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オープンで透明性の高いコンタクトセンターをクラウドで――、AWSジャパンが「Amazon Connect」を間もなく東京リージョンで提供へ

 アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社(以下、AWSジャパン)は10日、2017年3月にローンチされたクラウドベースのコンタクトセンターサービス「Amazon Connect」を、数カ月以内に東京リージョンでも提供を開始することを発表した。

 Amazon Connectは、オレゴンリージョンやシドニーリージョンではすでに提供されているサービスだが、AWSジャパン 事業開発本部 本部長 安田俊彦氏は「日本の顧客からAmazon Connectを要望する声が非常に強かったことを受け、今回の東京リージョンでも提供開始に踏み切った」と語る。

AWSジャパン 事業開発本部 本部長 安田俊彦氏

 「地球上でもっとも顧客中心主義の会社」を掲げ、小売業のDNAをもってして、IT業界に数々の破壊的ともいえる変革をもたらしてきたAWSだが、今度はコンタクトセンターという“ハードウェア&オンプレミス”が定番の世界にクラウドサービスでもって挑む。

Amazonのカスタマサービスのために開発されたプロダクト

 Amazon Connectはもともと、AWSの親会社であるAmazonのカスタマサービスをサポートするために開発されたプロダクト。Amazonには世界32カ国で8万4000人以上のカスタマサービススタッフが在籍しており、数百万人の顧客を相手にさまざまな言語で対応している。さらに、アクセスが激増する「Amazon Prime Day」のときには数千人のスタッフを追加し、翌日にはもとの規模に縮小しなければならない。

 だが、Amazonのこうした条件に応えられる既存のコンタクトセンターソリューションは存在せず、AWSが自社のソフトウェアベースのコンタクトセンターを構築するに至ったという。

 そして、“このソリューションをAWSからサービスとして提供してほしい”という顧客の声に応えるかたちで、Amazon Connectが誕生したという経緯をもつ。

 安田氏は既存のコンタクトセンターソリューションの問題点として

・複雑で使いづらいツール
・インテグレーションが困難
・構築コストが高い
・ハードウェアの設置が必要
・複雑な価格体系

を挙げており、これらを解決するために「100%クラウドベースで、シンプルかつすぐに利用開始できるコンタクトセンター」(安田氏)の実現を目指したとしている。

 Amazon Connectは大きく次の5つの特徴をもっている。

セルフサービスのためのコンフィグレーション

既存のソリューションでは数カ月要していた調達のリードタイムを数分に短縮し、わずかなステップですぐに電話を受けることが可能に

オープンプラットフォーム

Salesforce.comなどサードパーティ製品とのインテグレーションがしやすく、カスタム開発用のAPIも用意、またAWSの各種サービスを組み合わせて非常に高度なコンタクトセンターサービスを実現

容易なコンタクトフローの作成

ドラッグ&ドロップや接続線の追加により、簡単にコンタクトフローを作成

機能拡張とアップデート

2018年に入ってからすでに21の機能を新たに実装、日本の顧客からの要望も含む

使いやすい利用料金

顧客と会話した時間(接続時間)に応じた分単位の従量課金モデルで、ライセンスや初期費用、電話回線の手配などは不要、さらにニーズに応じてオートスケール

Amazon Connectの5つの特徴

 これらの中でも特にAWSらしい特徴なのが、オープンプラットフォームと従量課金モデルだ。

 Amazon Connectは単体のサービスとして十分に活用できるが、サードパーティ製品との連携やAPI連携により、顧客やパートナー企業がオリジナルのコンタクトセンターソリューションを構築可能となる。

 また、自然言語処理の「Amazon Lex」、テキスト読み上げサービスの「Amazon Polly」、自動音声認識の「Amazon Transcribe」、自然言語処理の「Amazon Comprehend」といったAWSが提供するAI関連のマネージドサービスをはじめ、サーバーレスコンピューティング「AWS Lambda」やストリーミングサービス「Amazon Kinesis」などAWSの各種サービスを組み合わせることで、より高度な機能をもたせることも可能だ。

 サードパーティとの連携を含めたフレキシブルな拡張性を“オープン”と呼んでいるところも興味深い。

Amazon Connectはサードパーティ製品や既存サービスとのインテグレーションが容易なオープンプラットフォーム仕様であることが大きな特徴
単体でも高性能なAmazon Connectだが、AIやサーバーレスなどAWSの各種サービスと組み合わせることでさらに機能を強化できる

 また、従来型のコンタクトセンターでは席数やエージェント/オペレーターの数に基づいて課金されていたが、Amazon Connectではそれらの数に関係なく「顧客接続時間」のみをベースにする従量課金モデルとなっている。

