ニュース

快適なテレワークが可能になるVDI?――、NVIDIAがVDIのグラフィックス性能を高めるvGPUの導入事例を紹介

 半導体メーカーのNVIDIAは3月25日に「NVIDIA Blog」という同社のBlogを更新し、同社が推進するvGPU(GPU仮想化)を利用したVDI(Virtual Desktop Infrastructure)向けのソリューションの国内採用事例として、ニッセイ情報テクノロジー株式会社、株式会社NTTデータの2社の事例を紹介した。

 NVIDIAが提供するvGPUは、データセンター内に設置されているサーバーにGPUを搭載し、それをNVIDIAが提供するソフトウェアにより仮想化し、ビデオメモリを分割してVDIに割り当てる仕組み。それにより、VDIのOS(Windows 10)が演算や描画にGPUを利用することが可能になる。

NVIDIAが提供するvGPUのアーキテクチャ(出典:NVIDIA)

 エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業本部 vGPUビジネス開発マネージャー 後藤祐一郎氏は「VDIにvGPUを利用することで、CPU負荷を約20~60%削減でき、ユーザー体感を約34%向上させることが可能になる。ビデオ会議時にVDIでカメラを使うことを、CPUへの負荷になるとして禁止している企業もあるが、vGPUを導入することで、カメラをオンにしたビデオ会議を快適に行えるようになる」と述べ、テレワークやリモートワークで必須のアプリケーションとなりつつある、Microsoft TeamsやZoomのビデオ会議をVDIで実現するために、vGPUの導入は必要だとアピールした。

通常のグラフィックス処理はソフトウェア処理のために激重、vGPUがそれを解決

 エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業本部 vGPUビジネス開発マネージャー 後藤祐一郎氏は、NVIDIAが提供するvGPU(GPU仮想化)の仕組みやそのメリットを紹介した。

エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業本部 vGPUビジネス開発マネージャー 後藤祐一郎氏(提供:NVIDIA)

 後藤氏は「NVIDIAはNVIDIA vGPUマネージャーと呼ばれるソフトウェアを提供しており、それをハイパーバイザーに導入することで、物理的なGPUを仮想マシンから利用可能になる」と述べ、ハイパーバイザーにGPUを仮想化する拡張機能を導入することにより、仮想マシンが物理的なGPUを利用可能になると説明した。

vGPUの仕組み(出典:NVIDIA)

 後藤氏によれば、ハイパーバイザーに投入された「NVIDIA vGPU マネージャー」がGPUとビデオメモリを分割し、それを仮想マシンに対してvGPUとして提供する。vGPUがない場合のVDIは、GPUの機能をCPUがエミュレーションするため、グラフィックス処理を行うとCPUの負荷が高まり性能が極端に低下するが、vGPUが利用可能であれば、VDIのOSは物理的なGPUを利用してグラフィックス処理などを行えるため、性能が大幅に向上するのだ。

VDIの実体はデータセンターにあり、サーバーの上で物理CPUと物理GPUを利用しながら動作し、画面の変更点が動画の形でクライアントのストリーミング配信される(出典:NVIDIA)
テレワークでVDIの利用は増え続けており、利用されるアプリケーションも増加している(出典:NVIDIA)

 最終的には、物理的なサーバーにどんなGPUを搭載するかに依存するが、現在3D CADやCAEなどのアプリケーションをGPUで動かしているワークステーションを、vGPUに対応したVDIで再現可能になる。

 そうなればユーザーは、強力なGPUを搭載していないタブレットやノートPCからアクセスできるようになるため、GPUを搭載したワークステーションがない自宅からテレワークで業務する場合でも、vGPUとVDIでGPUの強力な演算機能やグラフィックス機能を利用し、CAEのアプリケーションを快適に、かつ情報漏えいなどのセキュリティ面への不安なども少なく利用できるのだ。

 後藤氏はそうしたvGPUに利用できるGPUとして、NVIDIA A100、NVIDIA V100/V100S、NVIDIA A40、NVIDIA RTX 8000/6000、NVIDIA T4などを紹介し、用途や負荷などに応じて選択できると説明した。

vGPUが利用できるNVIDIAのGPU(出典:NVIDIA)
さまざまなワークロードに対応(出典:NVIDIA)
vGPUのソフトウェアには複数のエディションがある(出典:NVIDIA)
搭載されているビデオメモリをクライアントに分配して利用することができる(出典:NVIDIA)

