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日本マイクロソフトが金融向け戦略を発表、特有の課題を持つ市場のDX実現を支援

 日本マイクロソフト株式会社は10日、2019年度の金融市場向け戦略を発表した。ほかの業種同様、金融機関向けリファレンスアーキテクチャを発表するとともに、業務変革を実現するための基盤として「Financial-grade Cloud Fundamentals(FgCF)」を提供し、ITインフラ、ルール・ガバナンス、IT人材の近代化といった課題を解決していくことを支援する。

 また、日本マイクロソフトが構築したハイブリッドクラウド基盤「ホームクラウド」の運用を開始した第一生命が、どのようにDXに取り組んでいるのかを紹介。金融業ならではの課題や、それにどう対処しているのかを明らかにした。

大手はなんらかの個所でMicrosoft Azureを採用している

 日本マイクロソフトでは2019年度の施策として、7つのインダストリーに注力し、各インダストリー別戦略を発表している。金融については2018年度も事業戦略を発表しており、それに続く1年ぶりの事業戦略発表となる。

 日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 金融サービス営業統括本部 業務執行役員統括本部長の綱田和功氏は、「昨年も日本の金融機関で、マイクロソフトのクラウド採用比率が高まっているとお話ししたが、1年を経過しさらに高まっている」と、データをもとに最新の実績を紹介した。

日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 金融サービス営業統括本部 業務執行役員統括本部長の綱田和功氏

 Microsoft Azureの成長率は前年比223%、Microsoft Azure採用企業は前年比200%プラス、グローバル主要決済金融機関のマイクロソフトクラウド利用率は90%となっているという。

マイクロソフトクラウドの金融市場での成長

 金融機関のMicrosoft Azure採用は、「ロゴ許諾企業数だけでも1ページにおさまらないくらいの数になっている。大手はなんらかの個所でMicrosoft Azureを採用しているが、最近は大手に加え地銀でもクラウド採用が活発に行われるようになってきている」(綱田氏)と、さらに増加する傾向にあると説明している。

 さらに金融機関の採用増加に向け、経済産業省の「DXレポート」に示された「2025年の崖」を乗り越えるために、「業務変革(DX)を実現する方法として、新たなビジネスモデルの模索、迅速な意思決定と具現化」「業務変革を実現する基盤(Modernization)として、レガシーシステムからの脱却、技術的負債の解消」と、目指すべきIT像を提案する。

 これを実現するものとして提案されたのが、金融機関向けリファレンスアーキテクチャだ。2019年第4四半期から順次リリースを予定している。

2025年の崖
2025年の崖を乗り越えるために目指すべきIT像

Intelligent BankingとIntelligent Insurance

 業務変革を実現する方法としては、Intelligent BankingとIntelligent Insuranceを進める。

 Intelligent Bankingはデータ活用からSociety 5.0を支える銀行業となるためのアーキテクチャ。「従来の銀行業務である預金、融資、為替のデジタル化にとどまらず、キャッシュレスの実現、連携機能によって、コンサルティング、マーケティング、スコアリング、オープンイノベーションといった新たな銀行業務への拡大につなげることができる」(日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 金融サービス営業統括本部 インダストリーエグゼクティブの笠原淳子氏)。

 また、「これまでの金融業の流れに加え、いつ、店を使ったのかといった情報をもとに、加盟店がサービスを提供。スコアリングを行うなど、消費者に寄り添ったサービスを行うことができる。これをさらに発展させることで、地域通貨サービス提供といった可能性もある」(笠原氏)という。

Intelligent Banking
日本マイクロソフト エンタープライズ事業本部 金融サービス営業統括本部 インダストリーエグゼクティブの笠原淳子氏

 一方のIntelligent Insuranceは、新しい保険業実現に向けたアーキテクチャ。従来の保険業の持つ、“万が一”の事態が起こった場合でも救われる機能に加え、人生をたのしむ、日常をたのしむ、健康をたのしむといった、人生を豊かにするエコシステムにつながるサービス提供を実現する。

 「これまでの保険は、不安やリスク解消につながるプロダクトアウト型だったが、これからはやりたいことに寄り添う、顧客の人物像をもとにしたサービスへと変化する」(笠原氏)とした。

Intelligent Insurance

 これを実現するためのリファレンスアーキテクチャはパートナー経由で提供するが、それぞれの金融業が、競争力をつけたい個所に集中していくのかを決定できるものになっている。

 こうしたDX実現に向けては、「データ収集基盤がDXには不可欠。しかし、容易に構築できない。そこでマイクロソフトでは、ネイティブなマルチクラウド活用のためのベースラインとなる、フレームワークとベースガイドラインとなるFinancial-grade Cloud Fundamentals(FgCF)を提供する」(綱田氏)と説明。

 そしてFgCF構築にも重要な役割を果たした第一生命保険の事例を紹介した。

Financial-grade Cloud Fundamentals(FgCF)

次世代システム基盤「ホームクラウド」を運用する第一生命

 第一生命は2019年9月末から、次世代システム基盤「ホームクラウド」の運用を始めた。全社的な取り組みとしてDXを継続していくことを目指したシステム基盤で、既存システムのモダナイゼーションなどを行う守りのITモード、環境の変化に対応する競争力強化を図る、攻めのITモードの両方からなる。

 第一生命 ITビジネスプロセス企画部長の若山吉史氏は、「保険業を取り巻く環境は大きく変化している。健康寿命の延伸と医療費の抑制により、生命保険業の役割として社会保険制度の補完という役割も担うという新しい方向性が生まれている。そこで従来の保険機能に加え、予防・早期発見も必要となっている。これを具現化したのがAzureをプラットフォームとしたアプリ『健康第一』。これは当社のDXの先行事例で、2017年3月の提供開始以来、ダウンロード数114万、利用登録者数は45万以上となっている。こうしたサービスとともに、経営戦略には守りのITとして既存ITシステムの徹底効率化と、攻めのITとして競争力を強化する、2つの異なる姿勢を持ったITシステム、バイモーダル戦略が必要となる」とアピールした。

第一生命 ITビジネスプロセス企画部長の若山吉史氏
第一生命におけるDXの先行事例
バイモーダル戦略の必要性

 さらなるDXを進めるために、2つの異なるITシステムを下支えする基盤として導入されたのがホームクラウドだ。保険業はほかの業界に比べ契約期間が長く、50年を超える契約者が存在する。「これだけ長期間の契約を残すにはCOBOLを言語としたホストが適している。現行ではホストで経営管理することが最適となる」(若山氏)と、バイモーダル戦略が必要な要因を説明する。

 こうした保険業ならではの実態を踏まえた第一生命との連携から日本マイクロソフトにとっても得るものは大きく、「FgCFは第一生命の知見を多数もらっている。業務変革を実現する基盤として、ITインフラ、ルール・ガバナンス、IT人材の近代化を進めながら、データの収集・洞察・活用を中心としたITシステムの再編成により、業務変革を進めていくお手伝いをしていきたい」(綱田氏)と話している。

DX より大きく加速するための取り組み
Azure PaaSによるホームクラウド