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Oracle エリソン会長、昨日までの敵は今日の友? AWS ガーマンCEOと両社の協力関係をアピール

 データベース、クラウド・サービス・プロバイダー(CSP)のOracleは、9月9日~9月12日(現地時間)に米国ネバダ州ラスベガス市の会場で、同社の年次イベント「Oracle CloudWorld 2024」を開催している。

 会期2日目の午後には、Oracle Databaseの開発者でもあるOracle 会長 兼 CTO(最高技術責任者)のラリー・エリソン氏による、「Oracle Vision and Strategy」(Oracleの展望と戦略)と銘打った基調講演が行われた。

 この中でエリソン会長は、Oracle Databaseを実行するCSPとして、Oracle自身が提供するOCI(Oracle Cloud Infrastructure)だけでなく、Google CloudとMicrosoft Azureに加えて、Amazon Web Services(AWS)パートナーとして迎えたことを明らかにした。

 そのほかにも、より安全なクラウドネットワーク環境を実現する「OCI Zero Trust Packet Routing」の導入、さらには今後800MWといった大容量の電源容量に対応したメガデータセンターを構築し、GPUのニーズ増大など計算能力の増大に備えていく計画を明らかにした。

マルチクラウドの時代が始まると説明するOracle 会長 兼 CTO ラリー・エリソン氏

オープンだったOracle Databaseも、クラウド時代にはCSPの都合によってオープンでなくなったとエリソン氏

 Oracle 会長 兼 CTO(最高技術責任者) ラリー・エリソン氏は、1970年代のOracle創業時に、現在のOracle Databaseの元となるリレーショナルデータベースソフトウェアを開発。それをOracleと命名し同社が飛躍する元をつくった伝説のプログラマーだ。その後、同社の経営者(CEO)にも就任し、2014年までCEO職を務めた後、現在の会長 兼 CTOに就任。現在は経営の一線から離れてはいるが、依然として同社の大株主であり、技術面での最高責任者であるCTOとして、Oracleの長期的な戦略やロードマップの策定などにかかわっている。今回の講演も「Oracle Vision and Strategy」(Oracleの展望と戦略)と銘打たれており、Oracleの展望や戦略などに関して説明を行った。

Oracle 会長 兼 CTO(最高技術責任者) ラリー・エリソン氏

 エリソン氏は「今日は大きく言って2つの話をする。1つがオープンなマルチクラウド時代の到来であり、もう1つがAIとクラウドセキュリティの融合だ」と述べ、Oracle Databaseがマルチクラウドに展開するようになったことと、AIを活用することでクラウドのセキュリティをより高められるようになるという、2つの話だとした。

オープンなマルチクラウドの時代とAI+クラウドセキュリティ

 エリソン氏は、「我々はOracle Databaseをオープンな環境だと説明してきた。というのも、かつてはメインフレーム、HPのUNIXマシン、そしてPCと異なるプラットフォーム上で動いており、その意味でオープンな環境だとしてきた。Oracle Databaseが動く環境は顧客が自由に選べばよい、そう考えていたため、オープンだと表現していたのだ。しかし、クラウド時代へと突入して、インフラがクラウドになってくると、我々はその“オープン”を失うことになった」と述べ、Oracle Databaseの動作環境がオンプレミスにあったサーバーから、クラウドへ移行することで、CSPの都合で、Oracle Databaseを動かす環境を自由に選べなくなったという現状について説明した。

 例えば、Oracle Databaseを使っている顧客がクラウドにデータベースを移管したい場合、もちろんOracle自身が提供するOCIを選べば、オンプレミスのOracle Databaseの最新版と互換性があるクラウド版のOracle Databaseを利用できる。しかし、その場合には、Oracle Databaseにあるデータを使いながら、AWSで提供されているAIアプリケーションを構築したいというニーズには対応できない。

 AWS側もそのことは認識しており、Amazon EC2にOracle Databaseを導入したり、Amazon RDS for Oracleを利用したりすることができたが、機能面やライセンス面など、さまざまな制約があった。AWS自身も積極的に進めているというよりは、SQL ServerやPostgreSQLなど、別のデータベースではどうしても満足できないユーザー向け、という位置付けだったことは否定できないだろう。

OracleとAWSの協力関係が成立し、AWSのサービスとしてOracle Databaseが動作し、AWSアプリと協調

 今回のOracle CloudWorld 2024でOracleとAWSが共同で発表した「Oracle Exadata Database Service」では、OracleがOCIでも提供しているOracle Exadata Databaseのマネージドサービスを、両社が協業してAWS上で提供していく形になる。

 このサービスを使うと、AWSのユーザーはAWSのアプリケーション(例えばAmazon BedrockなどのAIアプリケーション)や、Amazon EC2などのインフラサービスから、低遅延でデータを活用できる。

 ほかのクラウドに置かれているOracle Databaseを利用する場合に比べて高速、低遅延で利用できるため、Oracle Database上に保存されているデータを利用してのAI学習やアプリケーション構築などが容易になる。また、Oracle Database自体がマネージドサービスとして動作するので、AWSのほかのサービスと共通の管理コンソールからOracle Databaseをコントロールできることもメリットといえるだろう。

