インタビュー

日本の運用自動化をリードするAnsibleコミュニティの活動とは

 サーバーやネットワークなど、企業のITビジネスを支えるインフラの重要性はさらに高まっており、そうしたITインフラの運用・構築にもスピード感が求められるようになっている。

 一方、仮想化技術の普及やクラウドサービスの利用増加などを受け、サーバーやネットワークの設定は膨大かつ複雑なものとなっており、運用・管理のためのツールが重要となっている。

 こうしたツールの中で、特に大きな注目を集めているのが、レッドハットが開発するオープンソースのIT自動化ツール「Ansible」だ。企業向けには、レッドハットが「Ansible Automation Platform」として製品を提供しているが、オープンソースコミュニティでの活動も活発に行われており、日本でもAnsibleユーザー会がセミナーや勉強会など定期的に開催している。今回は、Ansibleユーザー会の活動について、ユーザー会の中村誠氏にお話を伺った。

運用自動化ツールとして注目を集めるAnsible

Ansibleユーザー会の中村誠氏

中村:Ansibleは、ITインフラの分野、データセンターの分野でも広く使われていると思いますが、もともとは構成管理という分野で使われていたツールで、サーバーにLinux OSを自動的に流し込むツールとして開発されました。これがオープンソースで公開され、インフラエンジニアの方に広く使われるようになり、日本国内でもAnsibleユーザー会が2014年に最初の勉強会を開催しています。これはAnsibleがリリースされてからかなり早い段階ですが、その時点でもすでに、日本国内でも注目を持っている方がいたということですね。

 また、Ansibleはサーバーの構成管理という形で使われていましたが、昨今はネットワークの分野でも、パブリッククラウドの普及などを受けて、Ansibleが使われるようになっています。

――サーバーの構成管理という面では、やはり管理・運用するサーバーの台数が増えたことで、Ansibleのようなツールが必要になったという側面が大きいのでしょうか。

中村:台数の増加もそうですし、構築や変更に頻度が高くなってきたという要素も大きいと思います。台数で言えば、たとえばデータセンターに何十台というサーバーを、同じ構成でOSを設定していくといった用途でも使えます。また、仮想化技術が普及したことで、たとえば仮想マシン(VM)を作って、その上に開発環境を構築するといった用途ですと、毎回コマンドラインからインストール作業を行うのは煩わしいとか、やはり仮想化であるとか、最近ではコンテナであるとか、そういった文脈で構成管理ツールが浸透していったという流れになっているかと思います。

 また、Ansibleは自動化の処理を、YAMLという形式で記述できるようになっていて、直感的で宣言的に記述できる点が特徴です。インストールしたいソフトやその設定などについて、「既にインストールされているか」といった条件を記述する必要がなくシンプルであることから、サーバーエンジニア以外の方にも広く使われるようになっていったと思います。

オンラインを中心にしたセミナー・勉強会を開催

――Ansibleユーザー会ではどのような活動をされているのでしょうか。

中村:現在は活動がオンライン中心に変わっているところですが、もともと「Ansible Night」という座学の勉強会を3カ月に1回程度実施していました。今は半年に1回程度の開催になっています。

 また、1カ月に1回ぐらいの頻度で「Ansibleもくもく会」という、Ansibleの初学者向けの勉強会を開催しています。レッドハットが演習環境を提供し、実際にAnsibleを操作して使い方を学べるというもので、サーバーの運用編とネットワーク編を行っています。

Ansible Night
Ansibleもくもく会

 日常的には、Slackでの質問や情報の交換などを行っています。

 また、以前はAnsible Nightの後の懇親会などで、ユーザー同士の情報交換などもできたのですが、オンライン中心になってそれも難しくなったので、オンラインでインタラクティブな会話をする場を、「ネットワーク部」と「Developer部」として今年の春ぐらいから設けています。

 それぞれ10~20人ぐらいの小規模な形で、ネットワーク部ではネットワークやAnsibleに関連した情報交換を、Developer部ではAnsible自体の開発やPlaybookの開発、Ansible関連ツールの開発をされる方などを中心に、情報交換を行っています。

