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米Oracle、AMD Instinct MI355Xインスタンスを提供開始 最大16ゼタFLOPSを実現する「Zettascale 10」構想も明らかに
Oracle AI World 2025レポート
2025年10月16日 12:41
米Oracleは、10月14日~10月16日(現地時間)に、「Oracle AI World 2025」を米国ネバダ州ラスベガス市において開催している。2日目となった10月15日には、前日(10月14日)の基調講演に登場したCEO マイク・シシリア氏に続き、もう一人のCEOであるクレイ・マグワイク氏などが登壇した基調講演が行われた。
この基調講演では、Oracleが展開するクラウドサービス事業「OCI(Oracle Cloud Infrastructure)」に関する説明が行われ、同社の新しいネットワークソリューションなどに関しての説明が行われた。また、Oracleが産業別などに提供しているSaaS「Oracle Fusion Cloud Applications」に関する基調講演も行われ、最新ソリューションや顧客事例などが紹介された。
AIに活用しやすい形にOracle Databaseを強化し、企業のAI構築を容易にする
Oracleの事業は実に多岐にわたっており、祖業となるデータベース製品「Oracle Database」事業、そしてIaaSのクラウドサービス事業であるOCI事業、さらには大企業向けにAIやERMなどのSaaSアプリを提供する「Oracle Fusion Cloud Applications」事業、そして、より中小規模の企業にSaaSアプリを提供する「NetSuite」事業などがある。
このうちNetSuiteに関しては、前週に同じラスベガスで「SuiteWorld」という別のイベントが行われており、その中で「NetSuite Next」などの新製品が発表されている。例年、Oracle Cloud World(Oracle AI Worldの前身、今年からOracle AI Worldに名称が変更)とSuiteWorldは連続して開催されていたのだが、今年はSuiteWorldが単独のイベントとして開催された形だ。
今回のOracle AI World 2025では、名称がCloud WorldからAI Worldに変更されたこともあり、よりAIに特化した内容になっている。ただし、そのAIが動作するインフラとなるのがOCIであることに変更はなく、OCIに関しても多数のニュースが発表されている。
10月14日に行われた、Oracle 会長兼CTOのラリー・エリソン氏の基調講演の中では、主にOCIのGPUを利用したAIスーパーコンピューターに関する話題や、同社の主力製品であるOracle Databaseを利用して、特に企業が持つプライベートデータを活用するソリューションなどにフォーカスが当てられた。
Oracleの強みは、言うまでもなく企業のミッションクリティカルな用途に利用されるOracle Databaseを提供していることだ。事業継続に必要なデータをOracle Databaseに格納しており、ほかに移るのが難しいという大企業ユーザーを多数抱えている。
近年のOracleは、そのOracle Databaseをオンプレミスからクラウドへ移行を促すということを重要なテーマとしてきたが、ここ数年はOCIだけでなく、Amazon Web Services(AWS)、Google Cloud、Microsoft Azureの上で、OracleがOracle Databaseのサーバーを動作させ、それをサービスとして各社が販売するというマルチクラウド戦略へ移行しており、すでにサービスが始まっている。
今回のOracle AI World 2025では、本来であれば競合となるCSP各社(AWS、Google Cloud、Microsoft Azure)が展示会場にブースを出しており、ユーザーの獲得に努めていた。そうした状況から、Oracle Databaseのクラウドへの移行というOracleの戦略は最終段階を迎えていると言えるだろう。
今回のOracle AI World 2025では、Oracle AI Database 26aiという新製品が発表されている。このOracle AI Database 26aiは、従来のOracle Databaseの最新版となるOracle Database 23aiのデータベース部分の互換性を維持したまま、AI関連の機能を追加したものとなる。
具体的には、Oracle Databaseでベクター検索やその結果を利用したインデックス作成機能、アノテーション機能などが追加されている。なお、Oracle Database 23aiを使っているユーザーは、10月に配布されるアップデートを適用すると、Oracle AI Database 26aiへ移行できるという。
クラウドへ移ったOracle DatabaseにAI機能を付加してデータの利活用をより容易にするとともに、OCIが提供するハードウェア(GPUやネットワークなど)を利用して学習や推論を行ってもらう――それがOracleの基本的な戦略ということになる。
AMDのMI355Xインスタンスは提供開始、MI455Xベースも発表
そうした中でOracleは今回、以前からGPUの供給で提携していたNVIDIAとAMD、両社とのパートナーシップ拡大を発表した。ソリューション基調講演「Engineering the Cloud for Tomorrow: Performance, Speed & Scale for AI Workloads」において、Oracle 上級副社長(OCI担当) マヘッシュ・ティアガラシャン氏は、「AIの学習では、要求されるコンピューティング性能がすでに6倍になっており、顧客は、より大規模な計算リソースに伸縮できるソリューションと、費用対効果を求めている。そうした中で、選択肢を提供することが強みだと考えている」と述べ、世の中で一般的に使われているNVIDIA GPU以外に、AMDのGPUである「Instinct」を提供することは、顧客に選択肢を与えるという点で重要なことだと説明した。
ティアガラシャン氏は、AMDが第3四半期に出荷を開始すると表明していたInstinct MI355Xを利用したOCIインスタンス「GPU_MI355X.8」について、一般提供が開始されたことを明らかにした。
GPU_MI355X.8は、8つのMI355X(合計で2.3TBのメモリ)と2つのEPYC CPU(64コア×2)、3TBのDDR5メモリ、61.4TBのローカルメモリ、400Gbpsのフロントエンドネットワークと3200Gbpsのバックエンドネットワークというベアメタル構成になっているという。
