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Google Cloud Next '22が開幕、データ担当者・IT担当者など6つの役割に向けたさまざまな新サービス・新機能を紹介
日本向け基調講演の模様をレポート
2022年10月13日 06:15
Google Cloudの年次カンファレンスイベント「Google Cloud Next '22」が、日本時間の10月12日(米国時間の10月11日)に開幕した。14日までオンラインで開催される。
今回のGoogle Cloud Next '22はオンライン開催だが、ニューヨーク、サニーベール(シリコンバレー)、ミュンヘン(ドイツ)、バンガロール(インド)、東京の5カ所が会場となっている。初日に開催された基調講演(オープニングキーノートおよびデベロッパーキーノート)はニューヨークで行われて配信されたほか、各地の時間帯にあわせて再放送された。また、各地独自の基調講演も行われた。
ここでは日本時間の10月12日に開催された「基調講演(東京)」の模様を紹介する。前半ではGoogle Cloud CEOのThomas Kurian氏によるあいさつのあと、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 代表の平手智行氏により国内でのGoogle Cloud採用事例が紹介された。そして後半では、オープニングキーボードおよびデベロッパーキーノートでの発表内容から、主なトピックがピックアップされて紹介された。
セブン-イレブン、ニトリ、JALが事例で登場
Kurian氏は、この2年半はさまざまな組織にとって経済の不確実性による挑戦のときで、すべての業界の会社にとってデジタルトランスフォーメーション(DX)がビジネスにおいて高い優先度を持つことがわかったと説明。例えば、小売業はEコマースを、製造業はデジタルファクトリーを、銀行はオンラインバンキングを推進したと語った。
そして、「われはれは日本中のすべてのビジネスのDXにコミットする」として、そのために、sovereignty(データ主権)や、セキュリティ、サステナビリティをサポートするクラウドリージョンに投資を続けると語った。
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 代表の平手智行氏は、「Google Cloudでは昨年から“トランスフォーメーションクラウド”を掲げている」とあらためて紹介した。
そして、先進的な導入企業について、各社がビデオで登場して事例を説明した。
株式会社セブン-イレブン・ジャパンは、新しいデータ基盤「セブンセントラル」を2020年に稼働開始した。Google Cloud上に構築され、BigQueryやSpannerなども採用している。このデータ基盤により、全国で買い物されたデータが、これまでは31時間かかっていたところが1分で見られるようになったという。
株式会社ニトリホールディングスは、もともとITを戦略的にビジネスに活用してきた中で、2022年にニトリグループのITをリードする株式会社ニトリデジタルベースを設立した。
既存のデータベースにあったようなデータはすでにBigQueryに移行。今後は顧客の行動データなどのデータを入れて分析することで、売上でなぜそういう数字が出ているかを、行動履歴などから分析できるようにしていくという。
日本航空株式会社(JAL)では、Google Workspaceを採用し、現場スタッフや関連会社などと情報を共有している。もともと機内も含めた9割の社員が、さまざまな端末を使って仕事していたが、パンデミックで残り1割のデスクワーカーもそれに加わることになったという。
オープニングキーノートの主なトピックを解説
オープニングキーノートの主なトピックについては、Google Cloud プリンシパルアーキテクトの北迫清訓氏が解説した。
キーノートでは、DXに関わる人の役割として「データ担当者」「デベロッパー」「IT担当者」「セキュリティ担当者」「すべての従業員」「世界の人々」の6つに分類されて、それぞれごとの新機能などが紹介された。北迫氏も同様に6つの分類に基づいて発表内容を紹介した。
データ担当者向け:レイアウトを保ったまま文書を翻訳するTranslation Hubや、LookerとData Portalの統合など
まず、BigQueryとデータレイクを統合するBigLakeが、Apache Icebergフォーマットに対応した(プレビュー)。
また、BigQueryでSparkの処理も実行できるようになった(パブリックプレビュー)。個別に運用していたSparkクラスターが必要なくなるほか、システム間でのデータの複製も不要になる。
BI分野では、BIダッシュボードツールのLookerと、セルフサービスで簡単にデータを可視化できるData Portalを統合して「Looker Studio」として提供する。また、有償サポートやエンタープライズ機能を加えた「Looker Studio Pro」も提供する。
