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【BoxWorks 2026】Box、NVIDIA「Nemotron」ベースの「Box Context Retrieval」を発表
NVIDIA フアンCEOも登壇しAIに関する質問に回答
2026年11月6日 11:58
米Boxは5日(米国時間)、同社の年次イベント「BoxWorks 2026」を米国カリフォルニア州サンフランシスコ市内の会場で開催した。この中で、同社 共同創業者でCEOのアーロン・レヴィ氏が登壇したほか、ゲストスピーカーとしてNVIDIAのジェンスン・フアンCEOが登壇。BoxがNVIDIAのAI推論モデル「Nemotron」をベースにして開発した「Box Context Retrieval」を発表し、2027年から順次提供が開始されることを明らかにした。
このほかにもBoxは、フロンティアAIでビジネスプロセスを再構築し、コンテンツを活用した重要なワークフロー自動化を支援する「Box Architect」、組織がコンテンツを安全に管理し、重要なワークフローを自動化するとともに、事業全体でAIを活用する方法を変革する業界特化型ソリューション群「Box for Industries」も発表している。
クラウドストレージから「ICM」へ、企業が求める“決定論的AI”を支えるBoxのデータ基盤
2005年に創業されたBoxは、エンタープライズに特化したオンラインストレージを提供する企業で、同名のクラウドストレージサービスを企業顧客などに提供している。Boxは、ほかのオンラインストレージサービスと比較して、より詳細なアクセス管理やセキュリティ設定などを行える点で、より安全に社内外でコンテンツをシェアできるサービスとして、エンタープライズから中小企業まで多くの顧客を獲得している。
近年は、Boxのストレージ上に顧客が重要なデータを置いているという特長を生かす形で、AIを利用した各種サービスを顧客に提供している。
例えば、いわゆる非構造化データと呼ばれる文書や写真、動画などのさまざまな形式のデータにメタデータを付与し、構造化されたデータとして、AIモデルが扱いやすいデータ形式にするという概念「ICM(Intelligent Content Management:インテリジェントコンテンツ管理)」を大きく掲げており、同社自身が「ICMプラットフォームを提供する企業」と自社の説明に加えているほどだ。
AIが業務プロセスを変えていく中で、こうしたICMの考え方はますます重要になっている。というのも、いわゆるAIモデルは、確率論的といって、どんな答えが出てくるかは運次第というところがある。これは、一般用途向けに提供されているAIモデルがインターネット上のデータなどから学習しているためで、指示に対してどんな答えが返ってくるか予想できないからだ。
それに対して、企業、特にエンタープライズなどの大企業が必要としているのは、決定論的なAIだ。決定論的というのは、いつでもどこでも同じような答えが返ってくるという意味であり、AIが自社のコンテンツや社員同士のやり取り(例えば、Slack、Microsoft Teamsなどでのやり取り)、企業独自のルール(コンプライアンスの遵守など)、文化、歴史などを学習し、企業が必要とする処理を人間の社員が行うのと同じように導き出してくれることを期待している。
このような決定論的AIを作ろうとした場合、Box上にある企業データは非常に重要な意味を持つ。過去のプレゼン資料、ロードマップ、Slack/Teamsのやり取り、就業規則のPDF、契約書、社員旅行の写真――Box上に置かれているさまざまなデータが、決定論的AIを作るために必要なデータとなるのだ。それが今のBoxの強みになっている。
レヴィCEO、分散するコンテンツを安全にAIへつなぐICMの役割を強調
Box 共同創業者・CEOのアーロン・レヴィ氏は「私たちは、企業やITの世界で起きている大きな変革の中心にいる。AIの新しい時代に、企業が非構造化のものを含むすべてのデータを活用できるよう、何を開発しているのかをお話ししていきたい」と述べ、企業が非構造化のデータを含むすべてのデータを活用できるようにするのがBoxの役割だと強調した。
その上で、「これまでもお話ししてきたように、データを見ていくと、構造化されているデータは10%に過ぎず、残りの90%は非構造化データだ。Boxは創業以来、企業内のファイルやオブジェクトとして保存されているデータを扱ってきたが、これらは、AIエージェントがビジネスのワークフローを変えていき、意思決定を助け、効率よく働くために必要な情報だ。そうはいっても実際には、データは多くのシステムに分散されて保存されており、それらを1つのデータとして扱うことは大変難しい。それらをAIエージェントにやってもらうとしても、エージェントは、ファイルを誰がどこに置いたかなどの暗黙知を持っていない。エンタープライズにとっての課題は、データが分散していることであり、コンテンツを安全かつシームレスにAIへとつなぐ方法を必要としている」と述べた。
つまり、AIが持つパワーを本当に引き出そうとすれば、データの細分化の問題などに取り組む必要があり、現状のITシステムを再構築していく必要があると説明。それに必要なのは、Boxがここ数年構築してきたICMだとアピールした。
Box Context Retrieval、Box Architect、Box for Industriesを発表