こうした説明を行った上で、ティアガラシャン氏は、AMD 上席副社長兼データセンターソリューション事業本部長 フォレスト・ノルド氏をステージに呼び、来年にOCIとAMDが導入する計画の次世代GPU「Instinct MI455X」を搭載したOCIインスタンスに関して説明を行った。
Instinct MI455Xのインスタンスは、「GPU.MI455X.4」というインスタンス名で、4つのMI455X(432GB/GPUのメモリ)と、2つの第6世代EPYC(Venice)に加えて、NVMeのストレージ、さらにAMDの次世代NIC「Vulcano」が採用されており、フロントエンドが400Gbps、バックエンドは6400Gbpsのネットワーク帯域をサポートするベアメタルの構成になっていると説明した。
なお、今回OCIは新しいCPUのインスタンスとして、Intel Xeon 6の120コア版、1152GB DDR5メモリ、100Gbpsネットワークで構成される「X12 Standard」(ベアメタル版とVM版)、Ampereの96コアAmpereOne、768GB DDR5メモリ、100Gbpsネットワークで構成される「A4 Standard」も発表されており、今後提供が開始される予定だと説明された。
Back to the Futureのタイムマシンも動かせる? 消費電力1.5ギガワット超のZettascale 10 SuperCluster
現在AI学習などに一般的に利用されているNVIDIA GPUに関しても、新しいインスタンスの提供開始がアナウンスされた。
それが、HGX B300を8つ、Intel CPU 64コアが2つ搭載され、4TBのDDR5メモリ、30.7TBのNVMe SSD、NVIDIAのDPU(400Gbps)によるフロントエンド、NVIDIAのConnectX-8(6400Gbps)をバックエンドに採用した「GPU.B300.8」と、NVIDIAのGB300 NVL72を採用した72基のBlackwell Ultra GPUと36基のGrace CPU、17TBのLPDDR5メモリ、275TBのNVMe、NVIDIA DPU(7200Gbps)フロントエンドとConnectX-8(5万7600Gbps)のバックエンドネットワークからなる「GPU.GB300.4」、NVIDIA RTX Pro 600(768GB)が8つ、72コアのIntel CPUが2つ、3TB DDR5メモリ、NVIDIA DPU(400Gbps)のフロントエンド、ConnectX-8(3200Gbps)のバックエンドネットワークから構成される「GPU.RTXPro.8」の3つだ。いずれもベアメタルで提供される。
さらに今回のOracle AI World 2025では、NVIDIA GPU 13万基から構成されているZettascale SuperClusterの後継に関して、16Z(ゼタ)FLOPS超という、処理性能の桁がさらに1つ上がった新しいスーパーコンピューター「Zettascale 10 SuperCluster」の構想が明らかにされた。
Zettascale 10 SuperClusterでは、GPUの数が80万個超と従来の6.2倍以上となる、途方もない規模のスーパーコンピューターになる。昨年のZettascale SuperClusterでは52Pb/秒という帯域幅のフロントエンドネットワークだったが、これも2.5倍の131Pb/秒に強化される。RDMAのネットワークは2.1Eb/秒と、実に20倍になるという(さらにレイテンシも10マイクロ秒以下と超低遅延だ)。
なお、消費電力は1.5ギガワットになるという。ちなみに、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(原題:Back to the Future)で、主人公が乗ったタイムマシンが元の時代に戻るために必要となる電力が1.21ジゴワットだとされていた。ジゴワットという単位は存在せず、実際には1.21ギガワットの間違い(ないしはわざと)といわれているので、GPUスーパーコンピューター1台の消費電力が、ついにタイムマシンを動かせるレベルを超えることになる(もちろん実際にはタイムマシンは存在しないので架空の話だ、念のため)。
基調講演でティアガラシャン氏は、NVIDIA CUDAの開発者としても著名なNVIDIA 副社長(ハイパースケール&HPCコンピューティング担当) イアン・バック氏をステージに呼び、NVIDIAとOCIの共同の取り組みになるZettascale 10 SuperClusterに対する期待感を表明した。
ネットワークの処理能力/ストレージIOPSを最大2倍にする新Acceleronを発表
Oracle CEO クレイ・マグワイク氏が10月15日午前(現地時間)に行った基調講演では、OCIの強化として、ネットワークソフトウェアおよびアーキテクチャスイートである「Oracle Acceleron」の新しいネットワーク機能が明らかにされた。
マグワイク氏によれば、今回、Acceleronには3つの新しいネットワーク機能が追加されるという。それが「専用ネットワークファブリック」、「ダイレクトなデータパス」、「コンバージドNIC」で、それらの導入により最大2倍のネットワーク処理能力、最大2倍のストレージIOPSといった性能を実現できると説明した。
なお、ネットワークのハードウェアを提供するのはArista NetworksとAMDだと説明されており、特にコンバージドNICに関しては、AMDが来年初めに投入する予定の次世代AMD Pensando DPUであることが明らかにされており、おそらくVulcanoだと考えられる。
また、Oracle 上席副社長(アプリケーション開発担当)スティーブ・ミランダ氏は、同社のSaaS事業であるOracle Fusion Cloud Applicationsに関して説明を行った。この中でミランダ氏は、AIエージェントを開発するツール「Oracle AI Agent Studio for Fusion Applications」の追加機能として、「Oracle Fusion Applications AI Agent Marketplace」(以下、AI Agent Marketplace)を発表した。
ミランダ氏によれば、AI Agent MarketplaceはOracle Fusion Applicationsのユーザー企業が無償で利用でき、マーケットに自分が作成したAIエージェントを出品できる。逆に、他社が出品しているAIエージェントを購入することも可能だ。自社で開発するよりも類似のエージェントを買った方が安い場合には、それを選択することで、利用開始までの期間を短縮できるというメリットがある。