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社会に貢献するクラウドカンパニーを目指す~日本オラクル 杉原博茂社長
Oracle Cloud Platform Summit Tokyo 2017基調講演レポート
2017年4月28日 12:04
日本オラクル株式会社は25日、同社のクラウドサービスに関するイベント「Oracle Cloud Platform Summit Tokyo」を開催した。基調講演では、日本オラクル 取締役 代表執行役社長 兼 CEO 杉原博茂氏らが登壇し、今後の日本市場に向けたクラウド戦略を紹介した。
基調講演の最初に登壇した杉原氏は、オラクルのクラウドビジネスは順調に推移していると説明する。同社の第3四半期にあたる2016年12月期から2017年2月期、グローバルのSaaS/PaaSの売り上げは前四半期比186%、PaaSの新規顧客は2400社増、IaaSの新規顧客は2600社増を達成したことを杉原氏は明らかにした。また、日本においてもSaaS/PaaS/IaaSの売り上げは前四半期比200%で推移しているという。
「日本は今後ますます少子高齢化が進み、労働人口は減少していく。この問題を解決するには、ひとりひとりの生産性を向上させる必要がある。私はよく“百人力”という言葉を使っている。これは生産性を向上し、1人が100人分の仕事ができるようになるという意味。クラウドはそのための手段」と述べた。
杉原氏は「POCO(ポコ)」の略称で知られるオラクルのクラウドビジネスのスローガン「The Power of Cloud by Oracle」を今後も継続し、「クラウドサービスのナンバーワンになる。社会に貢献するクラウドカンパニーになる」といった目標を引き続き掲げると述べた。さらに杉原氏は「オラクルは“ダイナソー(Dinosaur:恐竜。大きくて時代遅れのモノという意味もある)”と言われることの多い企業だが、クラウドビジネスの業界ではまだまだ“ニューカマー(新参者)”だ」と述べ、今後のオラクルのクラウドサービスがどのようなものなのかについて、「スピードを追求しながらTCOを削減する。使いやすくて安心・安全なクラウド」と説明した。
ITモダナイゼーションとデジタル・トランスフォーメーションを支援
続いて登壇した日本オラクル 執行役副社長 クラウド・テクノロジー事業統括の石積尚幸氏は、オラクルクラウドサービスに関する3つの数字として「3種類の活用形態」「50種類以上のサービス」「3種類の活用パターン」を紹介している。
3種類の活用形態とは、「オンプレミス」「Oracle Cloud at Customer」「Oracle Cloud Platform」。オンプレミスは従来通りのプライベートクラウド、Oracle Cloud Platformはオラクルのデータセンターから提供されるパブリッククラウドだ。そしてOracle Cloud at Customerはオラクルがユニークなサービスと位置付けているのが、オラクルのデータセンターで稼働するのと同じOracle Cloud Machineを、顧客あるいはパートナーのデータセンターに設置するOracle Cloud at Customerだ。
設置されるOracle Cloud Machineはオラクルの資産であり、顧客企業は通常のパブリッククラウドと同様にサブスクリプションでサービスを利用できる。つまり、“占有パブリッククラウド”という位置付けになっており、パブリッククラウドのメリットはそのままに、セキュリティや法規制によってデータを社内から持ち出せないという顧客に適したサービスとなっている。
50種類以上のサービスとは、もちろんオラクルの提供するクラウドサービス群だ。「2014年9月のOracle Open Worldで発表されてから3年が経過し、オラクルのクラウドサービスは新たなサービス拡充を繰り返し、現在では50種類以上のサービスを展開するに至っている。2016年からはIaaSのサービスの展開も始まっており、3年間でこのスピード感でサービスが提供できていることに注目してほしい」と石積氏は説明する。
3種類の活用パターンとは、「ITモダナイゼーション」「マルチクラウド」「デジタル・トランスフォーメーション」である。ITモダナイゼーション、つまり既存の資産を有効活用しつつ、ITシステムを最新の状態に保つ取り組みについて石積氏は「オラクルのサービスの大きな特徴は、オンプレミスであろうと、パブリッククラウドであろうと全く同じものを動かすことができることにある。出入りが自由なこの仕組みを使って、お客さまのITモダナイゼーションのお手伝いをさせていただきたい」と述べた。
マルチクラウドについても「オラクルはオンプレミス/パブリッククラウドを問わず、一貫した運用管理を支援する体制を持っている。また、他社のクラウドサービスであっても対応可能」としている。
また、デジタル・トランスフォーメーションについても「クラウドからさまざまな新しいテクノロジーを提供している。これらを活用してお客さまのデジタル・トランスフォーメーションのご支援をしていく」石積氏は述べた。
ビジネスの変化に追従するクラウドサービスを展開
「Cloud Platform戦略と新たな価値創造」をテーマに登壇した日本オラクル 執行役員 クラウド・テクノロジー事業統括 Cloud Platform事業推進室長の竹爪慎治氏は、「新しい価値を創造するには、環境やお客さまの要件などさまざまな変化に対応していく必要がある。例えばモバイルやソーシャルメディアの進化によって顧客との接点は大きく変化し、IoTによってこれまで取得できなかった情報がリアルタイムに取得できるようになっている。また、AIやチャットボットなどに新しいユーザーインターフェースを提案する動きも活発になっている。このような変化にいち早く追従し、新しいビジネスを展開するために、クラウドの重要性が増している」と述べた。
しかし、その一方「従来のクラウドプラットフォームでは、十分にビジネスの変化に対応することが難しくなっている」と竹爪氏は述べている。竹爪氏は「ビジネス変化に追従するためのクラウド三要素」として、「壁なきサービス」「位置透過性」「ビルディングブロック」を挙げ、これらの要素を満たすことでビジネスの変化に柔軟に対応できるプラットフォームになると説明する。
