ニュース

AWS、BIツール「Amazon QuickSight」のマシンラーニング機能を公開 ダイソーとみずほ銀行の事例も登場

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社(以下、AWSジャパン)は20日、BIツール「Amazon QuickSight」の新機能として、11月末にプレビュー公開されたマシンラーニングによる予測機能「ML Insights」の概要を報道陣向けに公開した。

 概要の紹介を行ったAWSジャパン 技術統括本部 エンタープライズ・ソリューション本部 本部長/プリンシパルソリューションアーキテクト 瀧澤与一氏は「2016年11月から提供を開始したQuickSightは現在、100を超える機能が追加されているが、それらはすべてユーザーのフィードバックにもとづいたもの。今回追加されたML Insightsも同様で、より多くのユーザーにとって使いやすいBIツールとなった」と語り、ユーザー視点での成長が続いていることをあらためて強調する。

AWSジャパン 技術統括本部 エンタープライズ・ソリューション本部 本部長/プリンシパルソリューションアーキテクト 瀧澤与一氏

 QuickSightは、既存のBIソリューションを機能的に“too much”と感じるビジネスユーザーを対象にした、従量課金のBIマネージドサービス。データサイエンティストなどの分析の専門家がいない組織でも、誰もが手軽かつセキュアにデータにアクセスし、分析結果からインサイトを得られるBIツールとして、多くのユーザーが採用しており、NFLやSiemensなどの事例も公開されている。

 瀧澤氏はQuickSightの大きなメリットとして

サーバー管理不要

サーバー環境を管理する必要がなく、アップデートや新機能デプロイもすべてAWSが行うためユーザー側の対応が不要

多様なデータソースに対応

Amazon S3やAmazon RedshiftなどAWS内のデータソースはもちろんのこと、オンプレミスのデータソースにもセキュアに接続

10ユーザーから1万ユーザーまで

利用状況やアクティビティに応じて自動的にスケールし、ユーザーが増加してもインフラ作業は不要

利用した分だけの費用

閲覧(読み取り)のみのユーザーに対してPay-per-Sessionを適用でき、利用しないユーザーは費用不要

という4つのポイントを挙げ、これらの特徴を有していることから「組織内の全員がBIを利用できる環境を実現している」と語る。

 既存のBIツールは人数分のライセンスが必要になるので、コストを抑えるために特定の人物だけにライセンスを与える、といったかたちで運用されるケースが多い。だがQuickSightの場合、基本的に使った(閲覧した)分だけの費用を支払う「Pay-per-Session」形式であるため、使わない場合は料金が発生しない。

 したがって、「データベースから大量のデータをダウンロードして、Excelからピボットテーブルで分析、といった作業をする必要がなく、誰もがダイレクトに作成済みのダッシュボードにアクセスすることが可能」(瀧澤氏)となっている。

QuickSightにはスタンダードエディションとエンタープライズエディションが用意されているが、マシンラーニングによるインサイトなどの機能を使うにはエンタープライズエディションの契約が必要。ただし閲覧ユーザー(Reader)は、使わなければ費用は発生しないため、既存のBIに比べて大きくコストを削減できる

 また、ダッシュボードに独自アプリケーションを埋め込むことも容易なので、セキュリティや認証などをカスタマイズしやすい点もQuickSightの特徴のひとつだ。

 新たな機能としてプレビュー公開中のML Insightsは、AWSが培ってきたマシンラーニングの技術を取り入れることで、こうしたQuickSightの使いやすさをさらに拡張する。

 機能は、大きく以下の3つが提供される。

自動ナラティブ

分析の結果をわかりやすい文章で表現する(カスタマイズ可能)

異常値の発見

過去のデータによる学習をもとに異常値を発見し、ナラティブに分析/報告

予測(フォーキャスト)

過去のデータによる学習から、What-If分析によりターゲットを指定して予測を実施

新機能のマシンラーニングによるインサイトでは自然な文章によるナラティブな分析レポートを表示することができる(デフォルトは英語表記、日本語表示はカスタマイズが必要)

 いずれもビジネスユーザーにとって使いやすくなるように、マシンラーニングによる機能向上でありながら「人間の感覚に近い表現でわかりやすいインサイト」(瀧澤氏)にフォーカスしていることがうかがえる。

 瀧澤氏は「QuickSightは日次や週次でレポートを作成したり、年間の計画を立てたりするときに、ユーザーがIT部門などに依頼することなく、すぐにデータを使った分析結果がわかりやすいかたちで得られる。最近ではエンタープライズ企業からの注目度も高い」としており、ML Insightsという新機能によって、“専門家いらずのBI”へのニーズがさらに高まる可能性を示唆している。

2つのユーザー事例を発表

 発表会ではQuickSightの国内ユーザーとして、ダイソーを展開する大創産業、みずほ銀行がそれぞれの事例を発表している。以下、その内容を簡単に紹介する。

大創産業 情報システム部 システム開発1課 課長 丸本健二郎氏

大創産業 情報システム部 システム開発1課 課長 丸本健二郎氏

 ダイソーは現在、27カ国で5270店舗を展開しており、扱う商品の数は7万個以上に上る。QuickSightを導入するまではQlikViewをオンプレミスで使っていたが、「パフォーマンスが遅い」「データ量が足りない(データベースからデータを引っ張ってこられない)」という課題を抱えていた。

 BI刷新にあたってはクラウドベースが前提で、Tableauも検討していたが、求めるパフォーマンスを得る構成にするとコストが高すぎ、またわれわれのには必要ないリッチな機能が多く“too much”な印象だった。

 QuickSightはTableau構成に比べて価格が85%オフと圧倒的に安く、またEC2が存在しないサーバーレスであるため、インフラのメンテナンスがいらない点も大きい。データ量に関しても、これまでPOSのデータは2カ月分、在庫データは1日分しか持てなかったが、QuickSightはいちいちCSVに落とさなくても全部のデータが持てるようになった。

 構築にかかった時間はわずか2カ月。最新機能のML Insightsも試したが、What-If分析により今まで見えてなかった予測が見えてきていることを実感している。AIという世界が広げてくれる可能性に期待している。

ダイソーによるTableauとQuickSightの比較。QuickSightだとコストを大幅に抑えることができている点に注目。なお、ここでいう「サーバーレス」とはEC2を使っていないという意味

みずほ銀行 個人マーケティング推進部 杉山雅彦氏

みずほ銀行 個人マーケティング推進部 杉山雅彦氏

 現在、みずほ銀行では試行環境としてAWSの東京リージョンにまるごと分析環境を移し、S3をデータレイクとして、Amazon AthenaとQuickSightを使った個人顧客のデータ分析を行っている。

 QuickSightを導入してからはこれまでの工数が8割減となり、1カ月を要していた報告リードタイムが最短で1日に短縮した。また、自動化による作業ミスの減少、新しいデータソースを逐次追加できるスケーラビリティ、自動生成されるレポートなど運用面のメリットが非常に大きく、運用の負荷が減った分、顧客に対してより正しい理解ができるようになった。

 すぐ使える、操作が簡単、動作が高速、低価格、そして手厚いサポート――、まさに“Quick”なBIツールだと思っている。

みずほ銀行におけるQuickSightを中心としたAWS上の分析環境の構成図