ネットワーク部の活動
Developer部の活動

 このほか、さまざまな企画をゆるく考えようという「Ansibleユーザー会を盛り上げる 会」といった会合もあり、これはネットワーク部やDeveloper部に携わっているメンバーで、こういう方法でディスカッションがうまくいったとか、そういう情報を共有しています。オンラインになり、イベントも一方通行になっているので、もう少しインタラクティブな話ができる場が欲しいといった話から、ネットワーク部やDeveloper部の活動も始まっています。この状況はまだ続くでしょうし、我々もやり方をアップデートしながら進めていきたいと思っています。

――ユーザー会の参加者はどういった層の方が多いのでしょうか。

中村:ユーザー会のメンバー数は5000人近くになっていて、参加されている方の多くは運用に携わっている方だと思います。所属されている企業の規模などは分かりませんが、幅広い業種からの参加があります。開発環境の構築という面で、DevOpsの分野から参加されている方や、個人的な興味、スキルアップのために参加されている方、社内にAnsibleを広めていきたいという観点で参加されている方など、さまざまですね。特に、社内で先頭を切ってAnsibleの導入を進めているような方ですと、情報収集という面でユーザー会に参加して、Slackで質問したりといった、そうした方も多いと思います。

社内には情報がないので、ユーザー会に参加されたり、Slackで質問もできますので、そういうところで情報を集めているという方も多いと思います。Ansibleも裾野が広がってきたので、Ansibleをどう使うかといった観点で参加されている方も多いと思います。

Ansibleユーザー会の特徴

運用のディープな話から初学者まで

――今後の活動ではどのようなことをやりたいと考えていますか。

中村:ユーザー会のコアなメンバーにも話を伺ってきましたが、やはりオフラインで交流したいとか、個人的な希望としてはDevOpsやNetOpsのエンジニアとしての地位を確立していきたいとか、モジュールの開発に携わっていきたいとか、さまざまですね。

 コミュニティとしては、私自身がなにかやりたいというよりも、コミュニティの意見をもとに決めていくことになりますが、今の時点ではネットワーク部やDeveloper部の活動が活発に行われているので、そこを引き続き進めて、ディープな情報交換の場ができるようにもしたいです。また、最新情報については、Ansible Nightでキャッチアップできるようにしていきたいと思います。

 現在でも、初学者向けの入り口にあたる部分から、ディープな話までカバーできていると思いますが、たとえばSlackなどでもう少し気軽にやりとりできるといいのかな、と思っています。

 ユーザー会のメリット、やりがいなどについてもメンバーに聞きましたが、たとえば社内にAnsibleの仲間がいないので、そうした似たような思いや悩みを共有できた、それを乗り越えるための情報も共有できた、というのが良かったという話がありました。技術的な話や、組織論的な話も含めてですね。

 別の方ですと、Ansibleはドキュメントや書籍なども揃っているので、それを読んで自分なりに勉強してきたけれども、それ以外に運用上、起こりうる課題について、コミュニティの活動からヒントが得られた。いろいろな視点の議論があると思うので、そうした議論から新しい視点が得られて、深めていくきっかけになったとか。

 あるいは、社外のリーダー格の人と話しができて、モチベーションが上がったとか、こういう人になりたいという目標像とする人に出会えたとか、多くの仲間ができた。ユーザー会の活動自体にやりがいを感じる。所属以外の文化を知ることができたとか。Ansibleを使っている人は何に悩んでいるのかとか、ユーザー会の企画を考えていくことも勉強になるであるとか。技術的に深い情報を知ることができるとか。さまざまな意見が挙がっていますね。

――運用の技術的な話とか、組織論などは社外の方と話すことで分かることも多そうですね。

中村:これもユーザー会で挙がりましたが、社内の運用担当にアジャイルの考えが全然響かない、開発向けの話だと思われている、といった話がありました。アジャイル的に小さいところから開発するという発想が求められているが、内部だと響かない。そうした状況に対して、どうやって理解してもらうかといった話も出ましたね。

 ユーザー会では、そうしたディープな話が聞けるのもいいところだと思います。一方、勉強会であったり、もくもく会であったり、技術的な情報のキャッチアップはできていると思うので、もう少しディープ過ぎない会もあった方がいいのかもしれませんが。

――今後、ユーザー会に参加したい方へのメッセージを。

中村:まずはこのコンパスのページですかね。イベントが定期的にあるのでそこに参加していただいたり、最初はSlackの方に参加していただいて情報をキャッチアップしていただくとか、まずはそういうところから参加していただくといいかなと思います。いろんな入り口があるので、ぜひ参加いただければと思います。

――ありがとうございました。