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2030年には約60万人のIT人材が不足する? AWSが発表した新たな学習支援プログラムとは
2018年9月3日 11:53
アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社(AWSジャパン)は8月31日、ITプロフェッショナル育成に向けAWSが提供する教育プログラムを紹介する記者説明会を開催した。説明会では自由民主党 衆議院議員の小林史明氏、およびSTNDARD 代表取締役社長の石井大智氏も登壇し、深刻化する日本のIT人材不足に対する育成プログラムの重要性を説明した。
2016年に経済産業省が発表した「IT人材の最新動向と将来設計に関する調査結果」によると、このままでは、2030年までに約59万人のIT人材が不足するという。これはあくまでも中位シナリオの予測結果であり、高位シナリオでは約79万人、最も楽観的な低位シナリオでも約41万人の不足が予測されている。
この調査結果についてAWSジャパン 代表取締役社長 長崎忠雄氏は、「予想を上回る数値」と述べる。
IT人材とひとくちに言っても、対応分野や必要となるスキルは異なる。LinkedInの発表した「持つべきスキル トップ10 2018」によれば、トップ3のスキルは、1位がクラウド・分散コンピューティング、2位が統計・アナリティクス・データマイニング、3位がミドルウェアやインテグレーションソフトウェアである。
さらに、Global Knowledgeが発表した「IT系資格保持者の年収ランキング 2018」によると、AWSに関連する資格が2位と4位にランクインしている。
これらの調査結果から言えるのは、クラウド技術者の需要が確実に高まっているということであり、それらのスキルを持った貴重な人材は「稼げる」ということでもある。
IT人材育成に向けた行政の対応
これほどIT人材が不足する背景には、少子高齢化に伴う労働人口の減少と、デジタルトランスフォーメーション(DX)によって、プロダクトやサービスを提供するIT企業だけではなく、ユーザー企業のシステム部門でもIT人材への需要が高まっていることが挙げられる。
自由民主党の衆議院議員であり、自身も大手通信会社出身である小林氏は、「今後の日本では人口減少、高齢化、先端テクノロジーへの対応が課題になってくる。しかし、これはチャンスでもある」と述べた。
小林氏は、第四次作業革命の下で求められる人材には、より希少性の高いトップレベルのITテクノロジストやビジネスプロデューサー、次いで各産業における中核的なIT人材などがあると説明。
さらに、これらの人材を育成するには、大学の教育だけではなく、社会人のリカレント教育(学びなおし)も重要であるとするが、日本は欧米に比べると、リカレントを実施する社会人が少ないという。そのため、社会人向けのIT・データ分野の専門性・実践性の高い教育訓練講座を経済産業大臣が認定する「第四次産業革命スキル習得講座認定制度」が、2017年7月に創設されたことを紹介した。
初回認定されたのは、AI・データサイエンス分野を含む23講座(16事業者)で、2018年4月から開講しているという。
さらに、トップ人材の発掘・育成を目的としたプログラムとして、経済産業省所管の独立行政法人情報処理推進機構が主催し実施している「未踏事業」、総務省による「異能(Inno)vation」プログラムなどを紹介した。
もちろん、希少性の高いITスキルだけが求められるわけではない。小林氏は「すべてのビジネスパーソンには基礎的なITリテラシーが必須になる」と述べたほか、「プログラミング教育や統計教育の充実など、初等中等教育・高等教育等を通じて日本全体のIT力を底上げする必要がある」と指摘する。
また、ITに取り残される人が出るのではないかという懸念に対しては、「子供、高齢者、障害者が誰一人取り残されることなくITスキルを身につけられるような仕組みとして、基礎的なスキル習得を目的とした地域ICTクラブや、民間プログラミング塾などの施策も行っていく」と述べ、今年度は19件の実証事業を総務省が採択していることを紹介した。
このほか、新しいテクノロジーによる課題解決について、小林氏は「これまでは行政が民間の後をついていたが、今後は行政がリードしていく」と述べ、さいたま市のAIを活用した保育所入所選考システム、奈良県生駒市や秋田県湯沢市の子育てシェア、北海道甘塩氏のシェアリングカーシステムなどを紹介している。