今回、Boxはいくつかの新しい発表を行っている。その中で最大のものは、NVIDIAがオープンウェイトモデルとして提供しているAI推論モデル「Nemotron」をベースに開発された「Box Context Retrieval」の提供を、2027年から順次行っていくという発表だ。
Box Context Retrievalは、NVIDIA Nemotronのうち、NVIDIA Nemotron Retrieverを利用して構築されているAI推論エンジンで、Box上にエンタープライズが保存している非構造化データ(文書や画像、動画などさまざまな形式のデータ)を、AIモデルが推論に利用できるように構造化された知識データに変換する。
数百万におよぶファイル(スキャン文書、画像、音声、動画など)から、権限を考慮して必要なデータだけをより正確かつ効率的に検索できる形式に変換できる。これにより、Boxの顧客は検索精度を20%向上させ、トークン使用量を90%削減し、応答速度を4倍に高められる可能性があると説明した。
これによりBoxの顧客は、従業員などが閲覧を許可されているデータの範囲内で、信頼できる回答をAIから得たり、インデックスの作成を大幅に高速化して遅延を低減して、関連情報により効率よくアクセスしたり、その企業が所有しているコンテンツにより広範囲にアクセスして適切に情報を見つけたり、といったことが可能になる。
また、従業員が利用できるだけでなく、エージェント型AIが従業員の代わりに作業する際も同様のため、エージェント型AIをより効率よく自律的に実行させることが可能になる。
Boxは、同社のAI環境「Box AI Studio」において、AIモデルの選択を顧客の自由としており、Microsoft Azure上のOpenAIのAIモデル、Google Gemini、Amazon Web Services(AWS)上のAnthropic、IBM WatsonXなどから選択できるようになっている。今回のBoxWorksでは、その選択肢の中にNVIDIA Nemotron 3 UltraなどのNVIDIA Nemotronのオープンウェイトモデルが追加されたことが明らかにされている。
オープンウェイトモデルとは、学習済みのパラメーターが公開されており、ユーザーが自分の環境でファインチューニングを加えながら実行できるAIモデルのこと。オープンウェイトモデルを利用すると、ユーザーはファインチューニング程度で、自前の環境に最適化できるため、低コストで大規模モデルを自社向けにカスタマイズし、利用可能になる。
また、Boxは「Box Architect」および「Box for Industries」を発表している。Box Architectは、エンタープライズがエージェント型AIを導入する時に課題になる安全性や管理・制御(ガバナンス)の実装を行うためのツールで、AIを活用した業務フローの設計、管理、テストなどまで行うことを可能にする。法律事務向け、銀行向け、行政向け、保険向け、人事向けなど、多業種に向けた業務例が用意されており、それらを利用することで、エージェント型AIを利用した業務プロセスの変革を容易に実現する。
Box for Industriesは、業界に特化したコンテンツ管理ソリューション。銀行、公共機関、メディア・エンターテインメントの各業界向けが提供され、順次、他業界へも拡大する計画だ。
それぞれの業界に特化したワークフローやメタデータのテンプレート、AI連携などが実現されており、ワークフローの自動化などを標準状態で可能にしている。例えば、金融業界向けでは、顧客の口座開設から契約、融資申請までの効率化を実現するAI活用などが用意されており、顧客が口座を開設する時間を削減するといった効果を銀行にもたらすことができる。
Boxによれば、Box Context Retrieval、Box Architectは、BoxのEnterprise Advancedプランを契約している企業に提供される計画で、Box Context Retrievalは2027年のQ1に、Box Architectは2026年11月からベータ版が提供される計画だという。Box for Industriesは、11月5日より提供開始となっている。
NVIDIA ジェンスン・フアンCEOが対談で語る、AIコンピューティングの進化とビジネスプロセスの再構成
今回のBoxの基調講演には、Box Context RetrievalやBox AI Studioに「Nemotron」を提供している、NVIDIA CEOのジェンスン・フアン氏がゲストとして登壇し、Box CEOのアーロン・レヴィ氏と対談している。
AIを企業にどう浸透させていくのかを問われたフアンCEOは、「AIコンピュータの効率は、毎年けた違いに向上している。GPU、CPU、ネットワークチップを横断した設計を行っており、エネルギー効率やコスト効率などを向上させ、効率よくトークンを生成できるようにしている。今後もその効率を高めていく計画だ。その結果トークンコストはさらに下がっていき、AIはより長くより深く思考できるようになっていく。その一方でトークン利用量は増えていく見通しだし、AIの回答品質もどんどん上がっていく。それによりインテリジェンスのレベルも上がっていくと考えており、それは素晴らしいことだ」と述べた。
つまり、AIの普及には、NVIDIAが提供しているAIデータセンター(NVIDIA的な言い方ではAIファクトリー)がさらに進化していくことで、処理できるトークン数が増え、AIの質が上がっていくことになり、それが企業のAIを導入するモチベーションにつながると説明している。
