イベント
日本オラクル三澤社長が「Oracle AI World」「Suite World」を総括 「基幹系AI」による提供価値と日本市場での展開を説明
2026年10月30日 06:00
米Oracleは、同社の年次イベント「Oracle AI World 2026」およびその併催イベント「Suite World」を、10月25日~10月28日(現地時間)に米国ネバダ州ラスベガス市の会場において開催した。Oracle AI Worldは、Oracle製品(Oracle AI Database、Oracle Cloud Infrastructure:OCI、Oracle Fusion Applications)を扱うイベントで、Suite Worldは中小企業向けERPとなるNetSuite製品を中心に扱うイベントになっている。
会期の実質3日目となる10月28日には、Oracleの日本法人である日本オラクルの幹部によって、Oracle AI WorldおよびSuite Worldを振り返る記者向けの説明会が行われた。登壇したのは、日本オラクル株式会社 取締役 執行役社長の三澤智光氏、日本オラクル株式会社 常務執行役員 NetSuite事業統括の渋谷由貴氏の2人で、それぞれAI WorldとSuite Worldの振り返りと、日本市場の動向などに関して説明した。
受注残高106兆円に達したOracleの成長基盤と、独自NICが支えるOCIのGPUクラスタ
日本オラクルの三澤氏は、今回のOracle AI World 2026でOracleが発表した内容などを振り返って説明した。三澤氏によれば、今回日本からの参加者は約450名で、10月27日の夕刻には、そうした中から顧客企業などを集めてイベントの振り返りなどを行ったという。記者向けの説明会で利用された資料は、その顧客向けイベントで利用されたもので、三澤氏は重要なものをピックアップして説明を行った
三澤氏は「2027会計年度の途中ではあるが、第1四半期時点での売上は3.1兆円で、年間では10兆円規模の企業だといえる。その会社の受注残高(筆者注:注文が入っているが、まだ執行されていない分)は、約106兆円に達している。契約を履行していくと、3年後には50兆円規模の企業になってもおかしくないほどの受注残だね、と周囲と話をしている」と述べ、Oracleへの注文は順調に増えており、ビジネスは成長していると説明した。
なお、Oracleが好調なのは、主にAI機能と、それを実現するハードウェアを備えたデータセンターが要因だと考えているという。
三澤氏は「OCIのデータセンターでは、ほかのハイパースケーラーよりも巨大なクラスタを組んでいる。すでに13万基のGPUを1つのクラスタとして構成しており、将来的には80万基までスケールできるようになることを、昨年発表している。それができるのも、独自のSuper SmartNICであるAcceleronという武器を持っているからだ」と話す。RoCE v2に対応しているスケールアウト用NICのAcceleronにより、より大規模にスケールアウトできるようになっていることが、ほかのハイパースケーラーCSP(クラウドサービス事業者)に比べた差別化ポイントになっているというのだ。
「支援系AI」ではなく「基幹系AI」を実現するOracleのAIソリューション
初日に行われたOracle CEO マイク・シシリア氏の基調講演を振り返るにあたって、三澤氏は、AIには「支援系AI」と「基幹系AI」の2種類があると定義した。
「支援系AI」というのは、いわゆるCopilotと呼ばれるような、ユーザー一人ひとりの業務を支援するAIのことで、主にプロンプトで何かを頼む形のAIである。それに対して、Oracleが実現しようとしているのは、AIが業務を進め、組織全体のキャパシティを増やす「基幹系AI」であるとする。そして、Oracle AI DatabaseやOracle Fusion Applicationsなどと、そうしたAIとを組み合わせることで、さまざまなことを実現できているのが自社の強みだと強調した。
「支援系AIは、ユーザーそれぞれの生産性を上げているが、業務そのものは変わらず、ROI(費用対効果)が測りにくい。それに対して基幹系AIは、業務プロセスそのものを変えていくので、コスト削減や売上増加につながり、ROIが測りやすい」(三澤氏)。
そして、キャパシティを増やす基幹系AIは「社員を雇うのと同じことで、AIに会社の約束事や行動規範などを正しく教えていく必要がある」点を指摘。Oracle Fusion ApplicationsやNetSuiteのAIは、正しいデータとビジネスコンテキストをすでに統合済みであり、「Oracleはもともと1つのデータモデルを利用するという設計思想でSaaSアプリケーションを作ってきた。その設計思想がAI時代になって生かされている」(三澤氏)と説明した。
AIがない時代から、AIにとって利用しやすい単一データモデルでやってきたことがAI時代になって生きており、AIに安心して業務を任せるための多層の行動規範を、OracleのAI環境にはすでに組み込み済みだというのである。
また、シシリア氏の基調講演で新しく発表されたFusion Clawの新機能やFusion Companion、Fusion Agentic Home、FSCR、Oracle AI DatabaseのDeep Trust AI Architectureなどについても言及。そうしたOracleのAIデータプラットフォームは、自社のクラウドであるOCIだけでなく、Microsoft Azure、Google Cloud、AWS、さらには日本で富士通や野村総研などが提供しているOracle Alloyのソブリン環境などでも動作しており、マルチクラウドで利用できることが最大の特徴だと説明した。
日本企業の防御力強化にはクラウドリフトが早道
