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Seagate、スマートファクトリー向けの学習済みAIモデルなどを含むクラウド型分析ソリューション「Lyve Cloud Analytics」を提供

 ストレージベンダーのSeagate Technology(以下Seagate)は、10月12日~10月13日にシンガポールで開催されているクラウド向けの展示会「CLOUD EXPO ASIA」の会場において、同社がパブリッククラウドサービスとして提供しているクラウドストレージ「Lyve Cloud」(ライブ・クラウド)の新サービス「Lyve Cloud Analytics」(ライブ・クラウド・アナリティックス)を発表した。

 Seagateはもともと、クライアントPC向けのHDDを製造して販売するベンダーとして知られていたが、近年はクラウドストレージ事業にも取り組んでおり、同社が提供するLyve Cloudは、Amazon S3互換のStorage-as-a-Services(サービス型のストレージ)としてエンタープライズなどの顧客に提供されている。

 今回発表されたLyve Cloud Analyticsは、そのLyve Cloudなどのクラウドストレージ上で動作するAIを構築するためのスマートファクトリー向けのAIサービス。Seagateが自社工場で得た各種のデータを元に学習済みのAIモデルを提供することで、より短期間かつ低コストでスマートファクトリー向けのAIを構築できる。

Seagateが発表したLyve Cloud Analytic

HDDベンダーとして知られるSeagateが取り組む新しいクラウドストレージ事業「Lyve Cloud」

 今回Seagateが新しいサービスを発表したのは、10月12日~10月13日の2日間に渡って行われている、シンガポールのIT総合展示会「TECH WEEK」の会場においてだ。TECH WEEKでは、Seagateが参加しているCLOUD EXPO ASIAやDATA CENTER WORLDなど複数の展示会が行われており、東南アジア諸国連合(ASEAN)の近隣国などから参加者を集めている。

 TECH WEEKのメインステージの講演には、SeagateはCIO 兼 ストレージ担当上級副社長(EVP) ラヴィ・ナイク氏が登壇し、同社が推進しているクラウドストレージ「Lyve Cloud」に関する発表を行った。

Seagate CIO 兼 ストレージ担当上級副社長(EVP) ラヴィ・ナイク氏

 そもそも古くからのコンピューターをよく知っている読者にとって、Seagateと言えば、クライアントPCやサーバーなどで利用されるHDDを製造するベンダーとしての姿だろう。現在でもSeagateはHDDの製造を続けており、クライアントPC(特にノートPC)での需要はSSDにとって変わられつつあるが、容量あたりのコストが安いHDDはデータを保存していく媒体として、データセンターのストレージサーバーやエッジに置かれるNASといった製品で今でも活用されている。

 同じくHDD専業メーカーだったWestern Digitalが、フラッシュメモリベンダーであるSanDiskを買収することで、HDDとSSDの両方をカバーするストレージベンダーに変化していったのと対照的に、SeagateはHDD1本で事業を続けてきた(実際にはフラッシュメモリのチップを外部のベンダーから調達し、それに基づいたSSDを販売している)。しかし、HDDのニーズがクライアントPC中心からデータセンター中心へと市場環境が移行していく中で、Seagateも事業の多角化を目指しており、2021年に新しい事業としてパブリッククラウドのストレージサービス(Storage-as-a-Services)となる「Lyve Cloud」を発表したのだ。

 Lyve Cloudのようなサービスとしてのストレージを自社で立ち上げていくことで、本業のHDD事業との相乗効果を狙っていると考えることができる。

すべてが基本料金に含まれており、他社に比べて70%低コストで運用できるLyve Cloud

 CLOUD EXPO ASIA で講演したSeagate CIO 兼 上級副社長 ラヴィ・ナイク氏は「データのコントロールは、今や一国家の行く末すら決めてしまうような、重要なモノになりつつある。しかし、エンタープライズの顧客はそうしたデータを自由にコントロールすることができているだろうか? 多くの場合にはベンダーロックインが発生しており、必要のないオプションのコストを延々と払わせ続けられている例は少なくない。ストレージにかかるコストは約12カ月で倍になっており、これは持続的な成長というような状況ではない」と述べ、エンタープライズが利用している各種ストレージサービスの多くでベンダーロックイン(強制ではないが、さまざまな制約が生じることで、ほかのサービスや製品などに乗り換えることが難しくなること)が発生していると指摘した。

クラウドにあるデータを自社でコントロールできているか?

 ナイク氏はさらに、「重要なことはデータのイノベーションを推進することだ。そのためにはデータは安価なコストでクラウドに格納する必要がある。そうしたニーズがあると考えたため、われわれはLyve Cloudのサービスを開始した。Lyve Cloudにはクラウドストレージを利用するに必要なサービスなどが基本料金に含まれており、あとからAPI単位で追加料金が発生することはない。単にストレージの容量分の料金をお支払いいただければよく、既存のサービスに比較すると約70%低料金で利用できる」と述べ、Lyve Cloudの料金が、利用したストレージの容量に比例するという単純明快な料金体系であり、付加サービスに多大なコストがかかるということはないので、既存のストレージサービスに比べて70%も低コストで利用できると強調した。

