クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

大容量HDDの高密度実装でストレージの省電力を追求 「DCC2P Vol.7 省エネ勉強会」の注目セッションから

日本シーゲイト 主幹技師 岩田太郎氏

 インプレスのクラウド&データセンター完全ガイドは、データセンター業界における新たな価値創造を目指すコミュニティ「DC Co-Creation Place(DCC2P)」を2020年に設立し、定期的な勉強会や交流会を企画・開催している。その第7回目のイベントとして、2022年3月4日に「省エネルギー」にフォーカスした勉強会がオンライン形式で執り行われた。本稿では当日のプログラムの中から、「データセンターに最適な省電力ストレージ」をテーマに、日本シーゲイトの岩田太郎氏(主幹技師)が講師を務めたセッションの概要を紹介する。

 米Seagate Technology(日本法人は日本シーゲイト)は、HDDを製造・販売しているほか、そのHDDを搭載したストレージ装置「Seagateデータストレージシステム」も手掛けている。日本シーゲイトによると、HDDのシェアは世界1位で、出荷量は年間535エクサバイトにも達するという。岩田氏は「DCC2P Vol.7 省エネ勉強会」において同社の省電力ストレージ「Exos CORVAULT」を取り上げ、容量20TBの大容量HDDを高密度で実装していることなどにより消費電力1ワットあたりの容量が1TBを超えるといった特徴を紹介した。

1社による垂直統合が強みに

 まず冒頭で、HDDの新技術を2つ解説。1つは大容量HDDを実現する技術「HAMR」である。これにより、HDD×1基の容量は2020年末に20TBを達成し、2023年には30TB、2025年には50TBを計画している。当然のことながら大容量化は省電力につながる重要なテクノロジーだ。もう1つの新技術は、HDDを高速化する「MACH.2」である。通常は1個しかないアクチュエータを2個搭載して個別に動かすもので、ヘッドのアームが上下2系統に2倍に増えるためワークロードによっては最大で2倍に高速化することが可能だ。

 Seagateは、HDDとストレージ装置の双方を手掛けていることが強みにつながっていると岩田氏。コントローラも自社製である。1社による垂直統合ゆえ、最新のHDD技術を搭載したストレージをいち早くリリースできるし、障害耐性を高めた独自RAIDであるRAID ADAPTといった新機軸もすぐに企業活動の前線で日の目を見ることとなる。低価格かつ短納期といったアドバンテージもあり、製品によっては発注後2週間以内で出荷するという。

 同社が提供する価値は次の「4つのS」に象徴される。講演では、この中で「Save Energy」と「Save E-waste」に重点が置かれた。

Save Cost:TB単価を下げる。大手ストレージベンダーのストレージ製品よりもTB単価が約40%低い
Save Energy:TBあたりの消費電力を最小化する。大手ストレージベンダーのストレージ製品よりもTBあたり消費電力が約60%低い
Secure Protection:暗号化HDD(AES256)でデータを守る。米国政府調達基準FIPS140-2レベル2に準拠する
Save E-waste:HDD自己修復機能によって廃棄物を削減する。まずはストレージ「Exos CORVAULT」に同機能を搭載

電力あたりストレージ容量はSSDよりHDDが勝る

 市場調査会社のIDCによると、2025年には世の中のデータが175ZB(ゼタバイト)になる。大まかに言って、3年おきに2倍になる勢いで増えており、消費電力も2030年には3000Tワット/hになる(2018年時点では190Tワット/h)との予測値がある。

 ここで電力1ワットあたりのストレージ容量は、HDD/SSDの種類によって異なる。SeagateのHDD(3.5インチ)は、1W当たり2TBで1ドライブ当たり9.8ワットと、電力あたりの容量効率が良いのが特徴だ。「多くの人は誤解していますが、2.5インチのHDDとSSDを比べると、HDD(1Wあたり240Gバイト)の方がSSD(1W当たり218Gバイト)よりも消費電力は少ないのです」と岩田氏は強調(図1)。「『SSDは可動部位がないから低消費電力』という思い込みは正さなければならないですし、さらにNVMe接続のSSDになると、1ドライブ当たり25ワットで1W当たり76Gバイトと電力消費は大きくなるので、1Wあたりの性能値と1W当たりのストレージ容量は分けて考えるべきなのです」(岩田氏)。

図1 ストレージの種類(HDD/SSD)による消費電力の違い

 このように電力あたりのストレージ容量を追求すると、目下のところはHDDに軍配が上がる。特に、Seagateのストレージ装置であるExos CORVAULTの場合、1ワットあたり1.06TBのストレージ容量を使えることに大きな価値がある。これは、他社のストレージ装置のみならず、Seagateの他のラインナップと比べても、群を抜いて容量効率が良い。

