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両社が力を合わせて世界中の企業にハイブリッドクラウドを提供できる――、Red HatホワイトハーストCEO

Red Hat Forum Tokyo 2018基調講演レポート

 レッドハット株式会社は8日、年次イベント「Red Hat Forum Tokyo 2018」を都内で開催した。

 今年のテーマは、5月に米国で開催されたRed Hat Summitから受け継いだ「IDEAS WORTH EXPLORING(アイデアとオープンソースのちからで、ビジネスに変革を)」。開会のあいさつに立ったレッドハット株式会社代表取締役社長の望月弘一氏は、このテーマについて、「(顧客やパートナーなど)皆さまのアイデアと、オープンソースのテクノロジーによって、イノベーションを起こす」と説明した。

Red Hat Forum Tokyo2018
基調講演会場の様子
レッドハット株式会社 望月弘一氏(代表取締役社長)
テーマ「IDEAS WORTH EXPLORING」

Whitehurst氏「Red Hatは長年ディスラプトしてきた」

 基調講演では、米Red HatのCEOであるJim Whitehurst氏が登壇し、社会のデジタル変革とそこにおけるオープンソースソフトウェアやRed Hatの役割について語った。

 Whitehurst氏は冒頭で、「先週、われわれの新しいニュースがあった」と、IBMによるRed Hat買収について触れた。「両社が力を合わせて世界中の企業にハイブリッドクラウドを提供できる。これによって、デジタル変革のための大規模なリソースが手に入る。そして、独立やわれわれのオープンソースウェイなどのユニークな企業文化は維持される。とてもエキサイティングだ」と氏はコメントした。

 この言葉にも出た、デジタル変革とRed Hatの企業文化の2点は、基調講演の中でも繰り返された中心テーマだ。

米Red HatのJim Whitehurst氏(社長兼CEO)
IBMによるRed Hat買収について

 「企業の経営層は、デジタル変革とディスラプト(新興企業による創造的破壊)を心配している」とWhitehurst氏は言う。数年前は、製造業などの経営層はデジタルは自分たちに関係ないという人が多かった。しかし、今はディスラプトに遭っている。

 「MITスローンによる調査結果を紹介しよう。まず、いいニュースとしては、90%の企業がなんらかの形でデジタル化に取り組んでいる。悪いニュースとしては、わずか16%の企業しか大胆な戦略と大きな規模でデジタルに対応していない」とWhitehurst氏。

 そうした企業のデジタル変革を助けるのがRed Hatの役割だとWhitehurst氏は語る。「なぜなら、Red Hatは長い間ソフトウェアをディスラプトしてきたからだ。かつてはソフトウェアを無料で提供していると、がんだと言われた(笑)」。しかし現在では、多くの大手テクノロジー企業がオープンソースを取り入れ、Microsoftも積極的にオープンソースにかかわっている。

MITスローン調査より。企業はまだデジタル変革に準備不足
Red Hatは長年ディスラプトしてきた

計画(Plan)から企業の仕組み作り(Configure)へ

 ここでWhitehurst氏は、デジタル変革と企業文化について語った。20世紀の企業は、熟慮して「計画を立て(Plan)」、それを「指示し(Prescribe)」、現場は指示されたことを「実行する(Execute)」という3つで動いていた。これは、市場や競争相手がわかっている時代にはうまくいっていたと氏は言う。「しかし、計画できないぐらい不確実な時代ではそれが通用しない。それがデジタル変革の核心だ」。

 それに代わるものとしてWhitehurst氏は、計画するかわりに組織に柔軟性を持たせてより早く対応できるように「仕組みを作り(Configure)」、指示するかわりに「自律を促し(Enable)」、個人が言われたことを実行するのではなく判断して動けるようエンゲージを高めて「共創させる(Engage)」という3つを主張した。

20世紀の企業は「計画を立て(Plan)」「指示し(Prescribe)」「実行する(Execute)」
「仕組みを作り(Configure)」「自律を促し(Enable)」「共創させる(Engage)」

 こうしたデジタル変革について、企業からは「どこから始めればいいか」とWhitehurst氏はよく聞かれるという。それに対する氏の端的な答えは「企業によって、出発点もアーキテクチャも目的も能力も違う。1つの正しい答えはない」ということだ。

 例えば、デジタル変革に対して「変化に反応するか、変化を予測するか」という質問がよくあるという。「すぐれた企業は予測してリーダーシップを育成できる。それには時間がかかる一方で、ディスラプションは一夜にして起こる。私が言いたいのは『今から始めてください』ということだ」とWhitehurst氏。

 また、トップダウンがいいかボトムアップがいいかについても聞かれるという。「トップダウンは意思決定が早いが、それには組織で準備が整っていることと、経営層のデジタル変革へのコミットメントが必要だ。それができている企業は少ない。そうでない多くの場合は、わかっている人たちからボトムアップで始めたほうがいいと思う」とWhitehurst氏。

 最初から大きな規模で始めるか、小さく始めるかについても同様だという。「大規模だと勢いがあるが、リスクが高い。多くの場合は小さく始めて、うまくいったら勢いをつけて拡大するのがよい。Linuxの開発も小さく始まって現在の規模になった」とWhitehurst氏。