そして、AIがLLMからハーネス(つまりはエージェント型AI)へと進化したことに触れ、「チップ設計やシステム設計にはAnsys、Synopsys、Cadenceなどの特定の分野に特化したツールを利用している。こうしたツールは今後も置きかえられることはないだろう。なぜなら、これらのツールは長年の経験に基づいて作られているからだ。ただし、エージェントがこれらを利用できるようにはしていく必要がある」と話した。
また、「私が期待しているのは、それらのツールにある膨大なデータだ。おそらくエクサバイト級のデータだと思うが、それが非構造化データだと考えれば、それらをAIで活用できることの意味は計り知れないと考えている。NVIDIAの強みは、もちろんそうしたツールで設計しているチップにあるが、同時にそのシステムを構築してきたライブラリでありデータだ。Boxとの協業によって、そうしたものを、コンテキストを作り出すエンジンへと変えていくことを期待している」と強調。
今回のBoxとNVIDIAの協業により、NVIDIAの社内に蓄積されている過去の設計データなどの非構造化データをエージェント型AIが活用できる形に変換していくことで、エージェント型AIがそうしたデータから読み取れるコンテキストを生かして、将来のチップ設計を自動化するなどの展開が考えられると説明した。
このほか、より安全なエージェント型AIの利用などが実現すると、企業のAI活用はどうなるかという質問に対して、フアン氏は「データの上にセマンティックレイヤ、つまりコンテキストエンジンのレイヤを置くと、AIは中核となるデータを活用して企業のビジネスプロセスを改善していけるようになる。これまで、企業のビジネスプロセスは人の手で作られていたが、これからはエージェント型AIを使ってビジネスプロセスを再構成可能になる。それによりプロセスを改善し、会社としてのやり方を標準化することで、効率よく運用できるようになり、低コストで継続的に実行できるようなビジネスプロセスができあがる。これがエージェント型ビジネスプロセスで、すべての企業でビジネスプロセスが再構築され、より効果的に、より多くのことを迅速に実行できるようになる。会社とはビジネスプロセスの集合体だ。新しいビジネスプロセスを実行する度に新しいデータが生まれ、それがBoxに戻ってくる形となる。将来のBoxは企業の記憶であり、組織の制度的な記憶になっていくだろう」と述べ、企業のビジネスプロセスは、エージェント型AIによって新しい形に作り替えられるだろうと説明した。
オープンウェイトモデルで「独自の知能」を社内に構築、ポリシー管理によるAI安全性の確立の必要性も説明
さらに、エンタープライズのフロンティアAIモデルの活用について問われると、「ここにいる皆さんは、最先端のフロンティアAIモデルを利用すべきだし、どの企業でもオープンウェイトなフロンティアAIモデルを使って、それぞれ独自の知能を構築していくことになるだろう。これが結論だ。なぜかと言えば、企業の知識を明文化し、企業の知能を取り込むためだ」とする。
その例として、「例えば、専門家を社内で雇う代わりに、会計事務所や弁護士事務所など、外部の力を借りることがあると思う。なぜなら、彼らは幅広い知識を持つ専門家だからだ。外部に委託できるものは委託すれば良いというのはビジネスの基本原則だが、最終的に社内に残るべきなのは、自社の専門領域に関する知識である。それは顧客に価値をもたらし、他社よりも何倍も優れた成果を生み出すものであり、それが社内に残るべきだという点は、今後も変わらない。アーロンと私たちは、企業がクローズドなフロンティアAIモデルを自社内でより効率的に使えるようにツールを提供していく。皆さんの会社のコンテキストエンジンがそのモデルとつながっていくのだ」という点を説明した。
また、「会社の知識が循環する仕組みを構築することで、独自のAIを作ることも可能になる。必要な技術はすでに利用可能になっており、そうした仕組みを回していくことで好循環が発生する。オープンウェイトのモデルがフロンティアAIモデルにかなり近い水準を保てるというのがこの話の前提だが、私は今あるモデルはすでに十分な性能を持っていると考えている。ここで十分というのはもう進歩しなくていいという意味ではなく、実用に足る水準に達したということだ。」と述べ、オープンウェイトのAIモデルもすでに十分利用可能なレベルに達しており、企業が導入して自社独自のAIモデルを構築するのに十分な性能が実現されているとの見解を示した。
続いて、AIの安全性を実現するために開発を止めるべきかという質問を向けられると「AIについて能力と安全性を別々には考えない。車について考える時に、ABSやブレーキ、エアバッグだけの安全装置を車だとは言わないのと同じことだ。AIもそれと同じで、安全なAIだけがAIだ。だから、AIの開発は加速させるべきと考える。なぜなら、AIの開発には安全性の開発も含まれるからだと回答した。
さらに、「現在、業界のリーダーが全力を挙げてそうしたAIの開発を加速している。仕組みや取り組み方はそれぞれだが、AIを高性能でかつ安全にするための努力を続けている。AIの開発でもそれぞれの企業は異なる文化、価値観、考え方を持つ人々で成り立っている。みんな価値観は違うかもしれないが、それでも企業は運営されている。多様性のある社会が成り立っているのと同じことだ。AIについても同様で、価値観が完全に一致していなくても、構築することはできる。必要なのはポリシーを設け、アクセス管理して、AIの振る舞いについて監視すること。それは人間であってもAIであっても同じことだ。ポリシー違反があれば、停止できるようになっているべきだ」と述べ、AIの安全性についての議論に関しては、開発を止めるのではなく、むしろ加速することで、より安全なAIを実現できるようにすべきだと説明した。













