インタビュー

Box日米トップが語る日本市場戦略――円安の逆風下で顧客を獲得、日本発の成功事例「輸出」が今後の鍵

 米Boxは11月5日(米国時間)、同社の年次イベント「BoxWorks 2026」を米国カリフォルニア州サンフランシスコ市の会場で開催した。その翌日、同じベイエリアのレッドウッドシティ市にあるBox本社において、Box 共同創業者・CEO アーロン・レヴィ氏およびBox日本法人(株式会社Box Japan)代表取締役社長 佐藤範之氏という日米トップ2人が、日本の記者からの質疑応答に応じた。

 この中でレヴィCEOは「日本への投資は今後も拡大していく計画で、来年は今年以上に日本市場へ投資する予定だ」と述べ、日本市場への投資を今後も強化する計画であると強調し、今後も日本市場を重視していく姿勢を示した。

 また、Box Japanの佐藤社長は「日本市場は、新規契約が前年比で34%増えており、2027会計年度の終わりには、30%に近い数字まで日本市場の割合が高まるだろう」と述べ、為替レートなどの影響は別にして、現状のままいくと、昨年佐藤氏が目標として掲げた、日本市場の売上高の割合がBox全体の30%を目指すという目標が、近いところまでは実現できる見通しだと説明した。

 佐藤氏は、Box Japanの次の目標は日本の顧客にAIの活用をこれまで以上に進めてもらうこと、そして日本の製造業での成功事例をほかのリージョンに「輸出」することだと述べた。

株式会社Box Japan 代表取締役社長 佐藤範之氏

レヴィCEOが語るコンテンツ特化の優位性

――非構造化データの構造化データへの取り組みに関して、Boxはかなり積極的に取り組んできたが、今ではMicrosoftやGoogleなどのSaaSベンダーや、OpenAIやAnthropicなどのモデルプロバイダーなどが提供するAIエージェントも、同じような機能を実装していく可能性がある。そうした中で、Boxの競争上の強みは何だと考えているか?

レヴィ氏 :当社は、ほかの企業よりもずっと深くコンテンツに特化している点で、非常に独自性があると考えている。実際、セキュリティ、ガバナンス、アクセス制御、連携、AI向けのファイル処理など、AIエージェントにとって非常に重要な一連の工程があり、それらに関してかなり深いところまで取り組んでいる。

 企業を支援するうえで、当社がそこに注力している度合いは非常に大きく、多少の競争があっても、私はそれほど心配していない。市場は非常に大きく、当社は独自の強い価値提案を提供できると考えている。このため、その点に関して私はあまり懸念していない。

Box 共同創業者・CEO アーロン・レヴィ氏

――現在、SaaSの形は大きく変化している。例えばSalesforceは、Slackという自社のユーザーインターフェイス(UI)があるのに、AnthropicのUIをサポートすることを発表している。こうしたことは、SaaSベンダーにとっての大きなトレンドとなっているのが現状だが、Boxとしてはどう考えているか?

レヴィ氏 :両者は補完的な形になると考えている。個々のユーザーがファイルを見たり、共同作業をしたり、自分のデバイスからファイルにアクセスしたりするためのUIは必要だ。

 その一方、検索や質問をしたい時、あるいはエージェントに情報を探してもらいたい時には、会話型のUIを使うことになるだろう。通常の画面をクリックして操作するのではなく、エージェントを通じて行うのだ。

 当社は、強力なヘッドレスプラットフォーム(SaaS界隈では、UIを持たなくても使えるサービスのことをヘッドレスと呼ぶのがトレンドになっている)であると同時に、エンドユーザー向けの優れたUIも提供している。それらを組み合わせて、お客さまに補完的な形で提供していく。

――つまり、現在のBox自身のUIは引き続き提供していくが、将来的にAnthropicのClaudeやOpenAIのChatGPTのようなプロンプト(会話)ベースのUIにも対応していく可能性があるということか?

レヴィ氏 :そうしたUI上に当社の機能が表示されることには問題がない。当社がUIを必ず所有する必要はないし、ほかのプラットフォームにも機能を拡張できる。それでまったく問題ないと考えている。

――それがSaaSの未来ということか?

