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日本IBM、パートナーとの共創を加速する新プログラム「IBM Partner Plus」を解説
既存パートナープログラムのさまざまな面を改善
2023年2月7日 06:15
米IBMでは、ビジネスパートナー向けの新たなプログラムとして、2023年1月にグローバルで「IBM Partner Plus」を発表。日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は6日、これを受け、日本における取り組みについて説明した。
従来のパートナープログラムであるIBM Partner Worldを刷新したもので、日本IBM 専務執行役員 パートナー・アライアンス&デジタル・セールス事業本部長の三浦美穂氏は、「(従来のものは)、パートナーから、支援や配慮が足りない、プログラムが整備されていないといった声があった。ルールや手続きが煩雑であり、情報が一元化されていないといた指摘のほか、収益性の課題や、技術支援が足りないといった声もあった。日本をはじめとした世界各国のパートナーの要望を反映したものとして、新たなパートナープログラムを開始することになる」と位置づけた。
新プログラムは、リセラーやハイパースケーラー、テクノロジープロバイダ、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)、システムインテグレータ(SIer)など幅広いパートナーを対象に実施。新規および既存のパートナー企業の成長を促進し、自社の収益の見通しを管理できるような内容に設計したという。
「日本IBMにおけるパートナービジネスの構成比は3~4割。これを今後数年で5割にまで高めたい。新たなプログラムを通じて、パートナーとの共創を加速させたい」と意気込みを見せた。
IBM Partner Plusの4つの特徴
今回のIBM Partner Plusは、「取引容易性強化」、「技術共創強化」、「簡素化と明確化」、「案件創出貢献」の4点に特徴があるとのことで、「報奨金制度や技術支援といった特定の支援策を示すものではなく、改善したプログラムの総称がIBM Partner Plusになる」とした。
このうち「取引容易性強化」では、新たなプログラムに対応した必要なツールや情報、問い合わせを統合したパートナー向けの情報ポータルとして「IBM Partner Portal」を設置。より簡素化した契約書の提供や、創出された案件の先行登録による案件保護の権利獲得、受領済み報奨金の確認、専門知識の習得とその状況把握、マーケティングや拡販に向けた無償情報の入手および活用、パートナー個別のカスタマイズ画面の提供などを行う。
「情報へのアクセスが煩雑であったという声に対応し、情報を一元化し、情報へのアクセスを容易にした。日本IBMの営業部門が利用している情報もパートナーと共有する。また、日本IBMの社員が自らの学習のために使っているeラーニングの仕組みも、パートナーに無料で提供する。全国各地のパートナーにとってもIBMの情報が入手しやすくなる。報奨金の金額についても、事前にシミュレーションでき、無償で利用できるツールなども提供する。早期に案件を登録すると追加で報奨金がもらえるといったメニューも用意している。日本IBMと取引するための情報をすべて集約している」と語った。
「技術共創強化」は、「技術支援が不足しているという声に応えるものであり、今回の新プログラムにおいて、最も力を入れて強化した部分にな」とし、技術の提供や研究、知見の共有、販売促進までを含めたメニューなどを用意。パートナーの技術力を高めるための各種支援を行う。これらのサービスは、2023年7月から提供する予定だ。
「パートナーに技術力を高めてもらうこと、ソリューションを開発してもらうこと、案件創出や共同マーケティングに取り組むこと、提案活動の支援や、案件成約後も寄り添って技術支援を行っていくことになる。単純に技術力を高めてもらったことに対して報奨金を支払うのではなく、日本IBMの営業、エンジニアがパートナーと一緒にソリューションを開発し、案件を創出することに汗をかくプログラムになっている」とした。
また、パートナーを3つのレベルにわけ、それぞれのレベルで提供する技術支援の内容を切り分ける考えも示した。
再販パートナーのSell、サービスパートナーであるServiceでは、技術認定保有者が3人いるとSilver、技術認定保有者が7人、IBM製品の年間売上高が100万ドル以上だとGold、技術認定保有者が14人、年間売上高が1000万ドル以上だとPlatinumとなる。
これに対して、組み込みパートナーであるBuildでは、組み込みソリューションを1件獲得するとSilver、組み込みソリューション1件と、IBM製品の年間売上高が10万ドル以上だとGold、組み込みソリューション1件と、年間売上高が100万ドル以上だとPlatinumとなる。
「Buildにひいきする内容になっている。これは、組み込みパートナーと縁を結びたいという、日本IBMの姿勢の表れである。1件だけでも、IBMの技術をソリューションに組み込んでもらい、登録してもらえばいい。これまでは同じものを大量に販売するというパートナーに対して厚い支援を行っていたが、新たな仕組みでは、地域の中堅規模SIerでもメリットを享受できるようになる。Buildパートナーを増やしていきたい」と語った。
「簡素化と明確化」では、シンプルな報奨金制度を新たに採用。すべての製品において、共通の仕組みを導入するとともに、競争力がある明確な仕切り価格を提示。成長領域における案件に対しては、技術バッジの取得状況をもとにした熟練度に応じ、報酬金増加させるという。