AI分野では「Vertex AI Vision」が発表された(パブリックプレビュー)。フルマネージドでコンピュータビジョンのアプリケーションを簡単に作れる。基調講演では、GUI上のドラッグ&ドロップで監視カメラからの映像ストリームや、人や車を数える既存のモデル、BigQueryなどを順に並べて、交通量をモニターするシステムを数分で作るところがデモされた。
同じくAI分野で「Translation Hub」も発表された(Basic版はGA(一般提供)、Advanced版はパブリックプレビュー)。PDFやPowerPointなどの文書を、図も含めて、レイアウトを保って機械翻訳するツールだ。人間が文単位でレビューして修正できるのも特徴だという。
デベロッパー向け:ソフトウェアサプライチェーンのためのツールセット「Software Delivery Shield」
ソフトウェア開発者向けには、開発におけるソフトウェアサプライチェーンセキュリティを管理するツールセット「Software Delivery Shield」が発表された。
Software Delivery Shieldは4つのコンポーネントからなる。まずは、Web IDEから使えるクラウド開発環境「Cloud Workstations」で、セキュアな開発環境を提供する。
2つ目は、「Assured Open Software Service」として、Googleによる検証ずみのオープンソース(OSS)ライブラリなどを提供する。
3つ目は、CI環境の「Cloud Build」が、ソフトウェアサプライチェーンセキュリティのフレームワーク「SALSA」のLevel 3コンプライアンスにデフォルトで対応した。
4つ目は、セキュリティのベストプラクティスが自動的に適用する「GKE Security Management Dashboard」だ。
これらはセットで用意されるが、必要なものを選んで開発プロセスに組み込むこともできるという。
IT担当者向け:TPU v4やC3インスタンス、VMwareコンソールからの管理など
IT担当者向けには、インフラの選定のために、さまざまなワークロードごとに最適なプラットフォームを追加した。
まずAIワークロードには、機械学習向けチップ「TPU」の最新版「TPU v4」がGA(一般提供)となった。80%以上高速で、50%以上コスト削減となるという。
また、NVIDIAとのパートナーシップの強化もアナウンスされた。
HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)のワークロードについては、IntelのSapphire Rapidsを搭載した「C3」インスタンスが登場した。Intelと共同開発したInfrastructure Processing Unit(IPU)により、200Gbpsの通信も実現するという。
また、インスタンスのタイプやサイズに依存せず高速にアクセスできる「Hyperdisk」も登場した。インスタンスによってはIOPSが80%以上向上するという。
トラディショナルなワークロードについては「VMware Universal Integration」が登場した。Google Cloud上のVMwareプラットフォーム「Google Cloud VMware Engine」を、VMware側のVMware Cloud Universalのコンソールから管理できるようにするものだ。
セキュリティ担当者向け:SOAR機能、Mandiantとの共同サービス
セキュリティ担当者に向けては、2つのアップデートが説明された。
1つ目は「Chronicle Security Operations」(プライベートプレビュー)。SIEMサービスの「Chronicle」に加えて、SOAR(Security Orchestration, Automation and Response)の機能を提供するという。
2つ目は、2022年3月に買収を発表したMandiantのサービスとの組み合わせだ。Mandiantの脅威インテリジェンスやコンサルティングサービスと、Google CloudのAIや分析などを組み合わせ、セキュリティナレッジをサービスとして提供するという。
従業員向け:Google Workspaceのプレゼン新機能やセキュリティ機能
従業員向けには、Google Workspaceの新機能が説明された。
まず、Google Workspaceの各サービスをシームレスに統合するSmart Canvasが、サードパーティアプリにも対応した。
また、Google Meetにおいて、ノイズキャンセルや明るさの自動調整の機能が追加された。さらに、プレゼンターとプレゼン資料を1つのビューで表示する「Speaker Spotlight」が発表された(プライベートプレビュー)。
暗号化については、GmailとGoogleカレンダーがClient-side encryptingに対応した(カレンダーはプレビュー、Gmailは年内にGA予定)。
Google Chatでは「Data Loss Prevention」機能が追加された。チャットを通じたセンシティブ情報の漏えいをリアルタイムに防ぐ。
デベロッパーキーノートで語られた10の予測
デベロッパーキーノートの主なトピックについては、Google Cloud デベロッパーアドボケイトの岩尾 エマ はるか氏が解説した。なお、岩尾氏は円周率の計算の桁数で世界記録を立てた人だ。
