Fluid Dataアーキテクチャで加速するDellのストレージ戦略


 Dellのストレージ戦略が加速している。

 2008年8月に買収したEqualLogicに続き、2010年2月にはNAS環境において高いスケーラビリティを実現するExanet、2010年7月にはデータ圧縮と重複排除を実現するOcarina Networksをそれぞれ買収。さらには、2011年2月にCompellentを買収し、ハイエンドストレージ領域にも本格的に展開できる体制を確立した。これらを統合した形でDell Fluid Data アーキテクチャを提案。顧客が持つデータ運用・管理の課題解決をトータルソリューションとして提供できる体制を整えた。

 2011年7月29日には、都内で「Dell Solution Roadshow 2011」を開催し、日本のパートナーおよびエンドユーザーに対して同社のストレージ戦略のメッセージをあらためて発信した。

 今回は、EqualLogicを担当する米Dell エンタープライズ・ストレージ プロダクト・マーケティング エグゼクティブ・ディレクターのトラビス・ビジル氏、Compellentを担当する米Dell ワールドワイド・セールス Dell Compellentエグゼクティブ・ディレクターのブライアン・ベル氏、米Dell Dell Compellent テクノロジー・サービス担当エグゼクティブ・ディレクターのマーティ・サンダース氏、そして日本でストレージ事業を担当するデル ラージエンタープライズジャパン マーケティング本部 ストレージソリューションマーケティング部の小松原真一郎部長に、Dellのストレージ戦略について話を聞いた。

 

急速にポートフォリオを拡大したDellのストレージ事業

――ここ数年、Dellは急速な勢いでストレージ事業のポートフォリオを拡大していますね。

米Dell ワールドワイド・セールス Dell Compellentエグゼクティブ・ディレクターのブライアン・ベル氏

ベル氏:過去4年間にわたって、Dellは大きな変革に取り組んでいます。

 そのなかでストレージ事業においては、EqualLogicやCompellentのほか、Exanet、Ocarina Networksといった、先進的な技術、製品を持つ企業を買収し、自社製品を取りそろえてきました。Dellにとっても、パートナーにとっても、実にエキサイティングなタイミングを迎えているといえるでしょう。

 中でも、iSCSI SANのリーダー的存在であるEqualLogicや、2003年からシンプロビジョニング技術を提供してきたCompellentが、Dellファミリーの一員となったことで、Dellのストレージ事業体制は大きく発展しました。

 そして、Dellには、市場へアプローチするためのチャネルパートナーとの強固な関係がある。テクノロジーだけの進化ではなく、Go To Marketという観点からも、EqualLogicやCompellentには大きな追い風が吹くことになる。製品、技術、販売といった足並みがそろうことで、Dellのストレージ事業はさらに加速することになります。

 CompellentやEqualLogicなどは、Dellに買収される前から、大規模なストレージベンダーでは実現できなかった価値を提供してきましたが、Dellに買収されて以降、さらに大きな成長を遂げています。チャネルパートナーやエンドユーザーにとっても、エキサイティングであり、革新的な機能を提供し続ける姿勢は変わりません。

 例えば、Compellentでは、自動的にデータを移行させる技術を5年以上前から提供し、すでに4世代目のものへと進化しています。

 また買収したExanetの技術を活用した「デルスケーラブルファイルシステム」は、より高い性能、可用性を提供できるものであり、プライマリストレージと、プロダクション、オフサイトリカバリ、アーカイブといった異なるストレージ環境においても、共通の環境でのデータ保護、運用、管理が可能になる。また、重複排除とデータ圧縮技術も一貫した管理環境のなかで提供できる。

 Dellはストレージ戦略において、統合された環境、自動化、効率性、俊敏性を提供し、そしてこれを完成したソリューションとして提供することができます。プライマリ、セカンダリ、バックアップを問わずひとつの環境で管理することができるのです。

 Dellの変革は、CEOのマイケル・デル自身が強い思いのなかで推進しているものであり、それはストレージ事業だけでなく多岐にわたります。

 

ソリューションベンダーへの変革を図る途中

――Dellの変革は、どんな範囲にまで広がっていますか。

Compellent Storage Center

ベル氏:私はDellによるCompellentの買収に伴い、6カ月前にDellに入社しましたが、2011年1月に、マイケル・デルと一対一で対話した際、彼はこう語りました。「Dellはいま変革のなかにある。しかも、その変革は、製品ポートフォリオを対象としたものだけではなく、エンタープライズ領域へのソリューション提案の強化、そして、パートナーとの連動によるGo To Marketの変革にも及ぶものになっている」と。