レヴィ氏 :SaaSの未来における非常に重要な要素になると考えている。

――日本企業、特に製造業では、オンプレミスやエッジに大量のデータがあり、そうしたデータのすべてがBox上にあるわけではない。Boxがオンラインストレージ企業からインテリジェントコンテンツ管理企業へと変わっていく中で、オンプレミス環境をどのように支援するかを教えてほしい。すべてをクラウドに移さずに、エンドユーザーがオンプレミスのデータを活用できるようにする方法はあるだろうか?

レヴィ氏 :とても良い質問だ。率直に言うと、データはBox内にある必要がある。コンテンツが当社のプラットフォームの外にある場合、対応は難しくなる。ただ、その情報にBoxプラットフォームからより簡単にアクセスできるようにする取り組みを進めている。Box Shuttleという技術があり、データを簡単に移行できるようにしている。今後、Box Shuttleへの投資をかなり増やす予定で、データ移行を支える機能がさらに増えていくだろう。

日本企業の複雑な業務プロセスをAIで効率化、「Box Architect」がもたらす変革

――製品戦略の方向性を見ると、Boxはプロセスマイニングの領域に進出するのではないかという印象を受けた。

レヴィ氏 :とても面白い質問だ。従来の意味での本格的なプロセスマイニングは、おそらく行わないと思う。ただ、具体的な例を挙げて説明しよう。今回のBoxWorks 2026において、Box Architectを発表したが、これは、コンテンツに関わる企業のワークフローを設計し、構築し、実行し、最適化していくものだ。

 (これを顧客に説明している時に)あるお客さまから「業務プロセスを説明している動画をアップロードして、Architectにそのワークフローを設計してもらえないか」と聞かれた。これはとても面白いアイデアだ。というのも、すでに実際にできるからだ。Box Architectは動画を見て、文字起こしを読み、音声を聞いて、どんなワークフローがあるのか、どう設計すべきかを考え始めることができるのだ。

 これは、すでにある程度プロセスマイニングの領域に踏み込んでいることを意味し、今後さらに広げていく可能性もある。本格的なプロセスマイニング企業ほど深く取り組むかはわからないが、今後どこまで進むか見ていきたい。

――日本企業の業務プロセスは非常に複雑だ。そのため、日本企業がBoxのソリューションに関心を持つ理由の1つになっているかもしれないし、将来的には自動化も期待できる。Boxのソリューションが、日本企業の複雑な業務プロセスを効率化するうえで、どのように役立つのか説明してほしい。

レヴィ氏 :当社は、最先端のAIが、当社のために業務プロセスを設計できるほどの能力を持つ段階に近づいていると考えている。もちろん、AIに完全に任せて自律的に進めさせるわけではなく、AIと協力して進めていくことになる。AIシステムが組織に入り、契約管理のワークフローやデジタル資産管理のプロセス、請求書処理のプロセスをどう設計するのが適切かを、一緒に考えられるようになりつつあるのだ。

 Box Architectは、その方向への最初の取り組みだ。実行したいシステムを、AIが設計してくれるようになる。日本企業でどの程度うまく機能するかは、今後見ていく必要はあるし、時間はかかるかもしれない。

 しかし、AIを使って組織内のワークフローやプロセスを設計できるようになるのは、とてもわくわくすることだと思う。

Box Architectの発表

サブスクリプションと従量課金のハイブリッドへ

――Boxの料金モデルは、ユーザー単位のサブスクリプションライセンス(USL)だ。一方、最先端のAIモデルではトークンの利用量が非常に大きくなっている。そのため、将来的には利用量ベース課金(UBB:Usage Based Billing)に移行する必要があるのだろうか。今後のサブスクリプションやビジネスモデルについて、どう考えているか教えてほしい。

レヴィ氏 :今後は、より利用量に応じたモデルになっていくと考えている。当社のプラットフォームにも従量課金モデルが一部導入されている。AIの利用や、プラットフォームを活用するAIユニットに対して課金する形になる。

――つまり、USLとUBBを組み合わせたモデルになると理解すればよいか?

