インタビュー
料理の素材を提供するだけでなく一緒に作る――、Seagateのビッグデータ解析サービス「Lyve Cloud Analytics」
Seagate ラヴィ・ナイクCIOにその特徴を聞く
2022年10月18日 06:15
Seagate Technology(以下、Seagate)は12日、シンガポールのクラウドソリューション展示会「CLOUD EXPO ASIA」において講演を行い、同社が展開するクラウドストレージサービスとなる「Lyve Cloud」(ライブ・クラウド)の新しいサービスとなる「Lyve Cloud Analytics」(ライブ・クラウド・アナリティクス)を発表した。
Seagate CIO 兼 ストレージ担当上級副社長(EVP) ラヴィ・ナイク氏は本誌などのインタビューに答え「Lyve Cloud Analyticsは、単にアナリティクスやマシンラーニングのツールを提供するだけのサービスではない。われわれのデータサイエンティストなどのサービス要員がお客さまのところに出向いて、お客さまのビジネスや課題、データを一緒に解析し、それに適したモデルを一緒に作り上げていく。料理に例えれば、料理の素材を提供するだけでなく、お客さまのキッチンにいって一緒に料理を作る形だ」と述べ、Lyve Cloud Analyticsの特徴は単にツールを提供するだけでなく、そうしたツールを使って顧客のビジネスに最適化するサービスまで含んでいると強調した。
クラウドストレージのニーズは多様化、CSPなどがカバーしきれていない需要があるとSeagate
――なぜSeagateというHDDの会社がクラウドストレージの事業を開始する必要があったのか、教えてほしい
ナイク氏: Seagateは40年以上にわたってストレージ技術においてリーダーであり続けている企業だ。クラウドストレージ、CSP(クラウドサービスプロバイダ、AWSやMicrosoft Azure、Google Cloudなどのパブリッククラウドを提供する企業のこと)、インフラ、サービスプロバイダ、オンプレミスのデータセンターなどなどにストレージ製品を提供している。
そうした観点で見ていくと、現在のITは日々データ量が増え続けており、それに比例してデータを保存しておくストレージへの需要が増え続けている。これまでのようにITの企業だけがそれを必要としているのではなく、すべての種類の産業でそれが顕著になっているのだ。どんな産業でもデータから得られるデータを分析し、AIで活用していくようになっており、その必要性が高まるにつれて指数関数的にデータ量が増大している。そうしたお客さまにとって、クラウドを利用するメリットはなにかと言えば、納品するまで数カ月お待ちいただかなくても、すぐに利用可能ということだ。
既にわれわれはシステムレベルのエンタープライズ向けストレージビジネスを展開しており、その延長線上でクラウドストレージに参入するというのは非常に自然なことだったのだ。重要なことは、われわれはストレージのハードウェアから、システム、ソフトウェアまですべてを自社で持っており、それを垂直統合的にフルスタックで提供できるということだ。これが当社の強みと言える。
当社がクラウド以前に提供してきたサービスは多岐にわたっており、例えばテープデバイスからのデータの移行など、お客さまのさまざまなニーズに応えるサービスを提供しており、それはエンタープライズのお客さまの課題を解決するものであり、昨年から取り組んでいるクラウドストレージもそうしたものの一つだ。
――なぜ今、クラウド・ストレージに参入するのか?
ナイク氏: 現在、エンタープライズのお客さまがクラウドストレージを利用している中で、いくつかの問題に直面されていると当社では考えているからだ。例えば、数十ペタバイト(PB)のデータを抱えているお客さまがいるが、それをパブリッククラウドに格納しようとすると、保存するデータ以外にも、さまざまなコストを支払わないといけない現実がある。例えば、データにアクセスするたびにAPIコストを支払え、また、ほかのクラウドストレージから移動するたびに移動コストを支払え、といった具合だ。そうした結果、お客さまは特定のクラウドにベンダーロックインされるといった課題が発生していると認識している。
実際、SeagateのCIO(最高情報責任者)として私もまったく同様の経験をした。そしてデータを移動するにつれ、コストが指数関数的に増えていく経験をした。だから、Lyve Cloudという料金がストレージの利用量に比例するという、単純明快な料金プランを採用したクラウドストレージを開始したのだ。Lyve Cloudでは、お客さまはストレージコスト以外のコストを心配せず、ワークロードを自由に移動可能になる。それにより、お客さまのTCO(Total Cost of Ownership、総保有コスト)が大きく改善されることになる。
われわれの会社はストレージのハードウェアを製造しているので、他社に比べてよりよい価格でストレージサービスを提供することが可能で、そうした点でも他社に比べて優位にあると考えている。
――確かに垂直統合は魅力だが、御社の顧客にはDell EMCやHPEなどのストレージハードウェアを提供するOEMメーカーもあり、同時にその先にはAWSやAzure、Google CloudのようなCSPもいる。そうしたSeagateの顧客や潜在的な顧客との利益相反にはならないのか?
