インタビュー

「大規模システムをクラウド移行する素地が整った」――、日本オラクルのケネス・ヨハンセンCEO

 2019年9月2日付で、日本オラクルの執行役 最高経営責任者(CEO)に就任したケネス・ヨハンセン氏が、米国サンフランシスコで開催されているOracle OpenWorld 2019において、日本のメディアの共同インタビューに応じた。

 同氏が日本オラクルのCEOとして取材を受けるのは、今回が初めてのこと。ヨハンセンCEOは、「日本のエンタープライズユーザーにOracle Cloudの提案を積極的に行っていく」などと述べた。

 なおインタビューには、日本オラクル クラウド事業戦略統括の竹爪慎治執行役員も同席した。

日本オラクルの執行役 最高経営責任者(CEO)、ケネス・ヨハンセン氏

日本オラクルのCEOに就任したのはとてもいいタイミング

――2019年9月2日に日本オラクルのCEOに就任し、社員にはどんなことを話しましたか?

ヨハンセンCEO:
 これまで、フランクさん(=フランク・オーバーマイヤー社長)が日本オラクルをけん引してきたわけですが、その方向性はこれからも変わりません。フランクさんは、日本オラクルの社員が、なるべく多くの機会を使ってお客さまに接することや、パートナーとの連携を重視した仕事のやり方を徹底してきました。

 私も、それは大切なことだと思っており、お客さまやパートナーに直接お会いすることで、米国シリコンバレーにあるOracle本社で起こっているイノベーティブなできごとを、いち早く日本のお客さまに伝えることができると考えています。

 これによって、より緊密な関係を築けることになります。また、パートナーコミュニティに対する支援を強化し、パートナーが持つ豊富な経験を活用することで、お客さまの課題を解決できると考えています。

――CEOに着任して2週間ですが、日本オラクルの強みと課題はどんなところに感じますか。

ヨハンセンCEO:
 長い歴史に裏付けられた経験と信頼がある点が強みです。Oracleが初めて、米国以外に進出した国が日本です。インストールベースも大きく、素晴らしいお客さまを多数持っています。これらのお客さまに対するクラウド移行を提案することが、お客さまのメリットにつながると考えています。

 まだ2週間という期間では、大きな課題を認識しているわけではありませんが、日本オラクルは財務面でも優れた結果を残していますし、米本社の強い支援を受けており、日本国内への投資も積極化しています。

 私は、日本オラクルのCEOに就任したのはとてもタイミングがいいと思っています。また、CEOに就任したことを光栄に思っています。日本の方々は大変フレンドリーであり、モダンな社会環境を持ちながら、伝統を大切にしている国です。

 日本オラクルは、東京リージョンを2019年5月に稼働させ、すでに650社がこれを利用しています。また、大阪リージョンも間もなく稼働し、可用性や低遅延を実現することができます。米国以外で2つ以上のデータセンターを持っているのは、日本だけだといえます。今後、データドリブン型のエンタープライズクラウドの提案を加速させる体制が整ってくるでしょう。

Oracleのパラダイムシフトを感じてもらえたのではないか

――今回のOracle OpenWorld 2019では多くの製品、サービス、そして提携が発表されました。これらの一連の発表をどうとらえていますか。

ヨハンセンCEO:
 Oracle OpenWorld 2019では、Oracleがパラダイムシフトを遂げていることを感じてもらえたのではないでしょうか。例えば、ブランディングの方法が変わり、ソフトなイメージになったことは、多くの参加者が感じたことだったでしょう。これは、Oracleが製品指向の会社から、サービス指向の会社へと変化していることを示すものだともいえます。

 また、MicrosoftやVMwareとの提携を発表し、基調講演にはMicrosoftの関係者が登壇しました。エンタープライズのお客さまがクラウドに移行するなかで、そのメリットを最大限に生かすためには、OracleとMicrosoftの両方の技術を使えることが重要になります。Microsoftのワークロードを移行させたり、Oracleのワークロードを移行させたりといったことを、柔軟に行えるようにすることで、お客さまの投資を保護することができます。Oracle以外の技術を使っているお客さまにも、Oracleのユーザーがいるということを認識し、それに向けた提携を発表したわけです。