なお、行政サービスを利用するためのアプリケーションなど、行政機関が何らかのシステムを構築する際、そのインフラにはパブリッククラウドを優先して利用する「クラウド・バイ・デフォルト」という原則を、日本政府が掲げているという。
仮に、セキュリティ上の問題などによりパブリッククラウドを利用することが困難な場合にはプライベートクラウド、それも難しい場合にはオンプレミスを選択することになる。
行政で利用するパブリッククラウドについては、採択基準となる認証制度を日本でも設ける予定となっている。このような認証制度は世界各国で進められており、その中でも米国のFedRAMPが知られているが、「日本版FedRAMP」との位置付けである、クラウドの安全性評価の仕組みの検討を2018年8月から開始したという。
AWSが提供する学習支援プログラム
今回紹介されたAWSの学習支援プログラムは、高等教育向けに特別に設計されたAWSコンピューティングカリキュラムである「AWS Academy」と、14歳以上の学生、教育機関、教員に向けたITとクラウドのプロフェッショナル学習支援プログラム「AWS Educate」だ。
AWS Academyは、加盟校が自分たちのコースカタログの中にAWSのカリキュラムを組み込む形で提供される。ハンズオンラボや実践的な学習機会を通じ、AWSのクラウドコンピューティングのスキルと知識を習得してAWS認定の取得を目指す。
2019年4月からスタート予定となっており、現時点では麻生情報ビジネス専門学校、および船橋情報ビジネス専門学校がプログラムの導入を発表している。
一方のAWS Educateは、次世代のITとクラウドのプロフェッショナルに向け、学習の機会を提供するオンラインの学習支援プログラムだ。学生は自分が将来なりたい職業(キャリアパスウェイ)を選択し、受講するコースをカスタマイズする。学習中はクイズやプロジェクトに参加し、自分の知識をチェックするなどの工夫がされているという。
また、単に学習して終わりではなく、就職活動に役立つ、学習によるスキル認定のバッジを取得したり、仕事を検索するといった仕組みも提供されるという。
なお、学生が選択できるキャリアパスには、分析とビッグデータ、クラウドアーキテクト、オペレーション/サポートエンジニアリング、ソフトウェア開発エンジニアなどがある。
教員にはAWSテクノロジー、授業に組み込めるオープンソースコンテンツ、トレーニングリソース、クラウドエバンジェリストのコミュニティへのアクセス権限などが提供される。
また、データサイエンティストの育成や全社的なITリテラシーのボトムアップに向けた社員研修サービスなどを提供しているSTANDARDは、2019年度より新卒社員2000人を対象に「AWSトレーニング」を開始することを明らかにした。
STANDARDの強みは、エンジニア個人ではなく組織全体での教育が可能であることで、「企画マネージャ層」「現場責任者」「システムエンジニア」「AIエンジニア」がチームとしてAI開発に取り組める組織を育成することができるという。
自社のボトルネックを定量的に特定し、全社で共通のリテラシーを持って協働できる組織を目指すことがSTANDARDのプログラムの目的となっており、各担当者は互いに役割を認識してデータから知識を見つけ出し、最終的には技術を組み込んで収益化できるような組織の基盤をつくっていく。
STANDARD 代表取締役社長 石井大智氏は、自身がエンジニアとして活動する傍ら、職場での人材不足の課題を痛感し、STANDARDを設立したという。
これまでもAWSは、AWS認定向けのトレーニングプログラムを幅広く提供してきた。現在、AWS認定では、「クラウドプラクティショナー」「アーキテクト」「開発者」「運用者」の4つの役割別に、それぞれの役割の専門性を「ベーシック」「アソシエイト」「プロフェッショナル」の3段階で認定している。
長崎氏は「これまでAWSはインフラエンジニア向けの学習支援プログラムを多く展開してきたが、今後はデベロッパー向けにも拡充する」と述べ、新しい教育施設となる「AWS Loft」を2018年10月1日にオープンするほか、これまでAWS Summitと同時開催していたデベロッパー向けイベント「Dev Day」の規模を拡大して単独で開催するという。今年の「Dev Day2018」は、2018年の10月28日から11月2日までの3日間開催する。
また、漫画を活用した新しい学習コンテンツ「なな転び八起のAWS開発日記」を、3か月に渡ってAWSジャパンのソーシャルメディア(FacebookおよびTwitter)上に、毎週集1話ずつ配信していくとした。