ナイク氏: われわれはそうしたお客さまと競争するつもりはない。二つのことが言えると思っている。一つは世界のデータ量は指数関数的に増加しており、さまざまな種類のストレージソリューションが必要とされている。そうしたエコシステムの中で、私たち自身も、そしてそうしたお客さまも含めてさまざまなサービスを提供し、成長する余地があると考えている。
二つめとして、われわれのサービスはハイパースケールでもなければ、より純粋なパブリッククラウドサービスでもないということだ。われわれは、メガスケールのデータセンターを都市ごとに設けて事業をするという形のサービスではなく、どちらかと言えば、製造業や医療機関などのお客さまの近くにあるようなメトロエッジ(通信事業者間をつなぐネットワーク近くに置かれるエッジという意味)なストレージサービスに特化している。
IDCによれば、ビッグデータやその分析のワークロードのうち80%はいまだにパブリッククラウドではなく、オンプレミスで実行されているという。その最大の理由はパブリッククラウドのストレージコストが高いからだと分析されている。従って、そこにはまだ満たされていないニーズがあるとわれわれは考えているのだ。お客さまにわれわれのストレージサービスを使っていただき、アプリケーションの実行はCSPのCPUやGPUを利用して行っていただく、そうした使い方も可能になっている。ある意味、われわれはそうした使い方を奨励しており、むしろCSPのビジネスにとってはプラスになり、補完関係にあると考えている。
――Seagateのストレージ事業は、HDDの製造が中心だと理解している。顧客がSSDを欲しがった場合にはどうするのか?
ナイク氏: おっしゃる通り、当社のストレージ事業はHDDが中心だ。HDDの新しい技術には多大な投資を行っており、大きな成果をあげ続けている。今後もHDDの需要は伸びていくと考えており、そこに心配はしていない。しかし、お客さまはインフラ投資に対して確実なリターンを求めており、当社としてもさまざまな投資を行っているのが現状だ。
いずれにせよ、われわれ自身はSeagateをストレージ企業であり、データ企業であると定義している。Seagateとしてはお客さまがデータを安全に、高いTCOで格納できるようにすることに注力しており、そのためにHDDの進化が必要ならそれに投資するし、SSDがそうであるならそうするだろう。実際、Lyve CloudではHDDに加えて、SSDも提供しており、それはお客さまのニーズに従って提供するというだけだ。
ただ、現時点でもCSPのストレージ構成を見ても、マジョリティはHDDだ。80%のデータはHDD上にあり、今後もそれはあまり変わらないと考えている。
Lyve Cloud Analyticsは料理の素材を提供するだけでなく、一緒に料理までするサービス
――これまでのLyve Cloudのアプリケーションはどのようなものだったか?
ナイク氏: われわれがLyve Cloudのクラウドストレージを始めた時に、そのワークロードとして主に二つを提供してきた。それがバックアップ/アーカイブとコンテンツリポジトリ(筆者注:デジタルコンテンツのデータベースのこと、この場合はコンテンツ配信を行うメディア企業が、配信サービスに利用するためにクラウドストレージを利用するという意味になる)だ。
バックアップ/アーカイブに関しては、Lattice Semiconductor、Juniper Networks、Alfa Romeo F1 Team ORENなどのお客さまに既に使っていただいている。
一方のコンテンツリポジトリでは、これはメディア・エンターテインメント企業のお客さまと密接にやりとりしている。ログ解析、ストリーミング、ログ解析、サイバーセキュリティの要件などを考慮すると、コンテンツリポジトリは重要なワークロードになりつつある。
そうしたお客さまのために、われわれはメトロエッジなストレージを構築しており、顧客のニーズにフォーカスしてきた。われわれはこれまではそうした市場に大きな需要があると見てきた。
――今回発表したLyve Cloud Analyticsと、ほかの企業が提供しているような同様のサービスとの違いは何か?