 したがってエージェントは、どこに、何人いようとかまわない。利用料と電話料には分単位で課金されるが、初期費用やライセンス費用は一切かからない。

 「Amazon Connectを立ち上げるだけで電話回線を確保できる」(安田氏)という言葉通り、電話回線も手配する必要がない。従量課金モデルを採用することで、これまでのコンタクトセンターソリューションとは異なる、透明性の高い価格体系を提示できるのも、クラウドネイティブなサービスならではのメリットだろう。

 さらにAmazon Connectが東京リージョンで提供されるようになれば、国内の顧客は

・国内でのデータ保持
・遅延の少ないネットワーク
・日本の地域番号(0ABJ)、0120に代表される無料通話番号の提供

といったメリットを得られることになる。

数カ月以内の東京リージョンでのローンチが決定したAmazon Connect。0120から始まる無料通話番号の提供など、日本ならではのサービスも付随する

 すでにイープラス、AOKI、琉球銀行といった国内企業がAmazon Connectを別リージョンから利用しているが、いずれも人件費やメンテナンス費用といった面での大幅なコスト削減やスタートアップ事業の迅速な立ち上げ、支店業務の軽量化などに大きな効果があったとしている。

Amazon Connectをシドニーリージョンで検証中の琉球銀行の事例。支店業務の軽量化に大きな効果があり、東京リージョンでの提供を受け、本格導入を検討中とのこと

 なお、Amazon Connectの東京リージョンでの価格体系は現時点では未定で、提供開始時期に関して安田氏は「2、3カ月以内には」とコメントしている。

パートナー2社も登壇

 AWSは新規サービスをローンチする際、アーリーアダプタの顧客事例を発表するとともに、その分野を得意とするパートナー企業と提携し、最初から強固なエコシステムを作り込んでくるケースが多い。

 今回のAmazon Connectの東京リージョンローンチにおいても、Salesforce.comなど複数のサードパーティベンダーと提携しているほか、CTCやNTTデータ、クラスメソッドといったAPNコンサルティングパートナーが導入支援を表明している。

Amazon Connectの導入を支援する国内パートナー企業もすでに存在する

 加えて今回は新たに、Amazon Connectを使ったサービスを開始/検討中のアウトソーサーとして、トランスコスモス、ベルシステム24、りらいあコミュニケーションズの3社が、またAmazon Connectを使ったサービス(音声認識技術)を使ったサービスを開始する製品ベンダーとしてアドバンスト・メディアが、それぞれパートナーとして挙がっている。

 その中から、発表会にはトランスコスモスとアドバンスト・メディアの担当者が登壇し、Amazon Connectの利用状況と今後への期待を以下のように語っている。

トランスコスモス IT推進本部 本部長代理 大瀧智氏

 グローバルでBPOビジネスを展開するトランスコスモスは、現在、国内30拠点/1万7300席、海外40拠点/1万3500席にコンタクトセンターをもち、23言語に対応している。われわれが考える“次世代コンタクトセンター”とはヒトとAIとデータが融和することで高品質なコミュニケータを再現し、顧客体験を最大化、そしてコンタクデータを一元管理できるもの。そうした次世代コンタクトセンターをAWSと一緒に作っていきたい。

 Amazon Connectは非常に強力なコンタクトセンターサービスで、東京リージョンでの提供開始にともない、われわれも提供していくつもりだ。トランスコスモスでは自社の採用窓口でAmazon Connectをトライアル運用しているが、最初はいくつか問題があったものの、シアトル本社の多大な技術支援のおかげもあり、現在はほほ問題なく運用できている。

アドバンスト・メディア 取締役 執行役員 CTI事業部長 大柳伸也氏

 アドバンスト・メディアは「声があるところにビジネスチャンスがある」を掲げ、音声認識ソリューション/サービスを21年にわたって提供してきた。コンタクトセンタービジネスは2013年から開始し、230社の導入実績をもつ。

 今回、主力商品であるAI音声認識ソリューション「AmiVoice Communication Suite」をAmazon Connectと連携し、リアルタイムな音声のテキスト化に加え感情の見える化、さらにリアルタイムなモニタリングの実現を図る。コンタクトセンターソリューションがオンプレミスからクラウドへと写っていくことで、在宅のコールセンターも増えていく。これらを一元管理し、例えばオペレーターがリスクがあることを話していないかをリアルタイムに把握できるようなサービスが求められる。

 また、テキスト化されたデータは音声分析やコンプライアンス対策など2次/3次利用も可能。今後もAWSとともにコンタクトセンター向けのサービスを拡充していきたい。

左から、アドバンスト・メディアの大柳伸也取締役、AWSジャパンの安田俊彦本部長、トランスコスモスの大瀧智本部長代理