 エリソン氏はそうしたOracle Exadata Database Serviceを紹介した後、AWS CEO マット・ガーマン氏をステージに招き入れ、OracleとAWSの組み合わせに関して説明が行われた。

エリソン氏(左)と握手するAWS CEO マット・ガーマン氏(右)
エリソン氏とAWS CEO マット・ガーマン氏(右)

 AWSのガーマン氏は「Oracleと今回の発表を行えることをうれしく思っている。AWSの顧客の中にもOracle Databaseを使いたいと考えている顧客は多くいて、同時にAWSが提供するアプリケーションを使いたいと思っている。そうした顧客、例えば米国のBestBuy(筆者注:米国の家電量販店、日本で言えばビックカメラやヨドバシカメラのような位置付け)では、ECや在庫管理などでOracle Databaseを利用しており、それらのデータをAWSのアプリケーションから低遅延で処理したいと考えている。そうした顧客にとって、今回の両者のパートナーシップにより提供できるサービスは完璧なソリューションだと考えている」と述べ、AWSの側でも顧客からOracle DatabaseをAWSのマネージドサービスとして使いたいという声が寄せられており、両社が協力することでそれに応えられることは素晴らしいことだと強調した。

 例えば、AWSのAIツールである「SageMaker」を利用して機械学習システムを構築している場合、従来はSQL Serverなど、Oracle Databaseではない別のデータベースに移行してから作業を行う必要があった。あるいは、OCI上やオンプレミスにあるOracle Databaseにネットワーク経由で接続して活用することも考えられるが、ネットワーク周りのコストが膨大になるほか、データアクセスの遅延が増えてしまい、期待していた性能が出ないなどの課題に直面することあったという。しかし今回、Oracle DatabaseがAWS上に実装されたことで、そうした課題が解決へ向かうことになる。

Oracle Database@AWSとして、Oracle Database ExadataとOracle Database 23aiがAWSでサポートされ、2024年12月から試験提供開始となる。本格的な提供は2025年からになる予定

 なお、Oracleは既に同様の取り組みを、Google Cloud、Microsoft Azureとも行っており、今回Oracle CloudWorld 2024では、その機能拡張なども発表されている。このため、今後Oracle Databaseを使いたい顧客は、Oracle自身のOCIだけでなく、AWS、Google Cloud、Microsoft AzureのいずれのCSPでも使えることになり、エリソン氏が言うところの「オープンなマルチクラウド」で利用できる環境が整ったことになる。

OCIの認証に生体認証を導入し、ゼロトラストなネットワークを導入することでデータの保護を強化

 エリソン会長は、クラウドのセキュリティを強化するプランについても言及した。今後、同社のOCIを利用するときは極力パスワードを廃止し、PCやスマートフォンに実装されている生体認証(顔認証や指紋認証など)を利用する方向だと明らかにした。

 また、Oracleが「OCI Zero Trust Packet Routing」と呼んでいる、新しいネットワークファブリックを導入している。一般的には、ネットワーク機器(例えばイーサネットアダプタやファイアウォールなど)に適切な設定を行うことで、外部からの侵入を防ぐ形になっている。しかし、その設定を人間が行う以上、設定を間違える可能性はどうしても否定できないため、そこがセキュリティホールになり、結果、侵入されてしまうということが避けられない。

OCI Zero Trust Packet Routing

 これに対してOCI Zero Trust Packet Routingでは、ZPR(Zero Trust Packet Routing)という業界標準によって定められた仕組みに従って、あらかじめ自然言語によるルールを定めておき、それに応じてネットワークセキュリティの設定が行われ、侵入者の侵入を避けされる形になっている。

 エリソン氏によれば、既にOCIには「Oracle Gen2 RDMA Cloud Network」と呼ばれる新しいネットワークのハードウェアが導入されており、新世代のネットワークプロセッサやネットワークコントローラが導入されている。それとZPRに対応したソフトウェアを組み合わせることで、より安全なクラウドネットワークを構築できると説明した。

 エリソン氏は、ZPRと生体認証によるユーザー確認を組み合わせることで、これまでよりもデータのセキュリティが飛躍的に高まると強調し、「こうした最新のセキュリティの組み合わせがあればサイバー戦争にも勝ち抜ける」と述べ、新世代のセキュリティへの移行を行い、データの保護に取り組むべきだとアピールした。

Oracle Gen2 RDMA Cloud Network
ZPRソフトウェアと組み合わせる

OCIのデータセンターは今後急速に増加していく、800MWというメガデータセンターでGPUの需要増に対応

 このほかにも、エリソン氏は、OCIのデータセンターの構築計画について触れ、Oracle Databaseが使えるGoogle Cloud、Microsoft Azureのデータセンターを含めて現時点では162のデータセンターに拡張していく計画だと説明した。しかし、「将来的には数百数千という数になっていくだろう」と述べ、今後加速度的にデータセンターを増やしていくことになるだろうとした。

データセンターの計画

 そのうちのいくつかに関しては、データセンター全体の電源容量が800MW(メガワット)に達する規模になる見通しで、例えばGPUのクラスターを多数並べる…そんなデータセンターにしていくことで、生成AIの需要増によるGPUの演算リース不足という状況に備えていくのだと説明した。

巨大なデータセンターでは800MWという電力でGPUを多く並べることを可能に