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富士通、2017年度連結業績は減収増益 営業利益率は目標を下回る

 富士通株式会社は27日、2017年度(2018年3月期)の連結業績を発表した。

 売上収益は前年比0.8%減の4兆983億円、営業利益は同55.4%増の1824億円、税引前利益は同95.3%増の2424億円、当期純利益は同91.4%増の1693億円となった。当期純利益は過去最高になる。

 富士通の田中達也社長は、「『つながるサービス』の展開に向けて、手を打ってきたことの成果であり、その結果として売却益を加わり、純利益は過去最高益になった」と説明した。

2017年度連結業績の概要

 また、2018年度(2018年4月~2019年3月)の通期業績見通しを発表。売上収益が前年比4.8%減の3兆9000億円、営業利益は同23.3%減の1400億円、当期純利益は同35.0%減の1100億円とした。

営業利益率などの目標を事実上取り下げ

 田中社長は2015年6月に社長に就任して以降、社長在任期間中に、営業利益率10%以上、フリーキャッシュフロー1500億円以上、自己資本比率40%以上、海外売上比率50%以上を目標に掲げており、2017年度にはそのマイルストーンとして、営業利益5%ゾーン、2018年度には営業利益6%ゾーンを目指すとしていた。

 しかし、今回発表した2017年度実績の営業利益率は4.5%、2018年度見通しの営業利益率は3.6%と、中間目標を大きく下回るものになった。

 田中社長は、「デジタル時代において、グローバル競争を勝ち抜いていくためには、営業利益率10%以上などのレベルに達することが必須である、という考え方に変わりはない。だが、ターゲットに至るまでのプロセスについては、この3年間の結果を踏まえ、達成までの時間軸を見直すことにした」として、社長在任中の目標達成の計画を事実上取り下げた。

 そして、「私は社長として、引き続き富士通の変革に取り組み、目指すべき姿の実現が確実に視野に入るレベルに到達すべく、努力する」と語った。

富士通の田中達也社長

 営業利益率10%の目標に加えて、フリーキャッシュフロー1500億円以上、自己資本比率40%以上、海外売上比率50%以上を目標についても、在任期間中の達成を見送ることになる。

 「当初は、2015年度、2016年度でビジネスモデル変革をやりきり、つながるサービスに経営資源を集中した成果を、2017年度以降、利益率向上という明確な形で表していく計画であったが、遺憾ながら、現実はこの計画とは乖離(かいり)している。2017年度の計画未達、2018年度は減収減益予想と期待に反することになり、申し訳なく思う」と述べた。

 また、田中社長は、「営業利益率は、事業売却益などの特殊要因を除く本業ベースで実現を目指すとしてきたが、2017年度は特殊要因を除く本業ベースでは1296億円の営業利益となり、約550億円の計画未達となった」と説明。

 一方で、「事業ボートフォリオの再編による『形を変える』取り組みを着実に成果があがっている。それは純利益が過去最高益で示される。また、『質を変える』取り組みの成果を享受するには、時間がかかっており、2017年度を通じて、あらためて課題が明確になった。その課題とは、海外ビジネスを含めた先行投資のリターンが不十分であること、ネットワークビジネスにおける事業環境変化への対応が遅れたこと、想定以上に不採算が拡大したことでるある。結果として、多額のマイナス影響を及ぼしたことに強い危機感を持っている。2018年度はあらためて対策を徹底するつもりであり、その対象領域は多岐にわたる」とした。

 具体的な内容については、2018年10月に開催予定の経営方針進行レビュー説明会で発表する考えであり、「経営方針の達成に向けたマイルストーンを含めた詳細をあらためて発表する。2018年度は、将来的な成長を見据えた、より厳格な投資の集中と、改革を必要とする事業領域の体質強化にちゅうちょなく手を打っていくものになる。また、不採算の発生防止については、アシュアランス機能の拡充を開始している」と述べる。