 さらにOracleは、2020年末までに新たに20カ所の「Oracle Cloud」リージョンを立ち上げ、全世界合計で36カ所のリージョンを運営する計画を発表しました。AWS(Amazon Web Services)よりも多くのリージョン数になります。

 ラリー(=米Oracleのラリー・エリソン会長兼CTO)は積極的に投資をしようとしますが、それを無駄にしないように、かつてはCFOの立場から投資案件をしっかりと精査していたのが、現CEOのサフラ(=米Oracleのサフラ・キャッツCEO)です。

 成功しないところには投資をしませんし、成功しない投資は絶対に許しません。そうした姿勢を打ち出しているなかで、2019年5月に稼働した東京リージョンに続き、今後6カ月以内に稼働する大阪リージョンへの投資が認められています。これは、日本オラクルにとって、大きな意味を持った投資だといえます。また、SaaSもこれらのリージョンから提供する予定であり、多くの日本のユーザーの方々に利用していただきたいと考えています。

竹爪執行役員:
 東京リージョンの利用は、8月時点の500社の発表から、現在は650社へと拡大していますが、顧客数はまだまだ拡大すると考えています。いまは、既存のデータベースサービスを利用している例が多いのですが、数週間前からAutonomous Databaseの使用率や、Exadataの使用率が上昇してきています。これからは、さらにサービスの幅が広がったり、大型案件がExadataを通じて出てくるといったことが考えられます。

日本オラクル クラウド事業戦略統括の竹爪慎治執行役員

ミッションクリティカルシステムも今後はクラウドへ

ヨハンセンCEO:
 また、昨年のAutonomous Databaseの発売以降、多くのお客さまがこれを活用していますが、今回新たにAutonomous Linuxを発表し、Autonomous Databaseがその上で走るようになり、セキュリティの高い運用が可能になります。さらにAutonomous Data Platformを発表し、Oracleのデータソースだけでなく、複数の異なるベンダーのデータソースも利用できるようになります。

 Oracle Cloudは、これまでにもAWSに対して高い競争力を持っており、TCOについては5倍のメリットを享受することができていますが、今回の発表でさらに競争力を高めることができ、顧客のニーズに応えることができると考えています。

 今回のOracle OpenWorld 2019での数々の発表によって、Oracle Cloudの環境に移行させるだけで、より多くのベネフィットを享受できるようになります。

――今後のOracle Cloudは、どういった方向に向かうのでしょうか。

ヨハンセンCEO:
 他社との違いという点では、テクノロジー指向の製品が増加し、ミッションクリティカルであり、セキュリティが高いものを提供できます。オンプレミスのなかには、クラウドへの移行が難しいものもあります。しかし、これからはこうしたミッションクリティカルなシステムがクラウドへと移行することになります。

 CEOに就任して以来、何社かの日本のお客さまとお話をする機会がありましたが、ミッションクリティカルなシステムをクラウドに移行させたいという意向を持ったお客さまが増えていることを感じます。

 第2世代のOracle Cloud Infrastructureは、他社のクラウドとはアーキテクチャが異なり、パフォーマンスやセキュリティでも大きな差があります。もちろん、ミッションクリティカルシステムをクラウドには移行させるには、まだ多くの時間が必要です。しかし、そこに根気よく取り組んでいきたいですね。

 Oracleには、オンプレミス環境において多くのお客さまがいます。そのお客さまを、Oracleのクラウドに移行をさせることが大切です。東京および大阪リージョンの開設で、規模の大きなシステムもクラウドに移行させる素地(そじ)が整ったといえます。

VMware、MSとの協業が持つ意味は?