レヴィ氏 :その通りだ。基本的な利用量を提供し、そのうえにAIの利用量に応じた課金を加える計画だ。これは現在、AIを収益化するためによく知られている方法だと思う。すでに導入が始まっており、拡大し始めている。

 当社は、お客さまがワークロードを適切なAIモデルに柔軟に振り分けられるようにすることに、非常に力を入れている。例えば、お客さまがエージェントにリクエストを送った場合、最も効果的なAIに振り分け、最も低いコストで最良の結果を得られるようにしたいと考えている。そうすることで、お客さまのAIコスト全体を調整しやすくなるからだ。これは、すでに構築したエージェントの中核機能に含まれている。今後は、お客さまがコストを管理し、活用できるようにする機能を、さらに追加していく予定だ。

レヴィCEOが明かす日本市場への強い期待とリスペクト

――日本市場について、どのように見ているか?昨日の基調講演では、トヨタ自動車を日本企業の例として挙げていた。また、2023年には売上の30%が日本市場からのものだと話していたと思う。Boxにとって日本市場がどれほど重要なのか、また日本に何を期待しているのか教えてほしい。

BoxWorksでのレヴィ氏の基調講演で、冒頭でトヨタ自動車が顧客事例の1つとして紹介された

レヴィ氏 :当社は本当に日本市場が大好きだ。実は毎週金曜の夜、家で寿司を食べて日本市場を祝っているほどだ(笑)。当社は日本や日本企業の大ファンなのだ。日本企業は、世界で最も重要な企業の一部だと思う。電子機器、メモリー、輸送、光学など、日本はイノベーションを牽引しており、素晴らしい技術革新が数多くある。そうした日本経済全体の組織が働き方を変革できるよう、当社も日本のパートナーになりたいと思っている。

 日本への投資は今後も拡大していく計画で、来年は今年以上に日本市場へ投資する予定だ。日本企業とさらに仕事ができることを、これ以上ないほど誇りに思っている。

 日本の売上比率について、目標としている数字はない。日本のお客さまが望むだけプラットフォームを活用していただけるなら、その比率がどれほど高くなっても構わない。日本経済の中で取り組める市場機会に、(お客さまには)心から感謝している。

――日本市場がBoxのソリューションに強い関心を持っている理由は何だろうか? Boxの製品やソリューションのどのような機能、あるいは考え方が、日本市場にとって魅力的なのか?

レヴィ氏 :いくつかあると思う。日本企業は、企業データのガバナンス、データセキュリティ、コンプライアンスを非常に重視している。次に、ワークフロー、文書管理、企業データ管理の支援に力を入れている。これらは日本企業にとって、とても重要なのだ。

 そしてもう1つ重要なことはAIだ。日本企業について誤解されていることがあると思う。日本企業は伝統を重んじるという印象を持つ人がいると思う。日本には確かに、当然ながら伝統を尊重する文化があるが、その伝統は、自動化や技術の進歩に対する日本の関心や歴史的な取り組みとも結びついている。

 興味深いのは、伝統的な側面がある一方で、AIや自動化、技術に対する深い理解もあることだ。日本には技術に対する深く豊かな理解がある。つまり、伝統や意図を持ったビジネス慣行と、AI、自動化、超知能への強い関心が共存しているのだ。

 これも、今の当社を後押ししている要因だと思う。日本企業はAIに非常に期待しており、組織にAIの力を取り入れて仕事を効率化し、加速させたいと考えている。それが今、Boxをご採用いただける非常に大きな要因になっているのだ。

BoxとNVIDIAが共有する非構造化データの重要性

――BoxWorksの基調講演では、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOがレヴィ氏のことを優秀なリーダーだといっていたのが個人的にはとても印象的だった。

レヴィ氏 :彼は褒めすぎだ(笑)

NVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏(左)と対談するBox 共同創業者・CEO アーロン・レヴィ氏(右)

――彼も話していたエージェント型エンタープライズを実現するということは、われわれの業界にとって重要な取り組みだ。

レヴィ氏 :その通りだ。そしてここで重要なのは、ジェンスン自身がこのことを誰よりもよく理解しているという点だ。ファイルは、エージェントにとっての作業記憶のようなものだ。ファイルには、組織にとって重要な知識や情報が含まれている。組織の重要な事実や数値、意思決定、マーケティングキャンペーン、契約などを把握するための情報は、すべてファイルに入っている。ジェンスンは何年も前に、そのことをすぐに見抜いていた。当社はそのことを何年も話し合ってきた。今、世界のほかの人々もそれを理解し始めている。

 昨日、彼がステージ上でそれに支持を表明してくれたことは、非常に大きな喜びであり、身に余る光栄だ。企業内の非構造化データは、今や本当に重要だからだ。

――しかし、数千基のGPUを買わないといけないのでは?(笑)(筆者注:基調講演のフアン氏との対談の最後に、フアン氏がアーロン氏にこの講演のお礼に数千基のGPUを買ってくれるのだよね?というジョークを話したことを受けての質問)

