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日本マイクロソフト、ヘルスケア分野のDX推進で年間40億円のビジネスを創出

 日本マイクロソフト株式会社は18日、ヘルスケア分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する取り組みについて説明会を開催した。

 冒頭で日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏は、同社が約3年前に「日本でのヘルスケア事業の売上を3年で1.5倍に引き上げる」という目標を掲げていたことに触れ、その進捗状況として「昨年末で1.5倍にほぼ到達しており、当時掲げた目標通りの事業に成長している」と報告した。

日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 医療・製薬営業統括本部長の大山訓弘氏

 ヘルスケアクラウドにおけるパートナー数も、2019年度の30社から2021年度は61社にまで拡大。ヘルスケアITパートナーだけでなく、医療機器などの業界特化型パートナー、さらにはAI、複合現実といった新技術を扱う企業やスタートアップ企業とも協業することが増え、「昨年度は日本のヘルスケア市場でパートナーとともに年間約40億円のビジネスを創出した。これは前年比の2倍にあたる」と、大山氏は実績をアピールした。

 今後について大山氏は、「ニューノーマルを見据えた上で同業界への取り組みを進める」としており、「医療機関・医薬品企業」「患者」「住民・社会全般」の3分野をそれぞれ支援していくという。

パートナー数が順調に推移

医療機関・医薬品企業に向けた取り組み

 まず医療機関では、「新型コロナウイルス感染症の影響で、Microsoft Teamsの利用者数が約4倍に増加した」と大山氏。働き方改革に活用するケースや、院内感染の防止、感染症治療などで利用が進んでいるという。

 一方の医薬品企業では、これまでにもクラウド利用が進んでいたが、「事業そのものをオンライン化する動きも出てきた」(大山氏)。コロナ禍で直接病院に出向くことのできないMR(医療情報担当者)が医師向けの情報をオンライン化し、1対多数で情報提供できるようになったほか、提供の頻度も高まり、医師とのタイムリーなコミュニケーションも可能になったとしている。

 こうした中、日本マイクロソフトでは医療者向けにTeamsの活用シナリオを提案する資料や、Teamsによる院内感染軽減対策に関する資料を無償で提供開始する。また、Teams活用や感染防止に関する無償ウェビナーも開催するとしている。

医療社向けにTeams活用ブックを無償提供

患者にオンライン診療を

 患者に対しては、「Teamsによるオンライン診療や、複合現実での遠隔診断、AI画像診断を実現するソリューションをパートナーと共に届けている」と大山氏。マイクロソフトでは、このようなニーズに応えるクラウド基盤や要素技術を提供しているが、「その基盤を医療・医薬品向けガイドラインに対応させ、コンプライアンス・AI倫理への準拠に基づいて提供してる。安全なクラウド基盤によって業務変革を実現するのがマイクロソフトの役目だ」としている。

 4月には医療関係者、患者それぞれに対し、マイクロソフト公式のオンライン診療マニュアルを無償で提供開始するという。

オンライン診療マニュアルを無償提供

 オンライン診療については、「この分野のパートナーと連携することが不可欠だ」として、パートナーの1社である株式会社インテグリティ・ヘルスケアを紹介。同社のオンライン診療アプリ「YaDoc」およびWeb版の「YaDoc Quick」では、オンライン診療時の患者と医療従事者間のビデオ通話にTeamsを採用しているという。

 インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長の武藤真祐氏は、Teamsを採用した背景について、「セキュリティが強固で、ガイドラインに準拠しているため安心して使える」点を挙げた。また、Teamsによって海外の知見を取り入れ、「オンライン診療の枠を超えたヘルスケアDXを推進したい」と述べている。

インテグリティ・ヘルスケア 代表取締役会長 武藤真祐氏

 オンライン診療には課題もある。特に、運動機能に症状が出る疾病は動きを3次元でとらえる必要があるため、オンラインで診断するのは困難だとされている。こうした課題に対し、順天堂大学はマイクロソフトの複合現実ヘッドセット「HoloLens」とモーションセンサー「Kinect」を活用し、パーキンソン病の患者を遠隔診断する実験を行った。100人以上の患者に実証実験したところ、対面診療の代わりとして患者の評価に用いることができると判断されたことから、大山氏は「離島など遠隔地からの診断や、コロナ禍での感染対策として活用できるだろう」としている。

HoloLensとKinectによる遠隔診断

住民・社会全般にPHRを

 住民・社会全般に対しては、PHR(パーソナルヘルスレコード)が活用できるよう、環境整備に取り組む。医療や産学官との連携を強化し、行政や臨床学会が求める標準化ガイドラインへの準拠を今後も推進するほか、経済産業省および一般社団法人PHR普及推進協議会を通じ、政策提言やガイドライン提言も行う。

 「特に慢性疾患の患者は、日々の食事や運動データが必要だ。現在は患者からの申告ベースでこうしたデータを入手しているが、データが見える化できればオンラインでも医師と患者のコミュニケーションが円滑になる」と、大山氏はPHRの重要性を強調する。

 マイクロソフトでは、社会全般での新たなエコシステム実現に向けた技術開発も進めている。そのひとつが、1月にサービスを開始したチャットボットの「Healthcare Bot」だ。これには、コロナ感染の疑いがある患者に向けたトリアージBotや、メンタルヘルスに関する診断Bot、診療予約に関するトリアージBotなど、医療向けテンプレートが用意されている。また、医療データ用マネージドAPIの「Azure API for FHIR」も昨年9月に日本で展開を開始し、順次機能を強化している。

 こうしたさまざまな取り組みを広めるにあたり、パートナーとの連携を今後も強化する。「IT分野ではつながりのなかったパートナーにも賛同いただいている。今後も多様性を持ったパートナーとの連携を進めたい」と大山氏は述べた。