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日本IBMがパートナー事業戦略を説明、「Sell」「Build」「Service」の3種類で支援を提供

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は17日、パートナー事業戦略について説明。IBM製品のサービスの再販を行う「Sell」パートナーに加えて、組み込み型を含めて高付加価値のソリューションアセットを提供する「Build」パートナーと、高付加価値のサービスを提供する「Service」バートナーへの支援を強化する考えを示した。

パートナー協業モデルを拡大する

 日本IBM 常務執行役員 パートナー・アライアンス事業本部長の三浦美穂氏は、2021年の重点施策として、BuildおよびServiceパートナーとの協業を加速する姿勢を打ち出しながら、「これまでは、IBMの製品、サービスを再販するパートナーとの取引が大半であったが、最近では、IBMの技術をパートナーがそしゃくし、組み込んでお客さまに提供する仕組みや、プラットフォームやシステムインテグレーションのなかにIBMの技術を活用するビジネスが増加している。再販についても付加価値を高める方向にあるが、Build、Serviceといった領域の新たなパートナーとの協業を進めていくのが、日本IBMのパートナー戦略の大きな変更点である。手探りの部分もあるが、パートナーとともに共創し、苦労し、発見していく活動に取り組みたい」とした。

 パートナー事業においては、「Let's create what's next, together」をスローガンに掲げるという。

日本IBM 常務執行役員 パートナー・アライアンス事業本部長の三浦美穂氏

 米IBMのアービンド・クリシュナCEOは、「IBMは、パートナーとのエコシステムに10億ドルを投資する」と発言しており、各種支援プログラムの実施や設備の強化、資金面からの支援などを含め、日本におけるパートナー戦略が一気に加速することになりそうだ。

IBMの技術が“黒子”となってBuildパートナーを支える

 Buildパートナーは、ソリューションベンダーなどが対象となり、パートナーが持つソリューションやアセットに、IBMのオープンなハイブリッドクラウドテクノロジー、AIテクノロジーなどを活用。顧客への提供価値を高めることになる。

 「IBMのハードウェアやミドルウェアを組み込んだり、クラウドを採用したりすることによって、パートナーのビジネスを促進してもらう。この領域では、IBMの技術は黒子でいい。IBM製品を使っていることを表に出すことなく利用してもらう」という。

 ブイキューブでは、同社のコミュニケーションツールにIBMのテクノロジーを採用したほか、日本サード・パーティーでは、Red Hat OpenShiftを活用した「Kyrios for ISV」を開発。ダイワボウ情報システムでは、マルチクラウド環境での稼働を可能にするクラウドネイティブアプリ「DXアプリ開発環境」を構築した例を紹介した。

ビジネス・エコシステムのさらなる推進に向けて-Build

 「100社以上のパートナーがESA(Embedded Solution Agreement)契約を結び、組み込み型ビジネスを推進している。これを増やしていく。また一昨年から、『DXチャレンジプログラム』を開催し、新規事業創出に向けたコンテストを通じて、アジャイルな開発手法を学ぶ機会にもつなげている。昨年は70社が参加した。さらに、地域リーディングカンパニーとのコミュニティ形成の推進などを通じて、パートナーの新たなビジネスを支援している」と述べた。

 加えて、Buildパートナー専任営業チームを新設するとともに、ローカルエリア営業チームを増強。Buildパートナー支援を行うためのHybrid Cloud Build Teamも新たに発足する。

 「IBMはかゆいところに手が届かないといわれる。それを解決するには、顧客のそばにいるバートナーを通じてもっとビジネスをしていく必要がある。ローカルエリア営業チームは前年比で倍増している。地方では再販パートナーが多かったが、Buildパートナーが増加しており、そこを支援したい」という。

 なお、新たに発足するHybrid Cloud Build Teamは、全世界にて展開している組織で、顧客に対するDX提案や、パートナー自身のDXの推進において、クラウドアーキテクト、デベロッパー、データサイエンティスト、セキュリティアーキテクトといつた専門性を持った技術チームが、5~20週間といった一定期間に渡り、無償でパートナーを支援する。

 「Buildパートナーとの共創による先進的なソリューション開発を支援する」という。

Hybrid Cloud Build Team

IBMのクラウドテクノロジーなどを活用するServiceパートナー

 Serviceパートナーは、システムインテグレータ、マネージドサービスプロバイダーなどが対象で、パートナーが提供するSIサービスやマネージドサービスに、IBMのクラウドテクノロジーなどを活用することになる。

 「オープンなハイブリッドクラウド環境で、5Gやエッジ、AI、セキュリティといったテクノロジーを組み合わせて協業を推進していくことになる。大手システムインテグレータでは、インドをはじめとするグローバルのラボとも直接議論をしたり、アプリケーション開発を支援したりといった動きがある。さらに、パートナーのソリューションを広く活用してもらうために、ジョイントセールスやジョイントマーケティングにも力を注いでいる」と述べた。

 富士通とは、ローカル5Gにおいて協業。IBMがエッジとオープンテクノロジー環境を提供し、PoCを開始しているほか、東芝デジタルソリューションズでは、IBMが提供するオープンハイブリッドクラウド環境を活用して、顧客のビジネス要件に合わせた最適なクラウド環境を開発し、運用サービスを提供している。