レヴィ氏 :(笑)。でも大丈夫、当社はすでにたくさんのGPUを使っていて、当社が使っているGPUの数を見たら彼もとても喜んでくれているから(笑)

Box Japan佐藤社長が語る業績進捗

 レヴィ氏の質疑応答の後、Boxの日本法人となる株式会社Box Japan 代表取締役社長 佐藤範之氏が質疑応答に応じた。佐藤氏は2025年2月1日に現職に就任し、日本法人のリーダーとしては二度目のBoxWorksとなる。

株式会社Box Japan 代表取締役社長 佐藤範之氏

 昨年のBoxWorksの会見で、佐藤氏は「現在日本法人はBox全体の売上高のうち23%を占めている。2027会計年度までにこれを30%に引き上げたいと社内で目標を設定している」と述べ、Boxにとって日本市場の成長が本社の成長を牽引している状況になっていることを説明。会計年度2027年(FY2027、同社の会計年度は暦年で1年前の2月に始まり暦年の1月に終わる。現在は会計年度2027の第4四半期に相当する)までには、それを30%に引き上げたいという目標設定を行っている。

 昨年のBoxWorksは9月に行われたため、そこから約1年2カ月で状況がどう変更したのかと確認したところ、「日本市場は、新規契約が昨年対比で34%増えている。現在のところまで会計年度2027が締まっていないため、具体的な数値は言えないのと、為替レートが大きく変わらないことが前提だが、会計年度2027の終わりには目標に近いところまでいける見通しだ」と述べ、引き続きBox Japanのビジネスが成長しており、成長基調が続いていると説明している。

 Boxが公開している会計年度2027年第2四半期(2026年5月~7月期)の決算報告書によれば、現状、同社の売上高に占める日本の割合は26%と公表されており、会計年度の半ばの時点で、すでに26%までは達成していることが明らかにされている。こうした成長基調が今後も続けば、目標の30%まではいかなくても、28%、29%という数字に近づける可能性があるということだろう。

 この数字がすごいのは、円安というBox Japanにとっては逆風の中でこれを実現していることだ。言うまでもなくBox本社の会計は米ドルベースだ。現状、対ドルの日本円為替レートがここ数十年としては記録的な円安という状況の中で、30%に近づくという目標を達成しつつあるのは、驚きとしか言いようがない。

 ほかの米国SaaSの日本支社では、自分たちの売上が下がっていないのに、円安になったことで本社から見ると売上が減っているという状況が発生している。それをはね返しての数字だから、Box Japanのビジネスがいかに好調であるかは、筆者が強調するまでもないだろう。

 こうした好調さを維持している要因について「日本のお客さまは解約率が低く、同時に新しいお客さまを得ることができていることが要因だと分析している」(佐藤氏)との通りで、一度契約した顧客が継続的に使っておりそれを維持したまま、新規の顧客を得ることができていることが好調の要因だ。

Boxが日本企業に選ばれ続ける理由

 では、なぜBoxは日本で新規顧客を獲得し続けられているのだろうか? 昨年のBoxWorksでの質疑応答でも佐藤氏が語っているように、その理由として大きいのは、日本ではクラウドへ移行が米国に比べて遅れていたため、逆にここ数年でファイルストレージをBoxのようなクラウドストレージに移行するというトレンドが起きていることが大きいという。

今年のBoxWorks 2026にも参加者の約1割が日本からの顧客などで、日本の顧客のBoxへの注目度の高さを示している

 Boxの特徴は、レヴィCEOが上記の質疑応答でも語っている通り、セキュリティ、ガバナンス、アクセス制御、ほかのサービスとの連携などが充実していることにある。例えばアクセス制御で言うと、アカウント別に細かな設定ができ、外部とシェアする時にもPDFファイルに透かしを入れるなどの作業を、ある程度自動で制御できる。

 例えば、とある製造業の企業(ここでは自動車メーカーだとしよう)がある日に発表される新車の資料がPDFになっていて、それをディーラーの関係者などに発表前にシェアしたいというシーンを考えてほしい。情報のシェアはしたいが、かといってそれをほかの人に転送されたりすると困る、これがオンラインストレージを利用する企業の共通の悩みだと言える。

