イベント
「われわれはオープンであることを信じている」、Red Hat・ホワイトハーストCEO
Red Hat Forum Tokyo 2017開催
2017年10月23日 06:00
レッドハット株式会社は20日、自社イベント「Red Hat Forum Tokyo 2017」を都内で開催した。テーマは、5月に米国で開催されたRed Hat Summitから受け継いだ「THE IMPACT OF THE INDIVIDUAL ~オープンな対話と変化が導く、真イノベーション~」。
基調講演には、米Red Hat 社長兼CEOのジム・ホワイトハースト氏と、上級副社長兼製品・テクノロジー部門社長のポール・コーミア氏が登壇した。また、この日発表されたNTTデータ、Red Hat、Dell EMCの3社の協業にあわせて、NTTデータの技術革新統括本部 システム技術本部 本部長の冨安寛氏も特別講演として基調講演をした。
「Red Hatとコミュニティ、パートナー、顧客とのコラボレーション」
ホワイトハースト氏は基調講演で、現在のオープンソースの重要性と、そこにおけるRed Hatのビジネスについて語るものだった。
氏は、デジタル変革の時代にあって企業のビジネスにデジタル技術、特にオープンソースの技術が欠かせなくなっていると説明。特にDevOpsやアジャイルの方法と、そのための自動化が求められていると語った。そして、企業がオープンソースコミュニティとかかわるためにRed Hatが必要となっていると主張した。
Red Hatが現在掲げているビジョンは「オープンハイブリッドクラウド」だ。そのマルチクラウドなどの対応を進めるにあたり、自動化とソフトウェアの標準化が重要だとホワイトハーストは説明。さらにオープンにコラボレーションすることを加え、「われわれはオープンであることを信じている」と語った。
「Red Hatだけで進めるのではなく、パートナーやコミュニティによって新しいものが生まれる。さらに、顧客企業もテクノロジー会社となって互いに学びあう。こうしたパートナー+コミュニティ+顧客の協業によって革新的なアイデアが生まれる」(ホワイトハースト氏)。
こうしたオープンコラボレーションの例として、シンガポール政府のGovTech(Government Technology Agency)の事例が紹介された。オープンコラボレーションを支えるインフラとして、OpenShiftによりPaaSを構築したという。その上で、心臓発作を起こした人を助けるためにAEDを探すモバイルアプリのバックエンドが動いていることも紹介された。デジタル変革する企業やスタートアップ企業のビジネスにRed Hatのエキスパートが参加してイノベーションに導く施設「Open Innovation Lab」を、アジア太平洋地域で初めてシンガポールに9月に開設したことも発表された。
ホワイトハースト氏は「1人の人間や、1の会社だけでやれることには限界がある。イノベーションをレッドハットとの協業で実現する」と語り、「これからもRed Hat Wayを広げていく」と宣言した。
「機能追加や買収はオープンハイブリッドクラウドを実現するためのもの」
ポール・コーミア氏もデジタル変革をテーマとし、そのためには「テクノロジー」のほかに「カルチャー(企業文化)」「プロセス」を合わせた3つの変革が必要だと語った。
まずカルチャー。コーミア氏は「オープンソースのベストプラクティスを生かすには企業文化を変えなくてはならない」と説明。透明性やコラボレーション、問題の共有などを基本姿勢とし、常にコードを改善していく必要性を語った。そのための技術カルチャーとしても、運用と開発を一体化するためのテクノロジーを導入するDevOpsを挙げた。
カルチャーを変革した例として、英国のBarclays銀行の事例をコーミア氏は紹介した。伝統的な銀行のシステムにDevOpsを取り入れ、OpenShiftなどを採用したという。「テクノロジーより、カルチャーを変革するという人の要素がカギだ」とコーミア氏は説明した。
続いてプロセス。「毎日のように世界は変わる。要件もテクノロジーも」ということで、コーミア氏は開発プロセス、ビジネスプロセス、自動化、セキュリティプロセスという事業全体でプロセスを考える必要があると語った。
開発プロセスとしては、トップダウンから反復型のプロセスでコラボレーションする必要性を強調。ビジネスプロセスについても、開発プロセスと顧客のビジネスプロセスの歩調を合わせる必要性を語った。「Red Hatでは、上流コミュニティから顧客までプロセスをつなげて、コミュニティと顧客とともに問題を解決している」とコーミア氏。例として、TMG Health社がプロセス改善により開発ライフサイクルや開発コストを改善し、市場を拡大した事例を紹介した。さらに、「ヒューマンエラーは時間のロス」として、プロセスの自動化の必要性も語った。
最後にテクノロジー。Linuxはこの十数年でエンタープライズに定着し、クラウドも短い期間で進化している。このようにプラットフォームが進化し、ハイブリッドクラウドが起こっているとして、コーミア氏は「アプリケーション開発者もシステム管理者も、インフラやモデルを変える必要がある」と語った。
コーミア氏は、かつてはベンダーがそれぞれ独自のハードウェアとOSを持っていて、自由に組み合わせられなかったが、Red HatがLinuxをエンタープライズに持ち込んでハードウェアを選べるようにしたと説明。そして、ハイブリッドクラウドとしていま進めていることもこれと同じだと語った。
その上で、ハイブリッドクラウドに向けたRed Hatの製品ポートフォリオを、インフラ、アプリケーション環境、ミドルウェア、管理と自動化、サービスなどのカテゴリごとに紹介した。なお、コーミア氏は同日の記者会見で「Red Hatのここ数年の機能追加や買収は、すべてオープンハイブリッドクラウドを実現するためのものだった」とも語っている。
最後にコーミア氏は、「すべてのアプリケーションを、どんなフットプリントでも、どこにあっても、ロックインなしで動かせる」ことをオープンハイブリッドクラウドのメッセージとして語った。