 また、特定の領域に特化した展開ができる企業へと生まれ変わろうとしているとも語りました。特にコンサルティングにおいては、特定領域への特化を進めており、インテリジェントデータマネジメント領域にも、専任の人材を配置して取り組んでいます。加えて、ネットワーキング分野やクライアントコンピューティングの領域にも特化した人材がいる。Dellという会社は、お客さまの業態や規模にあわせて組織を編成しています。そこに、ソリューションという観点から、具体的な領域に特化したコンサルティング体制を生かし、顧客のビジネスをより深く理解した形で価値を提供できるようになる。

 そして、Go To Marketモデルの変革には、専門性を持ったチャネルパートナーとの連携が不可欠です。ストレージ事業においても、チャネルパートナーとの連携をさらに強化していきたいと考えています。


ビジル氏:Dellは、セールス部門や、チャネルパートナーに対する投資を加速しています。また、これまで以上にソリューション指向の強い会社になるために、それを支援するための投資を大規模に行っています。

 日本では、東京・三田にソリューションセンターを開設していますが、これと同様の施設を世界中に設置しています。この施設を利用することで、プリセールス段階から顧客との緊密な関係を築くことができる。複雑化した顧客の課題を解決できるといえます。


――Dellの文化と、Compellentの文化とに違いを感じる部分はありますか。

ベル氏:私は、CompellentとDellの差は、企業規模の大きさだけで、それ以外にあまり大きな文化の差を感じていません。Compellentは力強い会社で、小規模ながらも大きな会社に立ち向かい、勝利してきた実績もある。一方でDellの特筆すべき姿勢は、顧客志向の会社であること、それに対して社員が持つ責任が重たいこと、常に結果が問われる会社だということです。これはCompellentにも共通したカルチャーであり、Compellentの規模が大きくなれば、そのままDellと同じような会社になったのではないでしょうか。

 Dellグループに入ったことで買収前には考えられないようなスピードで事業が成長しています。CompellentはFluid Dataアーキテクチャに準拠し、自動階層化ストレージ、シンプロビジョニングといったデータ移行のためのイノベーションを持っています。

 このテクノロジーイノベーションとDellのスケールとが相まって、さらに大きな成長を遂げている。これまでのCompellentの体制では入ることができなかったような顧客にも入っていますし、案件数も増加しています。


――日本ではビジネスコンサルティング領域での体制がまだ弱いと感じますが。

小松原氏:Dellのグローバルにおける体制を見ますと、Perot Systemsの存在がありますから、ビジネスコンサルティングの領域でも実績があります。

 それに対して、日本市場においては、インフラストラクチャを切り口としたコンサルティングや、クラウドを切り口としたコンサルティング、アプリケーションを切り口としたコンサルティングを、それぞれにデル日本法人とシステムインテグレータとが一緒になり提供しています。

 ビジネスコンサルティングは、デル日本法人にとって、中長期的に強化しなくてはならない領域ととらえており、それに向けて、すでにいくつかの検討が始まっています。

 

ビッグデータ時代のDellの強みは?

――多くのストレージベンダーが異口同音に「ビッグデータ時代の到来」を口にします。そうした新たな時代において、Dellのストレージ事業にはどんな強みがあるのでしょうか。

EqualLogic FS7500

ベル氏:Dellのストレージ製品は、エンドユーザーに対して3つのベネフィットを提供できます。1つは、効率的なハードウェアを活用することで、OPEXとCAPEXを変えていけること、2つ目には高い水準の俊敏性を持った製品を提供できること、そして、3つ目には高い可用性があることです。

 さらに、Dellは幅広いエンドユーザーのニーズに対応できるよう、積極的に製品ポートフォリオを拡大しています。ハイエンドおよびミッドレンジ製品としてのCompellent、iSCSIとしてはEqualLogic、コストパフォーマンスが高い製品ではPowerVaultシリーズがある。

 さらに、医療分野におけるメディカルイメージングや、大規模なアーカイビングを必要とするアプリケーション領域においては、DX Objectストレージ製品があります。現在、Dellのストレージは、顧客に対して大きな変革を促すことができる製品を取りそろえており、他社製品では解決できないようなソリューションが提供できると自負しています。


ビジル氏:仮にビッグデータの定義を、クラウドコンピューティングのように、非常に大きなコンピューティングパワーを必要とするデータ群とした場合に、その解決策として、DellのDCS(データセンターソリューション)部門における豊富な経験をあげることができます。

 DCS部門では、大規模なインターネットプロバイダやクラウドサービスプロバイダなどと密接な関係を持ち、最適化した製品を提供することができる。この経験をもとに、仮想化および自動化されたストレージソリューションを提供できるわけです。

