インタビュー
なぜDell EMCがクラウドサービスを販売パートナーに仲介するのか?
クラウド事業者とパートナーを結ぶ「EMCクラウド コネクト プログラム」の狙いを聞く
2016年10月24日 11:24
EMCジャパンは、クラウドサービスプロバイダ―とEMCの販売パートナー(ソリューションプロバイダー、ディストリビューター)を仲介するアライアンスプログラム「EMCクラウド パートナー コネクト プログラム」(以下、クラウドコネクト)の日本での展開を8月に開始した。
VMwareやVirtustreamなどグループ企業のサービスを除けば、自身はクラウドサービスを展開していないDell EMCが、なぜこのようなパートナープログラムを展開するに至ったのか。今回は、Dell EMCのグローバル アライアンスのトップであるJay Snyder氏、およびアジア太平洋地域を担当するSandeep Shirodkar氏に話を伺った。
なお、日本における同社のアライアンスプログラムの展開については、EMCジャパンの笠原直也氏、岩田浩一氏、竹内宏之氏に補足していただいている。
なぜクラウドコネクトが必要なのか
クラウドコネクトは、既存のサービスプロバイダ向けのアライアンスプログラム「クラウド サービス プロバイダー プログラム」(以下、CSP)をベースにしている。販売パートナーは、CSPに参加している複数のサービスプロバイダーの中から、自分たちのソリューションに合ったサービスを選択し、最小限の投資で自社のポートフォリオを拡大することができる。一方クラウドサービスプロバイダーにとっても、Dell EMCが仲介することで販売パートナーとの交渉や契約手続きを円滑化できるメリットがある。
Snyder氏:
クラウドサービスは非常に成長率の高い市場です。Dell EMCが対応可能な市場全体での成長率は数パーセント程度なのですが、クラウドサービスプロバイダ―の市場だけで見ると前年比で30パーセントも成長しています。
EMCは早い時期からクラウドサービスの可能性に注目し、5年前からサービスプロバイダ―に技術協力、マーケティング、営業活動といったお手伝いをするCSPを開始しました。サービスプロバイダ―に、単なるIaaSだけではなく、PaaSなどより付加価値の高いサービスが提供できるよう協力したいと考えたのです。
しかしながら、CSPだけでは予想していたよりも効果が上がらないことに、比較的早い段階で気づきました。ほとんどの販売パートナーはオンプレミスのみのビジネスを展開しており、クラウドによって自分たちのお客さまとの関係を保てなくなるという危機感から、クラウドの導入にあまり積極的ではありませんでした。そこで、EMCではCSPに参加しているサービスプロバイダ―のサービスを、販売パートナーがお客さまとの関係性を失うことなく導入できるよう、3年前からクラウドコネクトを開始したのです。
クラウドコネクトによって、それまでクラウドサービスの利用に消極的だった販売パートナーにも利用していただけるようになりました。
昨今のクラウド化の波は広く一般に浸透し、多くの企業が自社のシステムやサービスをクラウド化したいと考えるようになった。しかし、Snyder氏が述べたように、これまでオンプレミスでのみビジネスを展開してきたEMCの販売パートナーにとって、独力で新たなクラウドサービスを展開していくとは容易ではない。
クラウドコネクトは、クラウドにあまり精通していない販売パートナーに対しても、複数のサービスプロバイダーから適切なサービスを紹介し、使い方、活用方法、さらには新たなビジネス開発まで包括的にサポートするプログラムになっている。
また、Dell EMC自身がクラウドサービスを展開しているわけではないので、販売パートナー、あるいはその先にいる顧客のニーズに合わせて、複数のサービスから適切なサービスを公平な立場で選択するところからサポートできるというのも、販売パートナーにとっては大きなメリットになると言えるだろう。
日本のクラウド市場は成長の第二期に入っている
日本のクラウド市場は、単なるインフラとしての利用から、より差別化されたサービスの提供へシフトしつつある。Dell EMCのパートナーであるサービスプロバイダ―、および販売パートナーは、それぞれが持つナレッジを共有し、新たな市場の開拓を進めているという。
Shirodkar氏:
アジア太平洋地域の中でも、日本のクラウドサービス市場は急速な成長を見せており、企業へのクラウド導入も進んでいます。以前はインフラとしてクラウドの導入が進んでいましたが、最近ではより差別化されたクラウドサービス、たとえば業界特化型のソリューションなどを求めるお客さまが増えています。
Snyder氏:
