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レッドハットが国内コンテナビジネス戦略を解説

コンテナ基盤製品とミドルウェアのバンドル製品も販売開始

 レッドハット株式会社は26日、日本におけるコンテナビジネス戦略についての記者説明会を開催した。5月に米国で開催された「Red Hat Summit 2018」で発表された内容の解説や、日本での展開が語られた。

 その場において、コンテナプラットフォーム製品Red Hat OpenShift Container Platform(OpenShift)にミドルウェアをバンドルした製品を、同日より販売開始したことが明らかにされた。

 また、株式会社ぐるなびのサービス運用基盤にOpenShiftが採用されたことも発表され、担当者による説明が話された。ソフトバンク コマース&サービス(C&S)株式会社がパートナーとして、OpenShiftを販売していくことも語られた。

アプリケーション開発&新興テクノロジー製品分野が成長

 まず、Red Hatの2019年度第1四半期(2018年3月~5月期)の業績について、レッドハット株式会社の岡下浩明氏(プロダクト・ソリューション本部 本部長)が説明した。

 売上は前年対比20%増で、65四半期連続の売上成長。インフラ関連製品分野が安定の14%成長。それにも増してアプリケーション開発&新興テクノロジー製品分野が売上37%増で、売上総額の23%を占めるという。

 また、大規模案件が増加。100万ドル超の契約が65件で前年対比48%増、そのうち71%でクロスセル(関連製品も購入)につなげているという。

レッドハット株式会社の岡下浩明氏(プロダクト・ソリューション本部 本部長)
2019年度第1四半期(2018年3月~5月期)の業績

CoreOS買収のメリットと統合計画

 そのうえで、国内のコンテナ戦略について、レッドハット株式会社の中澤陽彦氏(プロダクト・ソリューション本部 ミドルウェア シニアビジネスデベロップメントマネジャー)が解説した。

 中澤陽彦氏はRed Hatのメッセージとして「コンテナはITの選択に自由を与え、OpenShiftはコンテナをコモディティにする」という言葉を掲げた。

レッドハット株式会社の中澤陽彦氏(プロダクト・ソリューション本部 ミドルウェア シニアビジネスデベロップメントマネジャー)
Red Hatのメッセージとして「コンテナはITの選択に自由を与え、OpenShiftはコンテナをコモディティにする」

 Red Hatは2018年初頭に、コンテナプラットフォームを開発するCoreOS社を買収している。「CoreOSの買収により、さまざまなメリットをお客さまに提供できる」と中澤氏は語った。

 挙げられたメリットは3つ。1つめは「Day1、2オペレーションの効率化と自動化」で、CoreOSのKubernetesプラットフォーム「Tectonic」が相当する。これにより、インストールやアップデート、クラスタリングが楽になるほか、従量課金のために「Chargeback」を使える。

 2つめは「クラウドネイティブ対応」で、コンテナホスト向け軽量OS「Container Linux」が相当する。これはRed Hat Enterprise Linux(RHEL)やRHEL Atomic Hostと統合して「Red Hat CoreOS」としてリリースする予定だ。

 3つめは「ハイブリッドクラウド環境でのコンテナイメージ管理」で、これはコンテナレジストリ管理の「Quay」が相当する。これにより、セキュアに自社コンテナレジストリを管理し、分散レプリケーションや世代管理、脆弱性スキャンなどを実現する。

 なお、Kubernetesから利用するコンテナエンジンは、最近ではCRI(Container Runtime Interface)やOCI(Open Container Initiative)といったインターフェイス仕様が標準化され、Red HatやCoreOSなどからいくつかの実装が登場している。

 これについて、Red HatとしてDockerエンジンからの脱却を図る方向なのかどうか質問したところ、「われわれはコンテナエンジンの選択肢を提供する」と、レッドハット株式会社の須江信洋氏(テクニカルセールス本部 ミドルウェアソリューションアーキテクト部 OpenShiftスペシャリスト)は回答した。

CoreOS社テクノロジーを統合するメリット
レッドハット株式会社の須江信洋氏(テクニカルセールス本部 ミドルウェアソリューションアーキテクト部 OpenShiftスペシャリスト)

ミドルウェアをバンドルした製品を販売開始

 OpenShiftはすでに本番環境で採用されてきていると中澤氏は解説した。利用ユーザーは前年と比べて91%増加。業種では、1位が金融で35%。2位はその他のさまざまな業種で、利用シーンが広がっているという。

 コンテナの利用分野を広げるのに向けて、中澤氏は3つの主な用途を挙げた。1つめは「マイクロサービス」だ。マイクロサービスには、小さなアプリケーションを疎結合することで、開発やテストが並行して行えるといったメリットがある。その一方で、そのままでは運用管理が複雑になるといった課題もある。これに対しては、OpenShiftにサービスメッシュ(サービス間の通信を管理する仕組み)の「Istio」を統合することを決定していると中澤氏は説明した。

 2つめは「サーバーレス」だ。これについては、オープンソース実装の「Apache OpenWhisk」を採用し、OpenShiftの上で動作させることを決定していると中澤氏は語った。ただし、時期は未定。

 3つめは、「AI/機械学習/HPC」の分野だ。これらのためにマシンリソースを管理し、計算アプリケーションをデプロイして走らせ、運用管理を効率化するのに利用できる。

OpenShiftの本番環境での採用
コンテナの3つの主な用途

 「これらは、OpenShift単体では実現が難しい」として、ミドルウェアをバンドルした製品を同日販売開始したことを中澤氏は明らかにした。

 製品は3種類。「Core」はOpenShiftに、Red Hat Jboss Application PlatformやRed Hat JBoss Web Server、Red Hat AMQ、Red Hat JBoss Data Gridを組み合わせる。「Plus」はCoreに加え、Red Hat Decision ManagerとRed Hat Fuseを組み合わせる。「Portfolio」はPlusに加え、Red Hat 3ScaleやRed Hat Process Automation Managerを組み合わせる。価格は、Coreの最小モデル2コアの1年のライセンスで17万6000円から。

