、大手企業や中堅企業への直販営業体制の強化に取り組む。また、グループ横断タスクによるAI/IoTを活用した新事業モデルの確立を進める。パートナー企業との連携のもと、人材育成を進め、開発体制を強化。事業の柱となる新たなビジネスモデルの顧客基盤を固めていく」と語った。

エンジニアリング事業の戦略

 個別の事業については、それぞれの責任者も登壇。キヤノンITS 上席執行役員 SIサービス事業統括担当の大久保晴彦氏は、「SIサービス事業は、変化に柔軟に対応していくことが鍵になる。クラウドを中心にしたサービスビジネスにシフトし、さらにその先のデジタルサービスへとシフトしていくことになる」と説明する。

 またITインフラサービス事業については、キヤノンITS 取締役常務執行役員 ITインフラサービス事業統括兼エンジニアリング事業統括担当の笹部幸博氏が、「トータルでフルアウトソーシングを行うことを目指す。また、エンジニアリング事業では、キヤノン本体で体験してきたさまざまなことを活用した提案を強みにしていく。今後は、エンジニアリング領域におけるDXを推進していきたい」とした。

キヤノンITS 上席執行役員 SIサービス事業統括担当の大久保晴彦氏
キヤノンITS 取締役常務執行役員 ITインフラサービス事業統括兼エンジニアリング事業統括担当の笹部幸博氏

 そのほか、全社注力テーマとして、「クラウドビジネス」および「デジタルビジネス」を掲げる。

 クラウドビジネスでは、2018年から専門組織を新設。企画から設計、開発、運用までを一貫したサービスとして提供。先進的なテクノロジーを駆使したクラウドインテグレーション、アプリケーションの提案を強化するためのクラウド人材の育成を進めるという。

 またデジタルビジネスでは、「これまでの体制ではやや薄いところがある。ここは、会社として意志を持って進める領域にする」(キヤノンITSの金澤社長)と位置づけ、デジタルを活用した新たなビジネスモデルの創造、売上拡大に貢献するデジタル化での支援、業務効率化に貢献するデジタル化による支援に取り組むとした。

全社注力テーマとして「クラウドビジネス」および「デジタルビジネス」を掲げた

 このほか、経済産業省がまとめた「DXレポート」で示されている「2025年の崖」に対する考え方や、そこに向けたキヤノンITSの取り組みについても説明。

 「SI企業の役割は、顧客の要望を聞き、それに対して忠実に、堅牢に作ることであったが、その要望を聞き続けたことで、仮にパッケージを使っていても、カスタマイズが発生し、結果として、独自のシステムを作り上げしまうことにつながっていた。つまり、2025年の崖を生む原因の一端はSIerにもある」とする。

 その一方で、「企業経営者は、2025年の崖を飛び越えるためには、変えぬ怠慢、変える決意、変わらない信念という3つの選択を迫られている。2025年の崖を飛び越えるためには、デジタル化へのグランドシナリオが必要であり、ITシステムの整理と見極め、SoRの維持およびSoEのエンハンス、デジタルを駆使した価値創出という、ホップ、ステップ、ジャンプの3段階の取り組みが必要である」と語った。

ホップ、ステップ、ジャンプの3段階の取り組みが必要

 さらに、「ITシステムの整理と見極めでは、機能分割・刷新、機能追加、機能縮小・廃棄、現状維持(塩漬け)という4象限から、業務とITシステムの整理をする必要がある。また、SoRの維持およびSoEのエンハンスでは、変化が予想される部分においては、ローコード開発によってアジャイルを進めることが重要である。キヤノンITSでは、Web Performerを用意し、ウェブアプリケーションの設計からテストまでの自動化や、運用や保守、改修の効率化、開発生産性の向上などが図れる。ローコードによって、企業内に存在するビジネス部門とIT部門のギャップも解消できる。また、キヤノンITSが持つ画像解析、画像処理、言語処理、数理技術といたデジタル技術を活用することで、価値を創出することができる」などと述べた。

業務とITシステムを4象限で整理
Web Performer
キヤノンITSのデジタル技術