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SAPジャパンが2017年度の事業戦略を発表、顧客とともにイノベーションを創出し、デジタル化を支援

 SAPジャパン株式会社は2日、2017年度の事業戦略発表会を報道陣向けに開催した。説明を行った同社 代表取締役社長 福田譲氏は「デジタル元年と言われた2016年度はクラウド、オンプレミスともに非常に高い成長を実現することができた。2017年度もこの勢いを継続し、日本企業のビジネスモデルの変換やイノベーションを支えていきたい」と語り、企業のデジタライゼーションを積極的にサポートする方針を示している。

代表取締役社長 福田譲氏

 福田社長はまず2016年度の振り返りとして、グローバルと日本における各事業の成長率を提示し、日本法人においては6年連続で売上最高額を更新、8億2500万ユーロ(約1000億円)の売上を達成したことを報告している。

 特に注目すべきは、クラウドの新規受注が139%増と「倍々で伸びている」(福田社長)点と、パーペチュアルなERPライセンスが14%増と6年ぶりに2ケタ成長を遂げた点だ。グローバルのライセンス事業が1%の成長にとどまっているのに比較すると、非常に大きな数字であることがわかる。

 福田社長はこれについて「クラウドもオンプレミスも日本では両方高い成長を続けており、日本企業のデジタライゼーションが確実に進んでいることのあらわれ」と評しており、グローバル/国内ともに「すべてにおいてポジティブな指標を得ることができた」と、2016年度を総括する。

 もっとも、SAPの事業の中心はいまや完全にクラウドへと移行している。この流れは中長期的にも続くと見られており、2020年までにクラウド事業とサポート事業を合計した売上がSAPの全事業に占める割合は70~75%までに上がると予測されている。「クラウド事業は完全に既存のビジネスを逆転した。(グローバル/日本ともに)今後は事業全体を成長させつつ、クラウドのポーションがより大きくなることは確実」(福田社長)。

グローバル、日本ともに好調だった2016年。事業全体のクラウドシフトはより鮮明に

顧客をパートナーとして“Co-Innovation”を起こしていく

 海外の事例に比べて遅れがちと言われる日本企業のデジタル変革だが、福田社長は「2016年は多くの日本企業がデジタル変革の重要性を認識した“デジタル元年”だった」と、日本でも確実にデジタライゼーションが進んでいると強調する。

 「ITはもはやビジネスの黒子ではなく、ビジネスがITで大きくなることは多くの企業が認識している。ビジネスを支えるIT、ビジネスを変えるIT、ビジネスバリューの創出――ITがビジネスに果たす役割を次のステージへと向かわせる、それがSAPジャパンのやるべき仕事」(福田社長)。

 では具体的にSAPジャパンは2017年度において、どんなアプローチでもって企業のデジタライゼーションを支援していくのか。福田社長は2017年度の施策として

・経営層に向けたデジタル変革の提案:Design Thinking、Business Innovators Network、Co-Innovation、デジタルビジネスフレームワーク、Leonard
・企業システムのフルクラウド化:S/4 HANA、大企業コアシステムのクラウド化、中堅/中小企業向けビジネスの強化
・SAPジャパン自身の変革支援力の強化:2020年に向けた中期戦略、サービス部門増員、優秀なタレント採用強化、人材育成

の3点を挙げている。

 この中でも2017年度のSAPジャパンにとって、もっとも重要であり、デジタル変革支援のキーワードとなるのが“Co-Innovation”だ。これはSAPが一方的に技術やソリューションを顧客に提示するやり方ではなく、顧客と一緒にリアルなケースでイノベーションを作り上げていく姿勢をあらわしており、福田社長は「“この技術がすごいから使ってみてください”とベンダーが上から押し付けるアプローチは時代遅れ。顧客の課題に寄り添い、ともに現場で本物の解決策を探していく」とCo-Innovationの重要性を語っている。

 Co-Innovationの具体的な事例としては、2016年1月に長野県軽井沢でおきたバス事故を受け、NTTおよび東レとともに開始したIoTプロジェクトが有名で、独自に開発した機能素材を用いた衣類を運転手が身につけることにより、運転手の心拍数などのデータが、SAPの挙動収集分析アプリケーション「CTS(Connected Transportation Safety)」にリアルタイムに集約される。

 「あんな不幸な事故が起こらないようにするにはどうしたらよいか、そういう思いからNTTとともに作り上げたシステム。今後もこうした事例を積み重ねていきたい」という福田社長の発言にあるように、顧客をパートナーとして位置づけながら“Co-Innovation”を拡大していく構えだ。

2016年の軽井沢のバス事故を教訓にNTTとともに開発してきたCo-Innovationの実践例。運転手が身につけた衣類とトランスミッターから、生体情報がリアルタイムにSAPのシステムに集約され、事故を未然に防ぐ

 また、2016年は三井物産のSAP HANA Enterprise Cloud(HEC)への移行など、大企業における基幹システムのクラウド化が進んだ1年でもあったが、2017年はよりその動きが加速すると見られる。

 福田社長は「顧客がERPを選ぶ際、オンプレミスかクラウドか、その選択をSAPは無理強いしない。顧客にはそれぞれの事情がある」としながらも、「もし、どうしてもどちらかを選んでほしいと言われたら、クラウドを勧めることになるだろう。企業がデジタル化のためにやるべきことはたくさんある。ERPのような基幹業務はクラウドに置いて運用をラクにしたほうがいい」と、企業規模を問わず、コアシステムのクラウド移行を推奨することで、デジタライゼーションを支援する方針だ。

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 会見の最後、福田社長に「日本法人のソフトウェアライセンス事業の伸びが14%というのは、グローバルの1%に比べて高すぎではないのか。日本企業がオンプレミスからクラウドへの移行が進んでいないのでは」という質問をしたところ、「そうは思わない」という回答が返ってきた。

 福田社長は「パーペチュアルライセンスを購入する企業の9割はクラウドへの移行も視野に入れている、と肌感覚で実感している。もっとも、基幹業務はフロントのシステムとは違う。フロントエンドのシステムは極端にいえば“いつでも変えられる”が、基幹業務はそうはいかない。基幹業務を検討する際はフロントとは違う視点が求められるので、最初はオンプレミスで、という選択があっても当然」と、クラウドシフトが進んでいないという点については明確に否定している。

 その上で“14%”という数字をポジティブにとらえている理由として、「日本企業もようやくERP導入が本格化してきた」という点を挙げている。

 「オンプレミスかクラウドか、という以前に、ようやく基幹業務のためにERPを入れようとする企業が増えてきたことはポジティブにとらえている。日本企業のデジタライゼーションを進める上でも、まずは守りとなる部分をしっかり固めなくてはならない。守りができて、はじめてリスクを取った攻めができる。ERPの導入が増えることは、守りを固める企業が増えるということであり、デジタライゼーションの最初の一歩」(福田社長)。

 守りがあって攻めができる、その後に攻めの姿勢を続けることがより強固な守りにつながる――。会見中、福田社長はこうコメントしている。日本企業のデジタル化という“攻め”の姿勢をS4/HANAやLeonardといったカッティングエッジなシステムで実現しつつ、最初の一歩に迷っている企業に対してはERPという“守り”を固めることを提案していく。

 攻めと守りのバランスの適切な見極めが、企業のデジタル化を支援するSAPジャパンの2017年を大きく左右することになりそうだ。

ERPは徐々にクラウドへの移行が進んでいるが、「チョイスは顧客しだい」と、オンプレミスも同様に力を入れていくと福田社長。重要なのは、ERPを守りの基盤とすることで企業のデジタライゼーションを推進することだという