テレワーク中のオフィスワーカー向けにも注目が集まるvGPU

 そうしたvGPUを利用したVDIだが、後藤氏によれば、利用用途が拡大しているという。従来は、CADやCAEといった、どちらかといえばプロフェッショナル用途向けに利用されることが多かったが、最近では、オフィス業務にPCを利用しているビジネスユーザー向けにも、vGPUを活用したVDIを導入する企業が増えているとのこと。

プロ向けのCADだけでなく、Microsoft Officeのようなオフィスアプリでもメリットが出てきている(出典:NVIDIA)

 後藤氏は「調査会社のデータによれば、Windows 10ではグラフィックスへのニーズが増加しており、OSのレベルでは1.3倍、アプリケーションのレベルでは2倍となっている。CPUだけでグラフィックスも含めてVDIを実現しようとするとCPUの負荷が高く、しかも処理はあまり速くない。それに対してvGPUを利用すれば、CPU負荷率を約20~60%削減し、ユーザー体感を約34%向上させることができる」と述べ、vGPUを導入することがエンドユーザーの使い勝手の向上につながると説明した。

GPUの使われ方は多様化している(出典:NVIDIA)
Windows 10になってグラフィックス処理は増加している(出典:NVIDIA)
GPUの必要性は増加している(出典:NVIDIA)
CPU負荷率を約20~60%削減し、ユーザー体感を約34%向上(出典:NVIDIA)
ユーザー体感(出典:NVIDIA)

 そして、TeamsやZoomなどのビデオ会議ソフトウェアでカメラをオンにした時のCPU負荷について触れ、vGPUがない場合にはCPU負荷が高くなってしまい、企業によってはカメラの利用を禁止する運用をしている場合もあるが、vGPUがあればCPU負荷は圧倒的に低くなり、カメラをオンにしても快適に利用できると説明した。

ビデオ会議の増加(出典:NVIDIA)
VDIでカメラを利用した時のCPU負荷の違い。緑の線がvGPUあり(出典:NVIDIA)
プレゼン資料のシェアでもたもたしているとせっかくのいいプレゼンも台無しになってしまう(出典:NVIDIA)

 こうしたvGPUの採用は進んでおり、グローバルにはボーイング、フォード、ホンダ、DENSOなどの航空機や自動車などの製造業などで採用されているという。

海外での導入事例(出典:NVIDIA)

日本生命グループでもvGPU対応のVDIを導入、Teamsやeラーニングの利用率が向上

 国内の代表的な事例として紹介されたのはニッセイ情報テクノロジー株式会社、株式会社NTTデータの2社となる。ほかにもホンダや三菱自動車、スクエアエニックスなどが事例として紹介されている。

日本でのvGPUの導入事例(出典:NVIDIA)

 ニッセイ情報テクノロジー株式会社 クラウドサービス事業部 担当部長 伊丹康雄氏は、ニッセイ情報テクノロジーが保険会社として知られる日本生命グループの本体やグループ企業に対して提供しているvGPUを活用したVDIについて説明した。伊丹氏によれば、同社ではプライベートクラウドを利用して、保険の契約管理システムや年金支払いシステム、団体保険などのミッションクリティカルなシステムを構築しているほか、同じクラウドプラットフォームを利用してVDIのサービスを日本生命グループの従業員などに対して提供しているという。

ニッセイ情報テクノロジー株式会社 クラウドサービス事業部 担当部長 伊丹康雄氏(提供:NVIDIA)
会社紹介(出典:ニッセイ情報テクノロジー)

 その同社では、「在宅型テレワークの仕組みを2015年に導入を開始し、2019年にはそれをBYODで利用できる環境を整えた」とのことで、コロナ禍になる前からリモートワーク、テレワークに取り組んでおり、すでに、ある程度の環境が出来上がっていたという。

 その上で2020年度に新しいプロジェクトとして、vGPUに対応したVDIを導入することになった。当初は500人程度のユーザー規模を考えていたそうだが、コロナ禍になったことでテレワークを必要とするユーザー数は5000人と、いきなり10倍に増えたという。このため、実際利用する側のユーザーなどにも聞き取り調査を行い、どんな環境を構築していくかを検討していった。