 これをハイエンド領域においてはCompellentとして、ローエンド領域においてはEqualLogicという製品において具体化しています。例えば、EqualLogicユーザーの80%の顧客がVMwareにデプロイメントしていますし、Compellentでもほぼ同様の水準になっているのは、こうしたDellならではの経験がベースにあるといえます。


サンダース氏:あるコミュニケーションプロバイダは、PB(ペタバイト)レベルという大きなデータストレージを、先ごろ、Compellentへとマイグレーションしました。この最大の理由に、Dell Fluid Dataアーキテクチャによる信頼性、拡張性、可用性とともに、マルチテナンシー機能に対して、高い評価が得られたことがあります。

 重要なデータや頻繁に利用するデータには、スピードと信頼性が求められるが、あまり重要ではなく、それほど使われないデータに対しては、ローコストでスピードもそれほど速くないものでもいい。異なるストレージを包括して管理できる環境を実現するDell Fluid Dataアーキテクチャは、まさにビッグデータ時代において注目される考え方だといえます。


――Dellがストレージ事業において発信する基本メッセージは、サーバーやクライアントPCのメッセージとは変わりませんか。

ベル氏:Dellは、サーバーやクライアントPC分野においても、「Open(オープン)」、「Affordable(アフォーダブル)」、「Capable(ケーパブル)」というメッセージを発信してきましたが、これはストレージ事業においても変化はありません。高い機能性を追求し、それをお求めやすい価格で提供している。

 例えばストレージとサーバーとの統合においては、Dellのサーバーだけでなく、ヒューレット・パッカードのサーバーとも連動することができ、その点ではオープンだといえますし、ユーザーが抱える、サイロ型のデータ管理の課題解決に、包括した管理環境を提供しているのも、オープンであることの証明です。


ビジル氏:また、ストレージ市場における「オープン」の要素としては、iSCSI、ファイバーチャネル、FCoE(Fibre Channel over Ethernet)といった、業界標準のオープンプロトコルのほぼすべてをサポートしている点も見逃せないのではないでしょうか。

 

EMCとはまだ“婚姻関係”にある

米Dell エンタープライズ・ストレージ プロダクト・マーケティング エグゼクティブ・ディレクターのトラビス・ビジル氏

――これまでストレージ事業において提携関係にあったEMCとの関係はどうなりますか。

ビジル氏:まず申し上げておきたいのは、現在、DELL|EMCブランドのストレージをお使いの世界中のユーザーに対しては、これまでと同様のサポートを提供していくことに変わりはないということです。最後までしっかりとケアを行います。DellはいまもEMCと、リセラー契約を継続しており、現行のDELL|EMCブランドの製品が生産停止になるまでは、商品を供給することが可能であり、VNXシリーズについてもご要望があれば提供することは可能です。

 ただし、(エントリー製品の)VNXeについては、Dellのなかに直接競合する製品がありますからサポートはしません。Dellの今後のフォーカスは、Compellent、EqualLogicといったDell独自の製品であり、そこに注力していきます。

サンダース氏:例えるならば、EMCとは、いまでも婚姻関係にあります。しかし、その関係がいい時もあれば、悪い時もあるということです。

 

デル=ストレージのリーダーというメッセージを伝えたい


――7月下旬に「Dell Solution Roadshow 2011」を日本で開催しました。このイベントは、ストレージ部門にとってはどんな意味がありますか。

小松原氏:Dellは、今年6月に米フロリダで、Dell Storage Forumを開催し、そこでCEOのマイケル・デルが基調講演を行いました。また、110以上のテクニカルセッション、ハンズオン、トレーニングが行われました。

 今回のイベントにおける1つの目的に、このイベントでのメッセージを、日本のパートナー、エンドユーザーにお伝えし、EqualLogicやCompellentといったDellのストレージ製品に関する最新情報を届けることがあります。

 日本市場におけるDellのイメージは、依然としてサーバーやクライアントPCのベンダーであるというものです。しかし、この3年間で、EqualLogic製品は日本でも大成功しており、iSCSI市場では過去11四半期連続でナンバーワンのマーケットシェアを獲得している。Compellent製品がわれわれの新たなポートフォリオに加わったことで、製品ラインはほぼ完成した状態となった。できるだけ多くの人に、Dellはストレージ市場をリードするベンダーであると認識してもらいたいですね。


ベル氏:Dellはいったいどう変革しているのかといったことを、対外的に訴求していく必要があります。そうした意味で、チャネルパートナー、エンドユーザーなどにメッセージを伝えるための有用なイベントだととらえています。