 また、「3年間の取り組み成果として、財務体質の改善が進んだこと、安定的なキャッシュフロー創出が見込めることから、株主還元の充実を図るべく、増配および自社株取得を行うことを決めた。今後も高いレベルでの安定配当の継続を基本的な考えとしつつ、自己資本の充実、継続的な利益拡大のための成長投資とのバランスを考慮しながら還元を行い、株主価値の最大化を行う」とした。

 2016年度の年間配当は9円だったが、これを2017年度は11円に、2018年度は15円を目指すという。

PCの増加や円安のプラス影響などで増収増益に

 2017年度の業績については、富士通の塚野英博代表取締役副社長兼CFOが説明した。

 売上収益は、ニフティのコンシューマ事業の譲渡影響でマイナス520億円となったほか、ネットワークの減収影響があったが、PCの増加やサービス、デバイスにおける円安のプラス影響もあり、全体で増収になった。

 また営業利益では、本業となるネットワーク、ユビキタス、サービスを中心に290億円の増益のほか、前年に計上したビジネスモデル変革費用負担減で420億円増、海外子会社の法的紛争手続きの結果に伴う損失で100億円減、ビジネスモデル変革費用で80億円増、事業譲渡影響で700億円増となった。

 金融損益では、富士電機との株式持ち合い見直しに伴う売却益で273億円増、中国関連会社の持分比率見直しにより263億円増となった。さらに当期純利益では、富士通テンの譲渡による増益影響で70億円増となった。

富士通の塚野英博代表取締役副社長兼CFO
2017年度の経営成績

 セグメント別業績では、テクノロジーソリューションの売上収益が前年比2.4%減の3兆527億円、営業利益は同0.7%減の1893億円。そのうちサービス事業の売上収益が同1.0%減の2兆5983億円、営業利益が同8.9%増の1634億円。さらに、その内訳となるソリューションSIの売上収益が同1.2%減の1兆120億円、インフラサービスの売上収益は同0.9%減の1兆5863億円となった。

 サービス全体では、ニフティの事業譲渡を除いた本業では売上収益が前年比1.0%の増収。営業利益は本業を除くとほぼ前年並みとなった。

 ソリューションSIでは、前年から減収となるものの、過去2番目という高い売り上げ水準を維持。金融分野の大規模プロジェクトや公共分野のマイナンバー関連システムの開発ピークアウト、前年好調だったハード一体型ソリューションの反動の影響がマイナスに響いた。

 「2017年度は大規模プロジェクトの端境期に当たるため、大きく減収となる心配をしていた。だが、産業、流通の増加を中心にしっかりとカバーすることができた。SEビジネスの受注は売り上げを上回っており、堅調に推移している。2018年度以降、さらに上積みもできると考えている。また、インフラサービスでは、国内はアウトソーシングが堅調であり、海外は円安がプラスに影響した」という。

テクノロジーソリューションの概況
テクノロジーソリューション(サービス)

 システムプラットフォームの売上収益は9.6%減の4543億円、営業利益は36.3%減の259億円。そのうち、システムプロダクトの売上収益は2.7%減の2487億円、ネットワークプロダクトの売上収益は16.7%減の2056億円。システムプロダクトは、前年好調だったIAサーバーが低調に推移したこと、ネットワークブロダクトでは、国内向け携帯電話基地局の投資が想定以上に抑制された影響に加えて、競争環境の厳しさが加速し、大きな減収になった。

 「5Gが本格的に立ち上がる2019年度後半から2020年までは、厳しい状況が継続することを想定しており、2018年度の計画も厳しい所要を前提に計画するとともに、事業の方向性について検討を進めている」と述べた。

 なお、不採算案件に関しては、「2017年度は、システムインテグレーションだけでなく、インフラ構築に関するサービスでも不採算プロジェクトが発生した。近年、単純なインフラ構築から、ネットワークやセキュリティなどのソリューションを組み合わせることにより、付加価値を高めたインフラ構築案件が増加。プロジェクトの難易度が高まっている。過去のインフラサービスの領域では、国内で大きな不採算プロジェクトの発生はなく、アシュアランス部門による関与が弱い領域であった。再発防止に向けて、この領域における対応力強化を進める」とした。

テクノロジーソリューション(システムプラットフォーム)

