イベント
Oracle エリソン会長、巨大AIデータセンターとOracle AI Database 26aiが企業でのAI活用を加速するとアピール
2025年10月15日 13:20
米Oracleは、10月14日~10月16日(現地時間)に、「Oracle AI World 2025」を米国ネバダ州ラスベガス市において開催している。Oracle AI Worldは、昨年までOracle Cloud Worldとして開催されていたイベントで、今年から、クラウドだけでなくAIをメインテーマにしたイベントとなったため、名称が変更された。
会期初日となった10月14日は、同社 会長兼CTO(最高技術責任者)のラリー・エリソン氏など同社幹部が登壇して、基調講演などが行われた。しかし、本来13時30分(現地時間)から行われる予定だったエリソン氏の基調講演は、直前になりライブ講演からライブ中継に変更され、さらに開始時間も1時間遅れるという前代未聞の状況で行われた。
エリソン氏は、同社が推進しているAIスーパーコンピューターや今回Oracleが発表したOracle AI Database 26aiなどに関して言及し、強力なAI向けのハードウェアとOracle Databaseの組み合わせが、大企業がより強力なAIを導入するのに役立つとアピールした。
直前にライブ中継に変更され、時間も1時間遅れたことでちょっとしたカオスに
昨年までOracle Cloud Worldとして開催されていたOracleの年次イベントは、今年からOracle AI Worldに名称が変更されることになった。というのも、昨年からすでに、話題の中心はAIに移っており、AI中心のイベントになっていたからだ。その意味で、イベントの実態を反映したイベント名の変更だと言っていいだろう。
そうしたOracle AI Worldだが、Oracleは先月の22日、前CEOだったサフラ・キャッツ氏が経営執行役副会長に就任したことを受けて、新しい共同CEOにクレイ・マグワイク氏とマイク・シシリア氏が就任したことを明らかにしており、今回は、その2人の年次イベントへのデビューの場となった。
10月14日朝(現地時間)に行われたマイク・シシリア氏の基調講演では、シシリア氏が同社の顧客であるMarriott InternationalやAvis Budget Group(米国のレンタカー会社)の経営者などをステージに呼び、それらの会社がOracleのソリューションをどのように利用しているのかを説明した。
そのシシリア氏の講演が終了した後、最初の異変が起こった。現地時間の13時30分より予定されていた、同社 会長兼CTOのラリー・エリソン氏の基調講演が、突然ライブ中継になると明らかにされたのだ。要するに、何らかの理由でエリソン氏が会場に来られなくなったため、急遽ライブ中継に変更されてしまったのだ。
それだけでも前代未聞だが、コロナ期のCESなどでは、基調講演がリモートからのライブ中継になったということはあったし、人間だから風邪をひくことだってあるだろうし、その時にリモートから参加すること自体は、コロナ後では特に不思議なことではない。
しかし、次の異変は、そのエリソン氏の基調講演がライブ中継される会場で起こった。ある程度観客が入った段階で、「基調講演の開始が1時間遅れる、観客の皆さんは一度会場の外に出てください」というアナウンスがあり、エリソン氏のライブ中継が1時間遅れることになったのだ。
こうした講演がリモートになることはこれまでもあったが、時間が1時間遅れるというのはあまり例がなく(なぜなら後ろにも別のスケジュールがあるから)、非常に珍しいと言える。実際、この後にもう1つ基調講演が用意されていたのだが、それが30分繰り下げられることも明らかにされ、それを見てもこうした時間遅延が米国のカンファレンスとしては前代未聞であることを示している。
それが予定されていたものではなかったことは、会場の外に出ようとする来場者と、入ろうとしているが14時30分に延期になったことを知らない来場者でごった返すという、カオスな状況が発生したことからもわかる。係の人が肉声で「14時30分に延期になった」と言っているものの、後ろまでは聞こえていない状況で、ロビーは出ようとする人と入ろうとする人でごった返していた。
NVIDIAのGPUを50万個つなげたマルチモーダルなAIスーパーコンピューターを構築中、AMDの採用も明らかに
そうした混乱を乗り越えて始まったエリソン氏の講演だが、特になぜライブ中継になったのか、なぜ1時間遅れたのかなどの説明もなく、いきなり内容に入ったエリソン氏。エリソン氏は「今Oracleには、AIの学習と推論のそれぞれで大きな機会に恵まれている」と述べ、Oracleには、AIの大きなトレンドの中で、学習と推論の両面で多大なビジネスチャンスがあると語った。
エリソン氏は「今やAIモデルはマルチモーダルになり、複数のモデルが同時に動くようになっている。そして現在は、インターネットに公開されているパブリックなデータで学習が進んでいる。Oracleにとってはこのパブリックデータを利用した学習も重要なチャンスである。それと同時に、大企業などが持つプライベートデータをプライベートなまま学習することにも大きなチャンスがある。Oracleが提供するOracle Databaseが、AIモデルの学習と推論の両方に活用できるからだ」と述べ、Oracleの強みであるOracle Databaseというデータベースシステムを提供していることが、AI時代に大きな強みになると強調した。
その上で、人間の脳の消費電力を20Wと表現。人間の脳は少ない消費電力でマルチモーダルな処理が可能な優秀なエンジンだとした。それに対抗できるAIを実現するには、50万個のGPUを接続し、12億ワットという途方もない消費電力を消費する、860億ニューロンのマルチモーダルなAIスーパーコンピューターが必要になると述べた。エリソン氏は、そうしたAIデータセンターは昨年の6月から、NVIDIA GB200を利用して構築が始まっていると説明した。
