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売上を3年で1.5倍へ――、日本マイクロソフトが注力するヘルスケア分野の取り組み

 日本マイクロソフト株式会社は4日、ヘルスケアへの取り組みに関する説明会を実施した。

 ヘルスケアは日本マイクロソフトがフォーカスしている8業種のひとつ。2005年からヘルスケアに特化したチームを発足し、営業活動を展開してきた。その結果、国内医療機関の99%がWindowsおよびSQL Serverを利用し、国内製薬会社の100%がなんらかの用途でAzureを利用。また、国内の医療機関に勤務する35万人がMicrosoft 365を契約して利用している。

 10月1日には、新たに「デジタルヘルス推進室」を設立。日本のヘルスケア業界がAI、IoT、ビッグデータ解析など最新技術とクラウド活用するために、医療機関、製薬会社、医療機器や医療サービスを提供する企業、公的機関や関係団体、関係学会などと横断的な連携を実現するための活動を行う。

 こうした取り組み強化によって、「今後3年で、クラウド利用比率を現行の売上の40%から70%へ、売上高を1.5倍に伸ばしたい」(日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤知成氏)という目標を掲げている。

日本マイクロソフトがフォーカスしている8つの業種
日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤知成氏

注力する3つのイノベーションがすべてかかわる分野

 日本マイクロソフトでは、2020年に向けた注力分野を「インダストリーイノベーション」「ワークスタイルイノベーション」「ライフスタイルイノベーション」の3分野に定めているが、ヘルステックを含むパブリックセクター事業本部を統括する佐藤氏は、「ヘルスケアは注力するインダストリーのひとつであり、ワークスタイルイノベーションは病院内の働き方改革推進につながるもの。ライフスタイルイノベーションの点でも、生まれる前から人生の最後まで、人の一生に寄り添うことを目指している。3つのイノベーションがすべてかかわるのがヘルステック分野」と説明する。

3つのイノベーションを推進

 マイクロソフトの既存ソリューションは、すでに多くの病院や製薬会社などに導入されているが、「イノベーション」を目標としていることから、従来とは異なる取り組みにもチャレンジしている。

 例えば、2018年5月からスタートしたデザインシンキングのアプローチについては、大分県大分市鶴崎地区で地域医療を展開する社会医療法人 敬和会でワークショップを開催。地域医療における課題解決に向けて、医療機関に加えて行政機関、教育関連、地元企業から有志が参加してワークショップを行う様子が、ビデオで紹介された。普段は異なる組織にいる人が健康をキーワードに協議することで、新しい発想で課題解決ができないのかを検討していく。

デザインシンキングのワークショップを大分市鶴崎地区で開催

 日本マイクロソフトとしては2005年からヘルスケアの専任組織を作り、この分野にフォーカスしてきたが、ヘルスケア分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)のシナリオとして、次の4点を挙げる。

患者とのかかわり

デジタル技術活用によって、服薬指導や遠隔地診断などを効率化し、生活の質向上につながることを目指す。

チーム対応力強化

働き方改革を含む、地域でさまざまな職種同士の連携を含めた総合的な対応強化につながる連携の実現。

臨床および運用の有効性最適化

ゲノム解析、AIによる画像診断など最新技術を活用したワールドワイドでの事例、最新技術などを紹介。

ケア全体の変革

すべてを包含し、エンド・トゥ・エンドでケア全体の変革実現を目指す。

ヘルスケア分野におけるDXのシナリオ

 さらに、同社が提供している「ヘルスケアクラウド」の特性として、改革を実現するツール提供による「ワークスタイルイノベーション」を実現し、働き方改革につなげていくことが可能になると説明する。

 また、医療データはセンシティブなデータであることから、高セキュリティ実現による「セキュアクラウド」を提供することや、世界規模での研究開発体制を持っており、その知見を提供できる「アドバンスト テクノロジ」といったことを強みとして挙げた。

 なおセキュアクラウドについては、「世界規模でのセキュリティ対策の実施、日本の法律に基づいた運用を行っており、預かっているデータについてはマイクロソフトでは一切利用せず、お客さまのものとして中身には関知しないといった姿勢を貫いている。コンプライアンスについては、グローバル、日本それぞれの認定取得を勧めており、業界最大の認定取得数となっている」(日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 医療・製薬営業統括本部長 大山訓弘氏)とアピールする。

マイクロソフトが提供するヘルスケアクラウド

 すでに、医療業界では、国立研究開発法人 国立がん研究センターなど、製薬業界では中外製薬、研究機関では理化学研究所など、多くの機関がヘルスケアクラウドを導入しているとのこと。

 ヘルスケアクラウドを使って患者情報を扱っている事例として診療所向け電子カルテ、医療画像ビッグデータ分析、内視鏡胃がん検診読影支援システムなど、高いセキュリティを実現しなければユーザーとなってもらうことが難しい分野でも、着々と導入が進んでいるアピールする。

 イノベーションの事例としては、済生会熊本病院の取り組みを紹介した。同病院の中尾浩一院長は日本マイクロソフトと連携した理由について、「当院は世界水準の医療を提供するというビジョンを掲げ、米国の国際医療機能評価期間JCIの認証を取得するなどの取り組みを進めている。その中でコミュニケーションは重要な核であり、Microsoft Teamsを活用。看護部、臨床工学部、放射線部といった、部を超えた情報共有が実現している」と説明した。

ヘルスケアクラウドの活用事例
社会福祉法人 恩賜財団 済生会熊本病院の中尾浩一院長

 最新テクノロジーについては、AIの活用、HoloLensを活用したMixed Reality(MR)によるシミュレーションなど、最新技術を使ったソリューションを提供するベンダーも登場しており、こうしたソリューションも提供していく。

AIを活用したソリューションの例
HoloLensを活用したMRソリューションの例
株式会社エムティーアイが開発したエピトープ解析システム「MODELAGON」を、株式会社ナレッジコミュニケーションのHoloLensデータ連携ソリューション「ナレコムVR」によってMRで抗原対予測結果を可視化し、共有する実証実験のデモ

 なお、10月1日付で発足するデジタルヘルス推進室は、営業だけではフォローできない日本でのヘルスケア分野での最新技術活用を支援するほか、医療機関だけでなく公的機関や製薬会社、マイクロソフトのパートナー企業との連携、横断的な活動などを推進するための組織として、積極的に活用していく計画だ。