 対象分野は、DevOps/マイクロサービスや、アジャイルAPIインテグレーションといったクラウドネイティブアプリケーションのほか、既存システムを移行するリフト&シフトの要件も対象にする。「既存システムに新しいインターフェイスを付けるようなリフト&シフトの要件を、金融業などからいま多くいただいている」(中澤氏)。

OpenShiftにミドルウェアをバンドルした製品を販売開始

IBMやMicrosoftと提携

 中澤氏は、OpenStackとOpenShiftの組み合わせが伸びているとして、そのメリットも訴求。迅速にリソースを追加し提供できることや、アップデートやアップグレード、運用の効率化が図ることを強調した。そして、OpenShiftとOpenStackを合わせて採用した事例として、スペインの銀行のBBVAや、航空会社のCathy Pacificを挙げた。

 なお、Red Hat Summit 2018では、IBMおよびMicrosoftのパブリッククラウドとの提携も発表された。IBMとは、IBM Cloud PrivateとRed Hat OpenShift Platformの統合や、IBMミドルウェアをOpenShift認定コンテナとすることなどで合意した。

 またMicrosoft Azure とは、OpenShift on Microsoft Azureのマネージドサービスを投入することや、OpenShiftでWindowsコンテナとRHELコンテナの両方をサポートすること、Microsoft SQL Server on RHELをOpenShift認定コンテナとすることなどで合意した。

OpenShift on OpenStackの成長
IBMおよびMicrosoftとOpenShiftで提携

ぐるなびのアプリケーション基盤にOpenShiftが採用

 株式会社ぐるなびのOpenShift採用については、インフラ部門の小川保法氏(企画開発本部 開発部門 インフラストラクチャサービスセクション クラウドアーキテクチャグループ)と、開発部門の湯瀬淳也様氏(企画開発本部 開発部門 技術・開発推進セクション アーキテクトグループ シニアリーダー)が説明した。

株式会社ぐるなびの小川保法氏(企画開発本部 開発部門 インフラストラクチャサービスセクション クラウドアーキテクチャグループ)
株式会社ぐるなびの湯瀬淳也様氏(企画開発本部 開発部門 技術・開発推進セクション アーキテクトグループ シニアリーダー)

 同社では2016年ごろから、オンプレミスとパブリッククラウドを組み合わせた基盤「GMCP(Gurunavi Multi Cloud Platform)」の検討を開始した。それに向けてインフラの要望をヒアリングしたところ、セルフオペレーションで柔軟に使える「環境柔軟性」、属人的ではなくテストや本番の環境の差異の少ない「構成管理」、「リソース/SLA可視化」、業務範囲の明確化やBlue/Greenデプロイメントなどの「プロセス/権限/業務範囲のレギュレーション」、スモールスタートできる「環境提供スピード」、新技術を検証する「先進アーキテクチャ」の6つが挙がったという。

 目指すものとしては、コンテナでインフラを標準化すること、Docker/Kubernetesをベースとすること、デプロイとリリースのセルフサービス、基盤管理者がコントロールできること、基盤管理者の負荷軽減があった。「これをすべて満たす、結合度の高いインフラがOpenShiftだった」とインフラ部門の小川氏は語った。

 導入は段階的に進める。まず従来の仮想化基盤上で動いているWebサーバーやアプリケーションサーバーをリフト&シフトでOpenShiftのコンテナに乗せる。「まず一度コンテナの恩恵を受ける」と小川氏。そして新しいサービスは最初からコンテナに向けたクラウドネイティブな形で開発してしていくという。

オンプレミスとパブリッククラウドを組み合わせた基盤「GMCP」を検討
ヒアリングで集まった要望
OpenShiftを選んだポイント
導入後のシステム構成

 開発部門の湯瀬氏は、開発側から見たメリットを説明した。従来はアプリケーションに変更を加えたときに、インフラチームにチケットで依頼する方法をとっていて、どうしても時間がかかっていたという。さらに、インフラチームは少人数のため、心理的に気軽に依頼できなかったとのこと。インフラ部門の小川氏も「従来は、確実に作業するために、チケットが切られてから2~3営業日かかっていた」と語る。

 OpenShift化により、セルフサービスの範囲が拡大するため、そのタイムラグがなくなる。「最低限設定してほしいことは、あらかじめコンテナイメージにしてもらえるので、開発も心理的負担が減る」と湯瀬氏。これによってサービスのリリースまで時間が短くなる。

従来の開発部門とインフラ部門の分界点
OpenShift導入後の開発部門とインフラ部門の分界点

 今後の予定については、パブリッククラウド連携、マイクロサービスアーキテクチャ、コンテナ化の推進、リソース利用状況やコストの可視化事業目標の達成をインフラ部門の小川氏は語った。

今後の予定

ソフトバンクC&SがOpenShiftを販売

 パートナーとして、ソフトバンクC&Sの加藤学氏(テクニカルフェロー)が登場した。

 加藤氏はこれまで非常に多くの製品を担当してきたことや、フルスタックの技術支援力をアピール。その上で「OpenShiftにも専任の販売部隊を設立して販売していく」と語った。

 同社では、DevOpsHubブランドでDevOps関連の製品の販売やコンサルティングを行っている。「ここにOpenShiftが加わることで、パートナーやエンドユーザーを強力にサポートできると考えている」と加藤氏は述べた。

ソフトバンクコマース&サービス株式会社の加藤学氏(テクニカルフェロー)
DevOpsHubブランドでOpenShiftを販売