そういう意味では、日本のクラウド市場は成長の第二期に入っていると言えるのではないでしょうか。基本的なインフラとしてのクラウドの導入は第一期、そして専門性の高いアプリケーションの提供や、業界特化型のソリューションなど差別化されたサービスなどが展開されるようになることが第二期です。特に業界特化型のソリューションなどは、グローバルで見ても日本がリードしていると思います
Shirodkar氏:
日本でも2012年にCSPの提供を開始しており、日本のパートナーとは深い関係を築いてきました。今回クラウドコネクトのプログラムの提供を日本でも開始したことで、さらに関係がレベルアップし、新たなマーケットが創出されることを期待しています。
パートナーと一緒に汗をかいて市場を開拓したい
日本での展開は始まったばかりではあるが、すでにグローバルでは実績を残しているクラウドコネクトによって、日本のクラウド市場においてDell EMCはどのように活動していくのだろうか。
笠原氏:
「現状、Dell EMCの販売パートナーの多くは、これまでオンプレミスのビジネスを中心に展開しており、自社でクラウドのソリューションを持っていません。そのため、エンドユーザーからクラウドを活用したいという相談を受けても、個別にAWSやAzure上にシステムを構築するといった対応しかできていませんでした。こうした販売パートナーにサービスプロバイダ―のサービスを紹介し、差別化されたソリューションを開発できるようサポートしていきます。
差別化したクラウドサービスを提供するためのナレッジは、さまざまな場所に点在していると感じています。Dell EMCはパートナーがそれぞれに持つナレッジを活用して、いかにクラウド市場を活性化していくかを検討することが重要だと考えています。
岩田氏:
クラウドコネクトで、いかに日本のクラウド市場を活性化していくかが重要だと考えています。すべてをクラウドにするというのではなく、オンプレミス/クラウドの両方の選択肢を販売パートナーが持てるようにすることで、パートナーのビジネスの幅を広げることにつながっていきます。たとえば、これまでクラウドといえばAWSかAzureしか使っていなかった地方の販売パートナーに対して、より自分たちのビジネスにあった国内のサービスプロバイダ―のサービスを利用するという選択肢を増やすことができます。
また、クラウドサービスを利用し、さらにクラウドネイティブのサービスを展開したいと考えているパートナーもいます。こういったパートナーをサポートし、新たなマーケットの創出をサポートするのもクラウドコネクトのプログラムの中でやっていきます。
竹内氏:
他のベンダーでも、CSPのようなプログラムを展開しているところはあります。しかし、その多くはサービスプロバイダ―のサービスを使ってもらうことに主眼を置いたプログラムとなっています。クラウドコネクトは、実際にサービスを利用して新しいビジネスを開発し、最終的に販売するところまでサポートしています。
サービスプロバイダ―と販売パートナーの間に立って、一緒にビジネスを開発し、マーケティングを行い、他のパートナーにサービスを紹介したり、販売をお手伝いするこれらの活動にDell EMCは自社のリソースを使っています。単にクラウドサービスを売って終わりではなく、パートナーの方々と一緒に汗をかいて、一緒に新しいビジネスを作っていくのが、我々の提供するクラウドコネクトというプログラムです。
オンプレミスがすぐになくなるわけではない
Dell EMCはグローバルで35社、日本では12社のサービスプロバイダ―とCSPによってパートナー契約を締結している。クラウドコネクトは、これらのサービスプロバイダ―と、これまでオンプレミス中心にビジネスオ展開してきた販売パートナーをつなぐことで、クラウド市場をより活性化させていくことを目的としている。
しかしながら、Dell EMCはすべてをクラウド化しようとは考えていない。ハードウェアベンダーとしては当然の姿勢ともいえるが、クラウドコネクトによって、サービスプロバイダ―にEMC製品を導入してもらえることも重要だが、既存のオンプレミス需要も大切にしたいということだろう。
Snyder氏:
オンプレミスとクラウドのバランスは重要だと考えています。すべてをクラウドというわけではなく、クラウドにあるものとオンプレミスを組み合わせたハイブリッドクラウドをDell EMCは今後も推奨していきます。
オンプレミスからクラウドへのシフトの流れは、ますます加速していくことが予想される。そんな中でDell EMCは、クラウドコネクトによって新たなエコシステムを構築しようとしているように見える。今後、Dell EMCがクラウドコネクトなどのアライアンスプログラムによって、どのようなビジネスを展開していくのか注目していきたい。