ビジネスが最初にスタートする際、一般的なパブリック・クラウドの特徴である「柔軟性(柔軟な課金)」や「俊敏性(迅速な準備)」などスモールスタートできる環境が求められる。しかし、ビジネスが成長するに従い、従来のオンプレミスなどで実現されていた「適切な性能」「セキュリティ」「安定的な品質」が求められるようになってくる。
「これまでのパブリック・クラウドでは、これらの要件を両立させることが難しかった。次世代のクラウドは、両方の良い面を実現することが重要になる。オラクルはベアメタルやOracle Cloud at Customerによって、パブリッククラウドとオンプレミス両方の特徴を備えた“壁なきサービス”を実現することができる」(竹爪氏)。
また、位置透過性について竹爪氏は、「これまでのパブリッククラウドは、サービスベンダーのデータセンターからサービスが提供されることが前提だった。しかし、お客さまのビジネスによっては、性能、セキュリティ、地域性などの要件を満たすため、お客さま自身のデータセンターや、パートナーのデータセンターから“パブリッククラウド”のサービス提供が求められている。オラクルでは、Oracle Cloud at Customerのラインアップを充実させることで、こうしたお客さまの要望に応えていきたいと考えている」と述べている。
そして、最後の要素である「ビルディングブロック」とは、オラクルが提供する各サービスを意味している。
「新しいサービスを展開するにあたり、一から開発するのはコストがかかる。しかし、オラクルが提供するさまざまなサービス(ブロック)から適切なものを組み合わせて構築(ビルディング)することで、ビジネス要件の変化へ俊敏に追従することができるようになる」(竹爪氏)。
オラクルクラウドサービスを活用する企業も登壇
基調講演では多くのゲストも登壇している。SOMPOホールディングス株式会社 常務執行役員 グループCDO 楢崎浩一氏は、「SOMPOホールディングスは、損害保険会社を中核とするグループ企業だが、昨年からの5か年計画によって、単なる保険会社の領域を超え“安心・安全・健康”をお客さま、あるいは社会に提供していく会社へと転換しようとしている」と述べた。
さらに楢崎氏は「このビジネス変革において、デジタルは必須」と述べ、単なるビジネスの効率化だけにとどまらず、お客さまの健康を管理するウェアラブル端末や、車両保険の契約者が事故などのトラブルに合った際、自動的にスマートフォンから保険窓口に電話をかけることのできる“ボタン”といった新たなサービスを次々と展開しているという。
昨年クラウド分野においてオラクルとの戦略的なパートナーシップを発表した富士通からは、執行役員常務 CMO 阪井洋之氏が登壇し、2017年3月27日から富士通の国内データセンターを使ってOracle Cloudの提供を開始したこと、および2017年4月20日からOracle DatabaseのPaaSをK5のサービスとして提供する「K5 DB powered by Oracle Cloud」の提供を開始したことを紹介した。さらに、6月には「Oracle HCM Cloud」の提供も開始することを明らかにしている。
地域経済を活性化を目指して分散型台帳技術Orb DLT(Orb Distributed Ledger Technology)を提供しているベンチャー企業 株式会社Orbからは、CEO 仲津正朗氏が登壇した。中津氏は「これまでわれわれは3回デジタル変革による大きな格差の解消を経験している。1回目はパーソナルコンピュータおよび業務ソフトの普及による労働格差の解消、2回目はインターネットによるメディア格差の解消、そして3回目はブロックチェーンに代表される経済格差の解消だ」と述べる。
さらに中津氏は「これまで金融系のビジネスを始めるには、ITに重厚長大な投資が必要だった。しかし、これからの金融系システムは、クラウドをはじめとする柔軟な仕組みや、安価なサーバーやネットワークによって低コストで構築できるようになる」と述べ、Orb DLTがOracle Cloud at Customerによって、安く手軽に、かつ高いプライバシー・セキュリティ環境で実現できていることを説明した。
最後に登壇したのは、渋谷区観光協会 理事長の金山淳吾氏。「渋谷はスクランブル交差点が世界的にも有名で、ハロウィーンなどのイベントの際には国内外から数多くの観光客が訪れる。その一方で観光客の多くはハチ公前で写真を撮影し、スクランブル交差点の動画を撮ったら“もう渋谷はいいよね”という人が多く、長く滞在してもらえない街となっている。ショッピングや食事は新宿や銀座など別の街に流れてしまう」と金山氏は述べ、渋谷の観光ビジネスが抱える問題を明らかにした。
そこで同協会では町の中にある街路灯、分電盤、店舗の軒先などにビーコンを設置し、店舗やイベントの情報などをプッシュ型で配信したり、レコメンドを記録するといったことができるという。ビーコンのネットワークはサードパーティーにも開放されるため、さまざまなアプリなどで利用することが可能であるという。また、リファレンスアプリ「PLAY DISCOVERY SHIBUYA」というアプリを同協会でも制作している。
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オラクルがクラウドサービスを開始して3年が経過し、ビジネスは順調に推移している。「POCO」のスローガンも耳慣れてきた感じがあり、これまでのビジネス戦略を今後も継続していくことは明らかである。オラクルの強みは何といっても、オンプレミス環境におけるデータベースの圧倒的なシェアにあることは間違いない。そのため、オンプレミスからクラウドへのスムーズな移行が可能で、さらにOracle Cloud at Customerによる占有パブリック・クラウドのサービスは、データの安全性を担保したい企業にとっては、非常に魅力的な選択肢となるだろう。
その一方で、クラウドサービスベンダー同士の競争が激化していく昨今、オラクルは同じメッセージをいつまで発信していくだろうか。今後のオラクルの新たなビジネス展開に注目していきたい。