 Boxを利用すると、報道発表が行われる12時間前までは、その資料にユーザーのアカウント名の透かしを入れるといった使い方が可能になる。さすがに、自分のアカウント名の透かしが入ったPDFファイルを大々的に流出するようなリスクを冒すビジネスパーソンはいないだろうから、発表まで秘密を維持しやすくなる。あるいは、そもそもダウンロードはできないようにして、Webブラウザでしか見られず、誰にも転送できないようにすることも可能だ。

 そうした使い方はほんの一例ではあるが、このような詳細なアクセス権の管理設定を行えることにより、企業側のセキュリティを確保しながら、生産性向上につなげている。それが企業側に支持される理由の1つだ。

 このようなことは、オンプレミスのファイルサーバーでは実現されていない。一例として、2020年当時の平井卓也デジタル改革担当大臣がPPAP(パスワードを別メールで送ることの俗称)の廃止を訴えたにもかかわらず、今でもメールでファイル(PDFやExcelファイルなど)を送信する時の要件として、IT担当者がPPAPの利用をユーザーに指定している大企業は決して少なくない。

 率直に言って、PPAP自体にセキュリティ性を上げる要素は1つもないのだが、それでも大企業のITが企業に要求している理由は、何かをやっていないと問題が起きた時にIT担当者が責任を問われるからだろう。もちろん、企業の側でも認識はしているのだが、どうしたらいいかわからないという企業が少なくないことをPPAPの件は示していると言える。

 大企業がオンプレミスのファイルサーバーやNASなどを一括して置き換える対象としてBoxを選択するというのは、とても自然な流れだと考えられる。

 日本企業で強い人気を誇るMicrosoft 365に付属するSharePointやOneDrive for Businessに乗り換えるというのも、大企業にとってはもう1つの選択肢であり、実際それを選ぶ企業も少なくない。しかし、佐藤氏によれば、アクセス権の制御といったBoxの特徴に引かれ、そこからクラウドストレージをBoxにするというユーザー企業も少なくないそうだ。

Box Japanの次の経営目標は「ユーザーのBox AIの活用率を上げていくこと」

 Box Japanにとっての次のステップは、そうしたクラウドストレージをBoxにしてデータをBox上に置いているユーザーを、Boxが提供するAIをより活用してもらうことだと佐藤氏は強調した。

 佐藤氏は「われわれにとっては次のステップは、お客さまにAIの利用率を上げていただくことだ。具体的なKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)としては、利用量ベースの売上を伸ばしていくことがある。それを次の中期経営計画の中で訴求していきたい」と述べた。Box Japanにとって次の成長の鍵は、Boxが提供するAIソリューション(Box AI)のソリューションのうち、ユーザーのトークン消費に応じて課金されるUBB(Usage Based Billing)課金を増やしていくことだと述べた。

 現在Boxに限らず、SaaSのビジネスモデルは、従来の1ユーザーあたりの月額・年額で課金されるサブスクリプション型(USL)と、トークンの消費に応じて課金するUBBのハイブリッド型に移行しつつある。

 Boxの場合は、Business、Business Plusという中小企業向け、Enterprise、Enterprise Plus、Enterprise Advancedという大企業向けのUSLが基本としてあり、フロンティアAIモデルを使ったAIサービスを利用する時のクレジットとなる「AIユニット」がそれらに含まれている。

 Enterpriseが1000、Enterprise Plusが2000、Enterprise Advancedが20000といったように、クレジットが各プランのUSLの中に含まれており(Businessプランの場合は別売)、これを超えた場合には消費に応じた課金(UBB)になる。

 佐藤氏が説明していることは、Box Japanのユーザー企業に、よりAIユニットのUBB部分をより購入してもらえるような施策を打っていく、ということだ。もちろん、それはユーザーを高い料金にやみくもに誘導するということではない。ROI(Return on Investment)を認識してもらい、投資する効果があると納得してもらって使ってもらうという意味になる。

 実際、佐藤氏によれば、Box Japanの顧客の多くはEnterprise Plusを契約しているとのことで、それをEnterprise Advancedにアップグレードしてもらうことも同社の目標であるとしている。

 フロンティアAIモデルを利用したAIサービスを利用するには、Enterprise Advancedでないと使えないものも少なくない。かつ、前出のAIユニットの付与もEnterprise Advancedよりも少なく、多くの企業にとっては、なかなかBox AIのフロンティアAIモデルのAIサービスを活用するに至っていないことの裏返しだといえる。

Enterprise Advancedの料金プラン。佐藤氏が紹介したBox Architectなどの機能を活用するには、現在、日本の顧客の多くが契約しているEnterprise PlusからEnterprise Advancedへの移行を促す必要がある