 Dellは、ストレージ市場において、テクノロジーイノベーションのマーケットリーダーであること、またDellが提案するDell Fluid Dataアーキテクチャによって、お客さまのストレージまわりのコストを大幅に変えることができるといったことを、知っていただきたい。効率性、俊敏性といった点だけでなく、電力費、冷却費が大幅に節約でき、データセンターにおけるストレージのフットプリントを大幅に削減できるのです。

 ストレージに必要な費用は年々増大傾向にあり、CIOにとっても頭の痛い問題になっているはずです。Dellが提供するストレージソリューションを活用することで、ストレージまわりのコストを大幅に圧縮することで、そこで浮いた費用を、企業の中核となるアプリケーションにぜひ活用してもらいたい。

 

買収した企業の技術を吸収、さらに進化したDell Fluid Dataアーキテクチャに

――今後、Dell Fluid Dataアーキテクチャはどう進化していきますか。

ビジル氏:Dell Fluid Dataアーキテクチャの進化はこれからも続きます。最も優先している取り組みは、Dellが買収した企業のテクノロジーを、このアーキテクチャのなかに取り込んでいくことです。

 Exanetのスケーラブルファイルシステムテクノロジーや、Ocarina Networksの重複排除テクノロジーを取り込むことで、製品をまたいだ形でデータ管理、運用を効率化することができる。Exanetの技術は、すでにPowerVault製品との統合を完了しており、EqualLogic製品にも6月に統合に関する具体的な内容を発表したところです。今後、さらに詳細な情報が発表されることになるでしょう。

 また、Compellentについても、近い将来、Exanetの技術を統合することを予定しています。一方、Ocarina Networksについては、まずExanetに準拠したデルスケーラブルファイルシステムへの統合を行います。これは来年になるともっと詳細な情報が出ることになるでしょう。

 そして、これらの統合化に向けた取り組みの次には、Dellのストレージ以外の製品と、統合が開始されます。Dellのサーバー製品と、ストレージ製品をうまく組みあわせることで、よりよいソリューションとして提供することができます。サーバーとストレージを統合した活用においては、重複排除の技術とともに、SSDを利用したTier0の環境もサポートしていくことになる。

 一方で、クラウド領域に向けた取り組みについても、これから促進していきたい。クラウドプロバイダーに対して、Dell Fluid Dataアーキテクチャを、クラウドのひとつの階層として活用してもらうような仕掛けを行っていきたいと考えています。


――Dellでは、Compellentの買収によって、ストレージ事業を推進するための体制が整ったとしていますが、今後のゴールはどんなところにおきますか。

ベル氏:エンタープライズストレージ市場におけるナンバーワンリーダーといえるだけの、マーケットシェアを獲得したいですね。

 そして、ストレージといえばDellというイメージを広く業界に認知してもらいたい。まだ道のりは長いが、Dellには、それを実現するだけのテクノロジーイノベーションと製品ポートフォリオ、能力のあるセールスチームがある。Dellのブランドと、これまでに培ってきたお客さまとのリレーションシップ、チャネルパートナーとの連携によって、早い段階でトップシェアを獲得できると考えています。

 Compellentを買収してから、それほど月日がたっていませんが、Compellentを取り扱うサーティファイドチャネルパートナーの数は、倍増していますし、Compellentの見込み案件は倍増しています。


ビジル氏:EqualLogicを買収して以降、この3年半で、EqualLogicのカスタマベースは8倍へと拡大しました。これと同じような成長がCompellentでも起きる可能性がある。EqualLogicととともに、Compellentの事業を伸長させることで、ストレージ事業全体をさらに伸ばしていきたいですね。


――ところで、日本法人におけるストレージ事業はどうなっていますか。

小松原氏:昨年12月に、世界で初めてのEqualLogicはユーザーコミュニティを日本に設立しました。もともとストレージの世界は、閉ざされた傾向があるといわれており、ユーザーやパートナーが意見を交換する場がなかった。ユーザーコミュニティは、こうしたユーザー、パートナーの要望に応える形で設置したものです。

 EqualLogicに関する最新技術情報を共有したり、米本社の担当者を交えて、製品、品質、サポートといった点からの要望をDellにあげていただくといった仕組みも用意しました。製品技術情報を提供するeDMも日本語版での提供を開始しましたし、イベントやDellサイトを通じての情報提供や、SNSであるテックセンターによるコミュニケーションも積極化しています。

 また、東京・三田のデル ソリューション・イノベーション・センター(SIC)において、検証を行える準備も整えています。コミュニティを通じて、ユーザーに安心して利用していただける環境を構築できたと考えています。ユーザーとの接点、パートナーとの接点という意味での変革が進んでいます。日本でもストレージといえば、デルという存在感へと高めていきたいと考えています。

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