7PBのストレージを8キロワットで運用可能

 Exos CORVAULTは、高密度実装によって省スペースも実現している。7PBの場合、競合他社のストレージなら3ラック(4U×8台で32U、必要な電力は20.8キロワット)になってしまうが、Exos CORVAULTなら1ラック(4U×4台で16U、必要な電力は8キロワット)に収まる。1台あたりの容量は、他社が936TB(RAID60)のところ、Exos CORVAULTは1.78PB(RAID ADAPT)である。

 Exos CORVAULTのユーザー事例をみても、大容量ストレージへのニーズを満たすものが増えている。「サービスプロバイダでの採用が多いほか、日本国内では国立研究機関が研究データの増大に合わせて採用する動きが活況ですね。国立研究機関の事例では、電力と設置スペースを低く抑えられたことから、本来の予定(2台)を超えた3台(合計6PB)を導入したケースもあります」(岩田氏)。

 Exos CORVAULTは、4Uラックマウントに20TBのHDDを106台搭載し、合計で1.8PBのユーザー領域を確保。自社開発のASICで独自のRAID方式であるRAID ADAPTが使える。サーバーとの接続インタフェースは12Gビット/秒のSASを2~8ポートで、可用性は99.999%だ。HDDの自己修復機能(ADR: Autonomous Drive Regeneration)も搭載している。

RAIDの再構築時間を1時間以内に抑えて可用性を向上

 データセンターの運用という観点でExos CORVAULTを見た場合には「RAID ADAPTとADRの2つの機能が大きな価値を提供します」と岩田氏は説明する。RAID ADAPTは、通常のRAID6と同じ2パリティのデータ保護機能を持ちながら、HDD故障時のためのスペア領域を、専用HDDではなく全HDDに分散配置する(図2)。これにより、HDDが故障した際のRAIDの再構築時間を短縮している。

図2 RAID ADAPTの仕組みと特徴

 通常のRAID6の場合、100基以上のHDDを搭載していると、どうしても再構築時間が長くなってしまう。これを解決するために生まれたのがRAID ADAPTである。スペア領域が全HDDに分散しているという特性から並列処理が可能になり、再構築時間が短くて済むわけだ。2本のHDDが故障した際、3本目が壊れても問題が生じない状態(フォールトトレランス状態、障害耐性がある状態)になるまで、通常のRAIDで10TB(スペア2本)の場合に55時間かかる。一方、RAID ADAPTの場合、24本構成で9時間、84本構成で1時間、120本構成で25分で済むという。

HDDの故障・廃棄を大幅に減らす自己修復機能

 HDDの自己修復機能(ADR)も優れものだ(図3)。HDDの故障では通常、プラッターもしくはヘッドに不具合が露呈する。これまでは、プラッターとヘッドのいずれかがおかしくなると、HDD全体をドライブごと交換するという対応をとってきた。ADRの場合は、不具合があるプラッターを使わなくして、正常なプラッターだけで運用する。プラッター2TB×10枚で構成する20TBのHDDの場合、不具合が生じたプラッター1枚を省いた残り9枚のプラッター(2TB×9枚で18TB)を18TBで再フォーマットして使用。これにより、不具合が生じたHDDを新品のHDDのように使い続けるわけだ。ADRの機能を利用するためには、HDDとコントローラの両方でADR機能を実装する必要がある。その双方を手がけているSeagateならではの技術と言えるだろう。

図3 HDD自己修復機能(ADR)の仕組みと特徴

 ADR機能を使うと、HDDが壊れても放置しておくだけで復活する。運用中のHDDの廃棄が劇的に減ることが大きなメリットだ。例えば1エクサバイトを構築する場合、18TBのHDDが5万5556本必要である。一般的なストレージの場合、年間のエラー率が0.44とすると、年間に244個のHDDが壊れて廃棄となる。一方、ADR機能を搭載したExos CORVAULT×472台なら、1本もHDDを廃棄せずに済む(図4)。

図4 ADRによってHDDの廃棄を大幅に減らせる

 なお、Seagateは、ADR以外にも廃棄物を減らすための循環プログラムを提供。通常であれば廃棄するHDDを返却してもらい、磁石などの問題のない部品を抽出して再生産して再販する。年間に100万台以上のHDDを復旧・再生しているという。このように環境負荷を抑える取り組みを実直に進めていることもまた、同社の存在感を高めることにつながっている。