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NVIDIA、Armベースのデータセンター向けCPU「Grace」投入を表明

現在のx86ベースのCPUと比較して10倍の性能を発揮

 半導体メーカーのNVIDIAは、4月12日午前8時(米国太平洋時間、日本時間4月12日午前0時)から同社の年次プライベートカンファレンス「GTC 2021」を開催しており、同社のAIに向けた各種ソリューションなどに関して多くの発表を行っている。

 そのGTC 2021の最初のセッションとして開催された同社 CEO ジェンスン・フアン氏の基調講演では、新しいデータセンター向けのCPUとして、開発コード名「Grace」(グレース)と呼ばれる製品を2023年に投入することを明らかにした。

NVIDIAのGrace(右)を搭載したマザーボード、左のもう1つのチップはGPU(提供:NVIDIA)

 NVIDIAによれば、GraceはArm社が開発する新しいデータセンター向けのCPUコアIPデザイン「次世代Neoverse(ネオバース)」が採用され、CPUコア1つあたりの処理能力がSPECrate2017_int_baseベンチマークで300を超える性能を発揮する。

 また、NVIDIAがサーバーなどでGPUとGPUを接続するインターコネクトとして導入しているNVLinkの次世代版が搭載されており、キャッシュコヒーレントに対応したNVLinkを利用した場合、CPUとGPU間の帯域幅は900GB/秒、キャッシュコヒーレントを使わない場合には600GB/秒の帯域を実現する。

 さらに、メモリコントローラはLPDDR5に対応。メモリ帯域は500GB/秒となり、現状の2倍の帯域幅を実現するという。

 なお、このGraceとNVIDIAのGPUを組み合わせることで、現在のx86 CPUとNVIDIA GPUの組み合わせでディープラーニング(深層学習)の大規模なモデル(1兆パラメータを持つモデル)を学習させた場合に1カ月かかる処理が、10分の1のわずか3日に短縮できるとのことだ。

x86 CPUベースの「DGX A100」と比べ性能が10倍となるArm CPU「Grace」

 NVIDIAが発表したGraceは、同社が「次世代Neoverse」と呼んでいるArmのデータセンター向けCPUデザインIPを採用している。Armは2018年の「Arm Techcon 2018」で、同社のデータセンター向けCPUのデザインIPとなる「Neoverse」を発表しており、既に同社の顧客などで採用されている。

 NVIDIAは現時点で、その次世代Neoverseがどういうものなのかは明らかにしていないが、Armが先日発表したばかりの新しい命令セット「Armv9」に対応した、新しいデザインであることは想定される。

 ただし今回、NVIDIAはその次世代Neoverseの性能は明らかにした。それによれば、CPUコア1つあたりで、SPECrate2017_int_baseにて300を超える性能を発揮するという。具体的にCPUコアがいくつになるのかなどは明らかにしていないが、当然、CPUコアは多くのコアが実装される形になるので、マルチコア時の性能はもっと大きな数字になることが想定される。

 なお、公開されたGraceのダイ写真を見る限りは、CPUダイはモノリシックダイで、AMDのEPYCなどで採用されているようなチップレットや、MCMと呼ばれる1つのパッケージの中に複数のダイが実装される形にはなっていないようだ。

NVIDIA Graceの概要(出典:NVIDIA)

 NVIDIAによれば、Graceの開発ターゲットは、CPUとメインメモリが、GPUやGPUメモリに比べて帯域幅が十分ではないことを克服することにあるという。というのも、現状ではCPUおよびCPUに接続されているメインメモリとGPUを接続するインターコネクトは、メモリやGPUと比較して低速なPCI Expressになるので、そこに引っ張られてしまい、GPUがメモリにアクセスするのに十分な帯域幅が確保されない現状がある。

現在のx86 CPUとGPUは、プロセッサに比べると遅いPCI Expressで接続されているため、CPUに接続されているメインメモリからGPUへの帯域幅は十分ではない(出典:NVIDIA)