OpenShift、OpenStack、Ansibleの市場を語る
Red Hat Forum会場では、ホワイトハースト氏とコーミア氏の来日会見も開かれた。
ホワイトハースト氏は2018年度第2四半期(2017年6~8月)について、「この数年間でもっとも売上の成長が早い四半期だった。ビジネスの伸びは加速している」と報告した。特に成長しているのがアプリケーション開発・新興テクノロジー製品の分野という。また主力製品であるRed Hat Enterprise Linux(RHEL)も14%の伸びと堅調な成長を示しており、ホワイトハースト氏は「クラウドやAIなどの新しいワークロードもLinuxで動いており、それによってLinuxが成長している」と分析した。
またホワイトハースト氏は、Red Hatの新しいカテゴリの製品としてコンテナプラットフォームのOpenShift、IaaS基盤のOpenStack、構成管理ソフトのAnsibleの3つを挙げた。
OpenShiftについては、テクノロジー企業や通信業界などではない「その他」カテゴリの企業での採用が多いとのことで、「伝統的なエンタープライズでコンテナの採用が急速に増えてきた」とホワイトハースト氏は説明した。
OpenStackについては、通信業界で5Gに向けたNFVなどで採用が進んでいることを紹介し、さらに金融や政府でも広がっていると語った。
Ansibleについては、爆発的に採用が伸びていることや、企業が自分たちのユースケースを作っていることなどを紹介した。
ソフトバンクとiSTCのOpenShift採用、NTTデータとDell EMCとの協業も
ホワイトハースト氏により新しい発表もいくつか行われた。
まず、ソフトバンク株式会社が社内システムにRed Hat OpenShift Container Platformを採用したことが発表された。DevOpsの手法を本格導入するために、レッドハットのDevOpsコンサルティングサービスも利用したという。
また、i Smart Technologies(iSTC)株式会社が製造ライン遠隔モニタリングサービスにRed Hat OpenShift Container Platformを採用したことも発表された。サービス利用企業が予想を超えるペースで増えており、顧客別にアプリケーションを立ち上げる作業量や時間を軽減するのが目的。これまで約半日かかっていた作業時間が約30分に短縮し、新規構築のミスもなくなったという。
NTTデータ、レッドハット、Dell EMCの協業も発表された。企業の既存IT資産のデジタル化に向けて、NTTデータがインテグレーションを、Dell EMCがハードウェアやソフトウェアを、レッドハットが最新テクノロジーへの追従力を提供。クラウド基盤の活用に向けて共同検証を進めるという。
また、三菱総研DCSがクラウドサービス「FINEQloud」で、Ansible Towerの従量課金での提供を開始したことも新発表として紹介された(10月18日発表)。今後はOpenStackなどの提供も予定しているという。
NTTデータの、トラディショナルとデジタルを融合する3種類の取り組み
基調講演では、協業を発表したNTTデータによる特別講演も行われた。技術革新統括本部 システム技術本部 本部長の冨安寛氏が登壇した。
冨安氏はまず、大企業や金融などのトラディショナルなシステムが多い同社において、2014年にはトラディショナルが9割、デジタル(デジタル変革型)が1割という数字を紹介。これが2020年には65:35、2025年には40:60になるだろうという予測を語った。
特に金融の分野では、クラウド利用率が2015年度から2016年にかけて7倍になったという数字を紹介した。
こうしたトラディショナルとデジタルにまたがるNTTデータの取り組みが、トラディショナルの「Stream I」、トラディショナル×デジタルの「Stream II」、デジタルの「Stream III」の3領域に分けて語られた。Stream Iではさらなる生産性向上が、Stream IIではデジタルとの融合が、Stream IIIが新規ビジネス創出がテーマだという。
具体的には、Stream Iでは開発の自動化への取り組みが紹介された。Red Hat OpenStack Platformによる「統合開発クラウド」に開発環境を集約化し、DaaS+開発自動化サービス+ネットワークを実現しており、設備コストの半減と構築期間1/3を実現したという。
Stream IIでは、これまでの資産をいかにデジタルに出していくかが語られた。長く使われてきた従来型システムでは、環境や手法がバラバラで、データが散在し、モノリシックで巨大化したアプリケーションとなっているという。これをリファクタリングしてデジタル変革に向けたり、API公開に対応したりするという。
Stream IIIでは、DevOpsプラットフォームやサービス接続によってサービス創出プロセスを展開するという。その例として、地方銀行コミュニティとベンチャーネットワークをつなぐ場を提供するBeSTA FinTech Labも紹介された。
「RED HAT INNOVATION AWSRDS APAC 2017」をNTTドコモとNICTが受賞
基調講演では、パートナーや顧客企業を表彰する「RED HAT INNOVATION AWSRDS APAC 2017」も発表された。「ITの最適化」部門でNTTドコモが、「ITの最適化/クラウド・インフラストラクチャ」部門で情報通信研究機構(NICT)が受賞した。
NTTドコモはspモード/iモードの基盤である「CiRCUS」「MAPS」の物理サーバーが保守期間切れとなるのを機会に、Red Hat OpenStack Platformによるプラットフォームに移行し、仮想化と自動化を実現した。OpenStackを採用した理由は、導入しやすさ、オープン性と将来性、コストの3点だという。
またNICTは、ネットワーク資源調整を自動化するプロジェクトにおいて、Red Hat OpenStack Platformを採用し、構築の自動化や迅速化を実現した。