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日本マイクロソフト、Azureハイブリッド特典をRHELやSLESへ拡張
今後1年で100社のLinuxサーバー利用企業をAzure環境へと移行させる目標を打ち出す
2020年11月19日 11:01
日本マイクロソフト株式会社は19日、今後1年間で、100社のLinuxサーバー利用企業を、Microsoft Azure環境へと移行させる計画を打ち出した。それに向け、「Azure Hybrid Benefit(Azureハイブリッド特典)」において、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)およびSUSE Linux Enterprise(SLES)にも対象を拡大する。
Azure Hybrid Benefitは、オンプレミスのサーバーをAzure上に移行する際に活用できるサブスクリプション特典で、これまではWindows ServerおよびSQL Serveだけが対象となっていた。
今回の対象拡張により、ユーザー企業が所有するRHELおよびSLESサブスクリプションを、Azure上のLinux OS部分のサブスクリプションとして利用できるBYOS(Bring Your Own Subscription)を実現する。
これによって、クラウド移行後に必要となるのは仮想マシンのインフラコストだけとなるため、コストを最適化した上でAzureへの移行が可能になる。同社の試算では、Azure Hybrid Benefitを利用することで、最大40%のコスト削減が可能になるとしている。
日本マイクロソフト Azure ビジネス本部の上原正太郎本部長は、「市場では多くのLinuxサーバーが、オンプレミス上で稼働している一方で、クラウド移行にあたっては、コストや移行の手間が課題となっているケースも散見される。今回のAzure Hybrid Benefitにおける新オプションの提供は、こうした需要に応えたものであり、これまで以上に、日本の多くの企業を対象に、デジタル化に寄与することができる」と述べている。
同社によると、昨年度実績で、すでに152社の大手企業や中堅企業がAzure Hybrid Benefitを利用して、オンプレミスからクラウド環境へ移行している。コニカミノルタでは、オンプレミスから国産クラウドへ移行したサーバーでSAP ERPを利用して、アジア地域の販売管理システムを稼働させていたが、これをAzureへと移行。その際、マイクロソフトのライセンス特典を利用するとともに、マイクロソフトのサポートを新たに契約し、コストを最適化しながら、接続性とスケーラビリティの飛躍的な向上を実現したという。また、セキュリティレベルの引き上げ、タウンタイム最小化、移行時の大きなトラブルの回避というメリットがあったとのこと。
クラウド化においては、移行にかかるコスト、移行作業における手間、移行後のサポートが大きな課題となるなか、Azure Hybrid Benefitによって、これらの課題を解決できるというわけだ。
今回のAzure Hybrid Benefitの対象拡大により、Linuxサーバーからの移行時においてもサブスクリプションを買い直す必要がなくなるため、コストを最適化できること、テスト環境から本番環境への移行において、再展開や再起動のダウンタイムを発生させることなく円滑化できるといったメリットのほか、RHELおよびSLESサブスクリプションをAzure Portal上で一括管理したり、Azureのサポート窓口において、RHELおよびSLESを含む一元的なサポートが受けられたりするメリットもあるいう。
同社では、「Red HatおよびSUSEとの連携により、Azureと完全に融合されたBYOS特典を提供できる。また、初期コストだけでなく今後の運用コストも削減することができる」としている。
Azureにおいては、Linuxやオープンソースの活用が進展している。仮想マシンコアの50%以上がLinux on Azureを実行。LinuxベースのイメージがAzure Marketplaceの約60%を占めていること、約4700社がAzure上でオープンソースデータベースを利用していることが明らかにされている。
実際、Linuxやオープンソースデータベース、Kubernetesなどのオープンソーステクノロジーを活用する「Open Source on Azure」の利用は世界的に広がっており、日本においても、トヨタ自動車や富士通、東京大学などが利用している。
Linuxサーバーのクラウド移行を促進させる施策を実施
一方、日本マイクロソフトでは、今回のAzure Hybrid Benefitの対象拡張に加えて、クラウドへの移行を支援する「Azure移行プログラム」や、パートナー各社との無償ワークショップなどを通して、今後1年間で100社のLinuxサーバー利用企業をAzure環境へと移行させる目標を打ち出した。
日本マイクロソフトでは、Microsoft Azure事業において、「クラウドネイティブなアプリ開発と既存アプリのモダナイズ」、「既存アプリケーションのAzureへの移行」、「クラウド導入プロセスの標準化とクラウド・センター・オブ・エクセレンス(CCoE)文化の醸成」の3点を、今年度の注力シナリオに掲げている。
今回のAzure Hybrid Benefitの対象拡張は、そのなかで、「既存アプリケーションのAzureへの移行」における戦略的な取り組みと位置づけられる。
IDC Japanの調べによると、国内サーバー市場においては、Windows Serverが55%、Linux Serverが29%となり、残りがUNIXおよびメインフレームとなっている。また、このうち、50%以上の企業が2年以内にクラウドへの移行を検討しているという。
これまでのAzure Hybrid Benefitの対象範囲では、Windows Serverの領域だけが対象だったが、対象をLinuxにも拡張したことで、8割以上のオンプレミスユーザーを対象にした移行提案ができるようになる。
言い換えれば、これまでの施策が、Windows ServerからAmazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud Platform(GCP)といった他社クラウドへの移行を阻止するものであったのに対し、今回の施策は、Linuxサーバーのユーザーを積極的にAzureに取り込みに行くという、攻めの意思が感じられる。
また同社では、今後のAzureに向けた施策として、移行コストの効率化を実現するためのオファリング群である「Azure Migration Program」や、1日でAzureの技術詳細とビジネスへの活用を学べるワークショップ「Immersion Workshop」、組織内のデジタルスキル育成を支援するプログラムやトレーニングの強化を図る「Skilling」を提供。新設した情報発信基地であるAzure Baseを通じた情報提供の強化などに取り組む考えを示している。
Azureでは、今回、対象を拡張したAzure Hybrid Benefitのほか、「Azureリザーブドインスタンス」、「延長セキュリティ更新プログラム」といったコスト最適化オプションを提供しているが、Azure Migration Programのなかでは、さらに、移行プロジェクトへのファンディングとパートナーマッチングを行う「ECIF」、Azureエンジニアリングチームによる無償支援「FastTrack for Azure」、移行に必要なスキルのトレーニングを提供する「Enterprise Skilling Initiative」といったオファリングを提供する。
加えて、16社のAzure移行支援パートナーとの連携を図りながら、クラウドへの移行を支援する考えである。