 そこでGraceでは、NVIDIAのGPUがサポートしている高速なインターコネクトであるNVLinkに対応し、さらにNVLinkの帯域幅をCPUとGPUで600GB/秒、さらにキャッシュコヒーレント機能を有効にした場合には900GB/秒という帯域幅を実現する。

 また、CPUのメモリコントローラはLPDDR5に対応しており、メモリ帯域幅は500GB/秒を実現する。それにより、GPUとCPUが4つずつ搭載されているシステムの場合、メモリからGPUへの帯域幅は2000GB/秒となり、GPUがメインメモリにアクセスすることがボトルネックにならず、本来の性能を発揮できるようになる。

 NVIDIAによれば、1兆パラメータという非常に複雑で巨大なAIモデルを利用すると、学習にかかる時間は、x86 CPU(AMD 第2世代EPYC×2)とNVIDIA GPU(A100×8)の組み合わせとなる現行製品のDGX A100では約1カ月となるが、Grace(×8)+NVIDIA GPU(A100 ×8)の組み合わせの場合は、わずか3日間で終わるという。性能はざっと10倍に向上するという計算になる。

8xGrace+8xA100はDGX A100(2x x86 CPU+8xA100)に比べて10倍の性能を発揮(出典:NVIDIA)

 Graceの製造委託先は現時点では未公表だが、NVIDIAによれば5nmプロセスルールで製造され、2023年に市場に投入される計画になっているとのこと。現在、Swiss National Supercomputing Centre(CSCS)やLos Alamos National Laboratory(ロスアラモス国立研究所)が、Hewlett Packard Enterprise社が製造するGraceベースのスーパーコンピュータを導入する計画で、2023年より稼働する予定になっている。

CSCSやロスアラモス国立研究所などにHPCが製造したスーパーコンピュータが2023年に稼働する(出典:NVIDIA)

Arm CPU+NVIDIA GPUがAmazon EC2インスタンスで提供開始、新DPUのBlueField-3は2022年第1四半期に投入

 2020年、世の中をあっと言わせたArm買収を発表したNVIDIAは、GraceのようなArmベースのソリューションを加速している。すでにArm CPUに対応したCUDAをリリースしており、Arm CPUを利用したディープラーニングの学習ソリューションの充実などを進めている。

 今回のGTCではAWS(Amazon Web Services)との提携が発表され、AWSが提供しているGraviton2プロセッサ(64ビットのArm Neoverseコアを利用したカスタムプロセッサ)を利用したAmazon EC2インスタンスに、NVIDIA GPUを利用したものが提供されることが明らかにされた。

 また同時に、「Arm HPC Developer Kit」と呼ばれるArm CPUに対応した開発キットも提供され、ArmベースのCPUを利用したディープラーニングの学習がより利用しやすくする。Graviton2+NVIDIA GPUのAmazon EC2インスタンスは2021年後半から提供開始される予定だ。

Arm CPU+NVIDIA GPUがAmazon EC2インスタンスで提供開始(出典:NVIDIA)

 またNVIDIAは、2020年に発表した、DPU(Data Processing Units)と呼んでいるソフトウェア定義型のSmartNIC「BlueField-2 DPU」の後継として、「BlueField-3 DPU」を発表した。

 BlueField-3ではArm CPUが16コアに強化され(BlueField-2は8コア)、ネットワークの転送速度も200Gb/秒から400Gb/秒へと引き上げられる。従来のBlueField-2 DPU向けにソフトウェア開発キットDOCAで作成したソフトウェアは、そのまま実行可能だ。

BlueField-3(提供:NVIDIA)
BlueField-3の概要(出典:NVIDIA)

NVIDIA、データセンターのソフトウェア定義型ネットワークインフラを実現する「DPU」のロードマップを公開~DPU版CUDAといえる「DOCA」を提供へ
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/1280964.html

 BlueField-3は、2022年第1四半期からの提供開始が予定されている。なお、2020年に発表されたBlueField-2は本日より一般提供が開始されている。BlueField DPUはDell Technologies、Inspur、Lenovo、Supermicroなどのシステムベンダーから提供されるとNVIDIAでは説明している。