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米Microsoft、Build 2021でのAzure関連の発表内容を明らかに

Azure向け開発ツールを拡充、Azureアプリサービス群はマルチクラウド、オンプレミスにも拡張へ

 米Microsoftは5月25日~5月27日(現地時間)に、同社の開発者向けイベント「Build 2021」をオンラインで開催している。5月25日午前(現地時間、日本時間5月26日未明)には、Microsoft CEO(最高経営責任者) サティア・ナデラ氏による基調講演が開催される予定になっており、この中で多くの新しい発表が行われる見通しだ。

 それに先だってMicrosoftは5月25日午前(現地時間)、同社がBuild 2021で発表を予定している新製品や新しい技術などに関する発表を行った。この中でMicrosoftは、Microsoft Azureのブランドで提供しているパブリッククラウドサービスに関して、多数の発表を行っている。

 具体的には、Visual Studio 2019の最新アップデート版(16.10)の提供、4月に発表したVisual Studio 2022の最新ロードマップ、Azure App ServiceなどのAzureアプリケーションサービス群のAzure Arc対応、AzureのAI/マシンラーニングサービスとなる「Azure Cognitive Services」を利用した新サービスなどだ。

 本稿では、それらの発表を紹介する。

Azureアプリケーションサービス群を、Azure Arc上のKubernetesクラスターで動作しているところをダッシュボードで確認(出典:Microsoft)

Visual Studio 2019の最新アップデート版(16.10)の一般提供が開始、Azureをサポートする開発ツールが拡張

 Microsoftによれば、今回のBuildでは、Visual Studio 2019の最新アップデート版(Visual Studio 2019 16.10)のGA(一般提供開始、General Availability、広く一般提供開始されるという意味の正式サービスインのこと)が開始されたことが明らかにされた。この最新アップデート版では、.NETやC++開発の生産性向上が実現されている。

 .NET関連では、IntelliSenseと呼ばれるワークフロータスクの自動化や、テスト品質の向上を実現するツールなどが提供されている。またC++では、20もの適合性機能が用意されており、C Makeプリセットファイルのサポートやリモート接続のセキュリティ性を上げる機能が追加されている。

 また、DockerやAzure関連の拡張が用意され、Azure向けのソフトウェア開発をよりシームレスに行えるようになっている。

 また、次期Visual Studioの最新バージョンとしてVisual Studio 2022のリリース計画を含む新しいロードマップを発表した。すでにMicrosoftは、Visual Studio 2022のリリース計画を4月に発表しているが、同社では、新しいVisual Studio 2022は間もなく最初のプレビューリリースが公開される計画になっており、新しいルック&フィール(見た目)の採用、64ビットへのアーキテクチャの変更などにより、巨大で複雑なソフトウェアをコーディングしたいプログラマーに、より柔軟性とより高い性能を提供すると説明している。

 さらに、Microsoftは2018年に買収した開発者コミュニティのGitHubとMicrosoftの開発ツールの統合にも力を入れており、今回のBuildでも各種の説明や発表が行われている。

 例えばGitHub Codespacesは、GitHubのユーザーがクラウドにホストされている開発環境を用いて、Visual Studio Codeを利用して開発できるもの。この場合、プロセッサなどのリソースはクラウド上のものが利用されるので、開発者はただWebブラウザ上でコードを書くだけで、ビルド、テスト、デバッグなどの一連の開発工程をすべてこなすことができる。GitHub Codespacesは現在アーリーアクセスの募集が行われており、GitHubのWebサイトから申し込むことができる。

 また、Azureのセキュリティを管理し可視化するツール「Azure Security Center」とGitHubが統合され、コンテナのスキャニングなどを実現する機能がパブリックプレビューとなった。それによりコードにセキュリティ上の懸念が発生しても、すぐにコンテナをスキャンして問題となっているところを可視化することができると、Microsoftでは説明している。

Azure App ServiceなどのAzureアプリケーションサービス群、Azure Arc環境でプレビュー提供

 Microsoftは、「Azure App Service」、「Azure Functions」、「Azure Logic Service」、「Azure Event Grid」、「Azure API Management」などの各種のアプリケーションサービスを提供している。

 例えばAzure App Serviceであれば、WebアプリケーションやモバイルバックエンドなどをホストするためのHTTPベースのサービスだし、Azure Functionsはイベントドリブン型のサーバーレスコンピューティングプラットフォーム、Azure Logic Serviceでは自動化されたワークフローの作成、Azure Event Gridではイベントのルーティング管理、Azure API Managementではハイブリッド/マルチクラウド環境APIの一元管理を、それぞれ実現する。