今回Oracleのクラウド部門OCIは「Zettascale10」と同社が呼んでいる16Z(ゼタ)FLOPSの性能を実現したAIスーパーコンピューターを、NVIDIAのGPUとネットワークコントローラを利用して実現すると発表した。発表によれば、80万個のNVIDIA GPU(どのGPUかは明らかにされていない)を、低遅延なRoCEv2(RDMA over Converged Ethernet)のNICとの組み合わせでスケールアウトして実現するとのことで、来年の後半に実現が計画されている。
また、OracleはAMDとの提携も発表した。AMDが今年6月に来年に投入すると発表した次世代GPUとなるAMD Instinct MI450を利用したスーパークラスターを導入し、当初は5万個のGPUから導入を始めると明らかにした。6月にAMDが発表したラックデザイン「Helios」に基づいており、CPUは次世代EPYC「Venice」、スケールアップ用のネットワークには次世代NIC「Vulcano」が採用され、構築される計画だ。
さらに、OCIは昨年発表したAMD Instinct MI355Xを利用したスーパークラスターの一般提供開始を明らかにした。最終的には13万1072基までスケールアウトすることが可能になる予定で、1ZFLOPSを超える性能を実現する計画だ。
OracleはこうしたAIスーパーコンピューターに対して積極的に投資することで、AI学習やAI推論を実行する環境として利用する計画で、ほかのハイパースケーラーのCSPに比べて優位に立ちたいという狙いがあるものと考えられる。
Oracle AI Database 26aiを発表、データベース部分は23aiと互換で、AI機能を追加したバージョン
そうしたAIのシステムが利用できるデータベースのシステムとして、エリソン氏は「OracleはAI向けのデータベースとして、Oracle AI Data Platformと新しいOracle AI Database 26aiの提供を開始する。Oracle AI Data Platformでは、顧客のプライベートデータをプライベートデータのまま顧客のAIモデルに学習をしていく。Oracle AI Database 26aiではRAGの機能を実装し、データベースのデータをベクターデータに変換しインデックス化し、それをAIが学習に利用することが可能になる」と述べ、同社の新しいOracle DatabaseをAIに活用することで、同社の顧客がより容易にマルチモーダルなAIを構築することが可能になると強調した。
今回、Oracleは、同社の主力製品の1つであるOracle Databaseの最新版となる「Oracle AI Database 26ai」を発表した。OracleはOracle Database 23aiを、2024年の5月に一般提供を開始したことを明らかにしており、今回のOracle Database 26aiはそれに次ぐ最新の製品となる。
Oracleによれば、Oracle AI Database 26aiには、AI Vector Search、AI for Database Management、AI for Data Development、AI for Application Development、AI for Analytics、MCP(Model Context Protocol)対応などのAI機能が標準搭載されているという。
この中でエリソン氏が言及したのはAI Vector Searchで、この機能を利用することにより、大企業は、Oracle Databaseに格納している、文書ファイル、イメージ、動画などのさまざまなデータをAIに解析させ、コンテキスト(文脈)を理解してインデックスを作成できる。
それにより、従来は単なるファイルとしてしか認識できなかったようなファイルが、AIがデータとして活用できるようになるとのことで、自社AIモデルの学習を行ったり、企業の社内向けに過去の文書に蓄積されたデータやノウハウなどを活用したAIを提供したり、といった活用方法が考えられるという。
エリソン氏は「われわれのOracle AI Databaseはデータベースのデータをベクター化してインデックスを作れるようになる。そしてそれが、マルチクラウド環境で動作する」と述べ、すでに提供が開始されているOracle Database @AWS、Oracle Database @Google Cloud、Oracle Database @Microsoft Azureなど、Oracle DatabaseがOracle自身のOCIだけでサポートされているのではなく、マルチクラウド環境で提供されており、大企業が現在すでに稼働しているOracle Databaseを活用したまま希望のクラウドへ移行し、さらにそれを利用してAIを構築できる環境を実現することができると強調した。
Oracleによれば、Oracle AI Database 26aiは、Oracle Database 23aiのデータベースそのものは互換性があり、今月に提供開始されるOracle Database 23aiの「October 2025 release update」を適用することで、Oracle AI Database 26aiで追加される機能などが提供される。追加機能は、一度にすべてではなく段階的に導入される計画だ。
また、今回Oracleは、そうしたマルチクラウドのOracle Databaseに向けて「Multicloud Universal Credits」という仕組みを導入することを明らかにした。OCIだけでなく、Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud、Microsoft Azureといった複数のクラウドで利用できるクレジットの仕組みで、一度クレジットを購入しておくと、4大クラウドのどこでもOracle Databaseを利用可能になり、例えば、AWSとGoogle Cloudに分かれて置かれている場合などにも柔軟に対応できるとした。
エリソン氏はその後、最近同氏のライフワークのようになっているヘルスケアのデジタル化など、AI推論のアプリケーションについて語り、もともとの予定だった60分を大きく超え、90分たっぷりと語った後で講演を終えた。