利用しているシステム(出典:ニッセイ情報テクノロジー)
これまでの働き方改革の取り組み(出典:ニッセイ情報テクノロジー)

 その結果として「システムを作るに当たって意図したのは、劣化しないVDIという作ること。いかにしてユーザーが快適に利用できるVDIを構築するか、ということを意識してシステムの設計を行った。その中で、Microsoft 365やTeamsなどの利用、さらにはWindowsの機能強化などにより、今後も負荷が増えることを考慮して、レンダリングが重くなっても劣化しないvGPUを選択した」と述べ、従業員の満足度を上げるために、VDIの使い勝手が悪化しないようにする目的で、vGPUの採用を決めたと述べた。

VDIのリニューアル(出典:ニッセイ情報テクノロジー)
プロジェクトの推進体制(出典:ニッセイ情報テクノロジー)
要件定義(出典:ニッセイ情報テクノロジー)

 その上で、実際にシステムを構築する段階では、1つのサーバーに2枚までしかGPU(NVIDIA M10)を搭載することができなかったが、3枚搭載できるサーバーを別途調達したことや、GPU3枚を搭載したサーバーは発生する熱量が大きいので、ラックの配置を工夫したこと、vGPUのソフトウェア側の制限で、一部のシンクライアントでは4Kディスプレイに対応できなかったが、ソフトウェアのバージョンアップでそれを回避できたことなどが紹介された。

課題(出典:ニッセイ情報テクノロジー)
システム基盤(出典:ニッセイ情報テクノロジー)

 そうしてvGPU対応VDIにした結果、従業員がTeamsを利用してやりとりをしたり、社内向けのeラーニングコンテンツとして公開している動画の視聴率が上がったりと、従業員がよりVDIを活用する方向に向かい、生産性が向上したと伊丹氏は説明した。

導入効果(出典:ニッセイ情報テクノロジー)
今後の展望(出典:ニッセイ情報テクノロジー)

VDIで国内トップシェアのNTTデータもvGPUオプションを提供開始、わずかなコストアップで大きな効果

 株式会社NTTデータ デジタルビジネスソリューション事業部 デジタルワークスペース統括部 部長 遠藤由則氏は、NTTデータが提供するVDIサービス「BizXaaS Office」(以下、BXO)について説明した。

株式会社NTTデータ デジタルビジネスソリューション事業部 デジタルワークスペース統括部 部長 遠藤由則氏(提供:NVIDIA)

 遠藤氏によれば、同社が提供するBXOは、2010年からサービス提供を開始しているVDIのサービスで、2019年に出されたIDCのレポートでは国内トップシェアだとされているという。主にクラウド経由で提供されているということだが、金融関連の企業のように、ミッションクリティカルなシステムを利用する企業向けなどには、オンプレミスでの提供も行っているという。

 そのBXOのオプションとして、NVIDIAのvGPUに対応したバージョンを提供していると遠藤氏は説明した。

BXO(出典:NTTデータ)
BXOのVDI(出典:NTTデータ)

 このvGPUに対応したVDIは、昨年から導入に向けて準備やベータテストなどを行ってきており、今年の1月からは同社の社員による運用が開始されているという。採用されているGPUはNVIDIA T4で、従来よりも安価に高性能なvGPU対応のVDIサービスを提供できていると遠藤氏は説明した。

 遠藤氏によれば、vGPU版の料金は通常のVDIに比べて月額料金で1~2割程度のコストアップになるとのことだったが、その効果を見ると十分費用対価に見合うと顧客にも評価されているとのことだった。

VDIのシステム(出典:NTTデータ)
昨年からテストし、今年の1月から本格稼働(出典:NTTデータ)

 なお、遠藤氏によれば、NTTデータのVDI導入は2015年から段階的に行われており、すでに従業員の93%が利用しているという。そのうち数千名がvGPUに対応したVDIの利用を開始しており、VDIからYouTubeの4K動画を見たり、VR動画などをスムーズに再生したり、Teamsのビデオ会議などが快適に利用できるようになった説明した。

現在の状況(出典:NTTデータ)
今後の展望(出典:NTTデータ)