 その意味で、佐藤氏は、今回のBoxWorksでの新機能の発表の中でも「Box Architect」に期待しているという。他社(例えばパランティアなど)では、FDE(Forward Deployed Engineer)と呼ばれるSaaSベンダーのエンジニアが顧客企業に入り、顧客側のビジネスモデルなどを理解したうえで、AIによるワークフローを構築するという取り組みが行われている。

 Boxでも、顧客企業に同社のコンサルタントが入って導入を支援することはあるが、FDEほど大規模にやるというわけではないという。Boxとしては、それはAIが解決すべき課題だと考えているそうで、そのソリューションがBox Architectなのだと佐藤氏は説明した。

 佐藤氏は「Box上に実装いただけるお客さまのワークフローは何かと考えると、ロングテールの業務が多い。各部署に散らばっている文章に紐づいているコンテキストを見つけて、それをBoxがAIのワークフローにしていくことが重要だ。それを実現するのがBox Architectで、企業の現場でBox Architectを使っていただくと、AIが今現場で行われていることを調べて、自動でワークフローを組むことまでやってくれる。それが十分FDEの代わりになるし、ROIも高いと考えている」と述べ、Box Architectが日本のBoxの顧客にとって重要なサービスになると考えているとした。

カスタマーサクセス体制強化などで吸い上げた日本発のノウハウを他リージョンへ還元

 Box Japanにとってのもう1つの次のステップは、日本での成功体験をほかのリージョンに輸出することだという。前出の会計年度2027の第2四半期の決算書類を見ると、Boxの売上は米国が63%、日本が26%と公開されている。つまり、米国+日本で89%だということで、ほかのリージョンは11%しかないということがわかる。

 本来なら成長市場である日本以外のAPJ(Asia Pacific Japan)地域や、EUを含めた巨大な市場であり、ITの売上金額もそれなりに高いEMEA(Europe Middle East and Africa)地域、ラテンアメリカなどの市場が11%しかないことを意味する。Boxにとって機会損失だと考えるのがまともな経営者だし、株主からもそこを求められるのは言うまでもないだろう。

 例えば、日本には非常に多くの製造業の顧客がいる。今回、BoxWorks基調講演の冒頭で、日本の代表的な顧客としてトヨタ自動車が紹介されている。トヨタ自動車の事例はBox JapanのWebサイトでも公開されており、製造業に採用された代表的な事例とされている。

 言うまでもなく、日本市場は製造業が多いのが特徴だ。その製造業で多くの採用例があるBox Japanに対しては、その成功体験を、ほかのリージョンに「輸出」してほしいと求められていると佐藤氏は説明する。

 「アーロンは日本市場に投資を行うことを約束してくれており、一部すでにそれは始まっている。私の直接の上司になるオリビア(Box COO オリビア・ノッテボーム氏)からはBox Japanのノウハウを輸出してほしいと求められている」との通りで、Box本社が日本に投資することの意味のひとつに、そうした日本の成功をほかのリージョンに波及させたいという狙いがあるのだろう。

 例えば、日本と同じように製造業が多い国と言えばドイツが思い浮かぶ。SiemensやVWなど世界を代表するような製造業がドイツにはあり、そうした企業に対してBoxが売り込む時に、事例やノウハウなどをドイツのBoxに「輸出」するというのが基本的な考え方になる。

佐藤氏の上司にあたるBox COO オリビア・ノッテボーム氏は、Box Japanに日本のノウハウのほかのリージョンへの輸出を求めているという

 今後、Box Japanとしてはそうしたことを強化する計画で、体制の強化を図っていく。例えば、顧客の業務変革とBox活用定着を実現していくカスタマーサクセスチームの新しいリーダーとして、仲澤輝宏氏が11月1日付けで専務執行役員 CS本部長に就任している。仲澤氏は2000年にセールスフォース・ジャパンに加入し、2007年には同社でカスタマーサクセスチームを立ち上げた、日本におけるカスタマーサクセスの第一人者として知られている。今後はBoxのカスタマーサクセスチームを率いて、顧客のニーズを吸い上げ、導入推進を手伝うことで、Boxの普及や事例増加に努めることになる。

 そうした人材の強化を始めとして体制を強化することにより、日本からノウハウなどを「輸出」することが、Box Japanの次の段階の取り組みとなる。