デベロッパーキーノートでは、10の分野について、2025年までに実現することの予想が挙げられ、それに合わせたGoogle Cloudの機能が紹介された。岩尾氏はその中から4つの分野をピックアップして紹介した。
アクセシビリティの予測:ニューロインクルーシブなデザイン
1つ目はアクセシビリティの分野だ。この分野での予想は「ニューロインクルーシブなデザインを取り入れた開発者は、最初の2年で5倍のユーザー成長を実現する」というものだ。
「ニューロインクルーシブ」とは、認知スキルや才能が典型的でない「ニューロディスティンクト」と、典型的な「ニューロティピカル」の2種類の多様性のことを指す。この多様性に対するアクセシビリティを、ニューロインクルーシブデザインと呼ぶ。アメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究によると、世界人口の最大20%がニューロディスティンクトと推計されていているという。
Googleでは、こうしたさまざまな思考の過程を持つ人たちに対するニューロインクルーシブなデザインに取り組んでいる、と岩尾氏は語った。その原則は「シンプルでわかりやすく」「目移りする要素は取り除く」「過度に明るい色は避ける」「直感的なフローを採用する」「余計な音楽や効果音を鳴らさない」「選択を強要しない」というものだという。
その一例として、Google Meetでの字幕機能がある。字幕はニューロディスティンクトの人の役立つと同時に、視覚情報から情報を得る人の助けにもなる。また、例えば英語の聞き取りに不安がある人の助けにもなる。岩尾氏は「ニューロインクルーシブなデザインはすべての人の役に立つ」「開発者の仕事は、よりシンプルで簡潔な、気が散りにくいユーザー体験を提供すること」と語った。
データベースの予測:分析系とトランザクション系の統合
2つ目はデータベースの分野だ。この分野での予想は「分析系とトランザクション系のクエリの壁はほぼ消失する」というものだ。
これまでは両者は必ずといっていいほど分離され、それには合理的な意味があった。しかし、現在では両方を統合して扱いたいことが増えてきた。これを実現するために、これまでは複雑なシステムを用意していたが、Google Cloudでは単一のシステムで両方をサポートできると岩尾氏は説明した。
この分野についての発表は2つ。まずは、BigQueryから、Spanner、Cloud SQL、BigTableに直接分析クエリを実行できる連携クエリが発表された(GA)。
もう1つは、PostgreSQLと互換のフルマネージドデータベースのAlloyDBだ。トランザクション処理と分析クエリの両方をサポートし、高速に実行する。そして今回、PostgreSQLからAlloyDBへの、最小限のダウンタイムでの移行をサポートする「Database Migration Service」が発表された(パブリックプレビュー)。
Build Sustainabilityの予測:サステナビリティが第一の開発原則に
3つ目はBuild Sustainabilityの分野、つまりサステナビリティを意識した開発だ。この分野での予想は「4人に3人の開発者が、サステナビリティを第一の開発原則として取り入れる」というものだ。
これについて、65%の経営幹部がサステナビリティを改善したいが方法がわからず、36%がサステナビリティを改善するツールがない、という調査結果が紹介された。
これに対応する新機能が、オープニングキーノートでも取り上げられた、カーボンフットプリントのレポートを提供する「Google Cloud Carbon Footprint」のGAだ。
そのほか、Google Cloudでは最近、リージョンの選択のときに低CO2リージョンを明示するようになっていることや、その結果50%が低CO2リージョンを選んでいることが紹介された。また、レイテンシーが重要なものは近くのリージョンに、そうでないものは低CO2リージョンに、といった使いわけも提案された。
ビジネスアプリケーションの予測:過半数のビジネスアプリケーションをユーザーが開発
4つ目はビジネスアプリケーションの分野だ。この分野での予想は「過半数のビジネスアプリケーションが、開発の専門家でないユーザーによって開発される」というものだ。
つまり、ノーコード開発やローコード開発を指す。ガートナーは、新しいアプリケーションのうちローコード/ノーコードによる開発が、2020年の25%から、2025年には70%になると予測しているという。
これに対するGoogleのソリューションがAppSheetだ。コード不要で業務アプリやワークフロー自動化を自分で構築できる。多数用意されたテンプレートを選んで、画面から選択肢を選ぶだけでアプリの雛形が作成される。
要求や規模に応じて、通常のアプリ開発と、部門でのノーコード開発を使いわけて業務を効率化できると岩尾氏は語った。これが「過半数」に相当するわけだ。
AppSheetの国内事例としてはリクシルが紹介された。AppSheetを使って、約1年で22,859のアプリケーションを開発し、そのうち1,020を実運用しているという。