――Oracle OpenWorld 2019では、VMwareとの協業やMicrosoftとの協業が発表されました。これはどんな意味を持ちますか。

ヨハンセンCEO:
 日本オラクルのお客さまのほとんどは、今後5~10年でハイブリッドクラウドへ移行すると予想されます。パブリッククラウドは、遅延の問題や規制の課題もあり、すべてのシステムがそこに移行するとは考えられません。

 Oracleでは、クラウドサービスをユーザー自身が持つデータセンターで実現する「Cloud at Customer」というソリューションを持っており、今回のOracle OpenWorld 2019では、新たなExadataの上で稼働し、Gen2 OCIのアーキテクチャーをベースにした「Generation 2 Exadata Cloud at Customer」という新製品を発表しました。

 Autonomous Databaseの機能をお客さまのデータセンターで利用可能なほか、機械学習をデータベースに活用でき、インフラをコントロールすることもできるようになります。また、パブリッククラウドとは別のネットワークを構成して、ほかの企業とアーキテクチャーを共用せずに利用することも可能です。

 これは、日本のお客さまにとっては素晴らしいソリューションになると思います。特に、行政・金融関係のお客さまでは、クラウドにデータを置きたくないというお客さまが多く、そうしたニーズにも応えることができます。すぐに利用できるものとして提供可能であり、日本における提案活動も積極化させます。

 この動きは、VMwareとの協業ともつながる話です。VMwareとの協業は、ハイブリッドクラウドを実現するためのものであり、オンプレミスであるVMware vSphereのワークロードを、Gen 2 Cloud Infrastructureによる新たなクラウド環境へと移行するための支援が行えます。

竹爪執行役員:
 既存のアプリケーションをVMware上で動作させているお客さまから、Oracleを活用しながらハイブリッドクラウドをやるにはどうすべきか、という問い合わせがずいぶんありましたが、正直なところ、そこに対して、V2V(Virtual to Virtual)のソリューションを提案しきれていなかったところがありました。

 こうしたお客さまに対して、新たなオファリングを提示できるという点ではポジティブにとらえています。

ヨハンセンCEO:
 一方、Microsoftとの協業では、すでに米国アッシュバーンと英国ロンドンの2つのリージョンで、Microsoft Azureとの相互接続を行っていますが、今後、ほかのリージョンでも相互接続を行うことになります。もちろん、日本でも同じことができるようにしたいと考えています。その点では日本マイクロソフトと日本オラクルが協力関係を緊密にしていく必要がありますね。

 データセンター間の帯域幅が広ければ、アプリケーションやデータソースがうまく同期できるようになり、ワークロードの移行が容易になります。また、OracleのソフトウェアがMicrosoftのクラウドで稼働するようにし、OracleのクラウドでMicrosoftのソフトウェアを稼働させるようにします。

 エンタープライズユーザーの多くは、MicrosoftとOracleの両方を利用しています。Oracleにとっては、Oracle DatabaseをMicrosoft Azure上で展開することで、市場シェアを高めることにつながります。それを考えるとこの協業のメリットは大きく、同時に顧客の満足度を高めることができます。

竹爪執行役員:
 既存の環境から移行する場合、最初のステップでは、BYOL(Bring Your Own License)を活用し、どの部分がクラウドに最適なのかということを検証するケースが多いといえます。いま、SQL Serverを利用しているお客さまに対して、Oracleのクラウドサービスに移行してほしいという直接的な提案は、正直なところステップを飛ばしすぎ、難しいといえます。

 ただ、SQL ServerがOracleのクラウドで動作するメリットは、お客さまがクラウド化を検討する最初のステップとして活用してもらえる点にあります。その後、Exadataのクラウドサービスの魅力であるとか、Autonomous Databaseの強みを活用していただけるきっかけになるからです。

 一度クラウドにムーブをすれば、次の改善につながり、選択肢を広げた提案ができるようになります。今後、こうした取り組みに向けてお客さまとプロジェクトを組むといったことも行っていくことになるでしょう。