 岡谷システムでは、介護事業所向けのAIを活用した業務支援システム「トリケアトプス」のコンテナ化において協業。データベース環境構築を、パートナーのセントラルソフトサービスが担当し、今後運用支援を予定しているという。

 「従来ならば、IBMと競合環境にあった企業とも、オープンなテクノロジーを活用してサービスを広げるという動きが始まっている」とした。

ビジネス・エコシステムのさらなる推進に向けて-Service

 また、日本IBMでは、ハイブリッドクラウド環境のコスト負担を軽減するための「Cloud Engagement Fund」プログラムを用意していることにも言及。「全世界で実施しているプログラムであり、2020年半ばからスタート。日本でもすでに活用しているパートナーがいる。顧客がハイブリッドクラウドやDX化に取り組む際に、クラウド使用料などの初期費用や移行費用をIBMが負担したり、パートナーによる営業活動を支援するために報奨金を提供したりといった仕組みとなる。案件ごとに、パートナーとともに投資計画を立案し、審議して実行に移すことになる」という。

Cloud Engagement Fund

IBM製品を効率的に市場に届ける役割を担うSellパートナー

 Sellパートナーは、ディストリビューターやリセラー、特約店などが対象であり、IBM製品を効率的に市場に届ける役割を担う。

 「ディストリビューターやリセラーとも協業を広げていきたい。パートナーの利益確保や効率性を高めるための支援が大切であり、製品の技術や価値を提案するために、製品・ソリューション担当営業スペシャリストによる協業を強化する」という。

 IBMのセキュリティ製品である「IBM Security Verify」を東京リージョンからサービス開始したのにあわせ、再販および組み込み提案において、ベニックソリューション、エクサ、日本情報通信と協業した。

 ネオアクシスとは、IBM iユーザーのクラウド化を支援するために、IBM Power Systems Virtual Server向けに新たにサポート/サービスメニューを追加するといった点で協業しているという。

 さらに、複雑だった契約プロセスを簡素化したり、問い合わせが集中する契約および業務関連については、チャットボットで迅速に対応したりといったように、パートナー業務の効率化も進めていることを示した。

ビジネス・エコシステムのさらなる推進に向けて-Sell

すべてのパートナーに共通した強化策

 一方で、すべてのパートナーに共通した強化策についても触れた。

 パートナーが顧客を支援するための営業支援プログラムでは、初めてIBM Cloudを利用するパートナーに、最大1万2000ドル分まで、無料でクラウドが利用できる「IBM Cloud 無料クレジット」を提供。最新のデジタルテクノロジーを活用して、業界や社会の課題を解決する新しいアイデアを創出し、事業化を目指すことを目的としたコンテスト「DXチャレンジプログラム」や、デベロッパー向けの人気コンテンツをよりすぐり、12週間でクラウドの基礎から応用までを学べるオンライン教育の「IBM Developer Dojo」、IBM社員向けの営業および技術資料などの各種情報を、パートナーにも提供するデジタルラーニング基盤「Seismic」を用意していることを示した。

 なお、日本IBMの社員は、Seismicを利用して、年間40時間以上、職務によっては80時間以上、新たなスキルを学んでいるという。

 また、パートナーが、市場開拓やビジネスを醸成するための支援を行うマーケティング支援プログラムでは、IBM製品やソリューションに精通し、協業を推進しているパートナーを「IBM Champion」として認定する「パートナーインフルエンサー」を実施。日本から5人のChampionを輩出し、社会活動やマーケティング活動などで協業している。

 そのほか、IBMが支援金を提供し、専任マーケティングエージェンシーと一緒に活動する「共同マーケティングプログラム」、デジタルマーケティングに関するスキル習得を支援するプログラムとして、無償のマーケティングオートメーションツールである「My Digital Marketing」の提供や、セミナー開催に必要なデジタル基盤や、開催支援のサポートを無償で行う「デジタルセミナー開催基盤」の提供も行う。

ビジネス・エコシステムのさらなる推進に向けて-支援プログラム

 一方、三浦常務執行役員は、IT市場変化についても言及した。「コロナ禍で多くの企業において、デジタル変革が加速しており、厳しい経営状況のなかでも、国内企業の69%がDXの投資を継続すると意思表明をしている。日本には変化を望まないパートナーや顧客が多いため、時間がかかり、3~5年先と思われていたDXが、新型コロナによって進み、デジタル化に対する意識が高まった。それとともに、デジタルを通じたパートナーとの協業が増え、競合や顧客を含めて、新たな時代のパートナーを求める動きが見られている。そして、クラウドを取り込むことを考えている企業が多く、そこに対する投資は前年比30%以上になっている。ハイブリッドクラウドやAIの活用にも注目にも集まっている」とする。

 また、「そうしたなかで、日本IBMは、顧客やバートナーに選ばれる特化した技術を伝え、それを加速するためのエコシステムを構築しなくてはならない。パートナーの強みを知り、日本IBMが支援できることを、より明確にする必要がある」などと述べた。