10月27日に行われたOracle CEO クレイ・マグワイク氏の基調講演では、OCIとOracle AI Data Platformに関する発表が行われた。
その中でも三澤氏は、OpenAIとの提携の1つとして発表された「AI Security Mesh」が日本市場としては特に注目だと説明した。AI Security Meshは、OpenAIのサイバーセキュリティ向けのフロンティアAIモデルと、Oracleのテストツールを組み合わせて提供されるセキュリティツール。インフラやアプリケーションをスキャンして攻撃経路となる脆弱性の特定を可能にし、それを検証してコードの構成や修正案を生成し、適用するという。
昨今の日本では、不正侵入や顧客データの漏えいといったニュースが毎日報道されている。その背後には、攻撃側もAIやAIエージェントを使っているという現状があるとされている。
従来は、攻撃側も脆弱性が発見・公開されてから準備(具体的には、その脆弱性を利用した攻撃をするプログラムを作ること)するため時間がかかっており、迅速に脆弱性にパッチを当てればその脆弱性を突かれることは少なかった。
しかし、先日のPHPの脆弱性の騒ぎを見ればわかるように、脆弱性が見つかってから攻撃されるまでの時間は短縮されている。攻撃用のプログラムを作るのが、すでに人間ではなくAIだからだ。
そうした、マシンスピードで攻撃をしてくる攻撃者に対し、防御側もAIを活用する必要があるという認識は急速に広がっているのだが、「どんな防御ツールを使えばいいのかわからない」という企業が大半だろう。OracleとOpenAIが共同で提供するAI Security Meshは、そうした際に有用なツールとなる。
昨今の日本での不正侵入やデータ漏えいなどについてどう考えているかと問われた三澤氏は、「あくまで全体の傾向という話になるが、日本企業のITシステムは依然としてオンプレミスで複雑なシステムになっている。もちろん、当社がそれを提供しているからという側面は否定しないが、クラウドリフト(クラウドへ移行すること)によって、基幹部分はOracleなりほかのCSPなりがきちんと管理し、パッチを当てる作業もCSPに任せられるようになればそうしたセキュリティ上の懸念を回避しやすくなる」と述べ、管理が行き届いているクラウドに乗り換えることで、多少なりとも状況が改善するのではないかと指摘した。
そのほかにも、Snowflakeとの提携や、データセンター関連の発表、新CPUインスタンスの発表、Google TPUの採用などについて説明を行った。
ビジネスオントロジーの実現にはFDEが入ることが重要、日本でもその体制を作っていく
三澤氏は最後に、OracleのAIデータ基盤となる「Oracle AI Data Platform(AIDP)」および同社の創業者でCTO兼取締役副会長のラリー・エリソン氏の特別講演について触れた。
Oracle AI Data Platformは、Oracle AIデータプラットフォーム・ヘルスケア担当 上席副社長 TK・アナンド氏のスポットライト講演の中で詳細が明らかにされた。
三澤氏によれば、AIDPで重要な発表は、ビジネスオントロジーとセマンティック推論エンジンの2つであるという。
ビジネスオントロジーとは、ビジネスの組織化および運営方法のセマンティック(意味に基づく理解)を定義する仕組みのこと。三澤氏は「ビジネスオントロジーを構築するには、セマンティック推論エンジンを利用してある程度構築した後で、OracleのFDEが入って人間がチェックする必要がある。当社のFDEの体制も今後強化していくが、日本ではその役割をSIerが果たすことになる可能性が高いと考えている」と指摘。FDE(Forward Deployed Engineer)をOracleから派遣するだけでなく、SIer側でも環境を構築していく必要があると述べた。
また、27日の夕刻に行われたエリソン氏の講演に関しては「冒頭でラリー(エリソン氏)が言っていた、『SaaSは死んだということはない。企業は今後もアプリケーションを使っていくことになり、それはAIの力でもっと良くなっていく』ということに私も賛成だ」と話した。
一時話題だった、「SaaS is dead」なのかどうかという議論はもはや時代遅れであり、新しいSaaSアプリケーションの形が見えている時代に突入してきたというメッセージが重要だと説明した。
記録するERPから、自律的に行動するERPへと変貌を遂げつつあるNetSuite
日本オラクル株式会社 常務執行役員 NetSuite事業統括 渋谷由貴氏は、日本でのNetSuiteの状況などに関しての説明を行った。
渋谷氏は、「今回、当社がメッセージとして強調していたのは、ERPは起きたことの記録から、何かの実行を支援するためのシステムに変わっていくということだ。NetSuiteの事業部長であるエヴァン・ゴールドバーグが基調講演で強調したのは、自然言語で必要なことを伝えられること、顧客のためのERPであること、そして何かを自動的に実行できるものであることの3点だ。それにより、中堅・中小企業がAIに業務を任せることを加速していく」と述べ、ERPの役割が従来の帳簿づけや業務報告といった記録作業から、AIを使って実際の業務上の課題を解決する方向に変わりつつあると強調した。
また、「日本企業の課題は、AIを導入することではなく、人手不足、業務やデータが複数のシステムに分断されていること、AIの実験導入と実装との間に大きなギャップがあることだ。それを解決するのがNetSuiteで、業務データの一元化、業務データのAI活用などを実現していく」と述べ、中小企業がDXからAXへと軸足を変えていく中で、NetSuiteがその選択肢になり得ると強調した。
その上で、日本市場向けには製品価値の拡充、多様な業界への展開、エコシステムの強化などを通じて、導入事例やテンプレートを充実させ、顧客が実装する際に参考となる取り組みを進めていくと説明した。





















