 今回Microsoftが明らかにしたのは、こうしたAzureのアプリケーションサービス群が、Azure ArcおよびAzure ArcベースのKubernetesクラスター上で動作するようになることだ。

 Azure Arcは、AzureだけでなくAWSやGoogle Cloudなどを含むマルチクラウド環境、オンプレミス、エッジ環境などロケーションにかかわらずAzureのサービスを利用できる環境で、Windowsサーバー、Linuxサーバー、Kubernetesクラスターなどを一元的に管理することができる。

 今回の発表により、前出のAzureアプリケーションサービス群を今後はマルチクラウド、オンプレミス、エッジなどのロケーションにかかわらず実行できるようになる。

従来はAzureのデータセンター上にしか置けなかったAzureアプリケーションサービス群が自社のデータセンター上にも置けるようになっている(出典:Microsoft)

 これにより、Azureアプリケーションサービス群のユーザーは、Webアプリをどの環境でも動かせるようになり、A/Bテスト(2つの環境を利用した比較テストのこと)などが容易に実行可能になる。

 Microsoftによれば、Azureアプリケーションサービス群のAzure Arcサポートの拡張は、本日よりプレビューとして提供開始される。

オンプレミスやマルチクラウドで動作するURLになっている(出典:Microsoft)

Build cloud-native applications that run anywhere(Blog)
https://azure.microsoft.com/ja-jp/blog/build-cloudnative-applications-that-run-anywhere/

 また、すでに発表されている「AKS on Azure Stack HCI」は、Azureのパブリッククラウドとオンプレミスのデータセンターを融合するAzure Stack HCIの上で、AKS(Azure Kubernetes Service、AzureのKubernetes実行環境)が動作可能になる仕組みだ。

 これによりユーザーは、クラウド環境のAKSでも、オンプレミスのAKS on Azure Stack HCIのどちらでも、Kubernetesのアプリケーションをシームレスに走らせることが可能になる。

 今回、このAKS on Azure Stack HCIは、プレビューからGA(一般提供開始)になったことが明らかにされた。

 また、Azure Cosmos DBの拡張として、サーバーレスでAzure Cosmos DBを利用する「Cosmos DB Serverless」のGAも同時に発表されている。

Azure Cognitive ServicesなどAI(機械学習)関連のサービスも新機能を提供

 このほかMicrosoftは、Azure向けに提供しているAI/マシンラーニング(機械学習)のサービス「Azure Cognitive Services」の機能拡張をBuild 2021で発表した。

 発表されたのは「Azure Applied AI Services」という新しいサービスや「Azure Bot Service」の機能拡張など。

 Azure Applied AI Servicesは、Azure Cognitive Servicesを利用して特定タスク向けAIやビジネス向け機能を提供することができるサービス。Azure Bot Service, Azure Cognitive Search, Azure Form Recognizer, Azure Metrics Advisor, and Azure Immersive Readerなどを利用して、ドキュメント作成補助、カスタマーサービス、コンテンツ解析などのサービスを提供することができるようになる。また、機能拡張されたAzure Bot Serviceを利用すると、テキスト、スピーチ、さらには電話を利用したボットを、手軽に自分のサービスに実装しやすくなる。

 またこれまでプレビューとして提供されてきたAzure Metrics Advisorは、今回からGAになった。Azure Metrics Advisorでは、データを監視して異常が検知されると、それを管理者に通知するといった使い方が可能になる。Microsoftによれば、韓国のサムスン電子がこのAzure Metrics Advisorを利用し、同社のスマートTVサービスの機能拡張などに取り組んでいるとのことだ。

 同時に、Azure Video Analyzerのプレビュー提供開始も明らかにされた。このサービスでは、動画の分析とインデックスの作成を1つのサービスとして提供する。インデックスの作成は、すでにAzure Video Indexerとして提供されてきたが、新しいサービスは、そうしたインデックスの作成と分析の両方の機能を持っている。

 このほかにも、Azure Machine Learningでは「PyTorch Enterprise」が利用可能になった。PyTorchはディープラーニングのフレームワークで、そのエンタープライズ版で長期間動作が保証されるPyTorch Enterpriseが、Azureのマシンラーニング環境で利用可能になる。

Harness the power of data and AI in your applications with Azure(Blog)
https://azure.microsoft.com/ja-jp/blog/harness-the-power-of-data-and-ai-in-your-applications-with-azure/