 「Red Hatもそうして大きくなってきた。25年の経験を生かして、皆さんのデジタル変革のお手伝いをしたい」(Whitehurst氏)

 Red Hatが成長してきたのは、オープンソース文化と「価値のあるものは共有するべき」という信念にある、とWhitehurst氏は言う。「66 四半期連続成長を成しとげたのは、Red Hatが特別に賢かったというわけではなく、謙虚にオープンに皆さんと協力してニーズを見つけてきたからだ。トレンドをうまく予測できたのは、外部とオープンにコラボレーションしてきたからだ」。

 最後にWhitehurst氏は「皆さんにこれからもオープンにRed Hatから学んでほしいし、Red Hatに学ばせてほしい」と語りかけて講演を終えた。

変化に反応するか、変化を予測するか
トップダウンか、ボトムアップか
規模を追求するか、小さくスタートするか
Red Hatはオープンコラボレーションによりトレンドを予測する

NTTデータのOpenStack&OpenShift採用事例

 顧客事例として、株式会社NTTデータの木谷強氏(取締役常務執行役員 技術戦略担当 技術革新統括本部長)との対談も、Whitehurst氏の基調講演の中で行われた。

 木谷氏はまず、新しい取り組みとして、デジタルビジネス創造のためのデザインスタジオ「AQUAIR」を6月に開設したことを紹介した。特徴として、プロトタイプを作るだけでなく、実証実験ができる設備も備えているという。

 同社が企業や金融、行政などのシステムを運用している中で、IT投資の9割が維持管理に費やされ、新規のIT投資が1割以下だということを問題として掲げた。そして、まずは既存システムを一度手を加えずにクラウドに持っていき(Lift)、そのうえで価値を生む重要で更新の多いアプリケーションをクラウドネイティブなものに変えていく(Shift)というLift&Shiftを提案した。

 それに対してWhitehurst氏がRed Hatの役割を尋ねると、木谷氏は、基盤としてRed Hat OpenStack Platformを使っていること、コンテナーにRed Hat OpenShiftを使っていることを紹介した。

 実事例としては、金融系高いSLAクラウドOpenCanvasや、社内で開発に使う開発環境を集約する統合開発クラウド、海外事業での商用環境としてRed Hat製品を使っていると語った。

株式会社NTTデータの木谷強氏(取締役常務執行役員 技術戦略担当 技術革新統括本部長、左)とJim Whitehurst氏(右)
デザインスタジオ「AQUAIR」
新規のIT投資が1割以下という課題と、それに対するLift&Shift
Red Hat OpenStack PlatformとRed Hat OpenShiftの採用

NTTコムウェアとFFGがInnovation Awards APCを受賞

 イノベーティブなRed Hat顧客を表彰する「Red Hat Innovation Awards APAC 2018」の日本受賞者が発表され、表彰と紹介がなされた。

 受賞したのは、NTTコムウェア株式会社(クラウド・インフラストラクチャ部門)と、株式会社ふくおかフィナンシャルグループ(デジタル・トランスフォーメーション部門)の2社。Red HatのDirk-Peter van Leeuwen氏(アジア太平洋地域担当 シニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー)がプレゼンターとなり、両社とレッドハット株式会社の望月弘一氏(代表取締役社長)との対談による解説も行われた。

 ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)は、企業のデジタル変革を助けるRed Hat Innovation Labsの最初に活用した事例となった。横田浩二氏(取締役執行役員)は、「IT企業に生まれ変わる気持ちで、アジャイルやDevOpsなどを取り入れ、開発部門とビジネス部門がいっしょになって新しい商品を開発する」と意気込みを語った。

 具体的には、2017年10月にデジタル戦略部を発足。その中で、開発6名、運用2名、ビジネス企画3名の11名がレッドハットとともに新しいサービス企画に取り組んでいるという。これからについての質問に横田氏は「レッドハットには引き続き伴走者としておつきあいいただきたい」と答えた。

ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)がデジタル・トランスフォーメーション部門を受賞
FFG 横田浩二氏(取締役執行役員、左)と望月氏(右)

 NTTコムウェアは、提供しているPaaS型開発サービス「SmartCloud DevaaS 2.0」のクラウド基盤として、Red Hat OpenStack Platformを採用した。このサービスの狙いとして関洋介氏(取締役 ネットワーククラウド事業本部 サービスプロバイダ部長)は、DevOpsのための開発環境を瞬時に作れること、それが直感的な画面からできること、インクの色を選ぶようにツールを選べることを挙げた。もともと社内利用のための環境として整備し、それを洗練して社外にも提供するようになったという。

 その効果としては、開発環境整備がセルフサービス化され、利用が予想より伸び、運用コストが30%下がり、開発期間が半分になったという。Red Hat OpenStack Platform自身の導入も3か月でなされた。

 Red Hat製品採用については、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)を含むトータルなサポートや、積極的なサポートなどから、現場から声が上がったという。今後については、DevaaS 2.0を日々進化させ、DevSecOps対応にも取り組んでいることが語られた。

NTTコムウェアがクラウド・インフラストラクチャ部門を受賞
NTTコムウェア 関洋介氏(取締役 ネットワーククラウド事業本部 サービスプロバイダ部長、左)と望月氏(右)