ナイク氏: 今日のIT環境では、誰もがビッグデータやアナリティクスに関する話をしたがる。今や投資家に出資してもらうために、ビッグデータ、アナリティクス、マシンラーニングなどのワードをPowerPointの資料に含めないと投資してもらえないような現状であり、ある意味バズワードのようなものだ。
だが本当に大事なことは、そのソリューションで何を解決しようとしているのかを明確にすることにある。ただビッグデータを集めたいだけ、という企業や組織はたくさんあるが、データを集めただけでは何も魔法は起こらない。自分が解決しようとしていることは何かということ明確に理解した上で、それに関連するデータを収集する必要がある。
そして、収集するデータはどんなデータでもいいという訳ではない。適切な量のデータにアクセスする必要があり、収集したデータを整理して、きちんと学習できるようにデータを構造かする必要がある。そうしたことをデータサイエンティストなどが正しく処理し、マシンラーニングの正しいモデルを構築して、初めてマシンラーニングは意味をなすのだ。
このようなプロセスはかなり入念で徹底的なプロセスである必要があるし、ビジネス、データ、ツールなどに理解と経験が必要になる。それらすべてを組み合わせることに多くの企業が苦労しているのが現状だ。
それを解決する最もシンプルな方法はお金をかけてツールを購入することだが、現状ではツールを購入しても問題は解決しない。というのも、買ってきたツールを実装する、実はそれこそが最も難しいことだからだ。そこで当社のサービスでは、そうした実装に関してもお客さまと一緒にわれわれのスタッフが行っている。サービスの一環として提供される形になっており、それがほかのサービスとの大きな差別化ポイントになっている。
われわれのサービスチームが、お客さまの問題点がどこにあるのかを分析し、データの整理をお手伝いし、実際にソリューションとして使えるように一緒に構築していく。それによりお客さまは求められる成果を得ることができるのだ。言い換えれば、料理の素材を提供するだけでなく、一緒にキッチンにいって料理まで行う、それが、われわれが提供するサービスの形だ。
また、このサービスはそもそも、われわれ自身の工場で使っている経験を提供する形になる。われわれとしては、自分たちすら使っていないモノをお客さまに持っていこうとは思っていない、それがわれわれのポリシーだ。社内ではカスタマーゼロ(ゼロ号の顧客)と呼んでいて、各サービスにおけるカスタマーゼロはSeagate自身なのだ。まず社内で6カ月~9カ月運用し、それをお客さまの元に持っていき、われわれの経験から学びを提供していくのだ。
日本を含むアジア太平洋地域への展開は?
――当初、Lyve Cloudは米国からサービスが開始された。アジア太平洋地域でのサービス拡大について教えてほしい
ナイク氏: Lyve Cloudは2021年からサービスを開始したばかりで、まだ初期段階というところだが、今後成長を加速させていく計画を持っている。そのために、日本や韓国、台湾などのアジア太平洋地域での展開がとても重要だと考えている。というのも、この地域でのデータの伸びは非常に大きく、しかもスピードが加速しているからだ。今後12カ月の間に、アジア太平洋地域でさらにデータセンターと拠点を開設することを検討している。
現在日本やインドなど、アジア太平洋地域の多くの地域で、潜在的なビジネスチャンスとなる可能性がある企業と交渉しており、データセンターも積極的に開設していく予定だ。そしてそうした顧客との交渉がまとまれば、30日~60日の間にと非常に迅速にサービスを立ち上げる計画である。通常、そうしたデータセンターの開設には年単位で時間がかかるので、そこは非常に迅速にやる。それがわれわれの戦略の一つになっている。
――日本市場への取り組みを教えてほしい
ナイク氏: 日本は非常に興味深い市場である、当社にとっても大きな関心事の一つだ。例えば、IoTやスマートファクトリーなどは世界でも最先端の市場の一つで、そうしたIoTセンサーやデバイスから製造されるデータは膨大になりつつある。そのため、それらのセンサーが生成するデータをリアルタイムで整理し、分析し、それを利用してリアルタイムで意思決定を行う、そうしたニーズが今後さらに高まるだろうと予想している。このため、当社は日本のパートナーさまとの提携を強く希望している。
――日本市場への参入を5月に発表したが、進捗状況を教えてほしい
ナイク氏: 当社がその発表後に行ったことは二つ。一つは迅速に展開できるような準備を進めていることだ。もう一つは日本の潜在顧客と密接に商談を行っていると言うことで、今後数カ月の間に何らかの成果を得られると期待している。そして、そうした最初のお客さまとの商談がまとまり次第、日本で実際のサービスを開始してプレゼンスを確立して行く予定だ。