 ユビキタスソリューションは、売上収益が前年比2.8%増の6639億円、営業利益は同34.7%減の113億円。PCは、国内法人向けが伸長したほか、海外は他社との競合が厳しい状況だが、為替の円安影響もあり、増収になった。携帯電話はらくらくシリーズにおいて、フィーチャーフォンの出荷台数が減少したことで減収となった。営業利益の減益は、携帯電話の減収、PCおよび携帯電話において、メモリなどのキーコンポーネントの調達価格の上昇、モバイルウェア関連を中心としたIoT分野での先行投資費用の増加および戦略商談推進などの影響をあげた。

 なお、PCの出荷台数は360万台(2016年度実績は380万台)、携帯電話の出荷台数は320万台(2016年度実績は290万台)となった。

 デバイスソリューションは、売上収益は前年比2.9%増の5600億円、営業利益は同220.8%増の136億円となった。LSIの売上収益は同3.9%増の2801億円、電子部品の売上収益は同1.8%増の2810億円。

 スマートフォン向けLSIの物量増に加えて、LSI、電子部品ともに円安がプラスに影響。営業利益は前年のビジネスモデル変革費用の負担減が影響した。

ユビキタスソリューション
デバイスソリューション

2018年度は減収減益の計画

 一方、2018年度(2019年3月期)の通期業績見通しについては、先に触れたように、減収減益の計画となる。

 田中社長は、「営業利益は、2017年度に発生した特殊要因がなくなる反動と、PCや携帯電話のユビキタス事業が連結対象から外れる影響を踏まえた。本業は、国内ITサービスが引き続き堅調であり、これまで行ってきた先行投資や構造改革を通じて、AIなどの先端技術開発において、グローバルなエコシステムの効果がビジネスに反映されはじめていること、日本とアジアが一体となったビジネス強化による利益体質への転換が進んでいるなど、手応えも感じている。しかし、ネットワークビジネスや海外ビジネスの営業利益への貢献は最低レベルで考えている。その上で、本業ベースの必ず守る数字として、1400億円を掲げた」と述べた。

2018年度連結業績の見通し

 また、富士通の塚野副社長兼CFOは、「売上収益では、携帯電話事業売却およびPC事業の再編影響により2000億円程度の減収影響がある。だが再編を除く本業では、ほぼ前年並みになると予測している。営業利益では、本業で300億円の増益を見込むが、先行投資の見直し、不採算の圧縮、ビジネスモデル変革効果の3つの施策に取り組む。ネットワークがさらに悪化することを見込んでいるが、それを他のセグメントでカバーする。この数字を最低ラインとして利益の上積みを図りたい」とした。

 セグメント別業績見通しは、テクノロジーソリューションの売上収益が前年比1.5%増の3兆1000億円、営業利益は同20.9%減の2290億円。そのうちサービス事業の売上収益が同1.6%増の2兆6400億円、営業利益が同19.3%増の1950億円。さらにその内訳となるソリューション/SIの売上収益が同2.8%増の1兆400億円、インフラサービスが同0.9%増の1兆6000億円。システムプラットフォームの売上収益は同1.2%増の4600億円、営業利益は同31.2%増の340億円。そのうち、システムプロダクトの売上収益が同8.6%増の2700億円、ネットワークプロダクトの売上収益が同7.6%減の1900億円。

 サービスの売上収益は2018年度も高水準を維持するほか、不採算プロジェクトの圧縮やビジネスモデル変革効果を中心に増益を見込む。また、ネットワークは減収だが、システムプロダクトの売上収益が伸長。先行投資費用の見直しにより増益を見込む。

 ユビキタスソリューションは、売上収益が前年比29.2%減の4700億円、営業利益は同82.4%減の20億円。再編により、コンシューマPCおよび携帯電話事業が連結対象外となることが影響する。

 デバイスソリューションは、売上収益は前年比3.6%減の5400億円、営業利益は同4.7%減の130億円を目指す。会津の200mm製造会社の再編影響に加えて、スマートフォン向けLSIが上期を中心に所要減になると予想している。