マルチクラウド環境で自由にサービスを選べる環境が重要
顧客は低コストでより自由なクラウドサービスを望んでいる
Lyve Cloudはそうした自由を求める企業のニーズ求めるサービス
費用が予想できることが重要
同じ容量を使う場合に1年でかかる費用が70%削減できる

 ナイク氏によれば、Lyve Cloudは2021年に米国でサービスを開始したが、今年に入り、今回の講演が行われた地であるシンガポールやロンドン、そして今年の5月に日本などの米国以外の地域にもサービスを展開する計画を明らかにしており、今後も展開する地域を増やしていきたいと説明した。

当初は米国だけでスタートしたが、シンガポールや日本などでもサービスが開始されている

Seagate自身の工場データで学習済みのAIモデルが提供され、迅速にスマートファクトリー向けAIを構築可能に

 ナイク氏によれば、SeagateはそうしたストレージサービスのLyve Cloudだけでなく、その上でユーザーが動かす応用事例向けのサービスを提供しているという。

 同氏は「これまでLyve Cloudの上で活用できるユースケースに関してはバックアップ・災害時対応、データ保存用という2つのサービスを提供してきた。これを既に多くの顧客が使っていただいてさまざまな用途に使っていただいている」と述べ、SeagateがベーシックなストレージサービスとなるLyve Cloudだけでなく、その上で動くサーバーアプリケーションをサービスとして動かすのに必要な環境も提供していると説明。また、それをLyve Cloudと組み合わせて利用するユーザーも増えているとした。

Lyve Cloudで提供されていた特定用途向けのサービス

 そして、今回の講演に合わせて「Lyve Cloud Analytics」という新しいサービスの提供を開始することを発表した。Lyve Cloud Analyticsは、マシンラーニングを活用したAI、分析サービスになり、特に「Industry 4.0」や「スマートファクトリー」などと総称される、AIを活用して、よりインテリジェント化された工場を実現することにフォーカスしたサービスとなる。

 Lyve Cloud Analyticsの最大の特徴は、同社がシンガポールなどに所有する工場で得られた各種データ(センサーや画像データ)を利用して学習された、学習済みAIモデルが提供されることにある。顧客はそれを利用することで、短い期間で製造工場向けのAIを構築することが可能になるのだ。

 Seagateは、HDDのメディア(HDDに内蔵されている磁気メディアのこと)を1日100万枚の規模で生産可能な工場を、シンガポールのウッドランズ地区に所有している。その工場でメディアを生産し、中国やタイにある後工程の組立工場に運んでHDDに組み立てて出荷するという仕組みでHDDを生産している。

Seagateがシンガポールのウッドランズ地区に所有するメディア工場

 そのウッドランズにあるメディア工場では、製造装置などに各種のセンサーなどが取り付けられており、そこからさまざまな形のデータ(数字や写真など)が生成され、同社のデータレイクストレージ(15PB)に格納されている。Seagateによれば1日で3~5TB(ほかのSeagateの工場を考慮に入れると50TB/日)のデータが生成されており、それを学習データとして利用することで、AIによる生産工程の改良が日々行われているという。

Seagateの自社工場でのスマートファクトリー向けの取り組み
Seagateの世界中にある工場では1日50TB、シンガポールの工場だけに限れば3~5TBのセンサーなどから上がってきており、それらは15PBのデータレイクストレージに保存されている。そうしたデータがAIの学習データとなる

 例えば、AIによる監視機能を導入する前は、顧客から不良品として帰ってきた製品の製造過程を確認して、実は製造過程で異常な温度上昇があったなどを見つけるという形で、かなり時間が経ってから異常を発見し、そうしたことが起きないような対策を講じるという形だった(有り体に言えば、対策するまでに時間がかかったということだ)。

 しかし、AIを導入した今では、その3~5TBのデータを常時AIが関しており、人間が気づかない程度のちょっとした異常が発生した場合でもすぐにアラートが出され、エンジニアが問題をリアルタイムにチェックすることが可能になったという。それにより、異常が発生していた工程に流れていたメディアを取り除き出荷しない、製造装置の異常解消――などの対策をリアルタイムで行えるようになり、この仕組みを導入してから歩留まり(生産した製品のうち出荷に耐えうる製品の割合、製造業の工場では最も重視される数字)は大きく向上したのだという。

AIを利用して工場での問題をリアルタイムに発見できるようになった

 そうした自社工場に適用した製造過程向けAIのデータを利用して学習済みのAIのモデルが、Lyve Cloud Analyticsでは標準で提供される。つまり、これから自社工場にそれを適用しようと考えている製造業にとっては、まず数年分データを収集してから、AIのモデルをデータサイエンティストが構築して――という過程をすっ飛ばして、いきなり本番環境に近いAIを構築することが可能になるということだ。

 ナイク氏は「このサービスの最初の顧客はわれわれ自身だ。われわれの工場で得た経験などを元にプリビルド学習モデルを提供している」と述べ、現在はオンプレミスで行っているそうしたAIやAIの学習といった過程を「Lyve Cloud Analytics」に移行していくと説明した。2~3四半期の移行期間を経てLyve Cloud Analyticsへ移行を果たしていきたいとSeagateは説明した。

Lyve Cloud Analyticsの特徴
Lyve Cloud Analyticsの構造