「ハードウェアとソフトウェアで分断されていた報奨金制度をシンプルにし、枠組みをわかりやすいものにした。日本IBMが戦略的と考える分野や、技術バッジの数に応じて、販売後にもキャッシュバックする仕組みを用意した」とし、「日本IBMとパートナーが目指す分野に対して、一緒になってソリューションを提供し、それに対して手厚く報酬金を支払うことにした」という。新たな報奨金制度は、2023年4月1日から適用する。
「案件創出貢献」では、2つの新たなマーケティング施策を用意した。「日本IBMのこれまでのマーケティング施策は、条件が厳しくて使いにくいという声があり、それらを反映して、内容を見直した。パートナーとともに創出したソリューションを、IBMが支援する形で、より効率的に市場に届けていく。日本のパートナーがグローバル展開する際にも貢献できる内容になっている」という。
マーケティング施策のひとつめは、案件創出活動を効率化する「Demand Engine」である。プロモーションの際に利用できるメールのテンプレートや、SNSのひな型、成果を見える化するためのツールといったものを、すぐに使える「マーケティングお役立ち素材」をデジタルアセットの形で用意。すべてのパートナーに無料で提供する。
もうひとつは、ビジネス成長を加速するGrowth Programであり、GoldとPlatinum
のパートナーに対して、共同マーケティング費用の負担を増額することになる。「より成長を遂げているパートナーに対する支援を厚くし、一緒に高い成長を遂げていく」とした。これらの施策は、2023年7月から提供を開始するという。
なおIBMでは、2019年からパートナーファーストを打ち出し、パートナーとの共創や協業ビジネスを加速。また、2021年には、パートナーエコシステムに対して、10億ドルの投資を行うことを発表した。ここでは、パートナーの特性にあわせて、Sell、Build、Serviceの3つの協業モデルを軸に、各種施策を展開してきた。
「ここ数年は、協業に向けたテクノロジー戦略を強化。オープンなテクノロジーを推進するために、Red Hat OpenShiftの活用やソフトウェアのコンテナ化に加えて、組込型テクノロジーの推進に向けて、AI製品のライブラリをパートナー企業のソリューションに組み込んで利用できるEmbeddable AIプログラムを開始した。IBM製品であることを公言しなくても、製品や技術を部品化し、広く活用してもらえるものになる」と説明。
また、「パートナービジネスを支援するための営業、エンジニアを増強したのに加えて、パートナーとの協業を加速するために、コンテナ化を一緒に促進するコンテナ共創センター、技術面からサポートし、PoCを行ったりするパートナーソリューション共創センターを設置。さらに、組込型ビジネスの開発支援を行うBuild Labの設立を通じて、日本IBMだけでなく、グローバルの専門エンジニアとの連携により、最先端技術に関す情報をパートナーに提供することができている」とも述べた。
IBM製品の再販を通じたパートナーのビジネスを加速する「Sell」では、パートナーソリューションを組み合わせたハイブリッドクラウドビジネスを推進。2022年のIBM Cloudの売上高は前年比で約2割増、そのうち、クラウドでPower製品を利用できるPower Virtual Serverは3倍以上の成長になったという。
「iシリーズを販売していたパートナーが、クラウドサービスを組み合わせたり、パートナーのソリューションを組み合わせたりすることで、ハイブリッド型ビジネスを促進している成果が出ている」とのこと。また、ソフトウェアを軸とした成長領域におけるパートナー開拓が進み、2022年のソフトウェア領域における新規パートナー数は400社以上になったとした。
IBMテクノロジーを組み込んだパートナー商材を展開する「Build」においては、コンテナ共創コミュニティを通じたハイブリッドクラウドの取り組みを推進。コミュニティ登録者数は1124人となり、2022年の勉強会参加人数は1270人、組み込みソリューションの数は、2022年に107件増加したという。
「IBM製品であることを明示せずに、技術要素を組み込んでもらうことができる。今後も、ISVや自らサービスアセットを持っているパートナーへの支援を強化していく」と述べた。
IBMテクノロジーを導入し、サービスを強化するなど、国内システムインテグレータやMSP(マネージドサービスプロバイダ)との協業を推進する「Service」では、パートナー共創センターを通じて、枠を超えた協業を加速しているという。
NECとは、ローカル5G活用保全ソリューションを開発。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)では、ハイブリッドクラウド支援サービス「OneCUVIC」のグローバル展開を開始。NTTデータとは、Turbonomicの共同PoCを開始している。「これまでは競合と言われていた企業との協業が相次いでいる」と述べた。
また、三浦専務執行役員は、「IBMは、ハイブリッドクラウドとAIを軸にして、パートナーのDXに貢献したい。さらに、自社テクノロジーだけでなく、オープンなテクノロジーを活用することで、顧客の資産やパートナーのソリューションの可搬性を確保したいと考えている。一度開発したものを効率よく、ほかのシステムやほかの顧客で活用できるようにしていきたい。また、パートナーと技術を共有し、市場へのメッセージも共有し、テクノロジーを市場に届けていきたい」などと述べた。