インタビュー
SAP Leonardoで自らトランスフォーメーションを実現、SAPのファイナンス部門
2018年5月22日 06:00
独SAPがデジタルトランスフォーメーション実現に向けたソリューションとして展開する「SAP Leonardo」。人工知能(AI)やビッグデータ、アナリティクス、IoTなどのテクノロジーと、デザインシンキングといったサービスを融合し、企業の変革を支援するというものだ。
そのSAP Leonardoのソリューションを体験する場として、同社は5月上旬に世界5カ所目となる「SAP Leonardo Center」を、シンガポールに開設した。
同センター開設時のイベントでは、SAP Leonardoユーザーとして、SAP Asia アジアパシフィックジャパン担当リージョナルCFOのリチャード・マクリーン(Richard McLean)氏も登壇。「SAP Leonardoでわれわれもトランスフォーメーションを実現した。今では常にこのタスクが自動化できるかどうかを考えるようになるなど、仕事の見方も変わった」と述べていた。
マクリーン氏に、SAP Leonardoのユーザーとしての事例や、自らの部門のトランスフォーメーションについて話を聞いた。
入金管理の効率化を図る
――SAPファイナンス部門でのLeonardo活用事例を教えてほしい。
SAPのファイナンス部門では、アナリティクス機能を長期間にわたって利用しており、最近ではマシンラーニングも活用するようになった。マシンラーニングやAIは、ファイナンス分野で一番面白いテクノロジーだ。こうした技術は、これまでのファイナンスプロセスの再構築につながると考えている。
現在試験運用しているのは、入金管理の分野だ。SAPのアジアパシフィックジャパン(APJ)地域では、毎年顧客に8000以上の請求書を発行しており、その入金管理においてSAP Leonardoの技術を活用している。銀行からの入金通知を請求システムと結びつけ、未払いの請求書を検知するといった活用法だ。顧客の支払い方法は多岐にわたるため、完全な自動化までの道のりは長いが、現時点で約50%の自動化を実現している。
具体的には、SAP Cash Applicationを利用し、請求書やトランザクションの内容などすべての履歴をアプリケーションに集約する。そこでビッグデータのアルゴリズムがパターンを見つけ出し、支払いと請求がマッチしていると思われる内容をレコメンデーションする、といったものだ。
そのレコメンデーションが95%以上正確だと確信を持てるまでは、人の手を介してレコメンデーションの正確さを判断しなくてはならない。ただ、6カ月ですでに精度は65%まで高まった。実際にはこの精度になるまでにもう少し時間がかかると思っていたが、この調子でいくと次の6カ月で80%まで精度は高まると見込んでいる。そうなれば大幅に自動化が進み、ほとんど人の手を介さなくても作業ができるようになる。
アナリティクスの活用例としては、CFOダッシュボードがある。CFOダッシュボードでは、コストや貸借対照表、現金の回収などのファイナンス情報はもちろん、市場トレンドなども含めた企業業績情報が把握できるようになっている。スマートフォンやタブレットなどさまざまなデバイスに対応しているため、どこからでも情報が確認できる。私自身はCFOダッシュボードとして主にファイナンス分野の情報管理に活用しているが、さまざまな情報が把握できるため、このソリューションはどんなビジネスリーダーでも使えるものだ。
――ファイナンス部門では、Leonardoを活用するだけでなく、Leonardoのソリューション開発にも貢献しているとのことだが。
過去数年このテクノロジーをユーザーとして利用し、その間に問題解決に結びつくソリューションを提案、プロセスの自動化を実現するサービスの開発に貢献してきた。これにより、SAPとして新たなサービスが提供できるようになるだけでなく、チームの作業プロセスの自動化や効率化も進むことになる。
これは非常に重要なことだ。ファイナンス部門が事業においてより中核的な役割を果たさなくてはならなくなってきているためだ。ファイナンス部門に求められることは変わってきている。新たなテクノロジーを駆使してより高度なプロセスの自動化を実現し、そこで浮いた人材などのリソースをより価値のある専門的な分野に活用できるようになってきた。
新テクノロジーは人の仕事を奪うか?
――AIやマシンラーニングによって自動化が進むと、効率性は向上するが、人材削減につながるのではないかという懸念を避けることはできない。この点についてはどう考えているか。
新テクノロジーが人の仕事を奪うというが、私はそうではないと見ている。新テクノロジーにまつわる新たな仕事が誕生するためだ。先ほど述べた入金管理の事例でも、より自動化が進めばこの仕事を担当している社員4人は、ほかの仕事ができるようになる。テクノロジーのおかげでファイナンスの仕事は変革していくだろう。
例えば、クラウドコンピューティングのユーザーが増えたことで、ファイナンス担当者もクラウド分野をサポートしなくてはならなくなっている。ビジネスの方向性が変わり、それに沿って新しい仕事が生まれている。新テクノロジーのおかげで、私自身も新たなことに取り組めるようになっている。
SAPのファイナンス部門では、5年前に大規模なトランスフォーメーションを実施した。組織を変え、レポートラインも変更、多くのタスクはシェアードサービスに移行した。商業金融の分野で新たな役割も創設し、私が今その担当者となっている。
最初はこの分野でスキルのある人材がいなかったが、人材に投資し、教育も実施した。これは時間のかかるプロセスで、まだ完了していないが、その過程でGlobal Finance & Administration(GFA)というラーニングプログラムを開発した。GFA Academyというグローバルユニバーシティも展開し、カリキュラムを構築している。チームメンバーにも受講を促し、機会を与えている。理論として学んだことを実践に移す場は、仕事の現場で与え、スキルを向上させている。スキルの再構築と同時に、こうした動きによって学びの文化を企業に持ち込むこともできる。
効果が出るまでには数年かかったが、その影響は大きかった。スポンサーもつくようになり、新たなビジネスパートナーシップにも結びついている。このようにファイナンス部門が変革に影響を与えることは、これまでにはなかったことだ。
この取り組みで言えることは、個人が新たな変化に対して強くなり、仕事の内容が変わっても以前ほど不安に思うことがなくなってきたことだ。数多くの変化が起こる中、テクノロジーが自身を変えてくれる、それを受け止めなくてはならないという考えになり、変革が未来の設計の一部に組み込まれるようになっている。また、それに応じてスキルも変革できるという自信も生まれている。この変革により、SAPは5年前とは文化も感覚も変わった。
CFOに与えられた新たな課題は?
――新たなテクノロジーを活用する中で、CFOも変革が求められると思うが、CFOの役割はどのように変わっていくだろうか。
世界中のCFOに与えられた新たな課題は、ビジネスを拡張して成長し続ける企業を支えることだ。プレッシャーは大きいが、自動化を推進し、効率化を進めた上で、ビジネスを次のステップに進めるサポート役を務めなくてはならない。
情報は今後、未来の状況をいかに把握できるかが重要になってくる。いいセールスパイプラインはどこにあるのか、そのパイプラインの質はどうなのか、アナリティクスをうまく活用し、正しく予測する必要がある。
過去には、例えば会話による情報交換で得ていた知識や、トランザクションの状況をより深く読み込んで個人で判断していたことなどが、技術によってサポートされるようになった。しかも以前よりずっと質の良い状態でこうした情報が手に入るため、予測の精度が上がり、意思決定がより容易に、また高度になった。こうした中、CFOはチェンジマネジメントの役割を果たすことが求められるようになってきている。ビジネスモデルや事業そのものを変えたければ、チーム一丸となってジャーニーを完成させなくてはならない。